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事業のネタ帳 #17 円安で生じる事業機会 〜農業の可能性〜

IDEA

こんにちは。ジェネシア・ベンチャーズの一戸です。

突然ですが、「比較優位」という言葉をご存知でしょうか。これは貿易理論における基本的な概念であり、グローバル化や自由貿易が進む中で国際分業体制が敷かれるための根本的な考え方になります。すごく簡単に言うと、各国が自国が得意なものを生産して、それを貿易することによって需要を賄い合おうとするものです。

皆さんご存知のとおり、現在ロシア・ウクライナ周辺では大変なことが起きており、それによってグローバル化や自由貿易が後退していく、つまり、比較優位を基礎とした貿易が以前より衰退していく様子が一時的に窺えます。そして現在、貿易については円安の影響も相まって多くの変化が見られるタイミングです。

実際の問題も人々の関心事も、その多くはエネルギーに関することですが、もちろんそれ以外にも様々な解決すべき課題があり、その中でもわれわれスタートアップの立場として考えるべきこと・取り組むべきことがないかと探したときに、実は「食」や「食料自給率」こそ今考えるべきテーマなのではないかと思い、本稿の執筆に至っています。

食料自給率という言葉は多くの方が聞き慣れているものだと思いますが、実は食に関して、「食料安全保障」という言葉が存在します。石油などのエネルギーは社会や産業を支えるものですが、食はより根本的な人間の活動を支えるものです。日本の食料自給率(以下、食料自給率はカロリーベースのものを指す)は2020年度において37%ですが、これはつまり、備蓄分を考慮しなければ、貿易がストップした際にはこれまでの1/3のカロリーしか摂取できないことになります。

もちろんそんなことは到底起こり得ませんし、実際には多くの備蓄があるのですが、上述したとおり、現在さまざまなことが起きている中で、貿易がいつ不安定化するかはわかりません。われわれが生きていく上での選択肢を減らさないためにも、食や食料自給率、そして食料安全保障についてスタートアップとして何かできることがないかを、今回は特に「農業」にフォーカスして考えたいと思います。

また、現在の日本では所得の向上が伴わない物価高(特にエネルギーや原材料において)が生じているため、大幅な円安の影響によって相対的に輸入品の価格が上がっていますし、肥料原料の輸入価格も上がっていることから国産であっても今後ますます価格が上昇していくことが予想され、現状のままでは日本の多くの方の購買力が低下していくばかりです。

そのような中で、日本の農業においてどのような活路を見出だせるのか、また、どのような事業のネタが眠っているのか、既に活躍しているスタートアップなども取り上げながら考察していきたいと思います。

①スマート農業による生産性向上

まず1つ目が「スマート農業による生産性向上」です。こちらについてはイメージがつきやすいと思いますが、ロボットやAI、IoTの導入によって生産性を向上させるという方法です。具体的には以下の3つの効果が得られます。

・作業の自動化
ロボットトラクタ、スマホで操作する水田の水管理システムなどの活用により、作業を自動化し人手を省くことが可能に
・情報共有の簡易化
位置情報と連動した経営管理アプリの活用により、作業の記録をデジタル化・自動化し、熟練者でなくても生産活動の主体になることが可能に
・ データの活用
ドローン・衛星によるセンシングデータや気象データのAI解析により、農作物の生育や病虫害を予測し、高度な農業経営が可能に

(出所)農林水産省

こちらは大企業からスタートアップまで様々なプレイヤーが存在していますが、自動走行トラクターや自動収穫ロボット、農場における水管理システム、ドローン等を活用したリモートセンシングによる最適な肥料散布など、本当に様々なアプローチによって課題解決が促されています。

例えば、AGRIST株式会社はビニールハウス内でピーマンやキュウリなどを自動で収穫するロボットを開発・提供しながら、そのロボットが稼働するのに最適なビニールハウスも開発しており、さらにはそのロボットのセンサーとAIによって収穫量や品質の向上を図っています。

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(出所)AGRIST株式会社

その他の各社の詳細な説明は割愛しますが、以下に見られるように国内だけでも様々なプレイヤーが存在しており、こうした技術を活用することによって生産性を向上させることが第一歩目として重要だと考えています。

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(出所)農林水産省

②小麦や大豆の生産量増大

次に検討したいのが「小麦や大豆の生産量増大」です。農林水産省は食料自給率を2020年度の37%から2030年度までに45%に引き上げることを目標としていますが、小麦(15%)や大豆(21%)、果実(31%)は特に自給率が低い品目です。

株式会社日本農業は、主に東南アジア向けに果実をはじめとした以下の品目を輸出しているスタートアップですが、その大きな特徴は栽培方式にあります。

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(出所)株式会社日本農業

その栽培方式は「高密植栽培方式」といい、わかりやすいテクノロジーの導入などではなく(もちろん随所でテクノロジーを活用していると思われますが)、こういったそもそもの栽培方式などでイノベーションが起こるのも農業の1つの魅力だと感じます。

