
ディープテックスタートアップにおける「補助金」活用戦略
1. ディープテックスタートアップの資金と現状
ディープテックスタートアップが直面する「資金の壁」は、他領域に比べて圧倒的に高く、その構造は2025年現在、国や公的支援機関が明確にデータで裏付けています。
たとえば、経済産業省の資料によれば、ディープテック領域のスタートアップが事業化や社会実装を進めるには、従来型のIT/SaaS系スタートアップに比べてはるかに大規模な10~30億円規模の資金調達が必要だと見込まれています。
ディープテック領域に挑戦する起業家・研究者にとって、「補助金」は“賢い成長戦略”の一つでしょう。しかし、獲得におけるノウハウは余り知られていません。
本記事では、経済産業省を含む政府およびスタートアップでの勤務経験をお持ちで、それらの知見や経験を活かした社会変革の可能性に取り組む、awake株式会社 代表取締役社長の山本聡一さんにご協力いただき、「補助金活用戦略の最前線」について研究者・起業家向けにまとめました。
申請から採択・実施・拡張まで、現場の本音とノウハウを凝縮し、補助金を「使える武器」に変えるための戦略とノウハウをお届けします!ぜひ、最後までご覧ください。
2. 小さな補助金より“大きな戦略”を見据えて
2.1 補助金選定の落とし穴
補助金は、返済不要の資金であり「自己資金」として使える貴重な手段です。近年では、多いものでは数億~数十億もの大型補助金プログラムが存在し、獲得できる金額の幅も大きくなってきました。
返済不要なら全部獲得しよう!と意気込むかもしれませんが、リソースの限られたスタートアップにとっては「申請作業」や「採択後のバックオフィス業務」が大きなハードルとなります。これらの作業を紐解いていくと、「500万円の補助金と5,000万円の補助金を比較すると、金額は10倍となる一方で、手続きの手間は1.2倍程しか変わらない」と言われるほど、金額に依存せず申請の負担が大きいです。時間とリソースの限られたスタートアップにおいては、小口の助成金を狙うよりも「数千万円以上の大型補助金に絞って狙う戦略」が有効となりそうです。
2.2 どの大型補助金を狙うか?は「フェーズ×領域」で戦略的に
研究開発型スタートアップが活用できる主な大型補助金一覧は次の通りです。
| 区分 | 補助金名 | 機関 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 創業支援 | 創業融資 | 政策金融公庫 | ・最大7,200万円の融資 |
| 創業資金 | ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU) | NEDO | ・最大25億円 ・VC出資と連動が必要 |
| ディープテック・スタートアップ支援基金/国際共同研究開発 | NEDO | ・加・英・仏・蘭・星・オーストリア・フィンランドとの共同開発を支援、最大1億円 | |
| 研究開発補助金 (人件費対象) | 人材発掘・起業家育成事業(NEP) | NEDO | ・最大3千万円 ・初期の研究開発支援 |
| SBIR推進プログラム | NEDO等 | ・特定テーマ設定 ・政府調達への連続性 | |
| グリーンイノベーション基金事業 | NEDO等 | ・GX分野特化 ・1件当たりの契約は大型 | |
| 成長型中小企業研究開発支援事業 | 経済産業省 中小企業庁 | ・大学等と連携 ・3年で最大3億円 | |
| A-STEP | JST | ・最大5億円の研究開発費(融資) | |
| TOKYO戦略的イノベーション促進事業 | 中小企業振興公社 | ・他企業連携必須 ・3年8千万円程度 | |
| 設備資金・システム導入 (人件費対象外) | ものづくり補助金 | 中小企業庁 | ・手続きが型化されている ・最大1千万円〜2.5千万円程度 |
| 中小企業経営強化税制 | 中小企業庁 | ・新規投資の税制優遇 | |
| IT導入補助金 | 経済産業省 | ・ITツールの導入を1/2〜4/5補助 |
※上記以外にも、「領域特化」や「地域限定」などに絞った場合、多数の補助金があります
次に「どれを選ぶか」に関しては、以下のような考え方があります。
- 起業前の研究段階:
・JSTのCREST(Core Research for Evolutionary Science and Technology:戦略的創造研究推進事業)
・SCORE(The Japan Service Corps of Retired Executives:一般社団法人 日本シニア起業支援機構)
