
【勉強会】「プロダクトと顧客との対話だけに集中せよ」—Rice Capital福山太郎さんが語る、スタートアップが陥る「死の谷」の乗り越え方
ジェネシア・ベンチャーズでは、起業家の視座を高め、リアルな学びと実践知を届けることを目的に、さまざまな勉強会を開催しています。
今回は、日本人で初めてYコンビネーターに採択され、トップティアVCからの資金調達、そして欧州最大の同業企業と合併する形でM&Aを経験など、数々の実績を持つ起業家であり、現在はソロGPファンドとして日米のスタートアップに投資する福山太郎さんをお招きし、主に、これからシリーズAの資金調達や大幅な事業グロースに臨もうとしているジェネシア・ベンチャーズの投資先10社に向けてこれまでのダイナミックな経験についてお話しいただきました。
本イベントレポートでは、PMFの確立、エンタープライズ向けへの転換、組織拡大の壁、資金調達のリアル、そして会社売却の決断に至るまで、スタートアップが直面するあらゆる局面における実践的な知見と、成功と失敗の裏側にあるリアルな学びをお届けします。
- モデレーター:ジェネシア・ベンチャーズ 鈴木 隆宏
- 編集:ジェネシア・ベンチャーズ 柏崎 千佳、吉田 愛
- 本イベントレポートの制作には、ジェネシア・ベンチャーズの投資先であるStoryHub株式会社が提供する、オールインワンAI編集アシスタントサービス『StoryHub』を利用しました。詳細・トライアルについては、公式サイトをご確認ください
Yコンビネーターが教える、スタートアップが集中すべき“たった2つ”のこと
Yコンビネーターといえば、AirbnbやDropboxなどを輩出してきた世界で最も実績のあるシードアクセラレータとして知られていますが、Demo Dayまでの3ヶ月間にどんなことをチューニングされ、その中でも特にどういうことが求められるのでしょうか?
僕が参加したのは2012年ですが、その時はDemo Day時点で売上があった会社は1割くらいでした。今だと、年4回のバッチに参加する約600社の内、Demo Day時点で売上があるのが7割くらいです。平均ARRで1,000万円ほど。これらのプロダクトは、基本的にYコンビネーターに入ってからローンチされたもので、僕らの時のトップクラスの会社は週次10%、3ヶ月で3倍くらいの成長率でした。
当時Airbnbは達成したと言われていましたけど、厳しい目標です。ただ、最近では4バッチ連続で参加したスタートアップが平均して週次10%前後伸びています。
3ヶ月でそこまでのトラクションを作るためにどんなメンタリングが実施され、どんな学びがあったのでしょうか?
一番分かりやすいのは、徹底的に集中させられることです。採用もPRもイベントも飲み会も無駄。プロダクトを作ることと、顧客と話すこと。その2つだけやればいい、というのが前提です。もう1つが、週に1回、世界中のYコンビネーターの同期たちと行う情報共有です。「こういう施策で先週の売上が8%伸びたよ」「じゃあうちもやってみよう」みたいな、その同期との関係性と情報共有がかなり成長に寄与していました。
最初のPMFは勘違いだった?SMBからエンタープライズへのピボットの真相
福山さんがまず最初に「PMF(Product Market Fit)したな」と感じた瞬間はいつでしたか?また、PMFまでの一番のハードルは何でしたか?
多くの人に「まず最初は、創業者が直接顧客に営業することが大事だ」と言われていたのですが、僕は英語に苦手意識があったので、すぐに営業の人を採用しました。最初はスタートアップを中心にめちゃくちゃ売れて、毎月30%くらい成長していったんです。「あ、意外とできるな」と感じて、それをPMFだと誤解したのが最初ですね。
多くのスタートアップが、始めは導入が進みやすい顧客から入っていって、後にエンタープライズにシフトすることを考えると思います。何が誤解だったんでしょうか?
