
KAMEREOの持続的な事業と組織を支えるコアバリュー|Orbit Workshop
ジェネシア・ベンチャーズのベトナムチームでは、投資先の皆さんやスタートアップを志す皆さん向けに、クロスボーダーで投資と経営支援を行うベンチャーキャピタルとして、スタートアップに関するナレッジの共有やリレーション構築を目的に、さまざまなイベントを開催しています。
『Orbit Workshop』は、私たちのネットワークに属するスタートアップの起業家・創業者をはじめとしたプレイヤーから、重要な経験と知見をご紹介いただく機会として定期的に開催しているイベントです。
2025年11月28日には、Orbit Workshop「長期的な成長と成功のために重要な要素:ベトナムのスタートアップにおける組織づくり」を開催しました。ゲストスピーカーに、ベトナム最大級のBtoB食材調達プラットフォーム・KAMEREO CEOの田中 卓さん(以下:Taku)をお迎えしたトークセッションでは、持続可能な成長を実現できる組織の構築をテーマに、実践的な知見をお話しいただきました。本レポートはそのダイジェスト版です。
- モデレーター:ジェネシア・ベンチャーズ Country Director of Vietnam Hoàng Thị Kim Dzung(ホァンティキムズン)
- 編集:ジェネシア・ベンチャーズ Operation and Community Manager Vo Thanh Truc(ボー・タン・チュック)、Relationship Manager 吉田 愛
持続的な事業の構築には、Day1からの長期目線が必須
Zun: KAMEREOは、私たちが非常に誇りに思うベトナム投資先スタートアップの一つです。私たちは2019年の初回投資から約5年半にわたって、ベトナムの食品サプライチェーンとそのリーディングプレイヤーの成長の旅に同行してきました。以前にTakuさんから「長く続くビジネスを構築したい」という言葉を聞いたことがあります。それが今回の「持続可能性」をテーマにしたワークショップのきっかけにもなったのですが、なぜそのような強い長期的コミットメントを持っているのでしょうか?
Taku: 私は、ビジネスは常に長期的でなければならないと考えています。特にベトナムでは非常にそう感じます。日本やアメリカと比べると、ベトナムの市場規模はまだ小さいですが、成長の可能性は非常に大きいです。私たちは多くの競合が参入する前に市場に入りました。それは、市場が成長するにつれて私たちも成長できると信じていたからです。私たちはベトナムの市場の未来に賭けているのです。
非常に短期的な考え方をしているビジネスも多く見かけますが、それらは5年もすれば消えていきますし、私が定義する「成功」には当てはまりません。成功するビジネスこそ、持続可能であるものだと考えます。収益だけでなく、利益率、キャッシュフロー、コンプライアンスやガバナンスなど、あらゆる観点においてです。ごく基本的なことのようですが、それらこそが企業の持続的な成長に必要なものです。

「競合との真の差別化要因は何か?」と自問し続けること
Zun: Takuさんのその長期思考が、KAMEREOのリーダーとしての日々のあなたの意思決定にどのように影響しているでしょうか?
Taku: まず影響が大きいのは、資金調達です。初期段階でお金を稼げないのは問題ありませんが、資金調達を永久に続けることはできませんから、収益化への明確な道筋がなければ、会社はいずれ立ち行かなくなります。
それを達成するためには、強力な「堀(Moat / 参入障壁・競合優位の意)」を構築する必要があります。「競合との真の差別化要因は何か?」と自問し続けることです。価格だけでは不十分です。それは簡単に模倣されてしまうため、短期思考に陥るだけです。
▼関連記事:「価格競争を超えて」ベトナムのBtoB市場で成長を続けるKAMEREOの成長戦略|Orbit Workshop
KAMEREOでは、創業初期から意図的に、経営陣全体に対してこの問いを投げかけています。重要な決断はすべて、私たちのMoatをより強固にするものでなければなりません。
Moatをコア戦略に据えることで、その強化により集中できる
Zun: Moatの構築は組織全体で共有すべきテーマだということですね。KAMEREOが築いているMoatについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
Taku: 私たちは、コア戦略の一つに「ワンストップ・サプライチェーンの構築」を掲げています。もちろん価格を重視するお客様もいますが、数百SKUもの商品を仕入れる大口のお客様(レストランなど)は、信頼性と利便性を何より重視します。彼らが求めているのは、必要なものすべてを一貫して供給してくれる、信頼できるパートナーなのです。このコア戦略によって、私たちは純粋な価格競争を避け、長期的な顧客関係の構築に集中できます。
もう一つの重要なMoatは、オペレーションの品質です。具体的には、定時配送、高い充足率、そしてサプライチェーン全体の管理能力です。説明が難しいものなので、お客様を私たちの農場や倉庫にご招待して、現場を見てもらっています。そうすれば、私たちの強みをすぐに理解していただけるからです。私たちは自社で構築したサプライチェーンに誇りを持っており、市場をリードし続けるために投資を惜しみません。
スケーリングの鍵は、責任を手放さず権限を委譲すること
Zun: Takuさんは、特に創業初期において、細部までご自身で手を動かす創業者という印象がありました。その役割から、400人規模の組織を率いる現在の立場へはどのように移行されたのでしょうか?
Taku: 初期は、従業員全員と直接話をしていましたが、今はもう不可能です。いつの頃か、私が直接マネジメントできるのは6-10人程度だと気づきました。それ以上になると、かえって非効率になってしまうんです。そこで、現在は約6人のリーダーをマネジメントし、彼らがそれぞれのチームを率いる体制を採っています。権限委譲は簡単ではありませんが、組織の成長には不可欠ですし、何においても最終的な責任が私にあることは変わりありません。
創業者が下すべき最も難しい決断の一つは、リーダーの進退についてです。ある人物がそのチームを率い続けるべきか、それとも交代させるべきかを見極めること。その決断を先延ばしにすれば、後でより大きな問題が引き起こされます。タイミングを間違えないことを意識しています。

