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「アジアを代表する会社になる」ために、必要な成長率と時代に合わせたスローガンを上段に置いた目標設計を|Anymind Group 十河 宏輔

ジェネシア・ベンチャーズがスタートアップ起業家に向けて立てた『10の問い』。

本稿では『目標設計と成果へのスタンス』というテーマで、AnyMind Groupの代表取締役CEOである十河 宏輔さんにお話を伺いました。

  • 目の前のその目標は長期的な企業価値の最大化に繋がるものか?
  • ビジョンからの逆算と足許からの積み上げをシームレスに繋ぐデザインが描けているか?

という問いへの、十河さんの回答はー?

グローバルな事業展開において、国ごとのマネジメントチームをいかに構築していくか

interviewer:

今年で創業から9年目を迎えるAnyMind Groupは、すでにアジア15カ国・地域(以下、15カ国)で事業展開と、なかなか類を見ない急速な成長をされてきていると思います。今回は「目標設計と成果へのスタンス」というテーマでお話を伺いたいと思いますが、まずは、このシリーズの大上段のテーマである「組織創り」について、十河さんの中で意識されてきたことやされていることなどはありますか?

十河:

最初からグローバル展開を前提にビジネスを考えていたので、国ごとのマネジメントチームをいかに構築していくかがすごく大事だと考えてきましたし、今でもそう考えています。事業と国とのマトリクスに照らして、どのように、また、どのようなマネジメント人材を確保するのか。カントリーマネージャーの資質や思想がどうしてもそのチームに色濃く影響するので、同ポジションの採用や育成は、創業当時からかなり意識しているポイントです。やっぱり妥協はできませんから、場合によってはアクハイアリングのような手段の活用なども考えながら動いています。

interviewer:

国内と海外では、マネージャーの採用要件や求めることは変わりますか?

十河:

正直あんまり変わらないと思います。あるとすれば、現地の商習慣や文化への解像度が高かったりそれに合わせてチームをマネジメントできたりという要件が重要だと考えています。例えば、タイのカントリーマネージャーが日本のカントリーマネージャーを兼任できるかというと、やっぱりそれはなかなか難しい。当たり前ですが、日本でもそうであるように、英語だけのコミュニケーションでBtoBの営業を完結させることはできませんよね。タイやベトナムでも同じです。最後はローカルの言語でクロージングする必要がある。徹底的にローカライズが必要な部分です。

interviewer:

現地に精通しているというポイント以外に、AnyMind Groupとしてマネージャーやリーダーに求める要件などはありますか?

十河:

コーポレートバリューを体現できる人というのは前提条件です。僕らは創業時から今も変わらず、未来の成長に対して貪欲に向き合っている会社だと思うんです。そのビジョン・ミッションへの共感やカルチャーの理解は大前提だと思います。

自社開発の経営管理ダッシュボードを通じて、組織全体のコミュニケーションに透明性を

interviewer:

展開する国にしても事業の数にしても、かなり難易度が高いチャレンジをしていらっしゃると思うのですが、コアとなるコーポレートバリューを全体に浸透させるために意識されていることなどはありますか?

十河:

社内コミュニケーションの透明性はすごく重視していて、どのポジションのメンバーに対しても同じ解像度で情報共有する体制を敷いています。例えば、日本の新卒メンバーがインドネシアの特定の事業部の状況を知ろうと思えば知れるような経営管理ツールを導入するなどです。また、全体で約20人ほどの各国のマネジメントメンバー向けには週に二回、グローバルのマネジメント会議を実施しています。一回はコーポレートアクションやプロダクトのアップデートなどを議論する場で、数字に関係ないテーマを扱います。もう一回は各国の事業の進捗状況をアップデートする場で、こちらは完全に数字にフォーカスした会議です。そこで得た情報も各チームのメンバーに伝えて社内の情報格差をなくし、バリューの浸透を図っているイメージです。

interviewer:

伝達や浸透という点で、組織としてはどのような体制なのですか?

十河:

グローバルで全体を見るコミュニケーションチームに加えて、各国にコミュニケーションメンバーがいて、カントリーマネージャーと一緒に各国の社内コミュニケーションを担っています。社内広報や採用広報も彼ら彼女らが担当します。

interviewer:

経営管理ツールというのは独自のものなのですか?

