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事業のネタ帳 #11 シン・D2C ~持続可能なアパレル業界~

事業のネタ帳

こんにちは。ジェネシア・ベンチャーズの一戸です。

時価総額100億ドルを超えるデカコーンであり、Sequoia Capital ChinaとTiger Globalからも資金調達を行っているSHEINの上場観測記事を時たま目にしますが、今回は同社についても取り上げながら、アパレル業界における事業機会を模索していきたいと思います。

本領域にご興味がある方はぜひディスカッションの機会をいただけると嬉しいです。

目次

  1. SHEINとは
  2. SHEINの競争優位性
  3. アパレル業界はどこへ向かうのか
  4. 事業機会
  5. シン・D2C
  6. おわりに

SHEINとは

ユニクロやZARA等のファストファッションと比較して「ウルトラファストファッション」「リアルタイム・リテール」と呼ばれるSHEINですが、同社の成長は著しく、約100億ドル(約1兆2000億円)だった2020年の売上から、2021年には約157億ドル(約1兆8000億円)にまで急拡大しています。各国のApp Storeのショッピングのカテゴリで1位を獲得しており、日本の同カテゴリにおいても2/17時点で1位でした。

同社についてはたくさんの分析記事が出ていますので、詳細を知りたい方はそちらをご覧いただければと思いますが(参考記事)、以下に事業機会を模索する上でのポイントをいくつか整理してみました。

①インターネット上でトレンドやユーザーニーズを察知し需要を予測
②そのデータを元に製品を企画
②同社のSCMシステムを導入しているパートナー工場の生産余力を常時把握
④最小ロットに近いロット数で生産&販売
⑤売れ行きを確認しながら生産&販売数を調整

同社は、これらによって、企画から生産まで通常3週間以上かかるところを、最短で3日、多くは5~7日間で行うことが可能になっているそうです。これが、ユニクロやZARA等と比較して「ウルトラファストファッション」や「リアルタイム・リテール」と呼ばれる所以になっています。

余談ですが、同社は中国の工場が日本をはじめとした先進国のアパレル企業向けに生産して残した膨大な残反(余った布)を活用して生産していたり、売れ残り商品をリネーム(ブランドタグの付け替え)したりすることで安価に生産することができているということです(参考記事)。

SHEINの競争優位性

同社は上記の通り、いわゆる”インターネット的な”生産体制を築いています。つまり、これまでの多くのアパレル企業の生産体制は比較的プロダクトアウト的なアプローチである一方、同社はマーケットイン的なアプローチで生産体制を築いています。

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これは偏に、生産サイクルの短期化によって実現できていると考えています。上でも記載した通り、企画から生産まで通常3週間以上かかるところを、同社は最短で3日、多くは5~7日間で行うことが可能になっています。

アパレル業界においては良くも悪くもトレンドが存在しており、生産サイクルが長いと特定のトレンドを察知してから実際に販売するまでの間にそのトレンドが過ぎ去ってしまいます。そのため、これまで一定規模のアパレル企業においてはどうしてもプロダクトアウト的なアプローチしか取ることができなかったのです。

そこからテクノロジーが進化し、今ではインターネット上でリアルタイムにトレンドやユーザーニーズを察知できるようになっただけではなく、SaaSをはじめとしたクラウドサービスの導入も進み、工場の稼働状況や生産余力等もリアルタイムに把握できるようになりました。それによって生産サイクルを短期化でき、上記のようなマーケットイン的なアプローチが可能になっていると考えています。

と、パソコンに向かって理想を書き出すのは簡単なのですが、実際には多くのハードルが存在します。もちろんトレンドやユーザーニーズの察知を大規模に行うことの技術的な難易度の高さもありますし、1つ1つの工場との交渉や、それを積み重ねることによる数多の工場とのリアルタイムでの連携については想像を絶するハードルの高さかと思われます。ただ、同社がそれを実現できている以上、何らかの突破口はあるはずです。

アパレル業界はどこへ向かうのか

これまでSHEINについて述べてきましたが、一旦目線を引き戻して、次はアパレル業界全体を俯瞰した際にどのようなことが起きているのか整理していきたいと思います。

結論としては「サステナビリティ」がキーワードかと考えています。アパレルの廃棄問題は以前から取り沙汰されていますが、そんな中フランスでは2022年1月からアパレルや家電の売れ残り品をリサイクルや寄付によって処理することが義務付けられました。

そんなアパレル業界の根本を揺るがしかねない規制の運用が2022年1月、ファッションの発信地であるフランスで始まった。売れ残った新品の衣類を、企業が焼却や埋め立てによって廃棄することを禁止するという内容だ。

禁止令は、2020年2月に公布された循環経済に関する法律(loi anti-gaspillage pour une économie circulaire)で定められたもの。同法は、脱プラスチックや、廃棄される製品の再利用を促し、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会構造を是正することを目的に制定された。

フランスで1月から売れ残り品の廃棄が禁止に世界初の「衣服廃棄禁止令」がアパレルに迫る変革

また、脱炭素社会を目指す上でもアパレルの廃棄問題は避けられないものとなっています。

環境省の調査によると、2019年度に日本が排出した温室効果ガスは二酸化炭素(CO₂)換算で約12億トン。一方、国内で供給される衣類によるCO₂の排出量(原材料調達から製造、販売、廃棄まで、海外での排出を含む)は約9500万トンと推計されている。これは同年度に国内の自家用乗用車から排出された9458万トン(国交省調べ)に匹敵する量だ。