僕たちが提供していたのは福利厚生のサービスですが、日本とアメリカの企業ではちょっと違いがあります。アメリカでは、GoogleとかFacebookに入ると福利厚生があるんですけど、スタートアップにはないので、そこをうちが手伝いますよっていう営業をしてたんです。それでシリコンバレーでは売れるんですけど、でも、例えば地方の病院からすると「うちはGoogleが採用競合じゃないから、福利厚生なんていりません」ってなっちゃう。
PMFというのは、プロダクトとマーケットがフィットすることですが、マーケットがそもそもなかったんですよね。そんな中でも、無理やり売り切ったっていうのが最初の2年くらいでした。でも、シリーズAでDCM(アメリカのVC)から資金調達して、更に売上を伸ばしていくぞってタイミングで、スタートアップ相手の商売なので単価が上がらないとか、それでいて顧客獲得コストも高いとか、顧客が経営不振で解約率が高くなるとか、そういった課題が浮き彫りになってきました。「このままではヤバい」ってなったのが4年目くらいですね。
今振り返ってみると、ローンチして2年目くらいにSalesforceへの全社導入が決まったんです。その時に、第二・第三のSalesforceといった具合にエンタープライズを獲得しに行けたはずなのに、比較的簡単に獲得できるスタートアップに流れてしまった。それで3年くらいを失いました。
スタートアップが陥る「死の谷」と、エンタープライズシフトの重要性
予想していたよりもマーケットが小さかったことに気付いた4年目以降、対象顧客をSMBからエンタープライズにシフトしたということですね。事業によると思うんですが、ちなみにエンタープライズにシフトする時、どんな苦労がありましたか?案外スムーズにいきましたか?
前提として、ARR100億円の売上を作るには、単純に1億円の顧客を100社か、1,000万円の顧客を1,000社か、100万円の顧客を10,000社獲得する必要があります。その中でも年間100万円の単価でARR100億円作るのはめちゃくちゃ難しい。
例外が2つあります。1つが、グローバルかつボトムアップで顧客獲得できるPLG(Product Lead Growth)。例えば、今のNotionとかSlackとかZoomとか。営業しなくても世界中の顧客を初期的に獲得できるので、単価が低くてもいけます。もう1つが、スタートアップ以外の中小企業にも必須のサービス、例えば会計ソフトとか。この2つ以外は基本的に難しいと思います。
なので、できるだけ早くエンタープライズにシフトするべきだったというのが答えですが、もちろん簡単ではありません。具体的には、SMBが顧客でも日本では多分ARR2-3億円くらいまでは勢いで行けると思うんですけど、そこからトップラインは伸び悩み、解約率が重荷になってきます。だけど、「絶好調です」と言って資金調達した手前、採用計画にコミットしていたら人がめちゃめちゃ増えて、売上は上がるけど「ヤバい」みたいな状態に。それでも無理やり採用やマーケティングに資金を使って勢いで解決しようとしてドツボにハマる・・っていうのが、大抵のスタートアップに起きることです。
これはアメリカでも往々にしてある、顧客ターゲットのスタートアップや中小企業からエンタープライズへの切り替えの「谷」。早くやればやるほどこの谷の期間は短くなるし、遅ければ遅いほど長くなっちゃうので、やっぱり早くやった方がいい、というのが結論になります。

組織拡大の壁と、経営者が「起業家」から「経営者」に変わるべき時
創業から2年ほどで月次30%ずつ成長している時とエンタープライズ向けにシフトしていく時、組織はそれぞれ何名くらいだったんでしょうか?期間や事業フェーズごとに区切ると、どれくらいの規模感で成長させていったのでしょうか?
50人くらいの規模感までは勢いで増やしてました。でも、顧客が変われば、それ相応に人材も変わる必要がある。スタートアップ向けなら、Tシャツ短パンで「Yコンビネーター出てます」みたいなセールストークでいけるんですけど、エンタープライズ向けなら、やっぱりちゃんとした服装や振る舞いの人が必要です。アメリカだと、西海岸と東海岸でも雰囲気が全然違います。例えば東海岸で、特にエンタープライズを開拓していくとしたら、若い創業者を打ち出すよりも、信頼と実績のあるマネジメントチームがあることなどを打ち出した方がいいなど。ターゲットやエリア、フェーズによって採用する人材も変化させていかないといけないです。
もともと英語が苦手だったと仰っていたので、組織創りやマネジメントも苦労したんじゃないかと思いますが、特に大変だったことは何でしたか?