十河:

はい、自社開発したものです。国ごとのランキング、目標達成率、各国の事業やプロジェクトの細かな数字のデータまでリアルタイムに確認できます。

interviewer:

このツールへの投資というか開発にはいつごろ着手されたんですか?

十河:

元々は外部のサービスを使っていましたが、2024年の夏くらいに乗り換えました。自社のプロダクトやCRMなどとAPI連携していて、実績やパイプラインのデータが全てここに入ってくるようになっています。各国の各事業の状況が一目瞭然だし、週次のマネジメント会議でもここの情報を参照しながら議論するので、ワールドカップのアジア予選が毎週行われているような状況です。この体制は、創業時からずっと続けています。

interviewer:

経営においても必要なダッシュボードであり、それ自体をオープンにすることで情報を可視化して組織創りにも一役買っているということですね。

十河:

僕らの強みは、15カ国で事業を展開してるからこそいろいろな経験をしているということだと思うんです。もちろん失敗もしているわけですが、その経験があるからこそ、同じような失敗しないように各国で対策できるんです。そのネットワークが広がれば広がるほど、好循環やシナジーが生まれて全体的に成長していける。その仕組みの一つが、この経営管理ダッシュボードです。

成長市場のマーケットリーダーを狙うために必要な成長率を目標の大上段に設定

interviewer:

コミュニケーションやコーポレートバリューの重視、そしてそれを後押しする独自ツールの活用など、難易度の高いグローバルチームの組織運営に関する大きなTipsをすでにいくつか教えていただきましたが、やはり事業として大きな成果を生み出す基盤となるのが、適切な「目標設計」だと思います。十河さんとAnyMind Groupの方針を伺えますか?

十河:

僕らは、東南アジアという急成長中のエリアで、こちらも成長中で見通しの明るい事業を展開しているので、それらを掛け合わせた一定のマーケットリーダーになるために必要な成長率というものがあると考えています。それがベースラインです。具体的には、グローバル全体で30%を目指したいと考えています。その上で、マーケットのポテンシャルやフェーズを踏まえてカントリーマネージャーやビジネスヘッドとすり合わせをしながら、各国に合わせた目標を設定しています。

interviewer:

なかなかにチャレンジングな数字ですね。

十河:

ずっと日本国内だけで事業展開すると考えるとそういった印象になると思うのですが、僕らは対象人口40億人+のマーケットで勝負しているので、それくらいの気概をもたないとマーケットリーダーにはなれません。

interviewer:

創業時からいくつかの成長フェーズがあったと思うのですが、成長率30%という基準はずっと変わらないのでしょうか?

十河:

当初は30%でも小さいくらいでした。この2-3年の上場前後はしっかりとした予実の報告も求められるので、それに応えるには必要なラインかなと。規模が大きくなればなるほど30%をクリアするのもなかなか難しくなると思うんですが、今のところは達成できています。

時代や世の中の流れをキャッチアップするために、あえて定性的な目標も掲げる

interviewer(黒崎):

何か定性的な目標などは設定されていますか?私の前職のSansanでは、「今年は逆張りする」といった定性的なスローガンのような目標を設定するルールがあったんです。

十河:

大事なことですよね。オフィスにポスターを貼ってあるんですが、今年は「New Initiative」という目標を掲げています。生成AIの影響が大きいです。昨年から社内に向けて、生成AIを活用したオペレーションに再構築してほしいとか全てのプロダクトにAI搭載してほしいとか、そういった大号令をかけてプロダクトの強化を推進してきましたが、今年もその流れは続くと思うので、どんどん新しい仕掛けをしていこうという想いを込めています。ちなみに昨年は「Synergy Creation」でした。クライアントやインフルエンサーのネットワークをどんどん拡大していたので、AnyMindが持っているそうしたアセットをフル活用しようということで設定していました。

interviewer(黒崎):

一つのそうしたスローガンを社内にブレイクダウンさせているのですか?

