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事業のネタ帳 #22 LINE-enabled SaaS

IDEA

低単価SaaS、分けてもデスクレスワーカーを対象にした現場産業向けのSaaSにおいて、コストをかけて製品を全て内製で開発して営業してオンボーディングすることの難しさを感じる機会がこのところ増えてきました。

中価格帯の製品が生き残れない、いわゆる死の谷があると言われるSaaSビジネスですが、一社当たり単価が年間数万円〜数十万円程度の低価格帯についても、Go-To-Marketにかなりの工夫がないと成立し得ないイバラの道なのではというのがここ最近の所感です。

仮に運よく顧客獲得コストを下げられたとしても、それが「業務システム」である以上、顧客がそのサービス特有のデザインや操作性に慣れるまでに一定のオンボーディングコストが掛かってしまうとすると、獲得と維持を合算したコストが顧客一社から得られる売上に肉薄してしまう(場合によっては回収が見込めない水準まで越えてしまう)事態が避けられません。

そこで今回のネタ帳では、低単価SaaSの命運を分けるのは開発及び顧客維持負担の軽さにあるのではという仮説のもと、国内最大のチャットコミュニケーションアプリであるLINEを活用したSaaSのあり方について考察してみたいと思います。

この着想は、デスクやPCを持たない現場産業で働く人々を支える業務アプリケーションが須くスマホに乗る未来はもうそこまで来ており、中でもプライベートで老若男女問わず多くの国民が日常的に使用するLINEとその周辺のエコシステムには現場向け低単価SaaSの孵化器となる可能性があるのではないかという仮説に立脚しています。

デスクレスワーカー向けのLight-weight SaaSとしてリリース以来躍進を続けるLINE WORKSの成長スピードが、その仮説を補強してくれている気がしてなりません。

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https://note.com/lineworks/n/n0be1c18226ab

目次

  1. SaaS on Platformの前例
  2. SaaS開発の「王道」
  3. Platformの規模が市場の大きさを決める
  4. LINE-enabled SaaSの地合い
  5. おわりに

SaaS on Platformの前例

盤石な顧客基盤を持つPlatformの上にアプリケーションを載せるSaaS on Platformのビジネスモデル自体は、グローバルではSalesforce(Force.com/Heroku)Shopifyで既に実例があります。

このモデルのメリットは、端的には原価(開発工数)と販管費(マーケティング・セールス・顧客維持にかかかる費用)が共に削減できるという点です。

例えば米国でライフサイエンス業界に特化したバーディカルSaaSを提供するVeeva Systemsのウェブサイトには以下のような記載があります。

Salesforce.com は、オンデマンドビジネスサービスにより市場と技術をリードしています。同社のオンデマンドアプリケーションのセールスフォーススイートによって、顧客は、オンデマンドベースでセールス、サポート、マーケティングとパートナー情報を管理および共有することができます。AppExchangeは、salesforce.comのオンデマンドプラットフォームであり、顧客とパートナーは、強力な新しいアプリケーションを迅速かつ容易に構築し、個別のビジネスニーズを満たすためセールスフォーススイートのカスタマイズと統合、そして、 http://www.appexchange.comで、オンデマンドアプリケーションの配信と販売が実現できます。

同社は元々Salesforceで4年間に渡りMarc Benioffの右腕役を務めていたPeter Gassnerが独立創業した会社ということもあり、顧客がSalesforceをどのように使っていて何に困っていたか、製品をどう流通させれば良いのかを熟知していたことが成功要因の一つと言われていますが、それと同時に「使い慣れたSalesforceのUIに似たインターフェースを実装できたこと」が地味に大きかったのではないかと推察します。

Salesforceをベースに顧客管理システムを構築してきた顧客/見込み客からすると、使い勝手にネガティブな面で大きな差分がなく、それでいて痒いところに手が届く業界特化のサービス精神が感じられる製品で、なおかつ元Salesforce幹部が作ったものとくれば導入したくなるのが心情でしょう。

Veeva以外にも、製造業界向けのServiceMax、金融業界向けのnCinoなど、Salesforceをプラットフォームとして活用して開発・営業・顧客維持のコストを抑えながら成長の果実を首尾よく享受しているスタートアップは多く存在しています。

SaaS開発の「王道」

翻って日本国内を見渡してみると、コスト構造上低単価のソフトウェアしか導入が出来ない、それでいて導入利用にあたっては多くの学習コスト=オンボーディングコストがかかる産業が多くあるにも関わらず、1から100まで全て内製し、自力で流通チャネルを敷設することを暗黙の前提としてプロダクト開発を進めている企業が多い印象を受けます。

あくまで王道は内製100%だという姿勢、価値観が根強いのでしょうか。

ただ既にユーザー企業側は変わりつつあり、完全内製を捨てて部分内製を戦略的に取り入れるのが一般的になっていますし、SaaSを開発するベンダー企業側にも「使えるものは使って効率的に顧客価値を高める」考え方が広がっても良いのになと感じる今日この頃です。

