STORY
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豊かな人生ってなんだろう

NOTES

1.プロローグ

誰よりも努力している人・粘り強く頑張っている人だけが、豊かな人生を送ることができる。

これまでの私は、誰よりも努力している人・粘り強く頑張っている人だけが豊かな人生を送ることができると考えていました。Time is money(時は金なり)とは言うけれど、お金は殖やせても時間は殖やせない。そう考えると、Time is life(時間は命そのもの)だと。

だからこそ、一瞬たりとも時間を無駄にしないように、誰よりも努力する、粘り強く頑張る。そんな生き方をしている人だけが、豊かな人生を送ることができると考えていました。

別の言い方をすると、将来きっと訪れるであろう豊かな未来に向けて、努力や忍耐という先行投資をひたすら積み重ねていく “修行期” と、これまで地道に積み重ねてきた先行投資のリターンを受け取ることができる “幸福期” の2つに人生のフェイズが分かれているようなイメージを持っていました。そして自己実現とは、 “幸福期” の途中のある時点で、「今自分は自己実現に到達した」とふと気付く瞬間のようなものだと考えていました。

しかし、30代半ばを過ぎたあたりから、自分の周りの誰よりも努力していた人、粘り強く頑張っていた人たちが、突然不慮の事故で命を落としたり、大病を患ったり、自分の意志とは全く異なる人事異動や転勤を命じられたりと、自分の力だけではどうにもできない不可抗力によって、その人のこれまでの努力や忍耐を支えてきた前提条件をいとも簡単に奪い去られてしまう場面に直面することが増えてきました。まるで、未来のために大切にとっておいた “幸福期” を全く味わうことなく、 “修行期” の真っ只中で、自分以外の手によって前に進む権利を奪われてしまったかのように。

歳を積み重ね、そのような場面に幾度となく遭遇する毎に、「豊かな人生ってなんだろう?」という問いに深く向き合うようになりました。

2.私自身の葛藤とこれまでのキャリアで学んだこと

私自身の話をすると、丈夫な体を活かして肉体労働に勤しむ父と、CADを使い、工業機械の設計をしながら、朝早くから夜遅くまで働く母の元に生まれました。父は酒好きで人間トラブルも多く職を転々としており、私が高校3年生の時、50歳という若さで胃癌を患い、この世を去りました。そんな不良な父の足りない部分を埋めるかのように、誰よりも努力し、粘り強く頑張って働いてくれていた母の背中が今でも脳裏にしっかりと焼き付いています。そして、上述した私の人生観は、父の死と、母が見せてくれた背中の記憶によるものが大きかったと思います(母は今も健在です)。

大学卒業後すぐに都市銀行に入行したものの、いくら働いても自分の人生を託せるだけのやりがいを銀行業務に見い出すことが出来ず、がむしゃらに働いている同期や先輩を横目に、「自分はどこかで人生の軌道修正(転職)をしなければ、自分らしい人生を送ることはできない」ことに気付き始めていました。しかし、そんな気持ちを揶揄するかのように役職が付き、昇給していく中でなかなかそのレールを降りる決断をすることが出来ず、自分以外の第三者にアクセルとブレーキを同時に踏まれているような、そんな悶々とした毎日を過ごしていた20代を今でもはっきり覚えています。

そんな葛藤の末、約8年間務めた銀行員としてのキャリアにピリオドを打つ決断をし、当時はまだ赤字だったサイバーエージェントに転職しました。サイバーエージェントでは、上司からの細かい指示やルールが多かった銀行員時代とは180度異なり、与えられる指示やルールはほとんどなく、「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンの実現に向けて、「あなたは何をやりたいのか? 何ができるのか?」をひたすら問われ続ける毎日でした。銀行での職務経験を通じて、与えられた指示をしっかりこなす、ルールや制約条件の中でベストな落としどころを見つけ出すという仕事のスタイルが身につき、そんな仕事のスタンスで悪くない評価をもらっていた自分にとって、誰かに指示を与えられないと自分一人では何も新しい価値を生み出せない無力な自分に気付かされたことがとてもショックだったと同時に、何の制約も境界線もない、真っ青な大海原にいきなり放り出されたような不安を覚え、転職当時はかなり戸惑ったことを覚えています。

そんな転職当時の孤軍奮闘も含めて、サイバーエージェントの上司や仲間とともに、まるで自分が創った会社かのように毎日を楽しみ、全力で働いた約12年間を通じて得たものは、「自分は人生においてどのような生き方がしたいのか? 」という問いに対しての自分なりの答えとやりきる覚悟を持つことができたこと、そして「この世にまだない、新しいサービスを生み出すことの価値とその面白さ」に気付くことができたことだと当時を振り返って感じています(そして、これらの学びがベンチャーキャピタルという私にとってのライフワークとの出会いに繋がったことは言うまでもありません)。

