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Duolingoに学ぶ”Employee Experience”のベストプラクティス

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事業を成長させるために必要な強い組織創りは、唯一解があるわけでもなければ、ここまでやれば終わりというゴールがあるわけでもなく、頭を悩ませている経営者や人事担当者の方も非常に多いかと思います。

自分自身も強い組織創りについてのブログを書いたりしながら、思索を深める日々を過ごしています。そんな中、USのスタートアップの組織創りに関するベストプラクティスの一つとしてDuolingo社に話を伺う貴重な機会を頂きましたので、その取り組みについてまとめてみました!

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目次

  1. Employee Experience
  2. Duolingo社について
  3. ①Employee Experienceをいつから大事にしてきたか
  4. ②Duolingo社が毎年カンクンへ社員旅行に行く理由
  5. ③グロースフェーズにおけるEmployee Experience
  6. ④Employee Experienceを向上させる施策創り
  7. 終わりに

Employee Experience

組織創りの重要性については、日本のスタートアップコミュニティの中でも認識が共通化され、ビジョンやミッションといったコーポレート・アイデンティティーの言語化、バリューや行動規範の策定を通じた思考やアクションに関するスタンスの重み付けといった取り組みが各社で進められています。

しかしながら、実現したいビジョンやミッション、各メンバーに体現してほしいバリューを定めるだけで、強い組織ができるわけではありません

自社のカルチャーにフィットした優秀なメンバー達が、キャリア実現の場として、高い生産性を維持しながら長期に渡って会社で活躍してもらうための組織創りのキーワードとして、Employee Experience(EX)を挙げることができます。最近、耳にする機会が増えてきた単語です。

このEmployee Experienceについて、解像度高く具体的なイメージを持つことができる人は、自分も含めて、まだ多くはありません。

PwCが日本企業を対象に実施した調査によると、「Employee Experienceを自社の人材マネジメントにおいて重要」と考える企業は89%にのぼる、にもかかわらず、「EX向上のための施策を既に検討・実施していた」「具体的な事例まで知っていた」という回答は約2割にとどまっています。EXの重要性には気付いていながら、その知見は日本において普及していない状況です。

Employee Experienceの重要性については、科学的にも検証が進んでいます。MITのある研究によると、EXに優れたTop 25%の企業は、Bottom 25%の企業と比較すると、

・顧客満足度(NPS)が2倍
革新性(新商品や新サービスによる収益比率)が2倍
・収益性が25%高い


というビジネス上の成果を得られているようです。

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Duolingo社について

今回は、世界で最も利用されている外国語学習アプリを開発しているDuolingo社で、Employee Experienceを担当されているSenior Managerの方にお話しをお伺いさせて頂きました。

Duolingo社で日本と韓国のカントリーマネジャーを務めるShoさんにインタビューのアレンジをしてもらいました!貴重すぎる機会をありがとうございます!

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Duolignoは、高度な外国語学習ができるアプリ(AppleAndoroidで、Shoさんに紹介してもらってから、水谷も200日以上連続で利用して中国語の勉強を継続しています。

iOS の画像 (3)

ユーザーが無理なく学習を継続していくための仕掛けが、アプリの中に多く備わっている、とても素晴らしいプロダクトです。ユーザーはなんと無料で利用できます。

Duolingo社は、世界中の人々が無料で外国語を学習できる夢のようなアプリを開発しているUSのスタートアップで、先日、NasdaqへのIPOを果たしました。そんな注目を集めるDuolingo社ですが、成長の裏側にあるEmployee Experieceの取り組みに迫るべく、インタビューに移ります。

①Employee Experienceをいつから大事にしてきたか

今回は、Duolingo社のElise Waltonさんにお話しをお伺いしました。

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Eliseさんは、People Team所属のSenior Employee Experience Managerという肩書を持つ方ですが、EXを冠する役職が確立され存在していることに、まず驚きがありました。