衣類による排出の大部分は、原材料調達や紡績、染色といったものづくりの段階が占める。海外での大量生産や低価格化が進み、国内の衣類の供給枚数は直近30年間でおよそ倍増。しかし少子化などの影響で市場規模は縮小傾向が続き、店頭の売れ残り品や、家庭でもほぼ新品のまま廃棄される衣類が大量に発生している。

焼却処分の過程でも当然多くのCO₂が発生し、環境負荷を減らすには、こうした供給過剰状態からの脱却が急務となる。

フランスで1月から売れ残り品の廃棄が禁止に世界初の「衣服廃棄禁止令」がアパレルに迫る変革

これらを受け、国内大手アパレル企業のアダストリアが残在庫の焼却処分をゼロにする方針を掲げたり、ユニクロを展開するファーストリテイリングも「廃棄物管理と資源効率の向上」といった内容をHP上で公開しています。

また、アパレル業界のサステナビリティを考える上では、廃棄問題以外にも中国や東南アジアの工場における児童労働問題や人権問題等様々な問題がありますが、その一部は今回取り上げたSHEINも例外ではなく、同社が少なくない批判を受けているのも事実です。

事業機会

アパレル企業におけるサステナビリティや廃棄問題への取り組みは様々ですが、まだこれといった解決法は確立されていないのではないかと思います。単純に仕入れ量を減らすということも難しく、なぜなら仕入れ量を増やすことで原価を抑えられるという側面もあるため、仕入れ量を減らすことは価格の上昇と競争力の低下に繋がってしまうからです。

一方で、解決法が確立されていないというのは、逆に言うと、スタートアップにとっては大きな事業機会が眠っているとも考えられます。

サステナビリティや廃棄問題は企業が受けている社会からの要請ですが、一方でミクロの消費者ニーズに目を向けてみると、アパレルにおける消費者ニーズは基本的にはトレンドや自身に合った高品質な商品を低価格で購入したいというものであり(最近はそれに加えてソーシャルグッドという要素も)、既に存在するD2Cやアパレル業界のスタートアップはそのニーズを満たすためのプロダクトを提供していますし、今後もそれは変わらないと考えています。

極端に言えば、元々アパレル企業はマス向けに一定程度の品質のものをリーズナブルな価格で販売するか、高品質なものを高価格で販売するかの二択で、ROIの関係でニッチ層に対してはビジネスを積極的に展開することができませんでした。そこからインターネットが浸透することで、SNS等でニッチコミュニティを形成することが可能となり、また、D2Cというビジネスモデルで顧客のデータを取得&活用し、無駄な中間コストも省くことが可能になったため、原価のかかる小ロットの生産にもかかわらず、比較的リーズナブルな価格でニッチコミュニティに対して商品を販売することが可能となりました。

また、USではAIスタイリストが自身に合った商品をおすすめしてくれる「Stitch Fix」のようなサービスがありますが、さらにその先の消費者ニーズを満たすという意味では、既存の商品に飽き足らず、そもそも自身にあった商品を製作してくれるサービスがより一層求められるようになっていくのではないかと考えています。

シン・D2C

上記の消費者ニーズを満たしつつ、一方でサステナビリティや廃棄問題をも解決していくためにヒントとなるのが今回取り上げたSHEINです。

SHEINはオーダーメイドではありませんが、仮にスーツのようなオーダーメイドであればその人自身に合った商品を製作できるため上記の消費者ニーズを満たすことができ、そうすれば余剰在庫という概念も無くなり廃棄率が減少します。ただ、そのためには低価格化と生産サイクルの短期化が欠かせません。そしてそれはまさにSHEINが実現したことであり、これに倣ってサプライチェーンのデジタル化とそれに伴うUXの向上による本質的なDXを実現していくことができれば、完全なるオーダーメイドとまではいかずとも、例えば、ミニマムグループ単位での受注生産(オーダーメイド)を行うことで、S・M・Lといったサイズ以上に自身にフィットした商品や、少しだけ自身の好みのデザインに変更した商品を購入可能なサービスが実現できるのではないでしょうか。

ただ、既存のアパレルブランドに対してイネーブラーとしての立ち位置でこの事業を構築していくべきか、はたまたSHEINのように自社でサプライチェーンを構築するD2Cとして立ち位置で事業を構築していくべきかはまだわかっておらず、本領域に関心のある起業家の方がいればぜひディスカッションさせてください。

個人的には後者のD2C的な立ち位置の方がサプライチェーンをゼロから構築できる分スムーズなのではないかとも考えていますが、もちろん工場との繋がりもゼロから構築する必要があるので、初期的な立ち上げに一定程度の時間がかかることが見込まれます。また、OEM的に発注するだけではなく、その工場自体もデジタル化することによってサプライチェーン全体をDXするという意味では、いわゆるD2Cとは意味合いが異なることもあり、勝手ながら「シン・D2C」と名付けました。「シン」は「新」と「真」の2つの漢字をかけています。

ジェネシアが公表しているDXの型の中では、工場自体のデジタル化も行うという意味で「型7:半自動化」、ニーズを確認した後に生産を行うという意味で「型8:0次流通」がこれらに当てはまります。

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型7:半自動化
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型8:0次流通

改めてにはなりますが、残論点は多く、様々な方とディスカッションさせていただきたいと考えていますので、ご興味がある方はぜひTwitterからご連絡いただけると嬉しいです。

筆者

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