Platformの規模が市場の大きさを決める

一方で、VCから出資を受けて(10年以内に一定以上のリターンを生むことを期待されながら)開発を始めるスタートアップの視点に立ってみると、そもそも乗っかる巨人の肩が低すぎたり小さすぎたりしたら困るという事情もよくわかります。

Platformそれ自体の規模が、そこに乗っかってビジネスを展開する会社のTAM(Total Addressable Market)を規定/限定するという側面が否めないからです。

そう考えると、国内でSaaS on Platformのモデルがこれまで立ち上がってこなかったのは、乗っかられる側の国産Platformが必要十分な規模と体制を備えていなかったからという仮説も立てられそうです。

LINE-enabled SaaSの地合い

国産のB2Bプラットフォーマーについては依然として「そのエコシステムの上で一つの市場が形成される」ほどのプレイヤーが出てきていない認識ですが、ユーザー数9,200万人を抱えるB2Cメッセンジャーの王者・LINEであればどうでしょうか。

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https://guide.line.me/ja/features-and-columns/11th-anniversary.html

厳密には開発元が国産ではないだろうというツッコミは置いておいて、日常生活における利用頻度、人口への膾炙度合いでLINEの右に出るプレイヤーは存在しないでしょう。

また、デスクを持たずに仕事をしている現場ワーカーの方々にとって、PCに最適化されたUIで提供される「業務システム」ほど使いにくいものはありません。

個人的には、デスクレスワーカーの方々にとっての「デスクトップ」がスマホのホーム画面になる世界線は近いと思っているのですが、既にそれを見越してiOS/Androidのネイティブアプリで業務支援サービスを提供する事業者も増えてきています。

ちなみにこの分野の応用例は、欧米の先進国よりアジアやアフリカを中心とした新興国の方にヒントがあるかもしれません。PC時代をスキップし、スマホをベースにあらゆる「業務システム」が構築されている国々です。

アフリカ・ケニアにおける、銀行口座を持たない人でも携帯電話番号さえあればSMSを使って送金ができるM-PESAとそれを軸とした小売店向けのサービスエコシステムなどは典型的な事例です。

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https://en.wikipedia.org/wiki/M-Pesa

LINEを活用したSaaS開発はいくつかのアプローチが考えられますが、やはり何と言ってもチャットアプリとしての認知とブランド、(使い慣れた)操作性を土台としたサービスづくりが好相性と思います。

したがって、顧客とチャットやメールを使って連絡を取り合うことがバリューチェーン上の起点となるという点において、CRMが対象業務の筆頭格になります。

具体的には、理/美容院、飲食店(個人店)、学習塾、自動車ディーラー/アフターサービス、不動産仲介/管理、運輸、旅行代理店など、PCベースの「業務システム」と、UX上スマホで完結することが望ましい顧客接点チャネルが分断されてしまっていた領域においては、連絡、予約/キャンセル、カレンダー、ポイントカードなどの機能をLINE上に集約し、裏側でそれらの情報を集約したデータベースと分析ダッシュボード、Admin向けの管理コンソールを提供することで、ユーザー(企業)、エンドユーザー(個人)双方の満足度を大きく引き上げられる余地がある認識です。

一方でデメリットがあるとすれば、レベニューシェアという形でLINE社への上納金が必要となること、事業戦略上の自由度が大きく制限されること(LINE社の経営戦略や事業状況への依存度が高いこと)、PaaSに相当するレイヤーをLINE社が提供しているわけではないため技術的な制約を受けること、の三つが大項目として挙げられるかと思います。

これらと売上高成長率とは明確なトレードオフの関係になるため、当然ですがダウンサイドリスクも存在します。ただし、レベニューシェアの比率については自社の顧客が増えていく過程で変化させられる可能性がありますし、2点目3点目については全ての機能・プロダクトをLINE上に構築するわけではない(できない)ことから必要十分なリスク低減は可能です。

まだ明確に勝ちが決まっていない成長過程のPlatformであれば心中リスクも慎重に検討すべきとも思いますが、ことLINEに関しては9,200万人の顧客基盤とブランド資産を活用できるという多大なメリットを上回るデメリットは本当にあるのだろうか、仮にあるとしてそれは「数万〜数十万のユーザーを自力で獲得するまでに訪れる数多の落とし穴」と比べてどちらが大きいのだろうか、という素朴な疑問は一考に値するテーマであると考えます。

最後に、ジェネシア・ベンチャーズでは、2022年1月に150億円規模をターゲットにした3号ファンドを立ち上げており、1社当たり数千万円〜数億円のスコープでアクティブにシード投資を行なっています。

本記事に関心を持っていただいた起業家の方、起業準備中の方がいましたらぜひ一度カジュアルにお話させてください!

空き日程(お気軽にどうぞ!)

筆者

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