さらに、HR Teamではなく、People Teamという部署名の表現選択からも、メンバー各人に向き合っている印象を受けました。また、日本でも注目度が高まっているDiversity & InclusionもEmployee Experienceの文脈で捉えているという点も、学びがあります。

ということで、肩書や所管領域だけでもWowがあったEliseさんという専門の役職者によって推進されているEmployee Experienceが、Duolingo社ではいつから重要視されてきたのか、聞いてみました。

創業者のLuisが会社を立ち上げたその日から、Duolingo社ではEmployee ExperienceとCultureをとても大事にしてきました。

彼にとってDuolingo社は三社目の起業です。初めの二社ではEXやCultureは必ずしも考慮されていませんでした。ただ仕事を早く終わらせていくために人を雇用していて、メンバーへの特段の配慮もなかったから、とても大変な職場環境だったと思います。

そんな二社での経営経験を経て、Duolingo社では創業一日目からEXとCultureが優先されてきたため、私たちはとても幸運でした。

スタートアップの創業期は、プロダクト開発やユーザーニーズの検証に経営チームのリソースが優先され、ヒトや文化への投資は後手になりがちです。結果としてメンバーがバーンアウトしてしまったり、ブラックというレピュテーションが生まれてしまいます。しかし、連続起業家だからこそ、創業期からEmployee Experienceにコミットしていたという話には、説得力があります。

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そんな思想の下で立ち上がったDuolingo社にて、EliseさんはEmployee ExperienceのManagerとして、どのような役割を担ってきたのでしょうか。まずは入社の経緯を伺いました。

大学ではアートの学位を取得して卒業後、芸術系の仕事を複数掛け持ちしている中でDuolingo社に仕事で出入りする機会があり、たまたま知り合いに誘われて、Office Managerとして入社しました。

アートの世界では、作品を鑑賞するヒト側の視点に立つ体験設計を考慮することが大事にされてきたこともあり、Duolingo社でのオフィスを設計していく仕事には、とても親和性がありました。余談だけど、2015年の時点でZoomの導入を決めていた自分の先見性は、とても誇らしいです。

Eliseさんのキャリアはとてもユニークで、Employee Experienceの役割を果たしていく上でアートのキャリアが効いているというのは一見意外でしたが、EXについて考えていく上ではとても示唆深いです。

アートの世界における「制作するアーティスト側の視点」と「鑑賞する消費者側の視点」の二つの視点の持ち方を会社組織に応用すると、「経営者視点から見る組織」と「従業員視点から見る組織」があり、ややもすると両者は別物になりうる、ということが含意されていると感じます。

Eliseさんはその後、Duolingo社でどのような役割を担ってきたのでしょうか。

自分の役割は、入社してからの6年間を通じて職場で働くメンバーの体験をエンジニアリングすることです。

Office Managerとしてスタートした当初は、物理的な空間設計からランチの場創りやAV機器・オフィス家具の選定から、入社時のオンボーディングの在り方について考えていました。

事業が成長していくにつれて、日々の業務体験へとフォーカスが移っていきました。具体的には、チームでの協力的な仕事の進め方(Collaboration)や
帰属意識(Inclusion and Belonging)について現在は考えています。

Employee Experienceのスコープが、身体的なハード面に留まらず、情緒的な関係性を含むソフト面へと拡張されてきているようです。EXの目的として、事業の成長とともに社員数が増えていく過程で、組織としての生産性を向上させる優先度がより高くなってくることから、メンバー同士の協働的な関係構築や帰属意識を醸成することに比重が寄るというのは、グロースフェーズのスタートアップが抱える共通の組織経営イシューに沿うものと感じます。

■EX Points①
スタートアップの創業一日目からEmployee Experienceの重要性を認識し、メンバー視点での体験設計を通じて、メンバー同士での協働的な関係構築や帰属意識の醸成を目指していく。

