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VCから見たスケーラブルな組織を実現しているスタートアップの3つの共通点

NOTES

組織づくり。シリアルアントレプレナーを除き、大半の起業家にとってはじめての経験であり、いかに能力が高い起業家であってもつまづきがちなのが組織づくりです。

組織づくりは資本政策と同じで、一度間違った方向性に進んでしまうと軌道修正が難しいだけではなく、起業家に極めて大きな精神的な負荷を与えることとなり、場合によっては会社清算に追い込まれることさえあります。なので、先人が歩んできた道からしっかりと学び、自社の組織づくりに活かすことがとても大切だと感じています。

それと同時に、組織づくりにまつわるトラブルは、ちょっとした心構えや意識を頭の中に持っておくだけで回避可能なものが多いとも感じています。

本稿では、
・起業準備中の方
・シードからシリーズAに向かっている起業家
に向けて、ベンチャーキャピタリストから見た、スケーラブルな組織を実現しているスタートアップの共通点を3つに絞って言語化してみたいと思います。

目次

  1. 早い段階でCIを言語化していること
  2. カルチャーフィットを重視した採用を丁寧に積み重ねていること
  3. 個人の個性や強みを活かすコミュニケーションスタイルがチームに浸透していること

1. 早い段階でCIを言語化していること

スケーラブルな組織を実現しているスタートアップの共通点のひとつ目は、早い段階でビジョンやミッション、バリューなどのCI(Corporate Identity)の言語化に着手していることです。CIが不在の状況というのは、例えるならば経営者の価値観や目指すべき方向性が、経営者のPCのデスクトップ上に置きっぱなしになっている状態であり、経営者とメンバー間で大きな情報の非対称性が存在してしまっている状態とも言えます。経営者の価値観や想いをできるだけ早くチームのクラウドにアップロードし、仲間の意見を積極的に取り入れながら、一緒に育てていける状態に持っていくこと(=CIを言語化すること)ではじめて、チームとしての価値観や目指すべき方向性をメンバー間でシンクロできるようになります。

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早い段階でCIを言語化しておくことのもう一つの大きな効用として、カルチャーマッチしていない人材の採用を抑止できることがあります。CIが不在の状況というのは、カルチャーマッチのモノサシがしっかり持てていない状態であり、面接者の属人的な感性で採用してしまいがちです。よくあるケースは、良し悪しの判断が比較的しやすいスキル面に偏った採用をし続けてしまうことで、経営者が創業時に実現したいと考えていた組織カルチャーにフィットしていない人材を採用してしまい、後々大きな組織トラブルの火種になるケースは本当に多いです。

また、事業や組織の更なる成長に向けて、チームで継続的に組織内の共通言語を増やし、育てていくことが重要になりますが、カルチャーマッチしていない人材を一人でも採用してしまうと、このプロセスがスムーズに進められなくなります。限られたメンバーでしかこういったプロセスが進められない状況に陥り、経営者が強いストレスを抱えこんでしまう状況を何度も見てきました。このような経験から、早めに経営者の価値観や想いをチームのクラウドにアップロードし、仲間の意見を積極的に取り入れながら、一緒に育てていける状態に持っていくこと(=CIを言語化すること)をお勧めします。

2. カルチャーフィットを重視した採用を丁寧に積み重ねていること

スケーラブルな組織を実現しているスタートアップの共通点のふたつ目は、カルチャーフィットを重視した採用を丁寧に積み重ねていることです。1で早期のCIの言語化が大切だということを書きましたが、CIの言語化は出来ていても、それが組織に浸透していなかったり、採用の意思決定をする際にカルチャーフィットを重視していなかったりすることもままあります。

ベンチャーキャピタリストという職業柄、スタートアップにジョインする人・卒業する人をこれまでたくさん見てきましたが、その人材がその組織で活き活きと活躍し、定着するかどうかは、スキルの高さは重要なモノサシではあるものの、それ以上に組織カルチャーへのフィットの方が大きいと感じています。もっと言えば、会社としての自己実現(=ビジョンの実現)と、個人の自己実現という高次な欲求のベクトルが同じ方向を向いていることがとても大切だと感じています。

