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事業のネタ帳:労働生産性を高めるHRtech×AIの可能性

事業のネタ帳

人とAIの共存

近未来SF作品が好きです。最近は「PLUTO」と「AIの遺電子」というアニメ・漫画にハマってました。

PLUTOとAIの遺伝子は、「人とAI(ロボット)の共存」が共通テーマとなっています。

生成AIをはじめとするここ数年のAI技術進歩は、人とAI(ロボット)の共存する世界の到来をリアルに想像させます。こちらのOpenAIを搭載したロボットの動画は衝撃的でした。

この人型ロボットを開発するのは2022年に設立されたFigureというスタートアップです。OpenAIと提携して、動画にも登場する会話しながら作業するロボット「Figure 01」を発表しています。

Figureは2024年2月にMicrosoft、OpenAI、NVIDIA、ジェフ・ベゾスなどから6億7500万ドル(約1000億円)を調達しています。一家に一台ロボットがいる時代をリアルに想像させますね。

フランスの小説家ジュール・ヴェルヌの「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という名言もありますが、遠からずそんな世界が実現されていくのでしょう。

また、ソフトバンク第44回定時株主総会で、孫正義氏は「今後10年で人類の叡智を1万倍上回るASIの実現を本気で目指す」語りました。AIが進化した未来の世界で人類はどう生きるのでしょうか。

孫は、人類の20万年の進化をたどり、「人類だけが道具を発明して身体の機能を延長させ、進化を遂げてきた」と、「進化」のワードを再び挙げました。そして、「ソフトバンクグループの使命がはっきりと見えた。それは人類の進化」とし、昨年に自身の役割を再確認して以降、この使命を果たすために考え続けてきたと語りました。「人類の進化」の手段として「ASI(人工超知能)の実現」を掲げ、「それが本当にできるのか1年間問い続け、今朝難解な方程式が解けた」と、冒頭の発言の理由を明かしました。

「ASI」とは何か。人類の叡智を10倍上回ると言われる「AGI(汎用人工知能)」に対し、ASIは「人類の叡智を1万倍上回るもの」と孫は説明。AGIが天才的な頭脳を持つ人間だとすると、ASIはAGIが脳の神経細胞のようにつながることで、AGIの1万倍の賢さを持つものと説明し、「本気でASIの実現を目指す」と明言。これからの10年間で、人類が人工知能に追い抜かれる転換期が訪れ、全ての常識が変わると予測しました。

日本経済とスタートアップ政策

日本経済は1990年代以降、低成長と物価低迷が続き、「失われた30年」と言われています。「世界第2位の経済大国」は遠い昔の話となり、2023年には名目GDPでドイツに抜かれ4位となり、来年2025年にはインドに抜かれ5位となる見通しです

ただ、ここ数年は海外投資家からの日本企業への関心が高まっています。円安、デフレ脱却期待、中国経済低迷、米株高、新NISAによる個人投資拡大、PBR・ROE改善、エネルギー・資源価格高騰などの影響により、日経平均株価は市場最高値を更新しました。特に総合商社は軒並み大幅に株価上昇しています(バフェットすごい)。

これまで9年間インド、インドネシア、ベトナム、ケニアなどの新興国でスタートアップ投資をしてきましたが、いずれも人口ボーナス・経済成長下の国であり、欧米やアジア先進国から多額の資本が流入していました。同地域に投資する海外VCや機関投資家と話す際には、「日本のスタートアップ投資をどう考えるか」という質問を投げかけていましたが、経済成長が停滞し、英語情報が不足する日本市場の優先度は低いというのが総論でした。

一方、現在の日本のスタートアップ資金調達環境は世界で最も優れているかもしれません。2023年の日本スタートアップ資金調達額は実態としては8,500億円超を見込んでおり(速報時点では7,536億円)で、前年比約10%減でしたが、同期間のグローバル資金調達額は前年比42%減少しています。

世界的なスタートアップ・VC市場の調整局面であり、インド・東南アジア・アフリカ・南米・欧州は前年比50%前後の大幅な投資額減少により、大型調達スタートアップが倒産や大規模レイオフに直面していることを考えると、相対的に日本はスタートアップにとって優れた調達環境であると言えそうです。

日本はスタートアップ投資資金(直接投資及びLP出資による間接出資)の大部分が国内の金融機関や大企業から拠出されており、海外投資家の影響は良くも悪くも限定的であることも要因です。「スタートアップ育成5か年計画」などの政策により、今後一定期間、日本のスタートアップ投資額は増加が見込まれています。

一方で、FoundX馬田さんの「日本のスタートアップブームの「終わりの始まり」を食い止めるために」でも言及されていたように、スタートアップは国策として日本の成長戦略の柱の一つであるからこそ、『スタートアップ業界を縮小させた世代』とならないためにも、「本当に大きくなる事業」を創出していく必要があります。

日本経済の成長戦略に大きく貢献するスタートアップの創出には何が必要なのでしょうか。

日本の2023年の出生率は1.20前後、東京は1を切る結果となり、様々な対策は講じられていますが、少子化に歯止めはかかっていません。少子高齢化、生産年齢人口の減少が進行する日本では、「最小限の労働力とテクノロジーで高付加価値なモノやサービスを生産し、国内・海外市場に販売することで、一人当たり労働生産性を飛躍的に高めること」が必要となると考えています。

