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創業初期におけるバリュー策定・浸透のすすめ

NOTES

先日、元同僚であり、今でも親しくさせてもらっているギフトECのTANPを運営するGracia代表の斎藤さんがこのような記事を投稿していました。

「会社がどこ目指してるのか分からない」の声からミッションとバリューを再策定したらすごいよかった話 / Gracia一年間の歩み

こちらの冒頭で、とてもありがたいことに、私とのメッセージのやり取りが執筆のきっかけとなったと書いていただいていますが、私も普段、支援先の経営者とビジョン・ミッション・バリューの策定やその後の浸透についてお話することが多い中で、今回は、なぜ斎藤さんに執筆を勧めたのかという背景や、スタートアップにおいてバリューの策定・浸透が如何に重要で、実際にどのように行うのかということについてまとめてみました。

特に、これまで組織を構築・率いてきた経験があまり無い起業家の方に読んでいただけると嬉しいです。

組織とは何か?なぜ組織で行うのか?

早速too muchなテーマを掲げてしまった感がありますが、思考を整理するためにも前提の前提から確認していきたいと思います。

まず、組織とは個人の集合であり、個人では実現が不可能な(大きな)ことを成し遂げるために組織が形成されます。

また、特にスタートアップ等のビジョンを掲げてスケールすることを目指す企業においては何かしらの目標があり、その目標に向けて組織を形成する訳ですから、もちろんその長である起業家・経営者は組織として行う効用を最大限に享受したいと思うことでしょう。

そこで重要になるのがビジョン・ミッション・バリューです。これらをまとめてCI(Corporate Identity)と呼びます。もちろん組織設計や金銭的なインセンティブ設計等も重要ではありますが、組織として行う効用を”最大限に”享受するためにはこのCIが欠かせないと考えています。

なぜCIが重要か?

日本においては、人手不足の時代と言われて久しく、また、ITによって様々な求人へアプローチが可能となったことによって、多くの人が数多ある求人の中から最も興味のある職業に就くことができるようになりました。そしてそれは、人材市場における希少価値が高い人であればあるほど顕著です。一方で、SDGsに代表されるような現代の価値観から推測するに、何かを消費した際に生まれる見せかけの感情ではなく、それによってもたらされる本質的な感情の変化や、一時点におけるスナップショットだけではなく、社会が半永久的に存続することを前提とした永続的な活動が重視されるようになりました。

従って、企業は自社で活躍してくれる人材を採用し、雇用し続けるためにも、企業として何を目指すのか、その活動は本質的に価値のあるものなのかということをCIという形に整理して、社内を含めた社会全体に伝える重要度が高まっていると感じます。

ビジョン・ミッション・バリュー

それではCIの中身であるビジョン・ミッション・バリューはそれぞれどういった役割を果たすのでしょうか。

こちらについては以下の記事に詳細がまとまっているので、引用しながら整理してきたいと思います。

なぜ「企業文化」が大切なのか?|企業文化デザイン論

まずはビジョンですが、これはその企業が活動を通して実現したい世界です。最も長期目線であり、最終的な拠り所となるような存在です。

次にミッションですが、その実現したい世界を目指す上でどういったアプローチを取るのか、その企業が果たすべき使命は何か、ということです。

最後にバリューですが、ビジョン・ミッションが中長期的な視点に立っている一方、バリューは日々どういった価値観を持って活動したら良いのかという意思決定と実行の軸となるような存在です。

ビジョンやミッションは、企業によっては一つにしているところも多いかと思います。TANPのGraciaもそうですし、あとはメルカリもミッションだけが掲げられています。

Gracia:大切なひとときを彩り、人のつながりを豊かにする
メルカリ:新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る

また、創業初期の起業家の方では、ビジョンやミッションはあるが、バリューは策定していないことがほとんどです。個人的には、バリューを策定すべきタイミングがあると思うので、経営者が時期を見計らって策定するのが良いかと思いますが、それでもいずれはバリューを策定するという点は共通しています。また、バリューはビジョンやミッションとは異なり、比較的頻度高く(1年~数年に1回)更新されるもので、環境や経営者によって変化していきます。

バリューの重要性についてさらに書くと、もちろん事業によって合う合わないがありますが、経営者だけが意思決定を行い、それをメンバーに実行してもらうために組織を形成した場合は基本的にルールベースの組織になる一方、経営者だけではなくその他の多くのメンバーも意思決定を行い、自らor他者を巻き込んで実行していく場合は、バリューが策定・浸透されていることが必要条件になり、それが実現した際には過度なルールは必要なくなると考えられます。

多くのスタートアップは後者の組織を目指している気がしますが、前述したように事業によってはルールベースの組織が合う場合もあるので、そこは是々非々で判断するのが良いかと思います。

バリューの策定

ここまでCIの重要性やその中におけるバリューの重要性について整理してきましたが、具体的にバリューはどのように策定し、そして浸透を図ると良いのでしょうか。

これらについては教科書的な回答はあまり無く、各社様々な方法で取り組んでいるように感じられます。ですが、バリューの策定においてはいくつか意識した方が良い点があるので、そちらをご紹介したいと思います(こちらも先程ご紹介したこちらの記事を参考にしています)。