②Duolingo社が毎年カンクンへ社員旅行に行く理由

Eliseさんからのお話しで驚きだったことの一つに、Duolingo社が創業以来、毎年カンクンへの社員旅行を開催してきたことがあります。Eliseさんが着任されてすぐに企画担当した仕事の一つとのことでした。

入社してからすぐに、社内イベントの企画担当として、年に一度のカンクンへの社員旅行の企画を任されました。

この社員旅行は、とても規模の大きなイベントです。日々のハードワークに対する福利厚生としてのご褒美だと最初は認識していましたが、それにしてはコストを掛けすぎだと企画しながら懐疑的に感じることもありました。

それでも6年間、カンクンへの社員旅行を続けてきました。会社が成長していくにつれ、ヒトが増えて多様性も豊かになっていく一方、普段の業務では関わりがなく、知り合う機会が乏しいメンバーも増えていました。それが、このカンクンのビーチで三日間を一緒に過ごすと、簡単に友人になることができるのです。それも単に知り合うだけ、というわけではない、”Authentic Connection”を生み出すことが可能です。

この”Authentic Connection”が社内で深く醸成されていくと、6年間で結婚するカップルも何組か出てきていますし、ベストフレンドを見つける貴重な機会になっています。

社員旅行というイメージから伝統的な日系企業でありがちな会社行事を思い浮かべてしまう自分にとって、USのスタートアップでEmployee Experienceを担当するマネージャーからこの単語を耳にするのは意外性がありました。最近では減ってきているかもしれませんが、日系企業の社員旅行は仲の良いボーイズクラブによる慰安的な目的を含むケースが多いと思います。

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一方、Duolingo社の社員旅行の場合は、多様な構成員を持つ会社の、全社によるチームビルディングのプログラムとしてオフィシャルに位置づけられているのは大きな特徴です。

このプログラムが目指すメンバー同士の関係性は、単なる「会社の従業員」という枠を越えて、「家族」のような間柄を目指しているような印象を受けましたが、Eliseさんはそのことについても補足してくれました。

家族のような関係性の構築については、意図しているところです。

戦略的、事業的な視点から話をすると、会社の同僚との間で “Authentic Connection” を醸成していくことで、職場における心理的安全性を保つことができるようになります。

そうすると、安心して反対意見を述べたり、同僚に対して正直でいられるようになり、私たちは組織としてより協力的に、且つ、イノベーティブになることができます。

そのような事業上の観点から、
会社としてメンバー同士の “Authentic Connection” を大切にしているのです。

これもとても大事なポイントと感じました。

メンバー同士の家族のような”Authentic Connection”は、それ自体が目的化しているわけではもちろんなく、メンバー同士の心理的安全性の礎となって健全な事業成長に繋がる、との判断の下で意図して醸成に取り組んでいる、ことがわかります。

メンバー同士の協働的な関係性の構築は、Eliseさんの役割として、冒頭から挙げられていたことでもあり、Employee Experienceの向上を通じて目指す重要な目的です。この目的を達成するための手段として、毎年の社員旅行を位置づけているという話には、膝を打たれることになりました。

■EX Points②
メンバー同士の心理的安全性が醸成されていくことにより、社内で安心して反対意見やイノベーティブな意見が発信されるようになる。従って、単なる会社の従業員という枠を越えて、メンバー同士が家族のような”Authentic Connection”を構築することをとても大切にしており、その機会として毎年の社員旅行が機能している。

③グロースフェーズにおけるEmployee Experience

EliseさんがDuolingo社に入社した当時、30人ほどだった従業員数は、10倍の350人以上に増えています。その中で、Employee Experienceを司るEliseさんの仕事はどのように変化していきているのでしょうか。

従業員数が増えたことで自分が入社した時と全く異なる会社になりました。それにつれて、Employee ExperienceやEmployee Engagementに関しての自身の仕事や考え方も変化してきています。

