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スタートアップがDay1から経営に取り込むべき“法務マインドセット”

コミュニティ

ジェネシア・ベンチャーズのベトナムチームでは、投資先の皆さんやスタートアップを志す皆さん向けに、クロスボーダーで投資と経営支援を行うベンチャーキャピタルとして、スタートアップに関するナレッジの共有やリレーション構築を目的に、さまざまなイベントを開催しています。

『Orbit Workshop』は、私たちのネットワークに属するスタートアップの起業家・創業者をはじめとしたプレイヤーから、重要な経験と知見をご紹介いただく機会として定期的に開催しているイベントです。

2026年1月31日には、ホーチミンにおいてOrbit Workshop『スタートアップの持続的な成長のための“法務マインドセット”』を開催しました。ゲストスピーカーに、StartupLAWの創設者であり、テックスタートアップおよび資金調達専門の弁護士であるDoanh Nguyen氏(以下:Doanh)をお迎えしたトークセッションでは、「2026年以降にスタートアップが押さえておくべき法務マインドセット」をテーマに、法務基盤の構築の実践的アプローチとその必要性についてお話しいただきました。本レポートはそのダイジェスト版です。

  • モデレーター:ジェネシア・ベンチャーズ Country Director of Vietnam Hoàng Thị Kim Dzung(ホァンティキムズン)
  • 編集:ジェネシア・ベンチャーズ Operation and Community Manager Vo Thanh Truc(ボー・タン・チュック)、Relationship Manager 吉田 愛

創業のDay1から始めるべき法務基盤の構築

Zun: 多くの創業者は、資金調達を始める段階や投資家からデューデリジェンス対応を求められた時点で、初めて法務の重要性を認識する傾向があります。あなたのご経験を参照させていただくとしたら、スタートアップはいつから法務基盤の構築を始めるべきでしょうか?

Doanh: 私の経験から言わせていただくとしたら、法務体制の基盤は創業初日から構築すべきです。つまり、最初の資金調達に関する対話が始まる前の段階から、ということになります。創業者が持続可能でスケーラブルなビジネスを構築すると決めた瞬間に、会社の構造、エクイティアロケーション、ガバナンス、知的財産の所有権などについて真剣に考える必要があります。

多くのスタートアップが初期段階ではまずスピードを重視し、プロダクト開発とトラクション獲得に注力します。スピードはたしかに重要ですが、法務とのセットアップを軽視することは潜在的なリスクを生み出します。例えば、明確な株主間契約や出資証明がなければ、のちに株主間・共同創業者間で誤解が生じる可能性があります。同様に、知的財産が法的に会社に帰属していない場合、これものちに重大な問題となり得ます。

投資家はデューデリジェンスの過程でこれらの基本的な要素を詳細に検証します。構造が不明確であったり文書化が不完全であったりすると、投資契約の遅延や頓挫に繋がることもあり得ます。したがって、強固な法務基盤を早期に構築することは、コンプライアンスへの対応ということだけでなく、会社の将来的な成長を促進し、より円滑な資金調達プロセスをも実現することに繋がるのです。

ベトナムのスタートアップに見られる、法務領域の典型的なミス

Zun: ベトナムのスタートアップ創業者が初期段階で犯しがちな法務関連のミスとは何でしょうか?

Doanh: 最もよく見られるミスの一つは、共同創業者間のエクイティアロケーションが不明確であることです。多くの創業者たちは、信頼関係と非公式な話し合いに依存し、適切な合意書を作成しません。初期段階ではまだリスクは顕在化しませんが、会社が成長し、困難な意思決定に直面したときに、しばしば対立が生まれます。ベスティングスケジュールや役割・責任、エグジット条項などが文書化の上で合意されていなければ、紛争は非常に複雑になります。

もう一つは、知的財産の所有権です。テックスタートアップでは、外部の開発者や業務委託パートナーがプロダクト開発に大きく関与することがあります。そんなとき、知的財産権を会社に移転する正式な契約がなければ、所有権が曖昧になる可能性があります。これは投資家にとって重大な警告を意味します。