日本の労働生産性はなぜ低いのか

労働生産性の国際比較は物価や為替などの外部要因によって歪みやすいため、購買力平価(PPP:Purchasing Power Parities)、つまり両国間の実際のモノやサービスの値段から計算される通貨の換算比率ベースで考えるのが適切です。

下記グラフは購買力平価換算の労働時間あたりGDPですが、日本はドイツ・アメリカをはじめOECD平均よりも低いという結果です。

そもそもですが、労働生産性とは投入した労働力に対する成果の割合であり、簡易化した計算式は以下です。最小の労働投入量で最大の成果を生み出すことで労働生産性は高まります。

労働生産性=成果(売上・利益・付加価値)÷労働投入量(従業員数・労働時間)

また、業種別で見ると「資本集約型産業」と「労働集約型産業」で労働生産性は大きく異なります。「資本集約型産業」は金融・保険業、電気・ガス、不動産業など、「労働集約型産業」は小売、宿泊、飲食などのサービス業や医療などが挙げられます。

資本集約型産業は、機械や設備などの豊富な資産を用いて売上を創出するため、労働者1人当たりで算出する労働生産性の数値は高くなる傾向があります。機械化、AI・ロボット化が進むと労働生産性は高まるということですね。

また、特に「資本集約型産業」においては、企業規模が大きくなるほど労働生産性が高まります。これは一般的に大企業の方が機械や設備投資に大きな予算投下ができることが要因です。

産業構造も労働生産性に大きな影響を与えます。労働生産性の上位国であるアイルランド、ルクセンブルク、スイスなどは低い法人税率を武器に金融やITなどの外資企業の誘致に成功したことで高い労働生産性を実現しています。

日本の労働生産性を高めるには何をすべきなのでしょうか。私は下記の5つが重要だと考えています。

①DXによる業務効率化・自動化

②高付加価値産業の創出・強化

③海外展開による外貨獲得

④雇用流動化による高付加価値産業への人材移転

②従業員体験向上と教育・リスキリングによる能力開発

①~③についてもどこかで整理したいですが、今回は「④雇用流動化による高付加価値産業への人材移転」と「⑤従業員体験向上と教育・リスキリングによる能力開発」に焦点を当てます。

単純化すると、低付加価値産業の業務を効率化・自動化することで人材不足を解決し、高付加価値産業に人材を移転し、従業員体験向上と能力開発により日本から世界へ展開する高付加価値産業を創出することができれば、全体の労働生産性=国民一人当たりの(金銭的)豊かさが高まるのではないかという仮説です。

人材市場の現状と未来

AIやロボット技術の発達により、人の仕事は奪われるのでしょうか。

イーロン・マスクは、「いずれ全ての仕事がAI(ロボット)によって代替されるだろう」と語っています

マスク氏は「おそらく私たちは全員仕事がなくなるだろう」と話し、仕事が「任意」になる未来について語った。「趣味のような仕事をしたければ、仕事をすればいい」「そうでなければ、AIやロボットがあなたの望む商品やサービスを提供してくれるだろう」

このシナリオが機能するためには「ユニバーサル・ハイ・インカム」が必要だと話したが、それがどのようなものかについては触れなかった(個人の収入がどのくらいかにかかわらず政府が一定額の金銭を提供するユニバーサル・ベーシック・インカムと混同してはならない)。

また、米国のサンフランシスコでは先月2024年6月にWaymoの自動運転タクシーが誰でも利用可能になりました。日本では今年ようやくライドシェアが限定解禁となりましたが、自動運転も今後段階的に解禁されていくはずです(そう信じたい…)。

しかし、AI(ロボット)による仕事の代替は全世界・全産業で同時多発的に短期間で起こるものではないです。AI(ロボット)の技術進歩とコスト低下の速度によって時間軸は変わりますが、国や地域、産業や職種ごとに段階的に仕事の代替が進むはずであり、同時に新しい雇用も生み出していくでしょう。

現在少子高齢化により日本の人材不足は深刻化しています。対応策として働き方改革やシニア・女性・外国人人材の登用、ジェネシア投資先のタイミーなどによるワークシェアや兼業・副業解禁などの取り組みが進んでいます。それでもITや医療・福祉、運輸や建設などの業界を中心に人材不足は今後も続く見通しです。

そして、若年層を中心に雇用流動性は高まっています。企業と候補者の需給バランスは変わり、企業の採用競争は激化し、採用コストも高騰しています。「企業が候補者を見極める時代」から、「企業が候補者に選ばれる時代」へとシフトしていくのは間違いないです。

競争環境で勝ち抜くためには、AI(ロボット)などの先端技術を自社事業に迅速に実装することが重要となり、全産業でデジタル人材の獲得競争が起こっていきます。

こうした人材市場の変化は、「④雇用流動化による高付加価値産業への人材移転」と「⑤従業員体験向上と教育・リスキリングによる能力開発」における新しいソリューションへの需要を生み出します。

