
「なぜ人事がAXを推進するのか」AI時代も変わらない、仲間とカルチャー中心の組織創り|Sansan 大間 祐太
ジェネシア・ベンチャーズがスタートアップ起業家に向けて立てた『10の問い』。
本稿では『CI/Mission/Vision』というテーマで、Sansanの取締役/執行役員/CHRO/CAXO(Chief AI Transformation Officer)である大間 祐太さんにお話を伺いました。※CI(Corporate Identity)

- 人の心を惹きつける大きなビジョンを描けているか?
- 実現への道筋/戦略を、言語化 / ビジュアル化し、仲間が自分の人生を投資したいと思える魅力的なプレゼンテーションができているか?
という問いへの、大間さんの回答は—?
- インタビュアー:ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 黒崎 直樹
- 編集:ジェネシア・ベンチャーズ PR Specialist 吉田 愛
- 写真、デザイン:尾上 恭大さん、割石 裕太さん
きっと“1,001番目のメンバーも同じことが言える”、誇れる仲間の存在
本日はよろしくお願いします。まず、大間さんのこれまでのキャリアの変遷についてお伺いできますか?当初は営業として入社され、マネジャー、人事、そしてCHRO、CAXOと、Sansanの根幹を担うキャリアを歩んでこられているかと思いますが、そのきっかけや流れについて、入社経緯からお聞かせいただけたらと思います。
Sansanはもともと、人材事業をやっていた時のクライアントだったんです。創業2年目のSansanが初めてコストをかけて採用活動をするというタイミングで、採用支援のコンサルティングに入らせてもらいました。
最初は外部のパートナーという立場だったんですね。
そうです。ただ、当時の採用プロジェクトは結果的に失敗してしまったんです。そうしたら「おまえが来い」と(笑) そのときは独立したばかりだったのでジョインできませんでしたが、その後も採用支援でのお付き合いは続いていて、それから2〜3年後に自分の会社を辞めるタイミングでもう一度誘ってもらったのが入社のきっかけです。
Sansanは当時まだ十数人規模のスタートアップだったかと思います。入社の決め手は何だったのでしょうか?最初は外部のパートナーという立場だったんですね。
今、人事の仕事をしていることにも通じているんですが、決め手は「仲間」の存在でした。当時、寺田(Sansan株式会社 代表取締役社長/CEO/CPO 寺田 親弘氏)から「まだ事業としては何も成せてはいないが、今誇れるものがあるとしたら一緒に働いている“仲間”だ」「(Sansanの)社員と3回、食事に行ってみてほしい」という話になったんです。
仲間を誇りだと、そこまではっきりと言えるのもすごいですね。
それで、最初に営業メンバー、次にエンジニアメンバー、最後に役員と食事に行きました。そこで感じたのが、みんながお互いのことを心から誇りに思っていることでした。例えば、営業メンバーが「次に会うエンジニアの二人はものすごい変わったヤツらなんだけど、アイツらが作るプロダクトは最高なんだよ。マジで世界を変えられると思う」と熱く語るんです。自分が一緒に働いているメンバーのことを、外部の人間に向かって自社の仲間を堂々と誇れる。それってすごくいいなと思いました。
寺田さんだけじゃなく、メンバー同士も本気でそう感じていることが伝わってきたんですね。
次にエンジニアメンバーと会ったときも全く同じでした。「自分たちが一生懸命作ったプロダクトを渡したら、営業のアイツらなら何かやってくれる感じがするんだ」「最高の仲間なんだ」と。役割は違えど、互いを信頼し、尊敬していることがよくわかりました。。本気で「世界を変える」と、同じ方向を向いて誇れる仲間と仕事をしている。そのチームがすごく素敵だなと。このチームだったら、会社が大きくなっても、きっと「101番目、1,001番目に入ってきた仲間にも同じことが言える組織なんじゃないか」と思ったんです。それが、Sansanへのジョインを決めた一番の理由です。

コミュニケーションからイノベーションが生まれることを信じるカルチャー
素晴らしいエピソードですね。その後、営業で活躍され、2015年に人事部へ異動されました。これはどういった経緯だったのでしょうか?
プロダクトが少しずつ地に足がついてきて、ここから一気に採用を加速させて事業を伸ばしていく、というタイミングが2015年でした。そのときに寺田から「大間、人事やらないか?」と声がかかったんです。
自ら希望されたわけではなかったんですね。
正直、当時は全く人事をやるとは思っていませんでした。自分のチームを持っていましたし、営業目標も倍々に増えていく中で、僕が抜けたらまずいと思っていました。メンバーにも高い目標に向き合ってもらっている中、「人事へ行く」とは言えませんでした。ずっと断っていたんですが、最後は寺田と数回の面談の末、4-5時間くらい話をして、その役割を受け入れることを決めました。
どうやって自分の中で納得されたんですか?
結局、自分がやりたいのは「この会社のトップラインを伸ばして成長させること」だと気付いたんです。本当に会社を成長させるために、自分が営業をするということにこだわるよりも、圧倒的に優秀な人材をマーケットから採用してくる方が、事業成長にレバレッジをかけられるのではないか。そう考えて、異動を決意しました。