30人から50人になるくらいの時期に、「起業家」から「経営者」に変わることを意識していました。でも後になって、それは間違っていたと感じます。やっぱり創業者が現場から離れれば離れるほど、現場や顧客の解像度がどんどん失われていくんです。そうなるとプロダクトの解像度が下がってしまい、当たり前のプロダクトしか作れないし、組織にも良くない人が集まってくる。50人手前くらいの組織で、権限移譲を意識し過ぎたことによる失敗はたくさんあったなと思います。
経営者が最後まで手放してはいけないこと
もし当時に戻れるとしたら、手放すことと、絶対に手放さないこと、その順序などはありますか?
プロダクトを作ったら、まずは創業者自らが営業をやった方が良いです。1人でもギリギリ回りますし、個人的には、1人か2人でARR1-2億円は作れるかなと思います。そうして新規の顧客が増えてきたら、営業の人員を増やして、既存の顧客の満足度向上のためにカスタマーサクセスに自分の時間の使い方を移していく。で、そのうち新規顧客のリードが足りなくなったらマーケティング、みたいな順番じゃないでしょうか。
手放さないものは、一番はプロダクトかなと思います。次が顧客との接点。週1くらいでお客さんと会っているかどうかでかなり差が出ると思います。売上トップ50社と会っていると、本当に解像度が上がります。現場担当からの話だけ聞いて分かった気になっているのとは雲泥の差です。
トップティアVCからの資金調達の本質は「成長率」に尽きる
資金調達において意識していたことはありますか?
資金調達にはいろんなテクニックがあると思うんですが、結局、会社が伸びているかどうかが一番の本質です。なので、投資家と対話する時間というのはそんなにいらないんじゃないかなと。VCからすると、例えば自分の投資先から「めっちゃいいですよ」って紹介されたサービスなら、そこへの投資をすごく前向きに検討すると思うんです。だから、いろんな紹介ルートの中でも、そのVCの既存の投資先からの紹介というのはとても有効だと、僕は思います。でも、本質はあくまでも、トップラインが高い成長率で伸ばせるかどうかです。
今日この場にいらっしゃっている皆さんは、これからシリーズAに向けて動いていくステージの方が多いと聞いています。僕の勝手な統計データですけど、具体的には、大体ARR5,000万円から1億円くらいの規模感で、年次で3倍伸びてるか、2倍伸びてるかで、やっぱりトップラインに大きな差が出ます。そして、資金調達って需給バランスで決まってくるものなので、成長率の高いホットなスタートアップに多くの投資家が集まります。そういった意味では、成長率が3倍か2倍かでいうと1しか変わらないんですけど、そこが大きな違いになる。ARR5,000万円のフェーズで年次の成長率が3倍に届かないと、早い段階で成長が鈍化する気がしています。なので、初期の成長率を冷静に見極めて、伸びが小さそうであれば早めに一度しゃがむ意思決定をして、もう少し強いPMFを探す方向に持っていかないと、逆にきつくなるんじゃないかなと。
投資家との最適なコミュニケーション:月次アップデートの重要性
実際に資金調達した後の株主とのコミュニケーションやステークホルダーマネジメントにおいて、苦労されたことや工夫されたことはありますか?
今自分も投資家の側になって思うんですが、投資した後にアップデートをもらえないと、何のサポートもできないですよね。 1年連絡がなかったのに、いきなり「資金調達します」って言われても、状況が分からないので、投資家紹介などもしづらい。アメリカでは、全株主に対して毎月KPIのハイライトとローライトを書いて送る、インベスターアップデートっていうのが当たり前になっています。それは僕も必ずやってました。
取締役会には、外部のVCを入れてたんですか?
外部VCは1社入れてました。
外部VCとの取締役会ってどんな感じでしたか?
アメリカの取締役会は3ヶ月に1回程度の開催で、前日の夜にみんなでご飯を食べながらアジェンダを出し合って、当日に臨む・・という感じですね。貴重なアドバイスをもらったり、良い人を紹介してもらったりと、関係性は良かったと思います。
M&Aという選択肢と、意思決定で最も大事にしたこと
自分の会社を売却する時に、最終的に大事にしてたポイントってありますか?