①企業文化は新たに生み出すものではなく、組織の中に既に存在するものであり、それを言語化し、明文化する
②ありきたりではなく、印象に残りやすいようにする
③ビジョン・ミッションや事業戦略と結びつくようにする

まず①についてですが、バリューを策定しなくてもその企業に存在する独特な雰囲気や文化というものがあるはずで、それを無視してバリューを策定しても既存のメンバーが馴染めず、結果的にバリューが浸透しなくなってしまいます。バリューは組織の規模が10人前後の段階で策定されることが多い印象ですが、おそらくそれまではメンバー全員で何となく共通の雰囲気や文化を共有できている状態であり、それを言語化し、明文化するのが良いと思われます。

次に②についてですが、バリューというのは、それを軸として意思決定と実行を繰り返した後にビジョン・ミッションが実現するものであるのが理想です。つまり、その企業独自のビジョン・ミッションを実現するための、その企業独自のバリューであること、また、常に意思決定と実行の際の軸となるようにメンバーが覚えやすいことの2点が重要だと考えられます。従って、ありきたりではなく、印象に残りやすいようにする必要があるのです。

最後に③についてですが、②でも触れた通り、バリューというのはそれを軸として意思決定と実行を繰り返した後にビジョン・ミッションが実現するものであるのが理想です。ただ印象に残りやすいものを策定するのではなく、ビジョン・ミッション、事業戦略と結びついている必要があります。一方でそれはイデア的なもので、現実にその状態は実現しません。そこで重要になるがビジョン・ミッションの浸透です。つまり、一つ一つの意思決定と実行の際にバリューを軸としながらも、中長期ではビジョン・ミッションを解像度高く見据えることで、迷いなく道を歩み続けることができるのです。

バリューの浸透

策定したバリューを組織に浸透させる方法は様々で、企業によってやり方が異なります。今回は、その中でも個人的にこれは良いなと思った事例を取り上げたいと思います。

・Slackのスタンプ
これは多くの企業で導入されているかと思いますが(ジェネシアでも導入しています笑)、Slackでバリューのスタンプを作り、実際にそのバリューを体現したメンバーに対してそのスタンプを送るというものです。例えば、メルカリの有名な「Go Bold」というバリューを体現するような意思決定をしたと感じられる投稿がSlackであれば、それに対して該当するスタンプを送るというものです。これは、自身が評価されていると感じるだけではなく、他のメンバーも含めて、どういった意思決定と実行がそのバリューを体現していることになるのかという具体例のリストにもなっていくのでとてもおすすめです。Reacji Channelerと組み合わせて活用するとバリュー評価もしやすくなるので、興味がある方はぜひ活用してみてください。

・バリューの明確化
「バリューの策定」でも述べましたが、バリューは印象に残りやすくする必要があります。そのため、できるだけ完結に表現されていることが多い印象です。一方で、完結にすればするほどイメージが湧きづらくなる可能性もあります。そこで、バリューが何たるかをより明確に表す必要が場合によって存在します。例えば、支援先のSpectraは「For the Goal」「Be Proactive」「Aim Higher」をバリューとしていますが、画像のように、それぞれをどの範囲を前提と置くかでより明確にしています。また、バリューの明確化のために前述のSlackを活用しても良いですし、定期的に全社でバリューについて考える場を設けても良いかと思います。いずれにせよ、多少なりともバリューについての具体的なイメージが湧いていないと、それを軸とした意思決定と実行の難易度が高まってしまう恐れがあります。

画像3

・評価への組み込み
バリューはビジョン・ミッションを実現するために欠かせないものであるため、評価にも組み込む必要があります。Graciaでは行動評価、バリュー評価、成果評価の3つを基に人事評価を行っていたり、四半期に一度、バリュー毎に表彰も行っているとnoteに記載があります。バリューを基に自身が評価されているとメンバーが感じるのが浸透への最大の近道な気もしますが、それもこれまで記載してきたことを踏まえてのものなので、「バリューを策定して人事評価に組み込んで終わり!」とならないように注意する必要があうかと思います。

最語に

今回斎藤さんに執筆を勧めたのは、ビジョン・ミッション・バリューが策定されたプロセスを記録しておくことで、具体的にどのような意思決定と行動を期待して策定したのか、それはどのような課題意識を持っていたからなのか、各メンバーで共通認識を持っている部分とそうでない部分は何か、といったことを、バリューのアップデートのタイミングで見返すことができるだけでなく、それまでに新たに入ってくるメンバーに対して(もちろん既存のメンバーに対しても)、バリューをより立体的に共有することができるのではないかと考えたからです。

ビジョン・ミッション・バリューは短期的には成果の出づらい施策かとは思いますが、中長期的には飛躍的な成果をもたらしてくれるものだと思います。本稿が皆さんのバリュー策定・浸透の一助となれば幸いです。

筆者

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