最も大きな違いは、かつては会社の全メンバーを知り、ラポール(信頼関係)を形成できていたことです。ランチで話をしていれば、みんなの考えはある程度わかるので、意思決定はもっと楽でした。しかし、350人を超える規模の組織ではそうはいかず、より戦略的に動いていく必要があります。

Duolingo社は、2名のソフトウェアエンジニアによって創設され、創業初日からデータドリブンに動いてきた会社です。自分の属するPeople Teamも、エンジニア部隊と同様にデータドリブンに取り組んでいます。

Employee Experienceや人間関係に拘わるメンバーの情緒をデジタル化していくことはとても難しいですが、サーベイを通じて、データドリブンな取り組みを進めています。

Eliseさんのコメントからは、Duolingo社が持つデータドリブンに仮説検証を進める行動規範のカルチャーがしみ出してきており、適切な組織施策に取り組んでいく上でのExperimentalな姿勢はとても印象的です。

腹を割って話せる関係性があれば、同僚との直接の対話の中で正直な状態を観察することができますが、サーベイを通じた状態把握を進めるに当たってメンバーから正直な回答を得るためにどのような仕組みを設けているのか、聞いてみました。

サーベイを通じてメンバーから率直で正直なフィードバックを得るために、アンケートは匿名にしています。私とデータの間にバリアを設けることで、自信を持ってメンバーは率直なフィードバックをすることができるようになります。匿名性はとても大切なことです。

回答はとてもシンプルでした。正直な回答を得るために、Peopleチームでもサーベイの生データが見れないように匿名性を持つ仕組みにしている、とのことでした。自身の回答結果が直接知られてしまうことが気になり、正直に回答できない人事サーベイをしたという経験は多くの人があると思います。

(なお、サーベイのツールとしては、2021年7月にユニコーン・ラウンドが報じられた Culture Amp を活用しているとのことでした)

さて、このような匿名性を確保したサーベイで、Duolingo社ではどのような質問を行い、それを通じてなにを測っているのか聞いてみました。

サーベイの大目標は、メンバーがDuolingo社に対してどれほどの結びつき(connected)や献身性(committed)、意欲(motivated)を感じているかについて把握することです。

この3つの観点からメンバーの想いを理解することは重要です。なぜなら、それは各メンバーが職場における生産性をどれほど感じているのか、また、Duolingo社の退職可能性があるメンバーのリテンションリスクについて、示しているからです。

つまり、サーベイを行うに当たって事業上の観点から最も重要なことは、各メンバーの働き方と退職リスクを理解することとなります。

Eliseさんへのインタビューを通じて一貫して印象的な点は、各施策について事業上重要である理由がとてもクリアに整理されていることです。事業上の重要目標が各部署にミッションとしてしっかりと浸透・理解され、その達成に向けた手段として各施策がじっくりと検討・実行されてこない限り、このようなクリアな回答が瞬発的に出てくることはありません。

そして肝心のサーベイでは、結びつきや献身性、意欲といった従業員の会社に対する情緒的な指標を追っており、”Employee Engagement”の度合いを把握しようとしていることがわかります。

Employee Experience”“Employee Engagement”

この2つについての整理をするのであれば、良い(悪い)体験の結果としてエンゲージメントが向上(低下)する、と捉えることができると思います。すなわち、”Employee Engagement”は、”Employee Experience”の結果指標として、EliseさんはEXにまつわる施策の成果を見るために、エンゲージメントを測っているということと考えられます。

メンバーのエンゲージメントが上がれば生産性は向上し、逆に下がれば退職リスクは上がります。そして、エンゲージメントを高めていく方法として、良質なEmployee Experienceを通じてメンバーの企業への感情をポジティブなものにしていくことが必要となるわけです。

そんなEmployee Engagementですが、個人的にはDuolingo社でメンバーのエンゲージメントを測る上でのファクターとして、一貫して結びつき(connected)が第一に挙げられていることがとても興味深く、重要視している背景について、Eliseさんにお伺いしてみました。

