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企業の持続的な競争優位のために。強いカルチャーづくりこそ創業経営者の最重要ミッション|ツクルバ 村上 浩輝

ジェネシア・ベンチャーズがスタートアップ起業家に向けて立てた『10の問い』。

本稿では『組織カルチャー』というテーマで、株式会社ツクルバの代表取締役CEOである村上 浩輝さんにお話を伺いました。

  • 持続的な事業成長の土台となるカルチャーを自身が最も体現できているか?
  • 時代や事業フェーズの変化を踏まえて、カルチャーをアップデートし続けているか?

という問いへの、村上さんの回答はー?

    スタートアップは、半強制的に「不文律」を目覚めさせる必要がある

    interviewer:

    ツクルバさんというと、ミッションやビジョンが浸透してワークしている印象があります。改めて、村上さんがミッションやビジョンの存在をどう捉えているかやどのように重視しているかをお伺いしてもいいですか?

    村上:

    まず大前提として、企業の持続的な競争優位は「独自のビジネスモデル」「マネジメントの仕組み」、そして「やり切るカルチャー」の三要素で構成されると思っています。つまり、ミッションやビジョンは、その企業のカルチャーとして「企業の持続的な競争優位」になると考えます。なので当然ですが、個人や事業の成長や顧客の課題解決に繋がっていてこそ意味があります。
    なお、いろいろな定義があるかと思いますが、僕たちは「ミッション=普遍的なテーマ」「ビジョン=チーム全員が頭の中で映像としてイメージできるくらいまで中期的に目指す状態を共有するもの」「バリュー=それを実現するための行動指針」だと考えています。

    interviewer:

    今ツクルバさんのWEBサイトを見ると、企業理念のページにミッションの表記はないですよね。これは意図的なものなのでしょうか?

    村上:

    創業時に掲げた言葉であり、ミッションはずっと最上位にあり続けていますが、今年2月にバリューをアップデートしたタイミングで、ビジョンとバリューをより強調する方針に切り替えました。ミッションドリブンからビジョンドリブンへ、という意図があります。

    interviewer:

    戦略的に明示しているのですね。その経緯も後ほどお伺いしたいのですが、まずは今回のトークテーマである「組織カルチャー」というものを村上さんがどのように捉えているかを教えていただけますか?

    村上:

    「カルチャー」というと、チームをまとめる“なんだか良さそうなもの”という感じがする一方で、企業によっては、官僚的だったりリスクを取れなかったりという、組織に染みついているカルチャーが必ずしもポジティブではないこともあるでしょう。カルチャーというのは、結局は企業の不文律。長らく続けられてきた行動様式など、その組織に自然と染み込んでいるものだと考えています。スタートアップやベンチャー企業の場合は歴史がないので、まだ染み込んだものもない。だからこそ、半強制的に目覚めさせたり埋め込んだりする必要があると思います。

    interviewer:

    長い繰り返しの中で根づく「習慣」に近いものですね。だからこそ、カルチャーが自然に生まれるにはある程度の時間も必要だと。

    村上:

    例えば、僕はリクルートのカルチャーが好きなのですが、1980年代に入社された大先輩のお話を聴くと、その時点でもう言語化できるカルチャーが存在していたそうです。設立から約20年、従業員2,000人という規模の会社が、80年代にカルチャーをそれだけ重視していたのはすごいことだと思います。書籍にもなっていますが、当時の経営陣が「心理学的経営」というものを掲げて、良いとされる行動を言語化したりコミュニケーションのフォーマットを整えたりと、生々しい取り組みをしていたんです。その結果、今に至るまで不文律が染み込んでいる。
    カルチャーは一朝一夕には生まれなくて、現場や会議の場で実際にチームの人たちが共通して大事にしていることだったり体現している行動だったり、実際に働く上での軸になっているものだと思うんです。表立って言語化されていなかったとしても、それらがメンバーの口から語られるような状態が一番強い。そう考えると、スタートアップにはまだ染み込んだものがないので、言語化して根づかせて、気づいたら不文律があるという状態になるまでこだわって取り組む必要があると思っています。

    interviewer:

    そこまでこだわるようになったきっかけなどはあったんでしょうか?