3.今の自分から見えている人生の景色

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前置きが少し長くなりましたが、自分の周りの人たちの人生を見ていて感じたことや、自分自身の経験を通じて、自分の中でうっすら見えてきた人生の景色があります。そして、この景色やコントラストはこれからも大きく変化していくと思いますが、現時点の自分から見えている人生の景色を書き記しておきたいと思います。

自己実現とは、ある地点で到達するものではなく、今この瞬間を自分らしく生きること、そして自分らしい今この瞬間を積み重ねていった集大成そのもの。

豊かな未来のために今という時間を先行投資するのではなく、今この瞬間を自分らしく生きること、そして自分らしい今この瞬間を積み重ねていくことこそが豊かな人生。

やりたいことなんて、探そうと思ってもなかなか見つかるもんじゃない。今この瞬間を、自分らしく生きること。今の自分が心の底から笑顔になれる瞬間、感動する瞬間を積み重ねていく中で、ふと気が付いたら自分の中にあるようなもの。

ふと気が付けば、人生を “修行期” と “幸福期” の2つに分けて考えていた自分は、自分の中から跡形もなく消え去っていました。今この瞬間を自分らしく生きることこそが豊かな生き方なんだと。

自分の中でこのようなことに気付きはじめたあたりから、「〇〇しなければ」「〇〇すべき」といった類のあらゆる制約条件が自分の中で急激にその意味を失っていきました。

そして、自分の人生の中から、「〇〇しなければ」「〇〇すべき」を引き算し、「〇〇したい」の時間を出来る限り増やすようになりました。価値観が合わない人とは無理して仕事しない、無理して会わない。その分、大切な仲間との時間をこれまで以上に大切にするようになりました。

これらの気付きと合わせて感じているのは、今うっすらと見えてきた景色は、これまでたくさんの人からの学びの機会をいただいたことや、自分なりのチャレンジや経験を積み重ねてきたからこそ見えてきた景色であり、タイムマシンで昔に戻って若かりし自分にこんな話をしても、おそらく不思議な顔をされるだけだと思うのです。それと同時に、今の自分にはまだ全く見えていない素晴らしい景色が世界にはたくさん存在しているということも。

4.エピローグ

2020年に突如姿を現し、今も現在進行形で世界中を襲い続けている新型コロナウイルスは、数多くの命を奪っているだけでなく、人間の価値観という、いわば人間のオペレーティング・システムを大きく書き換える未曽有のパンデミックだと思いますが、それと同時に、「私たちにとっての豊かな生き方とは何か?」という、本質的な問いを投げかけてもらっていると感じています。

先日歳上のある方が私に話してくれました。「私は生活を守るために、家族を守るために、自分に素直に生きるのではなく、時には自分の欲求をぐっと抑えながら、会社に忠実に尽くしながら生きてきた。そんなこれまでの自分の半生を振り返ると、自分の子供にはぜひ自分らしく、好きなように生きてほしいと思います」と。少し寂しそうに見えたのが印象的だったのですが、これまで生活のため、家族のためと頑張り、耐え忍んできた親の背中をすぐ近くで見てきた子供は、このメッセージをどのように受け取るのでしょうか?

これまでは、ある意味で過去の延長線上にある、予測可能な時代の変化だったと思いますが、ここから起こるであろう変化は、過去の延長線上だけにはない、非連続な変化、指数関数的な変化が起こる時代に突入していく、正確に言えば既に突入しています。

これまでの常識が常識ではなくなり、前例が役に立たなくなる時代。目に見えるものだけではなく、目に見えないものを感じる感性がより求められる時代。デジタル化によって産業間や国家間の境界線が溶解し、包摂されていく時代。人間が持つ叡智によって、あるべき世界に向かう、新たな価値やコレクティブ・インパクトを生み出すことが求められる時代。

そんな時代だからこそ、今この瞬間を自分らしく生きる大人、心の底から笑顔になれる瞬間、感動する瞬間を生きる大人(=活き人)が増えてほしい。そして、そのような活き人との一期一会を通じて、また新たな活き人が生まれる、そんな好循環が生まれる社会を実現したい。そして、そんな活き人たちとあるべき社会の実現に向けて共創していきたいと思います。

私の父は傍から見ると本当に不器用な生き方だったし、正直憎んだ時期もあったけど、今振り返ると、それはきっと父らしい、豊かな生き方だったのではと心の底から思えるのです。今では父という活き人との一期一会に本当に感謝しています。

ベンチャーキャピタルという形で、起業家という「活き人」のチャレンジに伴走するジェネシア・ベンチャーズの活動と合わせて、「活き人」を増やすこと、及び「活き人」と「活き人」が出会い、お互いにエンパワーメントを届け合う場を創ることをミッションとして、2019年5月に立ち上げたのが株式会社グランストーリーです。こちらも着々とプロダクトを育てているので是非ご期待ください。

「大人よ、もっと今この瞬間を自分らしく生きよう!」

著者

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