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Cross-Region Seed Map #α「アジアの一級都市に住む」ということ

アジア

なぜ今、“Cross-Region Seed Map” か

Cross-Region Seed Mapは、私たちジェネシア・ベンチャーズが、アジアの4つの異なる国々で投資活動を行うグローバル・シードVCとして、独自の投資仮説を見出したりそれを研ぎ澄ませたりするための連載ブログとして開始したプロジェクトです。スタートアップ界隈に身を置く私たちは、投資有望領域を考えるにあたって、「本場」シリコンバレーを有するアメリカを常々意識しがちですが、実際にはアメリカのような市場と私たちの生まれ育った国や地域との間に共通点を見出すのは難しいように思います。インドや東南アジアのような新興市場に進出・展開しようとしている起業家であれば、なおさらですね。

今世紀、世界で最も成長している地域であるアジアに住む私たちにとって、この地域特有のビジネストレンドや成長ストーリーを考えることには大きな価値があるのではないか。こう考えたのがこの連載のスタート地点でした。米国のような市場と私たちの国や市場に共通点はあるのか、あるいは何がどのように異なるのかを具体的に識別することは、シードVCとして伸びゆく事業アイディアを考案する上で極めて重要です。私たちの生まれ育った市場において、成功や失敗に寄与する独自の要因は何か、そして成長を達成するためにスタートアップが満たすべき基準は何か、これらの質問は答えられて然るべきなのに、誰もそれに取り組んでいないように見えます。だからこそ、私たちはこのブログプロジェクトを始め、独自の視点を育んでいくことを決めました。

スライド(表)の読み解き方

その最初のステップとして、私たちは先月、健康保険分野における各国の市場の見立てやその方向性についての考えをまとめ、それを公開しました。記事本文をご覧いただければわかるように、この連載の中心的な役割を果たすのは4カ国を横並びにした比較表です。この比較表は3つのセクションに分かれています。最初のセクション(以下の添付スライド)は、各国のマクロ関連データを大掴みで把握するためのスナップショットとして機能します。ある分野(このケースでは医療・保健分野)の現状と主要な課題を示唆するパートです。

以下の第2セクションでは、各国の市場を特定の方向に推進する「動的な要素」を説明しています。上半分が「変化の方向性」、そして下半分が「(その変化を駆動する)主要な因子」を示すという構図です。

以下の最終(第3)セクションでは、各地域に適した潜在的な事業アイデアについての洞察を記載しています。これには、各市場における既存のスタートアップやプロダクトの名前が例として含まれます。

4カ国それぞれの一級都市における生活費の比較

ここまでの導入説明で、私たちがなぜCross-Region Seed Mapを開始したのかという理由、そしてその基本的な構成についてはご理解いただけたのではないでしょうか。今後、上記のフォーマットに基づいて記事を執筆・公開していく予定ですが、本稿から数本にわたって続く導入編(あるいは番外編)においては、そもそも日本、インドネシア、ベトナム、インドの4カ国(さらにはそれぞれの都市、街という粒度での地域)がそれぞれの国に住む人々にとって相対的にどのように映る場所なのかということについて、より身近で手触りのある情報をもとにズームインしていきたいと思います。

本稿では(連番ではなく「α」を添えているのは「番外編」を示す趣旨です)、私たちがローカルで投資拠点を持つ4つの国、中でも実際に各拠点のメンバーが居住する都市(東京、ジャカルタ、ホーチミンシティー、ベンガルール)で生活する際の費用について、日々の生活で生じる主要な出費項目を比較することを通じてイメージを膨らませてみましょう。

ここでいう生活費は、各都市の中心部に住むという前提に基づいていることにご注意ください。例えば、東京の港区、ジャカルタのスディルマン、ホーチミン市の1区、ベンガルールのインディラナガーのような地域がそれに該当します。直感的には高価に見える家賃については、各都市の中心部における単身マンションタイプのそれを仮定し引用しています。以下は、各比較項目のデータソースへのリンクです。

