INSIGHTS
INSIGHTS

事業のネタ帳 #23 介護業界の変化点

IDEA

今回はタイトルのとおり「介護業界」について取り上げたいと思います。介護業界は誰もがその課題の大きさやポテンシャルを認識しているとは思いますが、その構造や対象者、規制等の関係でイノベーションが生じにくいのもまた事実です。そのような中で、今後介護業界がどのように変化していくことが想定されているのか、また、それを踏まえてどういった事業のネタが考えられるのかを考察していきたいと思います。

リサーチにあたっては厚生労働省から出ている「介護保険制度の見直しに関する意見」をベースとしています。介護業界に強く関心を持たれている方であれば一度は内容に触れたことがあるかと思われますが、もしそうでない方も介護業界について深く知り得るものですので、少々前提知識が必要ではあるものの、ぜひ一度目を通してみることをおすすめします。

目次

  1. 介護業界におけるイノベーションの重要性
  2. 介護業界の現状と課題 〜変化点を見出す〜
  3. 介護業界における事業のネタ
  4. おわりに

介護業界におけるイノベーションの重要性

まずは、なぜ私自身が介護業界に注目しているのかを、その影響力の大きさから説明したいと思います。

財務省から出ている「日本の財政関係資料」によると、令和3年度当初予算における一般会計歳出総額約106.6兆円のうち、社会保障費が約35.8兆円存在します。

画像
日本の財政関係資料 P.1

また、給付費ベース(国からの歳出や自己負担額等を合算したもの)で見てみると、全体の129.6兆円のうち、12.7兆円が介護に割かれていることになります。

画像
日本の財政関係資料 P.27

そして、給付費(介護保険費用)の昨年度までの推移を見てみると、ご覧のとおり増加の一途を辿っています

画像
社会保障等 P.62

また、介護における自己負担率は医療と比較して低く、現在は所得に応じて1,2,3割のいずれかとなっていますが、自己負担割合3割が導入された2018年度では実効的な自己負担率が7.7%となっています。逆を言えば約9割の10兆円強を公費で賄っているということであり、その規模の大きさを感じ取れると思います。

画像
社会保障等 P.63

前提として、被介護者やそのご家族が最適な介護を選択することによって、ご自身の健康や豊かな人生を実現できることが重要であると考えています。また、私の両親もそう遠くない未来に介護が必要になると思われるので、その際に介護において多様な選択肢があることを願ってやみません。一方で、どこの業界にも課題があり、介護業界も例に漏れず様々な課題が眠っている中で、しっかりとその課題を解決することで無駄を削減し、結果的に日本の予算をより教育やエネルギー対策、安全保障等に振り分けていくことができると、より良い未来を実現することができるのではないかと考えています。社会への影響力、数字的な規模の大きさ等を踏まえて、私は介護業界に注目しているという背景です。

介護業界の現状と課題 〜変化点を見出す〜

冒頭でもご紹介した「介護保険制度の見直しに関する意見(以下、本レポート)」を見てみると、大きく6つのパートに分けて論点が整理されています。

Ⅰ. 介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)
Ⅱ. 保険者機能の強化(地域保険としての地域のつながり機能・マネジメント機能の強化)
Ⅲ. 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)
Ⅳ. 認知症施策の総合的な推進
Ⅴ. 持続可能な制度の構築・介護現場の革新
Ⅵ. その他の課題

介護保険制度の見直しに関する意見 目次

これらの中でも、今回は特に「Ⅴ. 持続可能な制度の構築・介護現場の革新」に注目したいと思います。もちろんこちら以外も多様な論点がありますが、スタートアップとして取り組む余地があり、何らかの変化点を迎えているという意味で今回はこちらを取り上げます。

まず、なぜそもそも本レポートのようなものが議論・公開されるに至ったのかについては、もちろん上述したような社会への影響力、数字的な規模の大きさ等もあるのですが、介護業界自体がこのままだと限界を迎える可能性が大きいからです。実際に本レポートにも以下のような記載があります。

○我が国では、総人口が減少に転じる中、高齢者数は今後も増加し、高齢化は進展していく。介護保険制度においては、いわゆる団塊の世代が 75 歳以上となる2025 年を見据え、介護が必要な状態となっても住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される地域包括ケアシステムの構築に取り組んできた。

○2025 年が近づく中で、更にその先を展望すると、いわゆる団塊ジュニア世代が65 歳以上となる 2040 年には、高齢人口がピークを迎えるとともに、介護ニーズの高い 85 歳以上人口が急速に増加することが見込まれる。また、世帯主が高齢者の単独世帯や夫婦のみの世帯の増加、認知症の人の増加も見込まれるなど、介護サービス需要が更に増加・多様化することが想定される。

○また、現在、介護関係職種の有効求人倍率が平成 30 年度で 3.95 倍となるなど、介護人材不足の状況はますます厳しくなっているが、2025 年以降は現役世代(担い手)の減少が顕著となり、地域の高齢者介護を支える人的基盤の確保が大きな課題となる。