    村上:

    やっぱり新卒で体験したリクルート系カルチャーの影響だと思います。言ってしまえば、会社に依存しないことや、自分で意思を持って厳しい自己成長をすることが求められるカルチャーでした。でも、おもしろい人たちがたくさん集まっていて、結果的にロイヤリティが高い。そういう、すごく強いカルチャーを目の当たりにしたので。

    実態に即したバリューのマイナーアップデートは日頃から実施

    interviewer:

    ツクルバで言語化されたカルチャーというと、今年(2024年)の2月にアップデートされた『5VALUES』になりますか?

    https://note.com/hirokidmc/n/n16f88d52e10f
    村上:

    はい、昨年中に作成して今年の2月に公開しました。カルチャーというのは企業の癖みたいなものだと思っているので、良いものは続ける、変えたいものは積極的に変えるというのが僕のスタンスです。アジリティを持って、生(ナマ)っぽく運用していくことです。注意点としては、こうありたいという願望を表明するだけでは絵に描いた餅になってしまうので、そのとき実際に社内で起きていることとか、社長が頻繁に口にしている言葉とか、そういった“カルチャーの種”を拾い上げて、“それをよしとする”というかたちで設定すること。

    interviewer:

    ツクルバではこれまでも頻繁にアップデートしていらっしゃるんですか?

    村上:

    今年2月に公開したばかりの『5VALUES』は創業以来のメジャーアップデートでしたが、バージョン2.0としておいていて、今後、2.1や2.2といったマイナーアップデートを実施していきたいと思っています。今回のアップデートの意図は、元々のやや抽象的だったバリューをより具体的に変えたことです。少人数のチームだったら、抽象的で広がりのある言葉でも共通認識が持てていたんですが、メンバーが増えてくると個別解釈も増えてきて、いまいちメンバーの行動に浸透していない感覚がありました。だんだんフレームが軋んでくるというか、輪郭がぼやけきているなというのが、チームを見ているとわかります。それで再定義しました。
    この『5VALUES』についても、少し変えようかという議論が早速始まっていたりもします。ここには入っていないけれど、みんなで意識しようと社内で言語化されていることが他にもあるからです。その一つが「ユーザー視点」。こちらがつくりたいものではなくて、ユーザーの視点やユーザーの課題から事業やサービスを考えようということです。もう一つは「オーナーシップ」。自分の仕事にオーナーシップを持つこと、そしてチームとして僕たちが世の中を変える当事者であろうということです。やらされている状態ではなくて、自分でやると決めてやる。会社としても、世の中の課題解決を他の誰かに任せるのではなくて、自分たちで解決しようという姿勢を大切にしています。少なくとも国内の住宅産業における特定の領域の課題については、僕たちが当事者として解決するんだと。この二点は、『5VALUES』には盛り込んでいませんが、実際に大事にしていることで、日常的に出てくる言葉なので、バリューに値すると考えています。

    ビジョン浸透の肝は、「絶対的な体現者」と「採用」

    interviewer:

    ビジョンやバリューを浸透させる施策はやはり細やかに実施されているんですか?

    村上:

    一丁目一番地は、「採用」です。身も蓋もないですが、人を変えようとか教育して伸ばそうとか、そういう考えは烏滸がましい。人はそんなにシンプルではないので、外圧では基本的には変えられません。人の成長は、やっぱり内発的動機でしか引き起こされない。なので、ビジョンやバリューの浸透というのも、最初の賛同がない人に対して後から染み込ませるのは本当に難しいことです。私の大好きな『ビジョナリーカンパニー』にも「偉大な企業になるためには、社長のカリスマ性ではなく、企業のカルチャーにフィットした人材をいかに採るかが重要」とあります。最初から共通の目標や価値観に賛同できる人をバスに乗せることが本当に大事です。

    interviewer:

    その“バスに乗せる人”をどのように見極めていますか?

    村上:

    技術やスキルではなく、マインドが大事です。カルチャーフィットする人を採用すること。そして、こちらが候補者を見極めるにしても、候補者から共感を得て入社してもらうにしても、僕たちが実践することは同じで、組織のトップである僕やマネジメントメンバーがカルチャーの絶対的な体現者であることです。組織は上からしか変わりませんから、言ってしまえば、カルチャーを率先して体現できない経営メンバーはいない方がましです。

    interviewer:

    そういった思想は、全社会などで伝えるんですか?