権限委譲を機能させるのは、共有されたコアバリュー
Zun: 多くの創業者が、事業のスケールに伴って権限委譲と信頼の構築に苦労しています。何を委譲し、何をしないのか。そして、組織を成長させるためにリーダーたちをどのようにエンパワーしていくのか。その判断はどのように行っていますか?
Taku: 創業者にはそれぞれのスタイルがあると思うので、あくまで私のやり方というスタンスでお話しします。私はベトナムの従業員たちから見れば“外国人”創業者で、当初から自分一人ですべてをこなすのは不可能だとわかっていました。その認識があったからこそ、早い段階で強力なチームを築く必要に迫られていたのです。ただ、大企業出身のシニアマネージャーを採用することを意図的に避けてきました。彼らがスタートアップのスピードやカルチャーに適応することは、非常に難しいケースが多いからです。その代わりに、社内の若手人材を育成し、段階的に昇進させることに注力しています。
チームにとって最も重要なのは、個人のスキルセットではなく、共有された「コアバリュー」です。だからこそ、私たちはチームの教育に大きく投資しています。業務スキルの向上だけでなく、カルチャーの浸透においてもです。
コアバリューこそが、日々の意思決定を司るシステムそのもの
Zun: 個々の能力でも、言ってしまえばTakuさんでもなく、コアバリューこそがKAMEREOで中心的な役割を果たしているのですね。それらはどのように進化し、組織のガバナンスを支えているのでしょうか?
Taku: 私たちのコアバリューはシンプルです。『インテグリティ(誠実さ)』『チームワーク』そして『継続的改善(カイゼン)』。これらを具体的な評価基準として、パフォーマンスレビューや給与査定、日々のフィードバックに活用しています。
ガバナンスとは、必ずしも複雑なシステムを必要とするわけではありません。私たちにとっては、この一貫性こそがシステムなのです。このコアバリューを共有できないのであれば、どれほど有能な人であっても、一緒に働くことはできません。私たちのコアとなるシステムが機能しなくなってしまうからです。

リーダーの規律:委任すべき決断と自身がすべき決断
Zun: 「規律」という言葉は、日本ではリーダーシップと結びつけて語られることが多い言葉です。Takuさんにとって「規律」とは何を意味しますか?
Taku: 私にとって「規律」とは、「責任」とほぼ同義です。つまり、経営者が最後まで手放さないものという認識です。権限移譲においても、失敗しても会社にとって致命傷ではない決断であれば、権限を委譲します。しかし、会社の存続を左右するような重大な決断は、すべて私が責任を負います。そうした決断を下し続け、その結果に全責任を負うことこそが、創業者の仕事だと考えています。
長期的なモチベーションの源泉は、“心からの想い”にある
Zun: 最後の質問です。長期的にモチベーションを維持したいと考えるスタートアップの創業者に何かアドバイスはありますか?
Taku: 持続的な事業を築きたいのであれば、「自分が本当に情熱を注げる市場」と「心から解決したいと思える課題」を選ぶべきです。ただトレンドを追いかけているだけでは、いずれモチベーションは尽きてしまいます。
私がKAMEREOの経営を続けているのは、自分自身が原体験として持つ課題を解決するためです。だからこそ、事業を深く理解し、心から楽しむことができています。特に困難な時期に私を支えてくれるのは、自分たちが築き上げてきたものへの誇り、チームへの誇り、そしてベトナム全土の何千ものビジネスを支えているという自負です。

まとめ
Takuさんが語った、持続的な事業構築と、それを支える組織づくりの知見は、単なる理想・理念ではなく、組織に深く根ざしたコアバリューを機能させる実践的なものでした。価格競争を避け、価値創造による差別化を図ること。責任の所在を明確にすること。そして、共有されたコアバリューに基づく組織運営を行うこと。これらすべてが、持続可能な成長の鍵となります。ベトナムにおけるKAMEREOの成功は、長期的な視点を持ち、本質的な課題解決にコミットする重要性を示唆しています。
私たちジェネシア・ベンチャーズは、今後もこうした知見の共有を通じて、ベトナムのスタートアップエコシステムの発展に貢献していきます。また、Orbit Workshopはこれからも、起業家とスタートアップのさらなる成長のための準備を支援します。
※これは、2026年1月15日時点の情報です