1つは、従業員がその後もハッピーになれるかということ。もう1つは、お客さんがちゃんとハッピーになってくれるかということ。あとはやっぱり、買い手側の会社の成長ストーリーに、自分の会社がちゃんと乗っているか、ということを結構大事にしてました。僕たちの場合、先方はヨーロッパ圏で展開する同業界1位の会社で、これからどうアメリカに戦略的に参入しようかっていう段階にあったので、僕たちが一緒になることで、彼らの成長戦略に乗ることができていました。

強い組織カルチャーの作り方:「モラル」と「カルチャー」は違う
組織カルチャーをつくる上で意識していたことはありますか?そもそも福山さんにビジョンがあったのか、メンバーとの関係性の中で生み出されていったのか。そのあたりはどうでしょうか?
カルチャーが強いこととモラルが高いことを混同している人が多いと思うんですけど、社内の人が楽しそうとか、会社の部活動をみんな楽しんでいるとか、それは「モラルが高い」状態です。一方で、組織としての共通の言動だとか、称えられるべき言動が何なのかがしっかり浸透しているのが「カルチャーが強い」状態。例えば、短期的な売上と中長期的な売上のどちらを取るかっていう時に、組織としてどちらを重要視しているかが決まっていて、その通りに組織全体が動いている状態っていうのが、強いカルチャーなんじゃないかなと。
そこはやっぱり創業者や初期メンバーが「この組織はどういう言動を称えるか」を言語化しないといけないと思います。最初は偶発的にやって、後々は意図的にするってことなんじゃないでしょうか。
個人的には、作る、それを伝える、たくさん伝える、浸透させる、という4つのプロセスに分けて考えてます。一つ一つの「行動の理由」が言語化できていることが一番大事で、ただ、経営者は当然わかっていても従業員はすぐ忘れちゃうので、それを毎週伝えるとか、壁にポスター貼るとか、何でもいいので、ちゃんと伝え続けることが大事だと思います。その上で、カルチャー形成のプロセスとして施策を入れていく。例えば月1回MVPを表彰するとか、Slackの絵文字に入れるとか、社内にそういった対応の仕組みを作って浸透させれば、定着率は上がるんじゃないかと思います。
エンジェル投資家が見る「成功する起業家」の3つの共通項
今はエンジェル投資家として150社くらいに投資されてると思うんですけど、数字以外に、良い起業家の資質など、感じていることはありますか?
1つ目は、Yコンビネーターの話の中でもあったように、創業初期に無駄なことをしないこと。2つ目は、目標に対してちゃんと覚悟をもって挑んでいるか。絶対達成するんだっていう気合的なものがあること。3つ目は、まだ検証中の仮説なんですけど、成功する起業家は「話が短い」「話が面白い」。このどちらかですね。
基本的には、短い方が良いです。Yコンビネーターの統計にも出ていて、例えば30分の打ち合わせで1つのテーマに10分かかると3つのテーマしか話せないんですけど、話がポンポン進むと会話の密度が上がる。10年のトータルで見ると圧倒的に差が出ると思います。話が面白い人だけは、長くても良い。
僕が見てきたスタートアップでも、特に初期フェーズでは「まだ自分たちは駆け出しだし、達成しなくてもしょうがないじゃん」みたいな雰囲気が出てしまうことがありました。でも、そうじゃない起業家やチームもいるじゃないですか。その差って何だと思いますか?
これで人生が終わるって思ったら、何が何でも達成すると思うんですよ。当事者意識の差みたいなものがあるかもしれないですね。
日米のスタートアップが目指すべきスケール感とPMFの重要性
今、Yコンビネーターをはじめとしたアメリカ基準でいうと、ピッチからどれくらいの数字規模を想像できると「いいね、この会社」ってなるんでしょうか?日本とは桁も環境も違うので比べてもしょうがない面はありつつも、それが当たり前の世界にいる人は実際にそれを目指してると思うので、目線を上げるためにも教えてほしいです。
生成AIが盛り上がる以前は、ARR 100万米ドル(現在レートで約1.4億円)から1,000万米ドル(現在レートで約14億円)の成長までに2年で到達するかどうかでした。そこで達成できてないと、10年で100億円、300億円みたいな規模になるのはやっぱり難しい。セコイアも言ってるんですけど、0から1億円のスピードや期間はあまり関係ない。でも、1から100億円の速度が一番、その後の成長や規模の拡大に関係する。つまり、PMFしてない時に無理して数字を作ってもあまり意味がなくて、少し時間をかけてでも濃いPMFを作れることが急速な成長に繋がると思います。
PMFが中途半端なままスケールしてしまうと、穴が開いたバケツに水を注ぎ込んでいく感じになっちゃうので、そこから巻き返すのがめちゃくちゃ大変。最初は乗り遅れない程度に、時間をかけてでも顧客の熱量を高めるっていうのが大事だと思いますね。
顧客の熱量を測る上では、どのあたりを重要視していますか?