    村上:

    宗教の布教には、教祖・経典・聖地・儀式という四要素が必要だと言われています。仮に会社を宗教に例えるとすると、教祖=経営者、経典=ビジョンやバリュー、聖地=オフィス、儀式=社内イベントと言えるでしょう。全社キックオフは、儀式に該当する布教の起爆剤のような位置づけなので、とても大切にしていますし、経典とその経典を広めてくれる布教者の存在も同様に大切だと思ってます。布教者=経営メンバーやマネージャー陣です。もちろんその場だけでなく、常日頃からマネージャーを通じて上から下へ組織のバリューをしっかりと伝えられるかが一番の肝です。暗唱できるかどうかではなく、やり切る背中を見せるということです。

    大きく強い組織を目指す経営者こそ、カルチャー濃度を高める意識を

    interviewer:

    採用には今も村上さんご自身が関わられているんですか?

    村上:

    中途採用は一部任せていますが、新卒採用は全員対応しています。来年(2025年4月)には24人の新卒社員が入社予定です。

    interviewer:

    意図的にそうしているのですよね?

    村上:

    持続的な競争優位のための「ビジネスモデル」「仕組み」「カルチャー」の三要素のうち、やっぱりカルチャーこそが仕組みを回すエンジンで、強いカルチャーをつくるためには新卒メンバーが多い方がいいと考えているからです。

    interviewer:

    新卒採用はいつ頃から始められたのですか?

    村上:

    もう8期目とかじゃないでしょうか。

    interviewer:

    初期の新卒社員などはもうコアメンバーになっているんでしょうね。

    村上:

    当初は組織もカオスでビジョンも抽象的だったので、今ほどカルチャーマッチの度合いは高くなかったかもしれませんが、ベンチャーマインドと当事者意識があり、コアの部分で同じDNAを持っているメンバーたちです。まさに、いろいろなところで活躍してくれています。

    interviewer:

    中途採用だと、その方が新卒で入社した企業のカルチャーに染まっていることも多くて、だからこそ自社とのカルチャーマッチをジャッジしやすい気もするのですが、ある意味まっさらな状態の新卒はどう判断しているのですか?

    村上:

    社内では『採用のSTO』と言っているのですが、「素直さ」「チームワーク」「オーナーシップ」を見極めるためにいろいろな質問を投げかけています。ただ、それ以前に感覚でわかる部分も大きいかなと思います。
    新卒採用の目的は、カルチャーネイティブな人をつくることです。創業期や中途採用のチームだと、カルチャーネイティブな人は社長やコアメンバーしかいない。そこからチームをつくっていくことも不可能ではないですが、やっぱりそのカルチャーを“当たり前”として育った濃度の高い人たちが、それを新しい人たちにも浸透させていくループにする方が、何十年も続く、何千人という規模の会社になる近道だと考えています。

    interviewer:

    組織の何割くらいを新卒が占めると良いといった指標などはあるんでしょうか?

    村上:

    今は僕たちも比率を上げていくフェーズにいますが、絶対解はありません。多様性のない種族(組織)もまた滅びてしまうので、カルチャーの濃度や多様性、事業の成長角度やフェーズなどを見て判断することになると思います。

    組織のフェーズに合わせて、伝達の粒度を変化させる

    interviewer:

    事業や組織の拡大を通じて、創業期から変わらない部分と変わってきた部分があるかと思います。村上さんご自身も、変えるべきところは柔軟に変えていくとおっしゃっていましたが、ツクルバとしてはどんなことが挙げられますか?

    村上:

    変わらない部分としては「オーナーシップ」があります。自分の仕事にオーナーシップを持つということは、ひいては自分の人生にオーナーシップを持つということ。ツクルバでは特に妥協のないオーナーシップを求めています。何のために仕事をしているかというと、自己成長と世の中への貢献のためですよね。その目的がうやむやなまま働いてもインパクトは出ない。他人任せにしたり環境依存したりしていても成長しない。どんなに儲かって楽な仕事でも、やらされているものではつまらない。自分が選んだ場や手段で、目的を共有する仲間と一緒にそれらを達成する喜びや一体感といったものが、人生においてとても大事だと思っています。僕はそういう「オーナーシップ」をメンバーに正々堂々と求めています。あなたの成長というのは、まず何よりもあなたのためであって、でも、それがチームのためになり事業の成長に繋がり、お客様や社会に貢献できるインパクトを増やせるようになるということだと。つまり、“自分(あなた)の成長が社会にとって良いことだ”というのが、僕とツクルバの思想なんです。だから正々堂々と、自分の成長を追求してほしい。自分の成長にオーナーシップを持ってほしい。

    interviewer:

    自己成長はもちろん自分の人生のためのものではあるのだけれど、チームへの、会社への、そして社会へのグッドインパクトへ波及していくということですね。逆に、変わった部分はありますか?

