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PRI署名及びESG投資方針の策定について

ESG

目次

  1. はじめに
  2. なぜPRI署名を行ったのか
  3. ESG投資方針に込めた想い
  4. 『ESG for Startups』で取り上げるコンテンツ
  5. おわりに

1. はじめに

昨今、気候変動リスクに対する危機感の高まりや脱炭素社会の実現に向けた動きが加速しており、グローバル資本市場においてもESG投資が一層大きな潮流となっています。国際的な政治経済の枠組みの変化に加えて、現在進行形で私達の生活に大きな影響を及ぼしているコロナ禍の問題もまた、私達を取り巻く環境や社会との共存の重要性を強く意識させることになりました。このような産業構造や企業経営の前提に大きな影響を及ぼす変化の中で、いまやESGを考慮することは全ての企業経営者および投資家にとって不可欠な時代となっています。また、かつては社会貢献活動として捉えられがちだった環境や社会を重視する経営方針も、現在は長期的かつ持続的な企業価値の向上にとって極めて重要な戦略テーマと位置付けられ、今後はESG対応の巧拙が企業の存続を左右する可能性があり、企業経営や投資活動においてESG要素を考慮することは不可逆な流れとなりつつあります。

このような時代の大きな変化に直面して、シードVCである私達ジェネシア・ベンチャーズでは、これまで起業家の伴走者として注力してきた「強い組織づくり」「戦略構築」「PRサポート」などの事業支援活動に加えて、ESG対応への積極的な支援を行うことが、これからのスタートアップの長期的な価値向上には欠かせない要素であると考えています。また、起業家支援と同時に、私達自身がESG経営に真摯に取り組み、より成熟した投資会社となることで、出資者からの期待にも高いレベルで応えていきたいと考えています。

そこで、私達のESGに関する思考を一段と深め、具体的な活動に結びつけていくための一つの契機として、新たに『ESG for Startups』という連載企画を始めたいと思います。そして、本企画の第一弾として、今回はジェネシア・ベンチャーズが2021年12月21日付で行った「PRI(責任投資原則)の署名」および「ESG投資方針の策定」に至った背景や、そのような経営判断に込めた想いについて述べてみたいと思います。

2. なぜPRI署名を行ったのか

まず始めに、PRI(責任投資原則)とは何かを改めて簡単にご説明させて頂きます。PRIは、ESG課題に対する機関投資家の意識を高める目的で、2006年に当時の国連事務総長コフィ・アナン氏が金融業界に対して提唱したイニシアティブです。PRIが策定された背景には、世界の持続的な発展という目標を達成するためには、持続可能な金融システムの構築が必要であるとの考え方がありました。また、PRIが策定されて間もない2008年にリーマンショックという大きな金融危機を経験したことで、金融システムの安定化という観点からも、同危機をもたらした短期指向への反省として長期的な視点の重要性が改めて認識され、PRIに対する支持は下記グラフのとおり増加の一途を辿っています。2021年12月28日現在、PRIの署名機関数は、世界では4,666社、日本では101社が署名しています。日本でも、世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ、日本生命、東京海上日動、農林中央金庫、日本政策投資銀行、三井住友信託銀行、野村アセットマネジメントなど、既に多くのアセットオーナーや運用機関が署名しておりますが、これまでのところ日本のVC業界においては、スタートアップ及びVCともにESG対応に掛けられるリソース制約が大きかったこと等もあって、現時点ではPRI署名済みのVCはまだ数える程しかありません。そのような状況で、なぜジェネシア・ベンチャーズでは率先してPRI署名を行ったのでしょうか。

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(出所)PRI

長期的かつ持続的な企業価値の向上におけるESGの重要性については冒頭に述べたとおりですが、これまでも私達は『すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する』というビジョンを掲げて、あるべき世界・あるべき未来の実現に向かって、社会のあらゆるステークホルダーと共創しながら、グローバルかつ持続可能な産業創造プラットフォームになることを目指して活動してきました。このような価値観と情熱を軸に持つ私達にとって、PRIの理念や原則との親和性は極めて高く、ESGを考慮した責任ある投資行動を行うことは必然のことでもありました。ある意味、実質的には既にESGを意識した投資活動を実践している側面もありますが、一方でそのような価値観はあくまでも組織内における暗黙の共通理解にとどまっておりました。そのような想いをカタチにして、具体的なアクションや手続きとして投資支援活動にESG要素を組み込み、また今後そのような活動を一層発展させていくためにも、ESGが私達にとって重要な経営課題であることを宣言するために、今回PRIに署名するという経営判断に至りました。

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3. ESG投資方針に込めた想い

PRI署名は私達にとってスタート地点に過ぎず、ESGの理念を如何に私達の投資戦略や日々の支援活動にしっかりと組み込んでいくのか、スタートアップの成長に繋がる実効性のある取り組みとして統合できるのかを重視しています。また、受託者責任の観点から、ファンド出資者のリターン向上に繋がる取り組みとしての方針と範囲を明らかにするため、PRI署名と合わせて「ESG投資方針」を策定しました。同方針の内容については、基本的にPRIの6原則に沿って、国連グローバル・コンパクトの10原則なども考慮して作成しています。具体的な活動レベルにまで落とし込むためには、より詳細なガイドラインや体制構築等が必要になってくるかと思われますが、いずれにしても、今後は同方針に従って継続的に具体化と改善を積み重ねて行きたいと考えています。

スタートアップにとっても、ESG経営を強化することは、将来の上場時や大企業による買収時のバリュエーションに織り込まれるなど直接的な影響を受ける可能性があり、今後はその傾向がより顕著になっていくと考えられます。また、上場に向けた非財務情報開示の仕組みやガバナンスの確立、サプライチェーン全体の管理体制など、実務面での対応も複雑化していくと見られるため、なるべく早い段階からESG経営を意識していく必要があります。このようなスタートアップの課題に対して、私達がESG投資方針の運用にあたって強く意識していることは、上場後までを見据えた真に価値のあるESG経営の高度化を支援すること、そのためには、私達自身が最新情報と運用ノウハウを蓄積し、支援先に対して積極的に還元していく姿勢を貫くことだと考えています。

4. 『ESG for Startups』で取り上げるコンテンツ

連載企画の第1回目は、私達のESG経営及びESG投資の出発点として、「PRI署名及びESG投資方針の策定について」の想いを中心に決意表明の場とさせて頂きましたが、今後はESG領域で活動するスタートアップの事業モデルのご紹介や、グローバルな最新情報の共有、非財務情報開示など実務面のアップデート、機関投資家の見方など、多面的にESG関連の情報を発信していきたいと思っていますので、ぜひ今後のコンテンツを楽しみにしてください。

5. おわりに

ESGを推進していくためには、私達単独では限界があり、様々なステークホルダーの皆様との連携が不可欠だと考えています。ぜひ私達と一緒にグローバルかつ持続可能な産業創造プラットフォームを作り、社会課題の解決に向けて協力して頂けるパートナーを求めています。ご関心を頂ける方は、ぜひお気軽にご連絡ください。(筆者のTwitterアカウントのフォローもぜひお願いします!)

筆者

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