経営者目線で言うと、10社のお客さんに「100点満点で満足度は何点ですか?」って聞いて、全員が90点以上と回答するか。それが解像度であって、それが実際に会っていると分かる。NPSみたいな満足度調査アンケートの点数とかじゃなくて、シンプルに顧客に問いかけて、満足だと答えてもらうこと。直に熱量を感じて「いけてる」って思えるのが、僕は一番大事だと考えています。
Q&Aセッション:起業家たちからのリアルな相談

Q. もし最初からやり直すなら、エンタープライズから攻めるか?
最短距離でエンタープライズに行くのがいいんじゃないかなと思っています。ただ、言うのは簡単なんですけど、エンタープライズ向けのプロダクト開発となると、潜らなきゃいけない時間が長くなるので、焦りが出てくる。その期間のリスクヘッジとしてSMBに行くのは良いと思うんですけど、でもリスクヘッジというのは、答えがわからないからヘッジする訳で、絶対にこのマーケットでプロダクト出せばいけるっていう解像度があれば、エンタープライズから行った方がいい。なのでハイリスク・ハイリターンはエンタープライズ、ローリスク・ローリターンはSMBっていう考え方が良いと思います。
Q. プロダクトが未完成な中でのプロフェッショナルサービス中心のエンタープライズ向けPMFの測り方は?
価格って価値の表れなので、プロフェッショナルサービスなどでもしっかりと価格をいただけることは良いことだと思います。その上でプロダクト化するかどうかはお客さんには関係ないことです。でも最終的に100億円とかの売上になった時に、その延長線上でいくのか、どこかのタイミングでちゃんと自動化してスケールする方に持っていくのかは考える必要があります。走りながらスケール化させるのが可能なロードマップなのか、一旦立ち止まって構造を変えないといけないのか。後者だったら慎重に考えた方が良い。仮に資金調達をして走り出してしまうと立ち止まることがすごく難しくなるので、タイミングの見極めは重要だと思います。
Q. カルチャーが合わない優秀な人材への対処法は?
アメリカは即解雇で問題ないんですけど、日本だったらどうするんですかね。明確に「AとBがあった時に、私たちは会社としてAを選択する」といった指針を早めに言語化して、できれば入社前から具体的に伝えて、入社後もちゃんと話し続けると、早めにハズレ値はいなくなってくると思います。逆に、いなくなってもらわないとカルチャーがどんどん薄くなってくると思います。
Q. 「フォーカス」と「変化」のバランスの取り方は?
戦略のレイヤーと戦術のレイヤーは全く別で、ポンポン変わるものを戦略とは呼びません。戦略って、何が大事で、何が大事じゃないかの意思決定だと思うんですけど、「会社にとって今一番大事なことは何ですか?」って言われた時に、誰でもパッと分かることが重要です。曖昧な言葉じゃなくて、例えば「大企業の契約を5社取ることです」「大企業の定義は従業員1,000名以上です」みたいな明確な言葉。会社として戦略が浸透していないということは全員がバラバラに動いているってことなんで、そこはちゃんと意識した方がいいと思います。
僕が前職のサイバーエージェントで代表の藤田さんからずっと言われてたのは、「センターピンを決めよう」ということ。逆にセンターピン以外のことは話すなって言われていたんですよね。センターピンって何かっていうと、「それさえ倒せば、他にもドーンって波及すること」。それをすごく意識してました。

