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メタバースに想う『人とのつながり』

NOTES

目次

  1. メタバースとは
  2. デジタル化がもたらす現実世界とのコントラスト
  3. 『人とのつながり』に生じる変化
  4. メタバースに期待する生きづらさからの解放

1.メタバースとは

最近、メタバースという言葉を耳にされた方も多いのではないでしょうか。メタバースとは、オンラインに構築された仮想空間サービスのことで、もともとはSF作家Neal Stephensonが1992年に発表した作品「Snow Crash」に登場する仮想空間サービスに付けられた名前です。現実世界とは異なるミラーワールドに生活圏を創造するという意味では、例えばNintendo Switchの「あつまれ どうぶつの森」などもメタバースの一つと言われます。実際に私自身の日常生活の中でも、「今日は不思議な虫を捕まえたよ」「流れ星を見たよ」といった子供達の会話を自然に聞き流していたら、後でそれがゲーム内の出来事だと気付いて不思議な感覚に陥った記憶があります。「なんだ、メタバースの出来事だったか」という感じですね。

もちろん、最近のメタバースに対する注目度の高まりは、仮想世界への没入感を高めるVR技術の進化や、Oculus Quest 2のようなVRデバイスの急速な普及が大きく影響しています。また、メタバース企業を目指しているFacebookが、2021年8月にオンライン会議室「Horizon Workrooms」を開設したことも話題を盛り上げています(ちなみにFacebookにとっては、2016年の「Oclus Rooms」、2017年の「Facebook Spaces」に続く3度目のチャレンジです)。このようなVR技術の進化に加えて、ブロックチェーン技術によってデジタル情報の唯一性を確保し、デジタル情報に資産性を与えるNFT(Non-Fungible Token)が組み合わされることで、仮想空間上でも多様な経済活動が行われるようになると期待されています。

メタバースをめぐる今後のビジネスの可能性に関しては、ゲーム業界を中心に様々な分析や議論がなされていますが、ここでは少し趣を変えて、生活の隅々までデジタル化が進んだ現代社会における『人とのつながり』という切り口から、メタバースが及ぼす効果について考えてみたいと思います

2.デジタル化がもたらす現実世界とのコントラスト

家庭ではリモートワークやオンライン学習が当たり前のものとして定着し、また多くの企業がDXを掲げて業務の根本的な見直しを進めるなど、世の中のデジタルシフトは不可逆な流れとして加速しています。その一方、“空気感”のような五感全体で得られる体験や、その場その瞬間にだけ生まれる偶発性など、リアルでしか得られない価値が見直されています。すなわち、デジタルとリアルが持つ利点のコントラストが強調される時代になっているのではないかと感じます。

2次元情報であるデジタルの利点を享受しながら、デジタル化によって鮮度が失われる3次元情報としてのリアルの価値を補完し、デジタルとリアルの両端を繋ぐものがVR技術であり、こうして両者が融合することで存在し始める世界がメタバースである、という捉え方も可能ではないかと思います。その意味では、現実世界においてデジタル化が進めば進むほど、デジタルとリアルの両端が離れていけばいくほど、それらを繋ぎとめるVR技術の必要性も高まり、仮想世界であるメタバースの構築が進んでいくというイメージです。

3.『人とのつながり』に生じる変化

このようなデジタルシフトの中で起こる変化の方向性を踏まえたとき、人との関係性やコミュニケーションには、どのような変化が生じてくるのでしょうか。まず、デジタル化が進んだ現代社会では、『人とのつながり』は主にSNS上で展開されており、そこではオープンな環境で不特定多数との接点を得やすく、関係性の構築や維持が容易で、多様な情報が遠くまでスピーディーに伝播していきます。スタンフォード大学の社会学者Mark Granovetterが唱えた「弱いつながりの強さ」理論は、弱いつながりの人脈を豊富に持っていれば、遠くにある幅広い情報を効率的に手に入れることができることを説明したもので、「6人の知り合いをたどれば世界の人につながる」というのは有名な仮説ですね。しかしそれと同時に、オープンで不特定多数が参加する環境であるがために、些細なことで炎上してしまったり、いわれのない個人攻撃に晒されたりする危険性や脆さも抱えています。

一方、リアルの世界においては、直接出会える人の数は限られており、家族・友人・職場の同僚など日常的にコミュニケーションの多い人は「強いつながり」に含まれます。お互いに顔が見える距離の近さによって心理的な安全性が確保され、炎上や個人攻撃を仕掛ける側にも相当の覚悟が求められるでしょう。しかしながら、特定少数のクローズドなコミュニティでは、同じ価値観や趣味を持った気の合う人を見つけられる確率は低く、その関係性を構築し維持することにも骨が折れます。強いつながりの中よりも、弱いつながりの中にいたほうが、共通の話題に困らない人を見つけやすく、そうした人との間では意見の対立で衝突することも少ないでしょう。

やはり、『人とのつながり』においても、①オープンかクローズドか、②不特定多数か特定少数か、③心理的な安全性が有るか無いか、④強いつながりか弱いつながりか、⑤価値観を共有する仲間の探索が容易か否か、といった様々な点で、デジタルとリアルが持つ利点のコントラストが強調される時代になっていると感じます。

4.メタバースに期待する生きづらさからの解放

従って、デジタルとリアルが持つ利点を相互補完し、両者が融合した先に生じるメタバース世界では、『人とのつながり』においても、これまでとは違った新しいカタチを与えてくれるのでないかと期待しています。メタバースには空間的な広がりが存在するからこそ、むしろ世界観を統一したクローズドな環境として空間設計できるという側面もありそうです。そこでは、自分にとって居心地のいい仲間だけが集まる、居心地のいい特色を持ったコミュニティが存在します。現実世界に近い臨場感や、そこに一緒に存在する感覚(プレゼンス)を感じながらも、アバターを介することで一定の距離感と心理的な安全性も確保されます。場所や時間といった物理的な制約に縛られず、共通の価値観や趣味を持つ仲間を簡単に見つけ出し、それと同時に、ある程度の制約を設けた統一された世界観の中で、顔出しの抵抗を感じることなく気軽に交流できる、そんな居心地のいいコミュニティが形成されていくのかもしれません

SNSという『デジタルなつながり』と、学校や職場での『リアルなつながり』。多くの人は、これらを両立させて日々生活している訳ですが、そのいずれにも居心地のいい場所を見つけられず、漠然とした生きづらさを感じている人もまた多いのではないでしょうか。メタバースの登場によって、そのような生きづらさを感じている人々の苦痛が少しでも解放されるなら、それは本当に素晴らしいことだと思います。ベンチャーキャピタリストという職業柄、常にテクノロジーや事業モデルの革新性を追求していますが、それらは手段であって目的ではありません。新しいテクノロジーの登場によって実現可能となる社会課題の解決や、より身近な人々が抱えている生きづらさからの解放、そうした視点や本質的な目的を見失うことなく、これからも世の中の変化を見つめていきたいと考えています。

著者

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