・START
・各大学のGAPファンドなど - プロトタイプ開発期:
・NEDO 人材発掘・起業家育成事業(NEP)(最大3000万円) - 事業化フェーズ:
・NEDO ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)
・東京都の戦略的イノベーション促進事業(最大8000万円) - 分野特化型補助金:
・創薬・バイオ:AMED
・宇宙・防衛:防衛基金
・量子技術・半導体:NEDOや内閣府系
・自動運転・モビリティ:経産省系プログラム
3. 採択される申請書に共通する「3つの要素」
申請する補助金を絞ったのちに行うことは、いよいよ申請です。単に作成するのではなく、以下のポイントを押さえたうえで作成・申請することが採択の近道となります。
3.1 審査項目に“点数がつく”書き方
補助金の審査員は、原則公募要領に書かれた項目ごとに点数を付けます。つまり、「問いに答えていない」「曖昧な表現」だと、点数は付きづらいです。採択される申請書にするためには、「事実」「数値」「外部証拠」を含めてロジックを固めた文章をもとに作成しましょう。
3.2 補助金ごとの「思想」を読む
例えば、JST系は「研究の質」を重視:論文レベルの研究が審査対象です。一方NEDO系は「産業・ビジネスへの波及効果」を重視:顧客の課題理解、対話履歴、PoC計画などが問われます。同じ事業でも、補助金の思想に応じて語るべきメッセージをチューニングしながら作成すると良いでしょう。
3.3 海外展開でも活用可能、ただし条件あり
技術発のスタートアップは海外進出が前提に設立されるケースがほとんどであるため、海外を見据えた補助金も存在します。多くの場合、その際に問われるポイントは、
- 経営判断拠点が日本にあること
- 研究開発の主たる拠点が日本国内にあること
これらをクリアしたうえで、「海外展開戦略を含む事業計画」を記載する必要があります。
4. 採択後に「失敗しない」ために
補助金の採択はあくまで事業推進のための手段です。採択後に後悔をしないため、注意すべき2つの視点を記載いたします。
4.1 補助金に合わせて事業内容を変えない
補助金は「事業の加速装置」であり、主役はあくまで自社の戦略です。趣旨に合わせて“選ぶ”ことは大事ですが、補助金に採択されるために研究計画及び事業構想を大きく変更することは本末転倒です。補助金に合わせて、無理に事業内容を修正するのはやめましょう。
4.2 資金繰りと報告業務のリアル
補助金は基本「後払い」であり、キャッシュフロー計画が必須となるだけではなく、支出ごとに見積書・請求書・領収書等を残す必要があります。人件費やコンサル費が補助対象になるケースもありますが、契約書・支払い記録の管理が必要です。現場のバックオフィス体制を整えなければ、採択後の“地獄”が待っています。事前の体制構築、あるいは経験者の採用/外部コンサルの活用が現実的な対策です。
5. 補助金を獲得する、ではなく「創ってもらう」戦略へ
特に大型の補助金の場合、担当省庁とのコミュニケーションも極めて重要です。補助金というのは、政策課題の1つの現れです。担当省庁とのコミュニケーションを通じて、背景にある政府側の問題意識を深く理解することで、より政策課題とリンクした事業計画書を作成することができます。では、具体的にどんなことを行えばよいのか、一例を記載します。
- 政府の関心テーマと自社の接点を語る
- 担当省庁の概算要求資料から担当課を特定する
- 代表電話経由等で意見交換の場を得る
実行に向けて準備を進める際は、報告業務同様に現実的な対策が必要であるため、経験者の採用や本記事監修にご尽力いただいたAwake山本さんのようなコンサルタントにお力添えいただくなど、社外のご協力を得る選択もよいでしょう。
6. おわりに:補助金は、国家との共創
補助金は、単なる資金獲得手段ではありません。それは、自社のミッションと国家戦略とを接続し、「社会にどんなインパクトをもたらすのか?」を証明するプロセスでもあります。採択された時、あなたの事業は「国家の未来図の一部」になるでしょう。私たちジェネシア・ベンチャーズは、志ある起業家・研究者と共に“面”で世界を変える伴走を続けていきます。
ジェネシア・ベンチャーズでは、ディープテックに関する「知っておきたい知恵」や「投資仮説」などを日々発信しています。同じカテゴリーの記事にも是非お目通しください。
本記事作成にご協力いただいたawake株式会社 山本聡一さんについて
筆者
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