高密植栽培方式とは
世界的に主流となってきているコンパクトで収益性、効率化を求める栽培方法。極めてシンプルな技術体系に基づいており、熟練技術者でなくても約6トンの反収を確保することが可能とされています。特徴として、樹が一直線に並んでいるため効率良く作業することが可能である他、下枝の数が多いためはしごなしで作業する部分が多く体力負担の軽減に繋がります。マニュアル化が可能であるため、新規就農者や高齢者でも取り組みやすい方式です。

(出所)株式会社日本農業

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(出所)株式会社日本農業

株式会社日本農業の例から見て取れるように、栽培方式などでもイノベーションを起こせるのが農業です。そして実は、小麦や大豆についても品種改良が進んでおり、以前の日本はコメ中心の政策が取られていたため小麦や大豆の地位が決して高くなく、積極的に品種改良が進んでこなかったのですが、小麦においては近年の食生活の変化に伴って国産のパン用小麦の品種開発が積極化されており、また、大豆においては国産大豆の需要が高まっていることから品種開発が積極化されています。こちらのレポートでも、日本における小麦や大豆の可能性について積極的に論じられています。

私は農業のプロではないので、具体的にどのように生産するのかということは語り得ないのですが、個人的には、株式会社日本農業のようにスタートアップ自身が農業を手掛けるのは勝機があるかもしれないと考えています。そしてその中でも、小麦や大豆の生産はその課題感やタイミングを踏まえても、とても大きな価値を生み出すことができるのではないかと考えています。

スタートアップ自身が農業を手掛けることの理由としては、もちろんゼロベースで効率的なオペレーションを構築できるというのもあるのですが、あらゆる産業の中でも農業は特に従事者の高齢化が深刻化しており、そのため多くの方が高度なテクノロジーを使いこなせない可能性もありますし、小麦や大豆の生産量を増大させるためにはそもそも従事者の数自体を増やす必要があるため、スタートアップが農業従事者の方々から知見をお借りしながら①であげたテクノロジーを活用して自社で農業を手掛けるというのは、日本の農業の活路を見出す上でも十分に可能性のある事業のネタなのではないかと考えています。

我が国農業を支える基幹的農業従事者の高齢化が進行し、令和2年における基幹的農業従事者数は136万人、平均年齢は67.8歳で、年齢構成は70歳以上の層にピークがあります。
※基幹的農業従事者:ふだん仕事として主に自営農業に従事した者。(家事や育児が主体の主婦や学生 等は含まない。)

(出所)農林水産省

海外事例をお話すると、農産物・食料品の輸出額ランキングでアメリカに次いで世界2位(日本は43位)の国は実はオランダなのですが、オランダはスマート農業によってこの地位を確立しているとも言えます。

オランダでは早くから施設園芸の機械化・自動化を進めてきました。その技術を活かし、生産性を最大まで高めるシステムがすでに稼働しています。

例えば、最新のシステムを導入しているトマト栽培施設では、温度・湿度・光量・二酸化炭素量などを検知するさまざまなセンサーを設置し、すべての数値を個別に管理するのではなく統合的に制御します。土ではなく玄武岩を繊維状にしたロックウールに苗を植え付け、水や養分、光合成のための光量も、すべてコンピュータが管理して適切に調整されるのです。

また、システムによって蓄積されたデータは種苗メーカーに送られ、それをもとに病害発生のアラートや技術的アドバイスを行うサービスもあります。

最適な環境に制御された施設内では、高品質のトマトが安定的に収穫できます。さらには長期多段栽培の栽培体系も整っており、作業効率が非常に高いことや技術の高い作業者が多いこともあって、ヨーロッパでも最高水準の単収を上げています。

2019年のオランダの露地・施設を含むトマトの単収は1ha当たり506tで、日本の単収の8倍ほどもあります。施設だけに限った単収でも、オランダは日本の3倍強という水準の高さです。

オランダ農業はなぜ強い?生産性を上げる最新技術と経営戦略の特徴

もちろん、スマート農業以外にもその要因はいくつかあり、特定品目への特化、流通の効率性など、農業の複雑性を様々なアプローチで解決しているようです。一方で、日本がオランダをそっくりそのまま真似をすれば上手くいくというわけではないため、実際に成功事例があるというその事実を頼りに、日本ならではの農業の発展を目指していく必要があると考えています。

農業における事業のネタ帳

日本の農業は、その課題もポテンシャルもとても大きく、取り組んでいく価値は大いにあると考えています。もちろん、超えなければいけないハードルもそれだけ発生すると思いますが、その成功の暁には、日本、ひいては世界に大きく貢献できることは間違いないでしょう。

一方で、農業は上記以外にも取り組むべきことが多いため、詳細は省略させていただきますが、個人的に解決していかなければならないと考えているテーマについて列挙して終わりにしたいと思います。自分自身もリサーチやヒアリングを重ねる中で深堀りしていき、もし機会があればまたまとめたいと思います。

  • 品種開発の高速・精緻化
  • 肥料の代替
  • 流通の適正・透明化
  • 垂直農法(都市型農園)の促進
  • 農地の集積・集約化

もちろん、これら以外にも課題やテーマはたくさんあると思いますので、農業の領域で挑戦している(挑戦を検討している)方々、ぜひ幅広いにディスカッションさせてください。もしよろしければTwitterのDMFacebookMeetyまでご連絡いただけると嬉しいです!

最後までお読みいただきありがとうございました!

筆者

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