Q. エンタープライズ向けのプライシング戦略で気をつけることは?
高いけど良いものを出すか、安いけど悪いかもしれないものを出すかで言ったら、基本的にスタートアップは前者を選んだ方がいいと思います。その前提で言うと、顧客としては「ちょっと高いけど、プロダクトが良いいから使っちゃうよね」っていう状態にどう持っていくかが大事ですね。チャーンは低すぎてもダメで、多少あった方が健全なんじゃないかなと思います。ないってことは価格が低すぎるってことなんで。Salesforceみたいに、価格は高いし、みんな苦手かもしれないけど、使わざるを得ないほど価値がある、というのが理想ですね。
Q. 競争環境が激しい市場での勝ち筋は?
一番良いのは、混み合ってるけど満足度が低い市場です。既存ソリューションに満足してたら、塗り替える難易度が高いので。
僕もそういう感覚で投資してますし、実際そのような投資先がバーっと急速に伸びてくる。ただ、資金調達の際に投資家の方との対話の中で、競合スタートアップの数が多いとどうしても単純な機能比較や差別化の議論が多くなって、本質的な議論に行かないケースも多いと感じているのですが、そこに対してどうプッシュバックするといいと思いますか?
丁寧に説明しなきゃいけないのは間違いないんですが、投資家側がそもそも間違ってる可能性もあるので。起業家は、誰と時間を使うかっていう意識を持つのがいいんじゃないかな、と思います。
Q. 起業家人生で最も辛かったこととその乗り越え方は?
「エンタープライズの谷」みたいな“お客さんが解約するとき”と、“従業員が辞めるとき”が2トップで辛かったです。そこの2つはリンクしていて、やっぱり会社の勢いが止まると辞める従業員が増えるし、従業員が辞めるとサービスのクオリティが下がってお客さんも離れていく。それでも、エンタープライズに市場を決めて、解約があったとしても前を向いてやるしかなかった。結果的にそれが合ってたので良かったですけど、合ってなかったらきついですね。
Q. 日本発スタートアップの海外展開の実情は?
一般論で言うと、海外展開は非常に難易度が高いので、やらない方がいいんじゃないかなと思います。どうしてもやりたいんだったら、一番大変なPMFに創業者がコミットするしかない日本で10億の売上があって年間2倍成長してる時に、創業者が海外にコミットしに行きますって言って、1-2年かかって2億売り上げたら、スタートアップとしては優秀だと思うんですよね。ただ、その間に本業の方が40億になってるわけじゃないですか。40億に対して2億のインパクトだった時に、本当に創業者がそっちに行くべきかっていうのは永遠のテーマかなと。数字だけ見ると行かない方がいいじゃないですか。
アメリカで、スタンフォードのコンピュータサイエンス出身でOpenAIで3年勤めて起業しますって人と、日本から来て片言の英語で起業しますって人がいたときに、どう考えても前者に投資するわけじゃないですか。難易度はめちゃくちゃ高いです。
Q. 起業家としてのメンタル維持法は?
辛いのは税金みたいなものというか、辛いのは知ってたんで、途中から僕は「自分はアメリカで挑戦するために生まれてきた」って思い込むようにしてきました。だったらこんなもんなのかなぐらいの感覚です。今は自分の中に「ソロキャピタリストで世界一になる」というミッションが明確にあるので、目標があるとブレづらいですよね。
まとめ
福山さんの経験談は、スタートアップの道のりに立ちはだかる現実と、それを乗り越えるための具体的なアプローチを、非常にリアルに伝えてくれるものでした。特に、プロダクト開発と顧客との対話に徹底して集中する姿勢、顧客理解の解像度を高め続けることの重要性、戦略を言語化し、組織にまで深く浸透させていくプロセスなど、どれも、事業フェーズにかかわらず、あらゆる起業家にとって本質的で再現性のある学びではないかと感じました。
また、エンタープライズへの転換、組織の壁、M&Aといった大きな意思決定の裏側にあるリアルな葛藤と判断軸は、参加者にとって自社の未来を考える上で大きな示唆となったのではないでしょうか。困難な状況でもブレない目標を持ち、目の前の課題に真摯に向き合い続けること。その先にこそ、大きな成長が待っていることを改めて感じさせられるセッションでした。



