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VCから見た大企業におけるDX(Digital Transformation)の成功モデル

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■欧米に比べてDXが大きく出遅れている日本

DX(Digital Transformation)というキーワードが、様々なメディアで毎日のように取り上げられていますが、日本においてのDXは、欧米などと比較すると、その歩みが大きく遅れていると感じています。参考データの一つとして、Dell Technologiesが発表しているDXインデックスによると、デジタル後進企業の割合は、北米が8%なのに対して日本では39%、その一方でデジタル導入企業については、北米が38%なのに対して日本では8%となっており、これらの数字の正確性は別として、日本のDXは大きく出遅れている、別の見方をすると日本のDXは極めて伸びしろが大きいことが読み取れます。

日本でもようやく本質的なDXやオープンイノベーション(この記事ではスタートアップ連携と定義します)に取り組む大企業が増えてきましたが、海外に比べて日本企業のDXが後塵を拝してしまっている背景には、経営陣(実権者)のITリテラシーの不足や、アナログに最適化された産業構造が既に出来上がっており、(オーナー経営者でない場合は特に)自身の任期の中で既存ビジネスへ大きなダメージを与えかねないDXに思いきって舵が切れないことなど、さまざまな理由が挙げられると思います。

■日本における大企業のDXと日本のスタートアップエコシステムの関係性

次に、日本における大企業におけるDXと、日本のスタートアップエコシステムとの関連性に目を向けてみます。日本のスタートアップエコシステムがより厚みを増すためには、高い視座・大きな志を持った起業家や、そのような起業家のダイナミックなチャレンジをしっかり支える投資家の裾野が厚くなることはもちろんですが、日本の大企業によるスタートアップのM&Aの増加も、日本のスタートアップエコシステムにより厚みを持たせる上で欠かせない重要な要素だと考えています。

2020年4月よりオープンイノベーション促進税制が施行されるなど、大企業が持つ潤沢な資金がスタートアップエコシステムに還流する流れを創るべくさまざまな取り組みが実施されていますが、大企業によるスタートアップのM&Aがもっと増加するためには、本質的なDXやオープンイノベーションに取り組む大企業が増加し、その手段としてのM&Aが増加することが重要だと考えています。

この記事では、前職での経験に加えて、ジェネシア・ベンチャーズとして、またJVCAとしての日々の活動の中で、DXをうまく実践している大企業に共通しているいくつかのポイントについて書きたいと思います。

(1)DXを通じて実現すべき自社のあるべき姿を描く

スタートアップが実現すべきビジョンを掲げ、スピード感を持って事業を推進しているのと同様に、大企業においても、ステイクホルダーの価値観やニーズの変化を捉え、DXを通じて実現すべき、アフターデジタルの世界で勝っていくための自社のあるべき姿を描くこと、これがDXを成功に導く上で大企業の経営陣がまずコミットすべきアクションだと考えています。なぜならば、DXを通じて実現すべき自社のあるべき姿と現状とのGAPを可視化することではじめて、M&A、内製、オープンイノベーションなどのそれぞれの選択肢において取るべき戦略が明確になるからです。

しかし、現状はDXを通じて実現すべき自社のあるべき姿がぼんやりした中で、言い換えると目指すべきゴールが明確にない中で、手段であるDXやオープンイノベーションを唱えている大企業が依然少なくないと感じています。

DXについて、経済産業省は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しており、ジェネシアでは「データによる取引の透明化や低コスト化といったソフトウェアの効能が企業内オペレーションや企業間取引、消費者体験にまで広く染み出していくことで、結果的に機会の偏在や情報の非対称性が解消され、受注者と発注者、提供者と利用者、企業と従業員との間に嘘のない関係が再構築されるプロセス」だと位置づけていますが、DXとは前述の定義の通り、事業構造のみならず、組織デザインや経営手法を抜本的に再定義するプロセスであり、経営陣の変革に対する強い意志とコミットメントをベースとして、トッププライオリティで全社員を巻き込み、スピード感を持って推進しないと成し遂げるのは極めて難しいと考えています。

DXを通じて実現すべき自社のあるべき姿は、企業によって百社百様なのでここでは言及しませんが、ジェネシアでは、DXにはいくつかの変化の方向性が存在すると考えており、是非以下の記事も参考にしてください。