加えて、スタートアップは業界固有の規制をしばしば見落とします。例えば、ベトナムのフィンテック、エドテック、ヘルステック分野の規制はアップデートし続けています。

これらのミスは意図的に起こるものではありません。限られたリソースを適切に配分し、事業を迅速に進めたいという願望から生じてしまうのです。しかし、コンプライアンスリスクを積極的に評価しない創業者は、のちに経営上の混乱に直面する可能性があります。早期に対処することで、将来的なコストやストレスを節約できるのです。

競争優位性としての“法務マインドセット”

Zun: 多くの創業者は法務関連の費用をコストと見なし、投資として捉えません。あなたの見解では、その準備が実際に競争優位性として機能し得るでしょうか?

Doanh: 間違いなく競争優位になります。法務体制の準備は、会社の信頼性と効率化への投資と考えるべきです。クリーンなCap table、適切に構造化された株主間契約や雇用契約、明確に会社に帰属した知的財産などをすでに有していれば、それは投資家に対して強いプロフェッショナリズムを印象づけるシグナルとなります。

競争の激しい資金調達環境では、投資家はプロダクトやトラクションだけでなく、ガバナンスの質も評価します。よく準備された企業は、デューデリジェンスをはるかに迅速に進めることができ、交渉における摩擦を軽減します。これは、より円滑な契約に繋がります。

さらに、強固な内部ガバナンスは社内の意思決定を円滑にします。明確な文書化は、創業者間の誤解や齟齬を防ぎ、危機的な状況において効果を発揮します。法務体制の準備は、外部との交渉成功と内部の組織安定性の両方に寄与するのです。

つまるところ、“法務マインドセット”を経営に統合するスタートアップは、持続可能な成長を実現するためのより良いポジションを獲得することができます。

長期的な組織構築のために、法務を成長戦略の一部として扱う

Zun: 2026年以降を見据えて、短期的な成長よりも長期思考でレジリエンスのある組織構築を目指す創業者は、どのような“法務マインドセット”を採用すべきでしょうか?

Doanh: 創業者は、短期的で売上重視のマインドセットから、長期的で組織構築重視のマインドセットにシフトする必要があります。これは、次の資金調達ラウンドすらも超えて、ガバナンス、コンプライアンス、リスク管理を戦略の不可欠な部分に据えることを意味します。

例えば、明確な内部ポリシーの確立、透明性のある財務記録の維持、規制対応、知的財産の保護は、管理上の負担ではなく、戦略的なセーフガードなのです。スタートアップがローカルあるいはグローバルに拡大するとき、クロスボーダーの法務的な考慮事項はさらに複雑になります。早期から準備しておくことによって、創業者は自信を持ってスケールに踏み込むことができるようになります。

さらに、M&Aや戦略的パートナーシップがますます一般的になる環境において、強固な法務基盤は会社のバリュエーションと魅力を大幅に向上させます。投資家や買収者はスタートアップに、イノベーションだけでなく健全な構造や体制も求めます。

要するに、“法務マインドセット”はビジネス戦略と並行して進化させていくべきなのです。後回しにせず、成長戦略のコアの一部として扱うスタートアップは、持続的な事業と組織を構築する可能性がはるかに高いといえます。

まとめ

今回のワークショップを通じて、法務体制の準備がスタートアップの競争優位性と持続的成長のための重要な要素であることが示されました。

創業のDay1からの強固な法務基盤を構築すること、株主間・共同創業者間で明確な合意形成をすること、知的財産を適切に管理すること、業界規制に対して積極的に対応することは、単なるコンプライアンス対応ではなく、投資家をはじめとしたステークホルダーの信頼獲得と円滑な資金調達、そして健全な組織運営を実現する戦略的投資として位置づけられます。

ベトナムをはじめとする新興市場において、“法務マインドセット”を経営に統合し、短期的な売上重視思考から長期的な組織構築重視思考へと転換することで、スタートアップはより持続可能なビジネスを構築できるでしょう。

ジェネシア・ベンチャーズでは今後も、実践的な知見の共有と支援を継続してまいります。

※これは、2026年3月6日時点の情報です。

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