関係構築を通じて究極的に目指していることは、全てのメンバーに帰属意識を持ってもらうことです。

その理由はいくつかありますが、国際的企業において多様な人々や考え方が存在している中で、私たちは全ての人を受け入れ、繋がりや帰属意識を持つ機会を意図的に提供していく必要があります。

帰属意識が高まることで、職場に来るのが楽しみになりますし、最高の仕事ができるようになります。メンバーのDuolingo社での体験を考えていく上で、とても重要となるポイントです。

メンバー同士が結びつきを強くしていくことで生まれる会社への帰属意識(Belonging)を強調されています。帰属意識をここまで強調される背景として、日本以上に社会構成が多様なUSを拠点としているためかと最初は推察しましたが、Duolingo社ならではの背景があるようです。

シリコンバレーではジョブホッパーも多く、複数のスタートアップを転々とする人も少なくありません。しかし、私たちのCEOであるLuisは、シリコンバレーではなく、ペンシルバニア州ピッツバーグに拠点を置いています。
(※注:CEOのLuisさんは、カーネギーメロン大学の研究者でもあります)

CEOにとっては、Duolingo社に対してメンバーが長期間にわたるコミットメントと結びつきを感じてもらうことがとても重要で、全メンバーに自信を持ってピッツバーグに引っ越してきてもらいたいと考えています。

そのために、Duolingo社への帰属意識を醸成していくことで、メンバーには
できるだけ長く身を置いてもらいたい考えているのです。

ピッツバーグはアメリカ北東部ペンシルベニア州の都市で、シリコンバレーからははるか遠くに位置しています。そんな都市に拠点を置くDuolingo社にとっては、参画してくれたメンバーに長くコミットし続けてもらうことは、企業経営上、とても重要となります。

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ある意味で必要に迫られたからこそ、良いメンバーを惹きつけ続けるための帰属意識の醸成に注意を払い、投資を続けているということです。先に紹介したカンクンへの社員旅行も、”Authentic Connection”を養うことが目的で、帰属意識を高めていくための取り組みの一つですね。

メンバーが長く会社にコミットして活躍し続けてもらうことは、多くの企業にとって経営上の大きなテーマです。企業への結びつきや帰属意識を健全な形でメンバーに持ってもらえるようにする取り組みは、持続可能な企業成長に向けてますます重要になってくると感じます。

■EX Points③
メンバー数が増えていく過程では、正確な状況把握のために匿名サーベイを活用してエンゲージメントを定量化。メンバーに長期的なコミットメントをしてもらうために、
メンバー同士が結びつきを強くしていくことで生まれる組織への帰属意識(Belonging)を高めていくことが重要なポイントとなる。

④Employee Experienceを向上させる施策創り

サーベイの結果を見ながら、Employee Experienceの向上に向けた施策を検討しているとのことですが、Eliseさんに施策検討や実行に当たってのプロセスやポイントについても、伺ってみました。

Duolingo社でのソーシャルプログラムの企画を完璧なものにしていくために、私は3つのポイントに留意しています。

まず一つ目として、CEOがとても重要視している「話題性」です。例えば、カンクン旅行に行ったことを数週間後や数年後に思い出して「あの旅は最高だったね」「ほんとにクレイジーだった」と、仲間内で思い出されるような話題性を大切にしています。

二つ目は、「関係構築」です。会社でよくある安っぽいチームビルディングのプログラムではなく、メンバーにとって本物と感じられるつながり(”Authentic Connection”)を育む機会となることです。

三つ目は、「公平性と包括性」です。内気な性格の人や、同居家族や時差の有無、母国語など、どんなシチュエーションにあるメンバーであってもプログラムに考慮されていることが必要です。

しかし、400人の全従業員を対象としたプログラムを企画しようとすると、これらの全ての項目を同時に満たすことは難しいです。

そこで私は、多様なプログラムを複数組み合わせて3つの要素を満たすようにすることで、400人全てのメンバーが自分にとって本物と感じられるつながりを見つけることを、目標としています。

