
「価格競争を超えて」ベトナムのBtoB市場で成長を続けるKAMEREOの成長戦略|Orbit Workshop
ジェネシア・ベンチャーズのベトナムチームでは、投資先の皆さんやスタートアップを志すベトナムの皆さん向けに、クロスオーバーで投資と経営支援を行うベンチャーキャピタルとして、スタートアップに関するナレッジの共有やリレーション構築を目的に、さまざまなイベントを開催しています。
2025年8月22日には、『KOREA – VIETNAM STARTUP CONNECT 2025』を開催いたしました。本イベントは、シンガポール発で東南アジアのクライメートテックやソーシャルインパクト領域に投資するベンチャーキャピタル Kibo、韓国・ベトナムを舞台に教育・国際交流プログラムを展開する Investy Global とともに実施したものです。
本レポートでは、ジェネシア・ベンチャーズ Country Director of VietnamのHoàng Thị Kim Dung(以下:Zun)がモデレーターを務めたトークセッション「ベトナム市場でのBtoBスタートアップの成功戦略」について、ベトナム最大級のBtoB食材調達プラットフォーム・KAMEREO CEOの田中 卓さん(以下:Taku)を迎えたトークセッションのダイジェストをお届けします。急成長市場特有の課題に向き合いながら、数百人規模の営業組織を率いてきたTakuさんに、価格志向の強い市場での差別化戦略、カルチャーフィットを重視した採用、そして起業家としての意思決定など、ベトナムでBtoB事業を展開する中でのリアルな学びをお話しいただきました。
- モデレーター:ジェネシア・ベンチャーズ Country Director of Vietnam Hoàng Thị Kim Dzung(ホァンティキムズン)
- 編集:ジェネシア・ベンチャーズ Operation and Community Manager Vo Thanh Truc(ボー・タン・チュック)
- 訳:ジェネシア・ベンチャーズ Community Manager 柏崎 千佳
コアバリュー:複合的な顧客課題を解決するワンストップソリューション
Zun:ベトナムの飲食店向けに食材調達プラットフォームを提供するKAMEREO。まずは、顧客からの期待値と、それに応えるKAMEREOのコアバリューについて教えてください。
Taku:お客さまへの提案はシンプルです。外食店は、日々多くの食材や資材を発注する必要があります。私たちは、そのニーズに応えるワンストップのプラットフォームを目指しています。複数のサプライヤーとやりとりする必要なく、一ヵ所ですべての発注を完了することができ、そしてそれが時間通りに納品される状態を提供します。要は、複数のバリューの組み合わせが私たちのコアバリューです。
価格志向市場での差別化戦略:顧客課題の理解から始める営業アプローチ
Zun:新興市場であるベトナムでは「価格こそ競争力」という先入観があります。KAMEREOの創業当初、価格感度に対する課題はありましたか?
Taku:ベトナムのような価格感度の高い市場では、むしろ価格だけに焦点を当てると生き残れないと考えています。自社のサプライチェーンを持つなど、価格低減にも最善を尽くしていますが、価格だけの議論になることは避ける必要があります。私は、常にチームに「価格は勝利要因の一つに過ぎない」と言っています。もし価格だけが勝敗を決めるのなら、営業は要りません。大事なのは、他社よりも優れている”私たちのコアバリュー”を示すことです。
チームには「先に価格表を渡すな」とも言っています。価格の話題から入ると必ず「他より高い」と言われてしまうからです。そもそも、中国産の白菜とベトナム産の白菜は同じ価格ではありません。ですから、まずは顧客の課題を聞き出し、問題を特定し、どう解決できるかを説明する。例えば「法的な請求書が出せないサプライヤーがいる」という声に対しては、我々は請求書を発行できますし、複数のサプライヤー管理が手間だという課題にも対応できます。だから「価格から始めるな」というのが私の強調したい点です。

ベトナムにおけるBtoBのロングテール戦略:成長市場だからこその先行者利益
Zun:営業組織をつくる上で、何に最も注力していますか?
Taku:とても難しい話です。今も走り続け、問題を見つけ、改善を繰り返しています。終わりのない話です。
日本や韓国と大きく異なるのは、BtoBの市場規模です。日本にはTOYOTAやHONDA、韓国にはサムスンやLGのような巨大企業がありますが、ベトナムではVingroupのような最大手でも相対的に規模が小さい。だから、ベトナムではごく少数の大企業だけをターゲットにしても、売上10億ドル規模の大きなビジネスにはなりにくいのです。その規模を目指すなら、ロングテールでBtoBに浸透する必要があります。つまり、個人事業や零細~小規模事業者までをターゲットにするということで、その一件一件にアプローチするためには大きな営業チームが必要になります。小規模事業者へアプローチするメリットとしては、その事業者がうまくいけば毎年10〜20店と出店数を伸ばすので、顧客あたりの売上が早く伸びることです。これは成長市場ならではの良い点です。現状、市場はまだ大きくなくBtoB顧客の多くも小規模ですが、だからこそ大手の競合は参入しにくい。スタートアップの私たちが基盤を築くことができ、しっかり戦える。買収される選択肢も増えます。今は早すぎるように見えても、少しでも遅れると大手とは戦いづらい。要は「タイミング」です。
急成長組織の舵取り:Day1からのカルチャー設計が重要
Zun:ロングテールにターゲットを設定し、高頻度の接点をつくり、課題を理解し解決する。その過程で顧客とともに成長するわけですね。そんな営業組織をつくるために何を優先してきましたか?
Taku:日本や韓国では、人件費が高く採用も難しいので、シリーズB/Cでも20〜30人、多くても100人未満と、組織の拡大が比較的ゆるやかです。一方で、ベトナムではシリーズC以降に一気に100人規模から400〜500人になるということも珍しくありません。この急拡大をどう管理するかが課題です。最も重要なのは、初期から”正しいカルチャー”を築くこと。組織のコアバリューを定め、残したい人物像と手放すべき人物像を明確にする。価値観が合わない人がいると、会社は機能不全になります。日本や韓国では、規模が拡大してから価値観やカルチャーを整えることもありますが、ベトナムで大きな会社を作るならDay1からカルチャーを考えるべきだと思います。

