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事業のネタ帳#27 SMB向けHorizontal SaaSが持つ可能性

IDEA

SMB向けビジネスの概観

全国に企業は367万4,000社(2021年6月末時点、経済センサス活動調査)存在し、このうちの99.7%を占めると言われているSMB(Small and Medium Business)。SMBは社数が多いだけではなく、デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の余地が大きく、SMB向けビジネス、特にHorizontal SaaSの可能性は極めて大きいと考えています。また、コロナ禍が大きく推し進めたビジネスのデジタル化や、電子帳簿保存法やインボイス制度、育児・介護休業法や改正個人情報保護法などの相次ぐ法律の制定や改正などによって、企業はビジネスの変革を迫られていますが、リソースが豊富な大企業とは異なり、SMBは個社毎に対応するのが難しいことも、SMB向けHorizontal SaaSがこれから大きく伸びると考えている理由です。

SaaSではないですが、SMBや一般個人に対して、通信回線サービス・宅配水・電力・保険・業種別ITソリューション・決済ソリューション・携帯電話・OA機器などを販売し、商品・サービスの販売後に使用量などに応じた継続的な売上が入ってくるストックビジネスを構築している光通信や、SMB向けを中心に、IT機器やシステムの提案から導入までを行う「システムインテグレーション事業」と導入後に運用面での支援を行う「サービス&サポート事業」の両事業を持つことでストックビジネスを構築している大塚商会は、この金融市況下においても、比較的安定的な株価を維持しています。また、freeeマネーフォワードラクスといった時価総額が高い上場メガベンチャーにSMB向けHorizontal SaaSが数多く見られることからも、この事業領域のポテンシャルの大きさを垣間見ることができます。本稿では、いくつかの事業領域に絞って、SMB向けHorizontal SaaSの可能性について纏めてみたいと思います。

①SMB向けの金融ビジネス

一つ目は、SMB向けの金融ビジネスです。日本における金融機関の戦略を概観してみると、基本的にメガバンクは、高成長が期待できるスタートアップ、中堅・大企業との取引や海外ビジネスに注力する傾向があります。地方銀行や信用金庫は、多くのSMBを顧客として抱えていますが、一部の大手地銀を除いてDXが遅れており、UI/UXが優れているパソコンバンクやスマホアプリ、またOMO(Offline Merges with Online)時代を見越したカスタマージャーニー設計が実現できておらず、SMB向けに良質な金融ソリューションを提供できていないという現状があります。

もう一つは、与信アルゴリズムの静的与信から動的与信へのシフトのトレンドです。

上図のように、金融機関における低金利での貸出競争の激化などを背景とし、資金運用利回り(上記グラフの緑の折れ線)の低下が顕著に見られる状況下において、貸し倒れ率の抑制はこれまで以上に重要になること、及び今のような変化の大きな時代において、決算書などの静的データをベースとした与信審査では限界があり、日々の銀行預金残高の推移やカード決済の状況など、より多くの動的データを取り込むことで与信精度を高めていく必要があると考えていますが、既存の金融機関にこのような動きはあまり見られず、freeeやマネーフォワードなどが金融領域へと事業領域を拡大させつつあるものの、まだ残された事業機会は大きいと考えています。

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②SMB向けのM&A仲介ビジネス

SaaSというよりマーケットプレイス的な位置付けになるかもしれませんが、SMB向けのM&Aビジネスにも大きな事業機会が存在していると考えています。上場しているM&A仲介会社は複数社存在しているものの、大手であるほど取引規模が大きく、収益性の高い取引を優先する傾向があること、及び今後SMBの事業承継ニーズが地方を中心に増加することによって、需給GAPは更に拡大すると考えていることが一つです。もう一つは、(売り手・買い手双方にM&Aアドバイザーが付くことが多い)大型のM&Aを除くと、業界全体として売り手・買い手の両サイドから手数料を取る両手取引が主流であり、自社が持つネットワーク内でマッチングを完結させることで、両サイドから手数料を取ろうとするインセンティブが働きやすい業界であるため、案件の囲い込みになりがち(他のM&A仲介会社に取り次ぐインセンティブが働きずらい)であり、売り手視点に立った最適なM&A仲介ビジネスの事業機会を考える余地は大きいと考えています。

③SMB向けのミドルバックビジネス

最後に、SMB向けのミドルバックビジネスです。企業におけるミドルバック業務(人事・情シス・労務・総務など)は、
・組織形態の多様化
・副業や業務委託といった雇用形態の多様化
・育児・介護休業法や改正個人情報保護法など、相次ぐ法律の制定や改正
・利活用するSaaSの増加
・より高次元なコーポレート・ガバナンス要請の高まり
などの不可逆な変化の要請がある中で、SMBも含めて、より高度な仕事へ対応することが求められるようになっています。そのような中、企業経営者は、社内の人材で対応するのか、新たに人材を採用するのか、外部にアウトソーシングするのかの三択を迫られることになりますが、これらの領域における優秀人材は慢性的に不足しており、外部へのアウトソーシング需要が拡大していくと考えています。ミドルバック業務における定型業務に関しては、SaaSなどの導入にて対応可能ですが、非定型業務や意思決定する際の条件分岐が多い業務については、BPOやBPaaS(BPOとSaaSの組み合わせ)、チャットBotといったソフトウェア型ロボットのマーケットが大きく拡大していくと考えており、有望事業領域として注目しています。

■終わりに

私たちが投資判断する際に重視しているのは、こちらの記事でも書かせていただいた通り、

①大きな時代の方向性に沿った事業かどうか
②その事業が持つマーケットポテンシャルの大きさ
③社会的意義やソーシャルインパクトの大きさ

の大きく3つですが、SMB向けHorizontal SaaSは、上記のいずれにも当てはまりやすいと感じています。なぜならば、

①大きな時代の方向性に沿った事業かどうか
コロナ禍によるデジタル化の波や相次ぐ法律の制定・改正などによって企業はこぞってビジネスの変革を迫られていること
②その事業が持つマーケットポテンシャルの大きさ
(仮にSMBが日本に約360万社存在しているとすれば)これだけ多くの企業がなんらかの対応を迫られているにも拘らず、社内の人材では対応が難しく、新規採用も難しいことから、外部へのアウトソーシング需要が拡大していくというマクロな仮説が立てられること
③社会的意義やソーシャルインパクトの大きさ
労働人口の減少が続く中、ビジネスのデジタル・トランスフォーメーションを推し進めることで、SMBの労働生産性を高め、人間の叡智が発揮できる仕事に多くの時間が使える世界に少しでも近づけられること

だと考えているからです。私たちは、未公表のスタートアップも含めて、数多くのSMB向けHorizontal SaaSに投資しており、少しずつですがノウハウやアセットが蓄積されてきているので、SMB向けHorizontal SaaSでの起業を検討されている方は是非ディスカッションさせてください。

筆者

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