プログラムの策定に際して、「話題性」「関係構築」「公平性と包括性」の三つのポイントがあるという話は、「なるほど」とただ頷きながら伺っていました。趣深いのはやはり「話題性」で、ワクワクする組織イベントって、メンバーの間でもつい話のネタになりますし、過ぎてからも強烈な思い出となって、深いつながりのきっかけになっていきますね。

実際にDuolingo社では、カンクン旅行のほかにも、以下のような複数のプログラムに取り組んでいるとのことでした。

■Interactive Care Packages:
「アウトドア」などのなんらかのテーマのあるグッズが詰まったパッケージを会社からメンバーに贈り、メンバーがそのグッズを使ってアクティビティに参加して写真をSlackチャンネルで共有することで、コロナ禍で同じ空間に入れなくても同じ体験をメンバー間で共有します。Thinking outside the box: Engaging our team with interactive care packagesWe take culture seriously at Duolingo, working to give all oublog.duolingo.com

■Fireside Chat Series:
CEOが特定の分野の専門家と話すイベントで、社員にとっては新しいことを学ぶ良い機会となっています。

■Slack Parings:
Slack上でランダムに誰かが割り当てられ、その人同士で会話をする。

■Anniversary Celebration:
創立記念日に行われる全社的な祝賀会。これは自分たちへの「お疲れ様会」のようなもので、1週間にわたって様々な活動を行います。Zoom上で工作をしたり、お酒を飲んで時間を共有しています。

と、Eliseさんに紹介してもらったものだけでも多くの施策が繰り出されており、「話題性」「関係構築」「公平性と包括性」という三つのポイントを、複数の施策でうまく充足させようとしいることがわかります。

他にもShoさんのツイートをのぞくと、こんな素敵なプレゼント企画が。。

それでは、こういった施策を経営陣を含め、どのようにメンバーを巻き込みながら進めているのでしょうか。

大きな戦略的決断をするときは、CEOと1対1で話します。

CEOがイベントに求める成果を聞きつつ、お互いが納得できる戦略を立てるようにしています。私にとっての優先事項は、人とのつながりの構築や公平性の確保である一方、CEOにとっての優先事項は話題性でした。ですから、私たちが協調して妥結点を見つけることはとても重要です。

組織でのコラボレーションはとても大事にしています。25人ほどの人事的な役割を担う部署の中で、私は5名程度のサブチームに所属しながら、文化やキャリアの向上に取り組んでいて、チーム内でのコラボレーションは不可欠です。またさらに、エンゲージメント・サーベイの他にも全社メンバー向けにプログラムに関してのサーベイを実施し、フィードバックをもらいながら改善を進めています。

私は、Duolingoでとても幸運だと思います。

というのも、Duolingoの創業者たちは創業初日からこういったプログラムの価値を認めてくれていたので、多くの権限を持つことができています。

私がやりたいことをサポートしてくれていて、説得に時間を掛ける必要はありません。誰かを説得する必要があっても、それが正しいことだと思えば、会社に来るのは楽しみになるし、同僚と一緒に仕事をすることが楽しくなる側面もあります。

ビジネス的にも、つながりの感覚や心理的安全性があることで、最高の仕事に繋がります。それを裏付けるデータや指標、調査や研究もあるので、私はこうしたプログラムの価値を理解していない人に出会ったときにも、生産性やコラボレーション、イノベーションといったビジネス上の成果に結びつけるようにして説明しています。

Employee Experienceの取り組みの重要性についてDuolingo社の中では理解が浸透していると、Eliseさんの自信が溢れているコメントです。そして彼女自身もDuolingo社での仕事を楽しんでいる様子がにじんでいるのも、とても印象的でした。

Eliseさんの仕事がビジネス上の成果に向かうものであると、経営チームのみならず、組織全体に共有されていることで、各プログラムへの熱量も自然と高くなっていくように思います。