カルチャーマッチした採用の鉄則:価値観の一致に妥協しない決断力
Zun:実際の経験や失敗談も含め、採用・オンボーディングでの課題と乗り越え方を教えてください。
Taku:何度面接しても、試用期間を設けても、本当に価値観が合うかの見極めは難しいことです。だからこそ、できる限り妥協しないことが大切です。採用では「確信はないが、人手が要るから一旦採ろう」と妥協しがちですが、大抵はうまくいきません。合わない人を採用してしまうと、後のリカバリーに膨大な時間と労力がかかります。迷うなら採用しない方がいい。短期的には忙しくなりますが、リカバリーの負担ほどではありません。私が多くの失敗から学んだのは、妥協しないこと。
しかしながら、それでも人は間違えます。ミスマッチに気付いたら、その人には速やかに退職してもらいます。簡単ではない決断ですが、それは経営者の役割です。業務の負担が大きくなるのではと心配にもなりますが、実際には改善されることの方が多いです。速やかに判断すべき、重要な意思決定の一つです。
営業組織の動機づけ:金銭的報酬と非金銭的報酬のバランス
Zun:評価も、チームづくりにおけるマネジメントの重要な役割の一つだと思いますが、営業チームのKPIで重視しているポイントは何ですか?
Taku:営業の主要KPIは、売上です。新規売上、既存売上、受注数、受注単価、リテンションなどの分解指標はありますが、最終的には「各人・各チーム・会社の総売上」が鍵。これを上げるために各KPIを設定し分析します。過去の実績や他のメンバー、目標、競合の実績と比べてどうかを分析し、そこから必要な改善策を一つずつ考えます。

Zun:設定したKPIに合わせて、どんなインセンティブを設計していますか?
Taku:月次/四半期/年次などの期間設定はチームによって異なりますが、ベース給+成果連動のインセンティブ設計をしています。ただ、メンバーが「お金だけ」で働く環境にはしたくありません。金銭だけが目的になると、より高い条件のオファーがあれば辞めてしまう。KAMEREOとベクトルを合わせ、ここで働くことを楽んでほしいと思っています。特に若い人材は金銭だけでは動かず、「つながり」「楽しさ」「将来の成長機会」で働きます。だから、学び、接続、適切なインセンティブと、それぞれの機会を与えたい。一日8時間をここで過ごすのだから、仕事そのものや、仲間と共に成長できる環境を重視しています。まだまだ改善の途中ですが、非金銭的なインセンティブを特に重んじています。
改善し続ける組織:マインドセットから育てる効率化志向
Zun:KAMEREOには、社員のマインドセットの転換や継続的な改善についてのトレーニング(研修)があると聞きました。具体的な方針など詳しく教えていただけますか?
Taku:正直なところ、これまでトレーニングは十分ではありませんでしたが、今はより重視する方向に舵を切っています。効果的なトレーニングには柔軟性が必要です。新しい考えや学びを受け入れない人は育てられない。そこで、今は若手の採用を増やしながら、営業スキルや知識だけでなく、マインドセットの教育にも注力しています。まず適切なマインドを持つ人を採用し、その上でしっかりと教え続けることが重要です。

まとめ:ベトナムBtoB市場でのスケールアップの要諦
Takuさんのお話からは、急成長市場ならではの挑戦、そのタイミングの重要性、課題と対策などが浮き彫りになったのではないでしょうか。価格競争に陥らない差別化戦略、ロングテール市場への浸透、急拡大する組織におけるカルチャー構築の重要性など、多くの実践的知見を共有していただきました。
特に印象的だったのは、「速やかに決断する」というTakuさんの姿勢。採用においても、インセンティブ設計においても、数百人規模の組織を率いる中では妥協なき意思決定が求められます。ベトナムという新興市場でビジネスを展開する際には、意思決定の礎となるスタート時点からの明確なカルチャー設計が成功への鍵となるでしょう。
※これは、2025年9月25日時点の情報です