為替レートについては、2024年5月22日時点のそれを以下の通り参照しています。

  • 1 USD = 155.745 JPY
  • 1 USD = 15,980.65 IDR
  • 1 USD = 23,465 VND
  • 1 USD = 82.99 INR

人件費はサービス価格に直接的な影響を持つ

4都市の数値を見てみると、ジャカルタとホーチミン市の類似性に気付くのではないでしょうか。若干の違いはあるものの、これらの異なる2つの都市はまるで双子のようです。ジャカルタのスターバックスコーヒーがホーチミン市のそれよりも高価な理由についてはよくわかりませんが、インドネシアがコーヒー豆の世界的な原産地として有名であることには触れておきたいです(筆者はスマトラ・マンデリンが大好きです)。

その上で、私の目を引いたのは、東京のタクシー料金とマクドナルドのセットメニューの高さです。この理由が複合的であることは容易に想像できますが、主にはサービススタッフの賃金が他国と比較して相対的に高いことに起因していると思われます。サービス価格を見る際に労働コストを無視することはできないからです。例えば、ライドシェアリングの新規参入により状況は徐々に変わりつつありますが、タクシードライバーの賃金は労働組合によって厳しく保護されているため依然として高いままです。さらに、マクドナルドのようなファーストフード店でのアルバイトを見てみると、最低賃金規制が存在し(現在の東京の最低時給:2024年5月22日のレートで約6.85ドル)、加えて日本では深刻な労働力不足が人件費の上げ圧力として拍車を掛けます。人口流入が続く東京も高齢化社会の例外ではないということでしょう。

ところで、東京のスターバックスコーヒーがこれらのアジア4都市の中で2番目に手頃な価格であることに驚きませんか(筆者は驚きました!)。時代は確かに変わりつつあります。

供給側の「規模」は低価格の源泉

ベンガルールのセクションでは、牛乳1リットルの価格とユニクロのTシャツの価格に驚くかもしれません。牛乳の低価格については、この国に多く(本当に多く)存在する乳牛によって支えられていることを容易に想像できます。ベンガルールに住んでいると、誇張なしに毎日道ばたで乳牛を見かけます。

日本のカジュアル衣料大手であるユニクロのTシャツの価格についても、いくつか述べたいことがあります。まず、ベンガルールにはユニクロの店舗がないため、他の一級都市であるムンバイにある店舗の価格(11.93ドル)を引用しました(ベンガルール当地への可及的速やかな展開を希望します)。次に、ユニクロが日本では「高コスパ」のカジュアルブランドとして認識されているのに対し、インドでは異なるブランディング戦略を採用している結果、消費者の目にもハイエンド・ブランドとして映っている可能性があるということです。一般論としてインドの消費者は価格にとても敏感であり、低価格を志向し始めるとキリがありません。外国ブランドとして市場に参入するためには、手頃な価格以上の何かが必要だったのでしょう。ユニクロのベンガルール店がオープンするときには現地の消費者としてその答えがわかるかと思うので、その日を楽しみに待ちたいと思います。

今回は以上です。特定の事業領域に関する詳細な深掘り記事の導入編として、今後しばらくはこうした親しみやすい記事を公開していく予定ですので、お楽しみに!

お知らせ

主にアジアにフォーカスしたグローバル展開を最初から想定している / 視野に入れている起業家とスタートアップのチャレンジも強くバックアップする、ジェネシア・ベンチャーズ主催の創業支援プログラム『Ignition Academy 2024』は、6月7日(金) 23:59までエントリー受付中です。

起業や資金調達、事業アイデアのブラッシュアップ、スタートアップ組織の立ち上げなどを検討・準備されている方からのお申し込みをお待ちしています!

※2024/6/7まで:『Ignition Academy 2024』は、現在エントリー受付中!

筆者

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