十河:

そうです。例えば、プロダクト開発のチームでは全てのプロダクトのAIを搭載するという目標を立ててもらっていますし、オペレーションやコーポレートチームにもAIを活用した生産性の改善を求めています。

interviewer:

生成AIの影響は本当に大きく、事業の観点でも生産性の観点でも、そもそも組織図をどのように設計していくかという前提も変わり得るようなテーマですよね。

十河:

世の中の流れというのはどうしてもあるので、その流れにしっかりと乗ることがやっぱり大事だと思っています。そういった意味でも、定性的なスローガンのような目標は大事ですね。

interviewer:

ちなみに、やや大振りで横道に逸れる質問かもしれませんが、これからのAI時代の組織創りについて何かお考えはありますか?

十河:

10人月かかっていたことが1人月でできてしまうという現実がすでにあるので、新規採用のスピードが一気に下がることはあり得ると思います。また、AIの進化はさらに加速するはずなので、ある程度ドラスティックな意思決定が必要になる局面も出てくるかと思います。ただ、僕らはいわゆるBPaaSという形態でSaaSとBPOを組み合わせたソリューションを提供しているので、これまでオペレーションメンバーが提供していた100の価値をAIによって1,000にも2,000にもできる可能性があります。そういった意味では、ピュアなSaaS事業よりもAI活用の余地とインパクトがかなり大きいんです。良いポジションにいると思います。

interviewer:

展開している事業や国の数も多いですから、その全てのデータを活用できることでそもそもの強みにも拍車がかかりますね。また、AnyMind Groupが先駆けとなるような新しい活用事例なども生まれてきそうです。

十河:

一つ一つの活用方法というのももちろんですが、むしろ、このAI時代においてどのようにAIと関わっていくかという姿勢や方向性を決めるのも経営の重要な意思決定だと思っています。昨年はAI活用を前提としたオペレーションの再構築などをテーマに取り組んできたので、今年は新しい事例の共有や新しいアプリケーション、エージェントなどの社内コンペなども実施しています。また、逆にどういったところを人間がしっかりとやり続けなければいけないのか?というテーマについても議論しています。例えば、前時代的とも言われるウェットなBtoBの営業などはAIでの置き換えができないため、むしろこれからの時代こそ強力な差別化のアクションになるのでは?というような。

interviewer:

早くも、会社全体でインプットからアウトプットへというフェーズなのですね。

全員にとって納得感のある目標設定は難しいからこそ、丁寧なコミュニケーションを

interviewer:

定量・定性を含めて、目標設定の難しさはどのようなところにあると思いますか?

十河:

みんながみんな納得する目標を最初から設定することは、やっぱり難しいです。そこはコミュニケーションでしか解決できないと思うので、議論を重ねて徐々に落としどころを決めていくわけですが、そのプロセスはいつもけっこうハードですね。社内の仲間同士なのに、交渉し合っているみたいな状況になります。カントリーマネージャーはローカルマーケットのプロたちなので、僕のトップダウンだけでは決められませんし、そこを軽視したら絶対にコミットメントが得られません。

interviewer:

反発や拒否があった場合はどうされますか?

十河:

メンバーの納得感を得られない状況を作ってしまっていては、マネージャーとして失格だと思います。僕らの場合は明確に「アジアを代表する会社になる」ための目標設計をしているので、そこを外してしまったら、そもそも自分たちがなりたい姿になれないということです。

interviewer:

目標設定を間違えたというご経験はありますか?また、そのときどのように軌道修正しましたか?

十河:

目標が低すぎたケースがあります。そして、その目標を大幅に達成したときに上方修正するかしないかというのは、意思決定の大きな分かれ目でした。僕は絶対に上方修正した方が良いと考えるタイプで、会社全体への貢献度やパフォーマンスボーナスについてしっかりとすり合わせをした上で、さらにストレッチをかけることを良しとしています。レビューのタイミングも一年に一回では遅いので、なるべく即時対応するようにしました。

interviewer:

絶妙なラインでの設定と、やはり丁寧なコミュニケーションが大事ですよね。

十河:

上方修正は、基本的にはすごくポジティブなことだと思います。修正後の目標が達成できなかったとしてもそのチャレンジは評価に値しますし、それを達成すれば元々の目標よりもプラスオンしているわけなので。経験上、目標を与えられた本人とのコミュニケーションに加えて、チーム全体とのアラインも大事だという印象です。

interviewer:

当たり前かもしれませんが、目標設定の対象期間の終了時に達成率100%である状態がゴールでしょうか?