    村上:

    先述の通り、変えるべきと思ったら、随時バリューをアップデートしていきたいと思っています。思想の部分というよりは、伝達の粒度を変えているというのが正しいかもしれません。当初は、受け手の解釈や感性に委ねたり余白をみんなで議論したりすることもカルチャーの浸透のためには重要だと思っていたんですが、それではやっぱりコミュニケーションコストが上がる一方なので、より具体的にYesとNoをはっきりさせることでマネジメントコストを下げることを今は意識しています。

    interviewer:

    今回のバリューのメジャーアップデートは皆さんで話し合われたんですか?

    村上:

    基本的には社長直轄プロジェクトとしてチームをつくり、僕が決めました。そこはトップダウンで意思を持つところかなと。ただし、全く新しいものを打ち出すというよりは、組織の中の不文律を改めて掘り起こして具体化するイメージなので、メンバーにとっても唐突感はないのではないかと思います。

    持続的な競争優位戦略として、カルチャーを強めていくことにコミットする

    interviewer:

    ツクルバの事業の本流であり、布教における聖地という表現もありました、「オフィス」にかける想いも伺えますか?

    村上:

    まさに、オフィス=宗教においての聖地だと考えています。同じものを目指す人たちが集まる場所。でも、ただ集まるだけでは意味がない。コラボレーションのためのコミュニケーションが生まれることが、オフィスの目的です。作業の場ではなくて、「共存・共創・共栄」の場。そのためのソフト面の施策を様々実施しています。

    interviewer:

    ツクルバらしさが滲み出るような施策を打ち出すときに、何か意識していることはありますか?

    村上:

    ツクルバならではのユニークな思想や方針があるというよりも、継続的に成長している会社の共通項としての「ビジネスモデル」「仕組み」「カルチャー」のうち、僕は特に「カルチャー」への思い入れが強いんだと思っています。「いや、ビジネスモデルだ」「仕組みだ」という経営者の方もいるでしょう。でもやっぱり、リクルートやサイバーエージェントなど、強烈なカルチャーを持ったメガベンチャーに触れた人は、その強さを体感している。ロジックじゃないものがあるとわかっている。だから僕は、カルチャーが強くて成長し続けている企業を分析して要素抽出して、自分たちなりにアレンジしている。それ自体はすごくシンプルな行為です。“ツクルバ流”や“らしさ”みたいなものは、最後の最後に考えるHowくらいだと思っています。

    interviewer:

    たしかに私たち社外の人間が受け取っているのはHowの部分に出ているツクルバらしさなのかもしれません。でも、ここまでのお話をお伺いしていると、その施策に至る目的やWhyまで明確に示していることや、村上さんの“やり切っている姿”が真のツクルバらしさと言えるのかもしれませんね。少なくとも、会社の中の皆さんはそう感じているのではないかなと思いました。

    村上:

    「経営者が何にコミットしているか?」を見せるのはとても大事なことです。僕の場合はカルチャーに強烈にコミットしている姿勢を見せているつもりです。なぜなら、そのコミットがなくても数年なら伸びるかもしれませんが、何十年も継続的に成長していく会社をつくるとしたら、それは絶対に必要なものだと思うからです。繰り返しになりますが、持続的な競争優位戦略として、カルチャーを強めていくことに僕はコミットしています。

    interviewer:

    創業期からそのコミットを持たれていたんでしょうか?

    村上:

    最初は、リクルートっぽい会社をつくれたら強そうだな・・というくらいの感じだったと思います。でも、当然それだけでは曖昧だし弱い。実際に経営をしていく中で強い会社の要素がわかってきたり、様々な思想や流派の中から取捨選択を迫られることがあったりと、そうした意思決定の過程で強度が上がっていったと思います。いろいろな意見もありますが、誰かに迎合していたら、強いものはつくれない。批判されたり宗教的だと言われたりしたとしてもやるぞと、カルチャーを中心に置いた経営をすると、信じてやり抜くことに決めたんです。

    ※こちらは、2024年12月17日時点の情報です

    • インタビュアー:ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 黒崎 直樹、PR Specialist 李 彩玲
    • 編集:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田 愛
    • 写真、デザイン:尾上 恭大さん、割石 裕太さん

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