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シード期の「起業家」が「経営者」に変わるとき

NOTES

国内の独立系VCでシード期のスタートアップの投資支援をさせて頂いていると、事業が成長していく過程で起業家との会話の内容に変化を感じることがよくあります。

自分が所属するジェネシア・ベンチャーズでは、設立間もないシード期のスタートアップに投資をさせて頂くことも多くあります。その中で、これからMVPを開発して仮説検証を開始するという事業立ち上げのゼロイチフェーズと、事業の仮説検証が進み一定のPMFが見えつつあるフェーズでは、当然ながら企業としてリソースの掛け方が大きく変わります。

従って、事業の進捗に応じて起業家とVCとの会話内容も変化することは当然ではあるのですが、その会話内容の変化(若しくは無変化)には常に多くの示唆が含まれています。特に、事業のゼロイチフェーズから一定のPMFが見えてグロースに向けた打ち手を考えようとしたとき、ユーザーとプロダクトに向き合うことにフォーカスしていたニーズ検証時とは異なる脳みそを使うことが多くなってきます。

事業を興すという意味での「起業家」としてだけでなく、企業としての発展を先導する「経営者」として、その企業の中で”社長にしかできない仕事”にフォーカスする準備ができているかは、その後の事業の成長スピードを大きく左右します。

この“社長にしかできない仕事”というのはとてもクセモノで、色々と挙げたくなってしまうのですが、シード期のスタートアップ経営においては「①ギアを上げる成長戦略に関する意思決定(と執行)」と「②経営リソース(特にヒト・カネ)の確保」の二点に大別できると考えています。

PMFが見えつつある中で起業家が経営者としてこの二点に時間を割けていない場合、起業家自身が企業成長のボトルネックになってしまう可能性が高くなってしまいます。

「①ギアを上げる成長戦略に関する意思決定(と執行)」とは、継続的な改善活動の先にある安定成長ではなく、その成長曲線をより高い角度に上げるためのものです。具体的には、単価向上や顧客獲得、リピート率やアクティブ率を大きく改善させていくための施策開発や、企業・事業の説明コストをゼロにするPR戦略などが該当します。

また、「②経営リソース(特にヒト・カネ)の確保」は、①よりも“社長にしかできない仕事”としての性質を帯びてきます。特に、下手をすると企業の死活問題に関わるものでありながら外からは見えづらいところで大きな違いを生むのが、成長をドライブする組織基盤の構築です。

チームも10名を越えてくるとコミュニケーションコストが一気に高くなり、各メンバーがどこで何をしていて何に困っているのかが分かりづらくなるので、仕組みが必要になってきます。この仕組みの設計の仕方や、チームを率いる幹部候補の採用の巧拙が、事業の成長スピードを左右します。

VCとして活動を開始してから、様々な起業家の方々とディスカッションをさせて頂いておりますが、連続起業家や大手企業で事業責任者を務めてこられているような事業経験が豊富な起業家の方ほど、組織基盤の構築をPMF未了のもっと前の早い段階から着手していることが多いです。

先日ジェネシアで開催した、支援先起業家と先輩起業家&経営者をカジュアルに繋いで、“斜めの関係”をつくることを目的とした「Founders Drinks」にお越しいただいたメルカリ小泉さんやVOYAGE宇佐美さんの話はとても学びが多く、以下のnoteは自分も何度も読み返しています。

『勝者のメンタリティ – メルカリ会長/鹿島アントラーズ社長 小泉さんから学ぶ強いチーム作り』
https://note.com/embed/notes/n2c9dabe829b7

『360°スゴイ – VOYAGE宇佐美さんから学ぶ組織作り/マネジメント』https://note.com/embed/notes/n513bc9e4d857

企業の仕組みや文化はメンバーが増えてからゼロベースで作ろうとすると定着・浸透までに多くのコストと長い時間が掛かってしまいます。人数が少ない段階からビジョン・ミッションの言語化を進め、チームの行動規範としてバリューを定め、目指すべき世界観のイメージを醸成していくことは、その後の成長機会を最大化していく上で重要です

こういった組織基盤の構築については、必要性を感じたタイミングでは既になんらか組織課題が顕在化しているような場合も多いことから、社長が率先して創業当初から強い組織作りに意識を高めて取り組むべきと考えています。

シード期の起業家が「①ギアを変える成長戦略に関する意思決定(と執行)」「②経営リソース(特にヒト・カネ)の確保」のような経営者としての仕事にフォーカスするためにはどうしたらよいか。

自身よりも優秀なメンバーを仲間にする、そのために企業の魅力を言語化して発信する、自身が取り組んでいる業務を権限移譲する、チームが組織としてパフォームし続けるための文化を醸成する、といったことは早い段階から必要になってきます。

「起業家」が「経営者」としての仕事をするためにこれらにコミットして取り組むことは避けては通れませんし、こういった内容が起業家との会話で多く出てくるようになったときに、大きな変化を感じます。シード・スタートアップのリードVCとしての役割を負うジェネシアとして、起業家が「経営」に集中できる環境作りやコミュニケーションができるよう、サポートしていきたいと思います

筆者

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