(2)それぞれの選択肢における戦略を策定する

DXを通じて目指すべき姿を描き、目指すべき姿と現状とのGAPを埋める手段を、M&A、内製、オープンイノベーションなどの選択肢に振り分け、それぞれの戦略を策定するのが次のステップです。M&Aや内製については私の専門外なのでここでは言及しませんが、DXを通じて実現すべき自社のあるべき姿、及びそれらを実現するための手段をあらかじめ決めておくことが出来れば、(例えばM&Aで言えば)たまたま紹介された買収案件を受け身で検討するというスタンスではなく、こちらから能動的に案件を狙いにいけるのはもちろん、価格交渉や意思決定などについてもスムーズに進められるのは言うまでもありません。

オープンイノベーションについては、VCが運営するファンドへのLP出資やCVC設立、アクセラレータープログラムの開催などいくつかの選択肢がありますが、例えば、CVCを設立する場合などは以下のようなスキームが比較的多い印象があります。

しかしながら、どの選択肢を取るにしても、個人的に一番大切だと考えていることは、
・オープンイノベーションを通じて、どのようなゴールを実現したいのか
・スタートアップにどのような付加価値が提供できるのか

を明確にしておくことだと考えています。

優秀な起業家に選ばれている大企業(CVC)であればあるほど、上記2点が極めて明確です。このあたりについては、以下の記事も是非参考にしてください。

(3)具体的なアクションプランに落とし込む

それぞれの選択肢における戦略のアウトラインを決めてはじめて、具体的なアクションプランに落とし込むプロセスに入っていきます。アクションプランに落とし込む際に留意すべきは、繰り返しますが経営陣の変革に対する強い意志とコミットメントをベースとして、DXを通じて実現すべき自社のあるべき姿が全社に浸透し、その実現に向けて各ユニットが密に連携し合っている状態を実現すること。この状態の実現なしにDXは決してうまくいきません。

DXに失敗する(うまく進まない)組織の特徴は、DXを通じて実現すべき自社のあるべき姿が全社に共有できておらず、これによって経営陣と事業部門、マネジメントと社員、事業部間が大きな方向性について連携できていないケースです。つまり、全社最適ではなく、社内に数多くの部分最適が共存してしまうことによってDXが遅々として進まないケースです。

そして、よく見かけるのが、DXを推進する際に必然的に発生するイノベーションのジレンマが乗り越えられないケースです。大企業の場合、DXを推進していく中で既存事業とのカニバリゼーションがしばしば発生しますが、これらに対して、経営陣がどのようなスタンスで挑むのかについて腹を括り、大きな方針について共有しておかないと、DXを推進する経営企画部署やCVCなどが経営陣と現場との間に挟まれてしまい、大きな摩擦が生じてしまうことからDXが頓挫しがちです。

その一方で、DXを通じて実現すべき自社のあるべき姿が明確になっており、各ユニットとの間で大きな方向性がアラインできていると、社内における無意味な摩擦を減らせるだけではなく、各ユニットのミッションやアクションプランが明確になることから、比較的スムーズにDXを推進することが可能です。

■最後に

ここまで書いてきたことは、どれをとっても「言うが易し 行うがいと難し」です。但し、DXをスムーズに進めている大企業であればあるほど、経営トップの変革に対する強い意志とコミットメントはもちろんですが、DXを通じて実現すべき自社のあるべき姿をしっかり描くだけではなく、それらが全社に浸透し、各ユニットが密接に連携し合っている状態を実現することに徹底的に拘り、緻密に実行されているのもまた事実です。

日本の大企業が、これまで以上にスピード感を持ってDXを推し進めることで、これまで日本の大企業が長きに亘って積み上げてきた信頼感や技術力をフルに活かし、世界における相対的な産業競争力を高め、且つDXの選択肢としてのスタートアップのM&Aやオープンイノベーションが活発になれば、日本の存在感が高まるのはもちろんのこと、スタートアップエコシステムは更に厚みを増すと思います。この記事を読んでくださった人の周りに、もし大企業のDXに関わる方がいらっしゃれば、是非シェアいただければ嬉しく思います。

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