HRtech×AIが人材市場を変革する

「雇用流動化」、「企業が候補者に選ばれる時代」が進む未来では、企業は転職潜在層にアプローチし、採用プロセスで候補者をアトラクトし、入社後の従業員エンゲージメントを高め、従業員の教育・リスキリングにより真に強い組織を作ることが求められていきます。

その実現には、HRtech×AIが大きな役割を果たすと考えています。ここではいくつか海外のHRtech×AIスタートアップをご紹介します。

1. Beamery

Beameryはタレントライフサイクルマネジメントプラットフォームを提供します。2014年に英国で設立。これまでに合計$223Mを調達し、企業評価額は$1Bを超えるユニコーン企業です。

①キャリアサイト構築、LinkedIn等の外部の採用プラットフォーム連携、採用CRMサービスを通じた採用支援、②従業員のスキルやダイバーシティなどの組織状況の可視化、③従業員のリスキリングや配置転換を促すタレントマーケットプレイスまで一気通貫で提供します。

2023年には人事向け生成AIプロダクト「TalentGPT」を発表しています。TalentGPTは組織に不足しているスキルや、高い業績を上げる人材に必要な能力に関連性の高い採用要件を自動作成したり、企業がリーチしようとしている候補者層に合わせてパーソナライズされたスカウト文面を作成します。また、従業員にキャリアの推薦を行うだけでなく、現在持っているスキルや次の昇進のために伸ばすべきスキルに基づいてガイダンスします。

2. Eightfold

Eightfoldは人材採用やスキル開発を実現するタレントインテリジェンスプラットフォームを提供します。2016年に米国で設立。2021年10月にSoftBank Vision Fund 2のリードで$220Mの調達を実施しており、企業評価価値は$2.1Bです。

同社の「Talent Intelligence Platform」は、企業が人材を効率的に採用、定着、成長させ、多様性のある組織作りの推進をサポートしています。従業員のキャリアプランニング、スキルアップもサポートしており、組織競争力を高めることができます。

採用面では、AIにより自社の活躍人材と不足人材を分析することで、今後どのようなスキルやケイパビリティを持つ人材が必要なのか、候補人材はどのような企業で働いているか、候補者人材の獲得のためにどのようなアクションが必要なのかまでをガイダンスします。

3. BetterUp

BetterUpは、企業向けのコーチングとメンタルウェルネスのプラットフォームを提供します。2013年に米国で設立。これまでに合計$570Mを調達し、企業評価価値は$4.7Bです。

コーチング、ガイダンス、リーダーシップトレーニングを通じて、従業員のパフォーマンスと幸福度向上を目指しています。主要なサービスは下記の3つです。

  • BetterUp Coaching: 高度に訓練されたコーチが、個人のニーズに合わせたコーチングセッションを提供。
  • BetterUp Care: メンタルウェルネスに焦点を当てたサービスで、セラピストやカウンセラーが従業員の精神的健康を支援。
  • BetterUp Insights: データと分析ツールを使用して、従業員のパフォーマンスを評価し、改善点を提案。

同社が提供するIdentify AIは、従業員の学習・能力開発のニーズを評価し、キャリアの状況、学習方法、コーチング状況に応じてセグメント化し、各人に必要なコーチング量、コンテンツ、コーチのタイプをレコメンドします。従業員のスキル面とマインド面を横断して「Human Transformation」の実現に焦点を当てています。

4.Workstep

Workstepは、主にブルーカラー労働者向けの人材採用・定着プラットフォームを提供します。2017年に米国で設立。これまでに合計$42Mを調達しています。

企業が適切な人材を採用し、従業員のエンゲージメントと保持率を向上させることを支援します。モバイルでの体験を強化ブルーカラーに焦点を当てていることが特徴です。

特に物流、製造、小売業界での人材管理を強化するためのプラットフォームを開発しており、主要なサービスは下記の3つです。

  • 採用管理:労働者の採用プロセスを自動化・効率化するツールを提供。候補者のスクリーニング、面接スケジューリング、バックグラウンドチェックなどを一元管理。効果的な求人広告の配信と、適切な候補者のマッチングを行うアルゴリズムを搭載。
  • 従業員エンゲージメント:従業員のフィードバックをリアルタイムで収集し、職場環境の改善や従業員の満足度向上を図る。
  • データ分析:採用から定着までのデータを分析し、組織の人材管理に関するインサイトを提供。これにより、経営陣はデータに基づいた意思決定を行うことができる。

おわりに

日本の労働生産性向上、高付加価値産業の創出、海外展開による外貨獲得などのテーマにチャレンジされる起業家の方(起業検討中の方)、是非事業ディスカッションさせてください!

ジェネシア・ベンチャーズからのご案内です。もしよろしければ、TEAM by Genesia. にご参加ください。私たちは、一つのTEAMとして、このデジタル時代の産業創造に関わるすべてのステークホルダーと、すべての人に豊かさと機会をもたらす社会、及びそのような社会に向かう手段としての本質的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を目指していきたいと考えています。TEAM by Genesia. にご参加いただいた方には、私たちから最新コンテンツやイベント情報をタイムリーにお届けします。

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