介護保険制度の見直しに関する意見 P.1

経産省から出たDXレポートの「2025年の崖」の話は有名ですが、介護業界においても2025年が1つの節目として存在します。2025年以降、順次団塊の世代や団塊ジュニア世代が介護を必要とし始め、2040年には高齢人口がピークを迎えることになり、一方で、介護の担い手はますます減少していきます。私たちはそれまでに、つまりあと10~15年以内に、介護業界における革新的な仕組みづくりを行う必要があるのです。

現時点で、メルカリが創業してから約10年、ラクスルが創業してから約13年であることを踏まえると、10~15年というのはスタートアップが成長して社会的にも大きな影響力を持ち得る時間軸であり、介護業界においてもまさに今ぐらいのタイミングから挑戦する必要があると思っています。

また、スタートアップが事業を立ち上げる際には、その業界・業種で何か変化が生じており、いわゆる「Why Now?」が明確なことが多いと思いますが、介護業界における変化点は存在するのでしょうか。本レポートの「Ⅴ. 持続可能な制度の構築・介護現場の革新」には以下のような記載があります。

○介護保険制度は、その創設から19 年が経ち、サービス利用者は制度創設時の3倍を超え、介護サービスの提供事業所数も着実に増加し、介護が必要な高齢者の生活の支えとして定着、発展してきている。一方、高齢化に伴い、介護費用の総額も制度創設時から約3倍の11.7 兆円(令和元年度予算ベース)になるとともに、第1号保険料の全国平均は 6,000 円弱となり、2040年度には9,000円程度に達することが見込まれる状況にある。また、第2号保険料についても、2018年度の保険料率は1.5%超であるが、2040年には2.6%程度に増加することが見込まれる状況にある。

○こうした状況の中で、要介護状態等の軽減・悪化の防止に資するよう、必要な保険給付等を行うと同時に、給付と負担のバランスを図りつつ、保険料、公費及び利用者負担の適切な組み合わせにより、制度の持続可能性を高めていくことが重要である。

介護保険制度の見直しに関する意見 P.23

つまり、給付と負担のうち、自己負担額の割合を増加させていくことについて活発に議論されています。具体的には「ケアプラン」の有料化の可能性が高いと言われており、ケアプランについては現在10割給付のところ、2024年度改正で一部自己負担となることが想定されます。

ケアプランは、介護サービスを利用するための計画書です。介護サービスには、高齢者の自立した生活を支援するという目的があります。
「入浴や食事のサービスを利用したい」「日中は家族が不在で高齢者1人にするのは不安」など、介護サービスを利用したいと思うきっかけは人それぞれです。
ケアプランは高齢者1人ひとりに求められる課題を総合的に判断し、自立した生活のために必要だと思われるサービスを組み合わせながら作成していきます。

https://www.a-living.jp/contents/2254/

財務省「ケアプランの有料化は当然」 2024年度からの導入を提言

これまで0割だったものがそうでなくなることのインパクトはとても大きく、ケアプランについて被介護者やそのご家族がこれまで以上にしっかりと考える1つの大きなきっかけになると思われますし、それによって新たな課題・ニーズが生まれてくることになるでしょう。スタートアップとして、巨大な介護業界に挑戦するための大きなチャンスとなるかもしれません。

介護業界における事業のネタ

では具体的に、介護業界においてどのような課題・ニーズが生まれ、どのようなソリューションが想定されるのでしょうか。

1つは、被介護者やそのご家族が、ケアプランやその内容についての情報をより集めたいと思うようになることが考えられます。そして、その際の受け皿となるようなメディアのニーズが高まることは容易に想像されますし、それ以外にも、ケアプランを作成するケアマネージャーとのマッチングや、実際の介護サービス提供事業者とのマッチングについてもニーズが高まるかもしれません。

これまで10割給付だったところから、比較的少額だとしても自分のお財布からお金を出すことになるという変化は、その金額以上の業界の変化をもたらす可能性があるのではないかと考えており、そのため今回は介護業界における自己負担割合の増加という点に注目しました。

また、これら以外にも介護業界において取り組むべき事柄は多く、本レポートにおいても以下のような課題や方針があげられています。

○現在、①介護職員の処遇改善、②多様な人材の確保・育成、③離職防止・定着促進・生産性向上、④介護職の魅力向上、更には外国人材の受入環境整備など、総合的な介護人材確保対策が実施されている。

①人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、②ロボット・センサー・ICT の活用、③介護業界のイメージ改善と人材の確保といった課題に介護業界を挙げて取り組む必要性が共有された。

介護保険制度の見直しに関する意見 P.19

介護業界には数多くの課題が存在しており、その課題をそのままにしておくと将来的には現在現役世代である私たち自身が大きな痛手を被ることになると思うので、私自身も介護業界で挑戦する起業家の方に伴走し、共により良い社会を実現していきたいと考えています。ですので、上述したような事業か否かにかかわらず、介護業界で挑戦している(挑戦を検討している)方々、ぜひ幅広にディスカッションさせてください。もしよろしければTwitterのDMFacebookMeetyまでご連絡いただけると嬉しいです!

筆者

BACK TO LIST