十河:

基本的にはそうです。ただ、国も事業も複数展開しているとややトリッキーな部分もあって、成長率は60%以上だが達成率は95%だったという国があったり、成長率は30%だが達成率は100%だという国もあったりします。なので僕らは、国ごとの達成率、絶対額、成長率という三種類のランキングを設定しています。単一事業なら別ですが、僕らのように複数の事業があると全員が納得する単一指標を設定するのは難しいので、なるべく妥当性の説明ができるような複数の指標を設定しています。

「アジアを代表する会社になる」ために。強いマネジメントチームで、強い企業と事業をつくる

interviewer:

最後に改めて、コーポレートバリューと定量・定性的な目標が浸透し、そしてその達成にコミットできる組織には何が重要だと思われますか?一つ挙げるとしたら何でしょう?

十河:

やっぱり一番は、マネジメントチーム(経営陣)の強化だと思います、AnyMind Groupは、元々Co-Founderの小堤と僕の二人でスタートした会社で、0→1のフェーズは僕らがジェネラルにいろいろなことをしなければいけませんでしたが、組織を拡大するにつれてどんどんマネジメントチーム内での役割分担が大事になってきました。当たり前ですが、CFOは僕よりも断然ファイナンスに強いスペシャリストですし、カントリーマネージャーたちもまさに現地でのビジネスのスペシャリストです。僕にも代替できない部分がある。そういった人たちをオーガニックで採用できればいいですが、なかなかそういうわけにもいきません。だから僕らはM&Aを有効活用しています。その国で一定でうまくいっているビジネスを牽引してきた、その国ローカルのノウハウを持っている人たちにマネジメントメンバーとして参画してもらう。それが僕らのグローバル展開の一つの成功のポイントかなと思っています。

interviewer:

事業面での経営統合という意味合いだけでなく、プロフェッショナルな経営人材の獲得も見据えたM&Aを実施しているのですね。十河さんはマネジメントメンバーにどこまで権限移譲されているのでしょうか?

十河:

ローカルですべきことなのかグローバルで統一すべきことなのかで、権限委譲のバランスを変えています。具体的には、セールスやマーケティングというのは商習慣そのものでローカライズが必須の領域なので、基本的にはカントリーマネージャーに任せます。一方で、プロダクトの機能開発においては、全体へのインパクトが最大化するような優先順位をグローバルで議論しています。

interviewer:

私たちジェネシア・ベンチャーズも、スタートアップに向けて、“チームを創ることができる”マネージャーやリーダークラスから仲間を集めていこうというメッセージを発信しています。強いマネジメントメンバーが強い企業・チーム、そして強い事業を創るのだということを改めて実感できました。また、そこに寄与する目標設計の重要性についても認識を新たにしました。これからのAnyMind Groupもさらに大きく強い企業になっていかれるかと思いますが、十河さんから見て今のAnyMind Groupは創業当初に思い描かれていた状態や実現したいビジョンから逆算すると何%くらいの達成率だと思われますか?

十河:

まだまだ市場が大きいので、10-20%程度じゃないでしょうか。創業時から今も変わらず、僕らは「アジアを代表する会社になる」ことを目指しています。Tencentやリクルートといった企業に比べたら僕らはまだまだちっぽけな存在ですが、事業の規模も企業価値もこれからまだ何十倍と大きくしていきたいですし、それくらいのアップサイドはあると思っています。国はある程度広げてきました。ここからは各国のビジネスをさらに深掘りしていく、僕らにとってもまた新しいフェーズに入っていくと思います。

※こちらは、2025年4月1日時点の情報です

  • インタビュアー:ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 黒崎 直樹、PR Specialist 李 彩玲
  • 編集:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田 愛
  • 写真、デザイン:尾上 恭大さん、割石 裕太さん

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