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プロダクトが解決する課題の、“その先”に企業の個性がある #スタートアップのCIについて

NOTES

ジェネシア・ベンチャーズの吉田です。

ジェネシア・ベンチャーズは、「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」というビジョンを掲げるベンチャーキャピタルです。

私たちの立場はいわゆる「投資家」で、あまりチームワークが求められるものではないのでは?という印象を持たれることも多いのですが、私たちの投資先であるスタートアップの成功に「強いチーム」が不可欠なように、私たちもまた、インパクトを最大化できる強いチームでありたいと考えています。

冒頭の「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」というビジョンも、チームの目指すところを改めて明示するために昨年実施した、CI(コーポレートアイデンティティ)とビジュアル全般のリデザインプロジェクトを通じて策定したものです。また今年は、これまで「Investment Policy(投資方針)」としていたWEBサイトのメニューを「Why Us(なぜ私たちがVCをやるのか)」というタイトルに変更するプロジェクトを実施し、投資という事業とビジョンのつながりを改めて明示しました。

そうした実際の取り組みを通じて、私たちは企業やチームにとってのCI(ビジョンやミッションやバリュー)の存在の大切さを実感してきました。

事業内容やプロダクト・サービスが身体だとしたら、CIはチームの心・精神です。

つまり、それらはチームになくてはならないもの。特にCIというのは、0から生み出す/作り出す、というよりは、すでにあるものを見つけ出す/引き出すという行為によって形作られてくるものだと思います。

私たちはもともと一体感のあるチームだったと思いますが、CIに向き合うことは、それぞれのメンバー個人のビジョンに向き合うことでもあり、個とチームのビジョンの方向性がそろっていることを改めて確認する取り組みでした。“一体感”がどんな要素によるものなのかを言語化することで、私たちが今ここに集まっている意味や目的をお互いに改めて確認することができ、それぞれの意思決定や行動・振る舞いなどにも共通のエッセンスが感じられるようになり、語れるシャープなメッセージも増え、“チームという人格”の輪郭・性格が見えてきたように思います。

そして、これからも時代やチームの成長に合わせてアップデートしていきたいと思っていますし、まさにこれから大きな産業をつくっていこうとしているスタートアップ、その「強いチーム」のためにもその意味を伝え続けていきたいと思っています。

私たちはどんな存在か?どんなことを実現したいと思っているのか?そのためにどんな目標に向かい、何を推進していくのか?それをどんな風に実現するのか?

こうした問いはとても抽象的で、ただ一つの答えもなく、向き合うのはとても時間と根気がいることです。

でも、だからこそ、その問いの先に「個性=アイデンティティ」がある。そんなふうに思います。

私たちの取り組みの一つに『Players』という対談コンテンツがあるのですが、こちらも、スタートアップの起業家自身のルーツや想い、そしてCIを大きなテーマにしています。

https://www.genesiaventures.com/category/story/

スタートアップの仲間づくり(採用に限らない広義の)のためにと考えてスタートしたコンテンツですが、その対談・対話は、私たちがたくさんのことを学ばせてもらう機会でもあります。毎回、私たちはそれぞれの企業のアイデンティティに触れ、その世界観を疑似体験させてもらうことで、さらなるアップデートを感じています。

人間が一人ひとりまったく違う人間であるのと同じように、企業やチームもそれぞれがまったく違う個性を持っています。その個性をまず自分たちがしっかりと認識して、そして開示して伝えていくことが、「強いチーム」をつくっていくためには欠かせないことだと思います。

では、どのようにその個性を捉えていくか?

本稿では、私たちがCIに関する実際の取り組みを通じて考えたこと、学んだこと、そして感じていることなどを書いてみたいと思います。これからCIを言語化・策定しよう、あるいは浸透させていこうとしているスタートアップのみなさんの参考になれば幸いです。

アイデンティティは、自分自身の中にあるもの

「CIというのは、0から生み出す/作り出す、というよりは、すでにあるものを見つけ出す/引き出すという行為によって形作られてくるもの」と先述したとおり、最初に必要なのは「自己認識」です。

CIのつくり方には、特に決まりごとがあるわけではありませんから、いろいろなアプローチがあると思います。正解も不正解もありません。言葉のプロであるデザイナーさんのお力を借りるのもいいと思います。

ただ、そのプロジェクトのコアになるのは、他でもない、スタートアップを立ち上げた起業家自身の想いです。なぜ起業したのか?なぜこの領域、この事業なのか?それによってどんな未来を目指しているのか?という問いへの答えは、他人の中にはありません。

以前にクラウドワークスの代表・吉田さんのお話を伺う機会があったのですが、その中で特に印象的だったのが「未来の意思決定は過去の意思決定の延長にある」「だから、その人がどんな人か(どんな判断軸を持っているか)を知るために、その人の過去の話を聴く」というお話でした。

実際に先述の『Players』でも、起業家の過去のお話は、可能なら幼少期くらいにまで遡って聴いていますし、これまでどんなことを考えてどんな道を選んできたかという点を特に深堀りしています。そうしたお話をしていると、「あまり振り返ったことはなかったけれど、そういえば自分は昔からこうだった」とか「やはりこういうルーツがあったから今こうしているし、これから先こうしていきたいと思っている」といったことが言語化されてくる気がします。