私たちの支援先で言えば、シードラウンドから伴走しているタイミーの小川さんは、スケーラブルな組織を創っている起業家だと思いますが、私たちが運営している、先輩起業家や経営者の創業前後からPMF辺りまでのお話を伺うPodcastシリーズ「創業の軌跡」の中での、キャピタリスト一戸からタイミー小川さんへの質問「若いメンバーが集まったチームから大人のチームへのシフトがうまく進んだように感じているが、大人のチームをどのように創ったのか?」という問いに対して、「そもそも大人のメンバーを集めようとは全く考えていなかった。子供の心を持った、ピュアに世の中がこうなってほしいと本気で考えている人だけを愚直に口説き、仲間になってもらった結果、今のような強いチームになっていった」と小川さんが答えているシーンがあります。このやりとりを聞いていても、まさに会社としての自己実現(=ビジョンの実現)と、個人の自己実現という高次な欲求のベクトルが同じ方向を向いている仲間を集めることがとても大切だと感じています。

https://open.spotify.com/embed/episode/5scedtFqM9F2IlHm9LdtFG

採用に関してもう一つ。経営者からよく聞く悩みが、メンバーに任せようと頑張っているがなかなか任せられない、どうしても口を出してしまうといった内容です。実際にスケーラブルな組織を実現している支援先の起業家と権限移譲について話していてとても印象的だったのは、「以前は上手く任せることができなかったけど、心から信頼できる人を採用できたから、本当の意味で任せられるようになった」という言葉です。改めて、任せることを頑張るのではなく、心の底から任せられる人の採用を頑張ることが重要だと感じさせられた瞬間でした。

3. 個人の個性や強みを活かすコミュニケーションスタイルがチームに浸透していること

スケーラブルな組織を実現しているスタートアップの共通点の3つ目は、個人の個性や強みを活かすコミュニケーションスタイルが、組織カルチャーとしてチームに浸透していることです。この「個人の個性や強みを活かすコミュニケーションスタイル」ですが、一例を挙げると以下のような要素があると考えています。

・コミュニケーション上はいわゆる上司/部下のようなヒエラルキーではなく、あくまでフラットな組織であり、役割やミッション、持っている権限が異なるという考え方に立った組織づくり

・should(~べき)、must(~なければならない)で動くのではなく、仲間のwill(~したい)を大切にする組織カルチャー。具体的には、やり方を一方的に伝えるコミュニケーションではなく、相手にどうしたいのかを問いかけるコミュニケーションがベースとなっている

・相手の意見に傾聴することで、自分とは異なる意見を楽しみ、成果の最大化に繋げていける心の余白を持ったコミュニケーションができる

・仲間のチャレンジを全力で支え、応援するフォロワーシップ精神を持った組織カルチャー

上記のようなコミュニケーションスタイルが浸透しているチームは、メンバーが高い当事者意識をもって仕事に取り組むのはもちろん、新たな挑戦がしやすい環境があるため、色々な問題は起こりつつも、それらを更なる成長の糧として取り込みながら、スケーラブルな組織が実現していきます。とはいえ、このような組織を創るには、CIが言語化され、且つチームにそれがしっかりと浸透していることや、カルチャーマッチした優秀な仲間が採用できていることが大前提にないと難しいのは言うまでもありません。改めて早期のCIの言語化とカルチャーフィットした優秀な仲間の採用の重要性を実感しています。

組織づくりは、起業家の思想や事業領域などによってもさまざまな選択肢があるので、何が正解というのは一概には言えませんが、有望な事業領域を選択し、筋の良い戦略を描いているにも関わらず、組織づくりの失敗で事業の成功確率を下げてしまうケースが多いのも事実であり、これまでの自分自身の経験を元に、スケーラブルな組織づくりを実現しているスタートアップに共通している3つの共通点を書いてみました。皆さんの周りにこれから組織づくりにチャレンジされる方や、組織づくりで悩んでいる起業家がいれば、ぜひシェアしてください。

筆者

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