メンバーがシラケている状態だと、各施策も逆効果になってしまいますが、そうした懸念を前提から払拭する状態を経営として創ることができている、ということも、創業一日目からEmployee Experienceの優先度を上げて取り組んできた成果の一つと感じます。

■EX Points④
Employee Experienceの向上に向けた施策策定に際しては、「話題性」、「関係構築」、「公平性と包括性」の三点を大切にして、メンバーが増えてからも、複数の施策を行うことにより上記三点カバーするようにしている。EXの向上がビジネス上の成果に繋がるという前提の理解が、経営陣を含めて組織全体に共有されており、協力的に施策を進めることができている。

終わりに

最後に、EliseさんにEmployee Experienceやエンゲージメントの向上を目指す日本のスタートアップ創業者や経営チームへのアドバイスを伺いました。

私のアドバイスとしては、企業はそれぞれ異なるので、自分の会社に合ったプログラムを考えていくことです。もしも、まだ自社のカルチャーが何かを明確にしていないのであれば、会社が意思決定を行う際に使用する行動規範(Operating Principles)を策定し、その行動規範に沿った形でプログラムを作成することをお勧めします。

ちなみにDuolingo創業者兼CEOのLuisさんは、2018年当時、同社の行動規範として以下のようなツイートをされていました。

Duolingo社の行動規範はその後アップデートがなされ、上記の3点は以下となっているとのことです。

(1) Learners first. (学習者たちが最優先)
(2) Take the long view.  (長期的視点で考えよう)
(3) Test everything. (すべてを仮説検証しよう)

採用については、(2) の規範に沿った行動事例として、
“We keep our hiring bar high, even if it means we delay filling the role in the short term. In the long term, it’s better to have the right person.”
 (たとえ短期的には役割を果たすことに遅れが生じるとしても、採用基準は高く持ち続ける。適任者を待つ方が、長期目線で考えれば好ましい)
 といったことが挙げられています。

この行動規範に照らして考えると、例えば、Eliseさんがメンバー向けの匿名サーベイをベースに施策創りをしているのは、(3)の行動規範に沿っているとわかります。

また別の視点では、会社としてEmployee Experienceの向上に向けて一定の経営リソースを投下して成果に繋げていく上では、採用基準を高く設定し、チームが企業にフィットするメンバーで構成されている必要がありますが、それは(2)の行動規範と合致するものです。

Duolingo社の採用活動については、今回のEliseさんとのインタビューをアレンジしてくれたShoさんのブログに詳しく書かれていますが、採用の目線感を非常に高く持ったオペレーションになっています。厳格な採用基準とEmployee Experienceの向上は、セットになってより効果を発揮しますね

経営の大目標の一つに、優秀で会社のカルチャーにも不可欠なメンバーに、長期的に会社へとコミットしてもらう、ということがありますが、この目標を達していくために、

「採用にとことんこだわる → メンバーのEmployee Experienceを向上させていく → 優秀なメンバーが長期的にコミットできる会社となる → 優秀なメンバーに選ばれる会社となる → さらにEXを向上させる → ・・」

という循環を回していくことはとても重要となります。Luisさんが創業初日からEmployee Experienceにプライオリティを置いているというのも、改めて合点がいきます。

ということで、とても長文になってしまいました。

USのスタートアップの組織創りに関するベストプラクティスの一つとして、Duolingo社のEmployee Experienceの向上に向けた取り組みを、掘り下げてみました。

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自分自身、Employee Experienceについて、これまで十分に意識が向いていなかったこともあり、Eliseさんへのインタビューを通じて得た気付きがとても多く、咀嚼してまとめるにあたって時間を要してしまいましたが、強い組織創りの一助となれば幸いです。

Duolingo社のEliseさん、Shoさん、本当にありがとうございました!(Duolingoのアプリ(AppleAndoroid)も、ぜひダウンロードしてみてください!

著者

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