また、吉田さんのお話には実は続きがあって、「その人がどんな人かを知るということはその人を理解するということなのだけど、実際は、“その人が自分とまったく違う人間であることを認識する”ということ」「つまり、その人と自分の意見が食い違うことがあるのは当たり前のこと(だからしっかりとコミュニケーションしなければいけない)という前提を認識すること」ということでした。

受け入れ融合しようとする「理解」ではなくて、事実を事実としてシンプルに受け止める「認識」。その差が、そこにはあると感じます。

CIについても、CIはチームを一体化させるものです。同じ方向を見て、走り続けていくための指針になるものです。一方で、CIは、合わない思想や合わない人との間に明確に線を引くものでもあります。それはけっして冷たいことではなく、双方にとって適切なことではないでしょうか。

だから、起業家はまず自分自身が基準にならなければいけない。その基準である自分自身で認識しなければいけない。そして、チームをつくるということは、それを言語化して、伝え続けていくということだと思います。

私たちの投資先の起業家Hさん(確認とれたら公開します)の、「とある大きな決断を他人に委ねてしまった、その過去のできごとへの悔いにも近い気持ちが今の活動の大きな原動力になっている(すべての人が自分のことを自分で選べるようなサービスをつくりたい)」という言葉も、とても心に残っています。

自分自身で選ぶこと、他人に委ねないこと、その基準となる深い自己認識は、この選択肢の多い時代の中で豊かに人生を送っていくためには、誰にとっても間違いなく必要なことだと思います。その中でも特に起業家のように、たくさんの人を巻き込み、大きな目標を実現していこうという人はなおさら、常に深め、常に示し続けていく必要性が大きい。それをし続けられることもリーダーシップの一つなのかなと、私は思っています。

頑固さとは違う。その違いは何かと言えば、やっぱり自己認識の深さだと思います。自己認識の深い人は、固くなくて、とても素直でしなやかです。(私自身もそうありたいです)

誰だって、ポジティブでありたい

自己認識とは、ハッピーなことばかりではないと思います。悲しいことや後悔していること、恥ずかしいことやつらかったことまで深く掘り出す行為です。でも、本当の自己認識とは、それらも全部含めて自分であることを「認識(事実を事実としてシンプルに受け止める)」すること。そして、そんな自分をより良い未来へとつなげていこうとすることだと思います。

実際に先述の『Players』でも、起業家やリーダーのお話を聴いていると、特にそんなポジティブなパワーを感じます。

その上で、今はサステナビリティ(持続可能であること)が当たり前に求められる時代。差別や格差、ズルイことや強欲すぎること、不透明なことや打算的なこと、不平等や非対称などは、以前よりも明らかに“イヤなもの”“全員が社会の一員であるとしたときに排除したいもの”としてになってきていると思います。

私たちジェネシア・ベンチャーズのビジョンを補足するテキストにも「私たちは、格差を広げるテクノロジーではなく、すべての人がその恩恵を享受できるテクノロジー、そしてそれらを生み出すスタートアップを支援し、より豊かな社会の実現を目指します。」と書いてあります。格差は“イヤなもの”です。

スタートアップとは、持続可能な大きな産業をつくろう、社会をより良くしようとしているチームのこと。つまり、存在自体がポジティブなのですが、より「強いチーム」をつくっていくためには、健全さや誠実さ、透明度などは、とても重要な、行動としてしっかり表すべき要素だと思います。

アメリカのSaasユニコーン、Salesforceの創業者 マーク・ベニオフ氏の著書『TRAILBRAZER』から何行か引用してみます。

– この本の執筆を思い立ったのも、第5次産業革命がもう目前に迫っていると純粋に思っているからだ。それは、第4次産業革命で開発されたテクノロジーを使って、世界の状態を改善しようとする企業に信頼が集まる時代である。

– 将来的に全人類を底上げする真摯で継続的な取組みが背後にない限り、イノベーションを良い方向に前進させることはできない。

– 成長か社会貢献か、利益創出か公益か、イノベーションか世界をよりよい場所にするためかという二項対立では、それぞれのミッションをもはや捉えきれなくなっているのだ。-中略- 必要なのは、両立させることである。

– 重要なのは、善い行いを目的としたプラットフォームをつくろうとする雇用主のために、人々は働きたいと思っていることだ。

これらは決して特別なことではなく、当たり前の、普遍的なことだと感じます。

もちろん、社会には山のような課題がありますし、人にはネガティブな面もありますし、万事がすぐにうまくいくということはないかもしれませんが、できれば明るい未来に向かいたいという人間の本質的な欲求に改めて目を向けられるかどうかが、持続可能性のカギになるように思います。

CIを言語化するときにも、私はなるべくポジティブでアップサイドを感じる言葉を使ってほしいと思っています。特にビジョンは、企業やチームが実現したい世界観を表すものですから、「~しなくてもいい」や「~がなくなる」、もっと言えば「~を解消する」といった、(もちろんまったく悪ではないのですが)ネガティブ面を感じるニュアンスの言葉よりも、「もっと~できる」「~が強くなる」「(その世界観が実現された時の人々の様子)」といった、プラスを感じる言葉を選ぶことをオススメしています。

バリューや行動指針も、厳しくストイックな言葉ばかりが並んでいると(もちろん悪ではなく、そういう社風・個性もあると思いますが)窮屈で疲れてしまい、持続しない印象を受けます。だから、その行動の先にうれしさや楽しさ、発展や結束を見出せることも大切かなと思います。

誰だって、ポジティブに、明るい未来に向かって生きたい。そのことを忘れずに、ポジティブに向かい続けられるチームも、また強いチームだと思います。(私自身も信じ続けたいです)

真のステークホルダーは誰?

以前、私は自分のメンター的な方に「会社とは何ですか?」と質問したことがあります。その人の答えは「会社とは、社会に貢献するもの。事業内容はオレオレ詐欺です、じゃ登記できないでしょ」というものでした。そのときは、極端な話だな~と思って笑っていたのですが、今になって私はこの言葉をよく思い出します。

オレオレ詐欺はもちろん論外ですが、企業はたしかに、社会と人への貢献をミッションにしています。もちろん会社に所属していない人たちも含めて、私たちは基本的に「誰か」から対価を受け取っていますし、また、一緒に働いている人たちも含めて、「誰か」のために仕事をしているのではないでしょうか。

では、その「誰か」とは誰か?

この部分の解像度の差は、企業としての意思決定や、事業の方向性、プロダクト・サービスに込める思想、貢献の実感やリアリティ、そして自分自身の仕事に対する満足度に大きく関わっているのではないかと思います。

例えば、スタートアップへの転職を検討している方と面談させていただくと、コンサルティングやアドバイザリー業務をしていたが現場に行きたい(ユーザーの顔が見えるところで働きたい)というお話をよく聴きますし、エンジニアがユーザーの意見を直接聴くために営業やオンボーディングに同行するというのもよく聴くお話です。また、別の例では、Saas企業などによく見られるカスタマーサクセスという職種は、カスタマーの成功=自分たちの成功だと、ステークホルダーの理想の状態を定義して稼働しているチームです。

自分たちに関わるステークホルダーの解像度を高め、その上で「どんなビジョンを一緒に実現するか(その世界観が実現された時の人々の様子)」を定義・提示することによって、言動は大きく変わってきますし、それが、プロダクトの利便性や機能・価格による違いだけではない、企業の個性=強いチームづくりのコアになると思っています。

実際に私たちも(以下のページではざっくりとですが)ステークホルダーを定義するという試みをしていて、社内でいろいろな施策を考えるときにも「誰のために」、厳密には「誰とのどんな関係性のために」という部分を必ず考えます。

先述の『Players』を見ると、例えば、保護犬猫のマッチングサイトやフレッシュペットフードを提供するシロップでは、「動物が好きな人」「動物が苦手な人」「ペット自身」というステークホルダーを明示しています。(苦手な人のことも意識してオフィスづくりなどをしているというお話がとても印象的でした)

また、(スタートアップではありませんが)、丸井グループでは、「将来世代」を含めた、6ステークホルダーという考えを掲げられています。それらをただ定義するだけでなく、その重なりを大きくしていこうという思想も独自性があって素晴らしいです。私も折に触れて何度も読み返して、勉強させていただいています。

私自身、ある時期に、自分の関わる施策がどうにもうまくいっていないと感じるタイミングがあり、ステークホルダーを切り分けるということを試してみました。それによって、コンセプトや言動がシャープになったり、理想像を描きやすくなったり、タスクに優先度がついたりしました。

「誰のために」「誰とのどんな関係性のために」、私たちは、私は、仕事をしているのか?最終的に、その全体がどんな関係性になっていたら理想的か?

ビジョン(目指す世界観)を前提に、ぜひ考えてみましょう!

プロダクトが解決する課題の、“その先”に企業の個性がある

初期のスタートアップにおいては、まずはユーザーに求められるプロダクト・サービスを生み出すこと、つまりは課題解決、そしてPMFさせることが何よりも重要です。

でも、プロダクト“だけ”じゃない。プロダクトづくりにもその運用にも、方向性を決める「思想」が必要です。

「事業内容やプロダクト・サービスが身体だとしたら、CIはチームの心・精神」と最初に書いたとおり、個性とは、両方がそろって形づくられるものだと思います。特にITサービスが誰でも簡単につくれる時代において、似たようなサービスがいくつもあったときに、自分たちが選ばれる理由=人が人を惹きつけられるポイントは、共感できる「思想」や「個性・アイデンティティ」、そして、それにもとづく戦略や行動にあるのではないでしょうか

本稿では、それを見つけ出すヒントを
・自己認識
・ポジティブ面
・ステークホルダー

という3つのキーワードで書いてみました。

私たちも引き続き、これらを自分たちに問い続けていきたいですし、スタートアップの「強いチーム」づくりにも貢献していきたいと思っています。

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