大間さんが入社時に感じた「誇れる仲間」を、今度はご自身で増やしていく側に回られたわけですね。仲間集め・組織づくりの核となるカルチャーづくりはどのようにされているんでしょうか?
僕たちはミッション、ビジョン、バリュー、プレミスを「Sansanのカタチ」と呼んでいます。そして、会社のフェーズや課題感が変わるタイミングで見直しが必要になった時は、社員全員が参加する「カタチ議論」を行い、アップデートをするんです。その文化は創業当時から今も続いています。直近では、2年ほど前に「パーパス議論」を実施しました。会社が1,500人規模になったタイミングで、「50年後や100年後、Sansanという会社は社会からどんな存在だと認識されているべきか」を全社で議論しようと。
1,500人規模で全社議論というのは、相当なコストがかかりそうですね。
はい。1,500人を250チームぐらいに分けて、各チームで1時間の議論を3回以上やってもらいました。それだけで4,500時間。それを部門に持ち帰って、さらに同じように議論したので、合計で9,000時間以上を投下したことになります。
9,000時間…!そこまで時間をかけて、どんなパーパスが生まれたのでしょうか?
結論から言うと、「パーパスは置かない」ということになりました。
置かない、ですか?
そうです。約1年半をかけて議論を重ねたんですが、議論の終盤、AI時代に突入するという大きな変化が起きました。半年先のことも予測が難しい時代になったと感じ、「このタイミングでは置かない」という意思決定をしたんです。
普通なら、何かしらの形を残したくなってしまいそうです。
「1年半も議論して、やめるんかい」みたいな話ですよね。でも、Sansanは結論そのものよりも、その結論に至るまでのプロセス— つまり「コミュニケーション」に価値を置いているんです。9,000時間をかけた議論のすり合わせ自体が組織にとっての財産になる、と。人と人とのコミュニケーションからイノベーションが生まれることをすごく信じている会社なんです。それに、このパーパス議論の過程で、(名刺管理からはやや飛び地に感じられる新規事業であった)『Bill One』事業のプロダクトミッションが生まれるといった副産物もありました。

CAXOとは?そして、なぜCHROがCAXOを兼務するのか?AI時代の組織づくりの本質
現在のCAXO(Chief AI Transformation Officer)という役職についてお伺いします。2025年にSansanは「AIファースト」を年間テーマに掲げられましたが、これがきっかけでしょうか?
はい。2025年が「真のAI元年になる」という潮流の中で、会社として「AIファースト」をテーマに掲げました。そして、年間テーマをどう組織に体現させていくかは、人事の重要なミッションです。そこで、まずは「AIを使って働くことが当たり前」のカルチャーを作るために、CHROである私の直下に「AIオンボーディングプロジェクト」を立ち上げました。
具体的にはどのような活動を?
全社にChatGPTのアカウントを配布し、研修プログラムを作り、部門ごとの利用率を開示して切磋琢磨を促したり、月に2回開催している全社会議では各部の成功事例を共有する場を設けたりしました。さらに、Company OKR(目標管理フレームワーク)に「日常業務をAIに置き換え、月3,000時間を削減する」という目標を置き、各部門にブレイクダウンして実行を促しました。結果的に、いろいろな施策を積み重ねて年間で10万時間ほどの業務時間削減を達成しています。
年間10万時間!すごい成果ですね。
そして2026年、AIでいかに組織を変革させることができるかが今後の事業成長を左右することが決定的になったと感じました。そこで、プロジェクトを正式な部署「AI Enablement室」として人事本部の直下に設置しました。そうした流れの中で、「経営会議メンバーにAIの責任者を置き、さらに施策を加速させていきたい」という議論が持ち上がったんです。
そこで大間さんに白羽の矢が立った、と。
はい。実は、当初は技術のスペシャリストが担うべき役割だと思っていました。ここは会社によって様々な考え方があると思いますが、新しい取り組みをカルチャーに落とし込み、全社で体現させていく実行力はSansanの大きな強みの一つです。AIについても、その推進役を人事が担うのがベストではないかという判断でした。ただ、僕がやるのはプロダクトへのAI実装ではなく、あくまで組織のAIトランスフォーメーションをけん引すること。そこで、CAIO(Chief AI Officer)ではなく、CAXO(Chief AI Transformation Officer)という肩書きになりました。
CHROがCAXOを兼務する。非常にユニークな体制ですが、大間さんご自身はそこにどんな意義を感じていますか?
社内のAX(AI Transformation)を推進していくことは、働き方そのものを変えることであり、人事領域と密接に関わっていると考えています。AIによって、これまで専門職にしかできなかったことができるようになり、職種の壁が溶け始めると、従来のジョブ型の評価制度は通用しなくなるかもしれない。組織のあり方自体も、AI活用を前提に再設計する必要が出てきます。評価、育成、組織開発— これらはすべて人事の領域です。だから、人事責任者が社内のAI推進を担うのは非常に理にかなっていますし、これからのHRの新しい形になっていくのではないかと考えています。

目指すは100名体制の「Solution Builder」。職種の壁を越境する人材を育てる
AXとHRは不可分だということですね。CAXOとして、今後特に力を入れていきたいことは何ですか?
一番可能性を感じているのは、「Solution Builder(ソリューションビルダー)」という新しい職種を新設し、この役割を担う人材を増やしていくことです。AIを使って、社内外の課題を解決するソリューションを提供する人材のことです。アメリカでは「AIビルダー」と呼ばれています。特徴的なのは、彼らの多くが非エンジニア(ノンテック)であるという点です。私の管掌範囲に「AIX室」という部署があり、所属する7人のビルダーは全員ノンテックですが、彼らはAIを駆使して驚くような成果を上げています。
具体的には、どのような成果でしょう?
例えば、これまで社内のワークフロー管理に利用していた外部ツールには年間1億数千万円のコストがかかっていたのですが、3人のビルダーがAIとSlackを連携させた内製ソリューションを開発して、完全にリプレイスすることに成功しました。
ノンテックの3人で、1億円以上のコストがかかるシステムを内製してしまったと。
そうです。彼らは社内だけでなく、社外のお客様に対しても価値を提供しています。例えば、『Bill One』を導入されたお客様の会計システムや基幹システムとのデータ連携などを、ノンテックのビルダーがAIを使って実現しています。私は、この「Solution Builder」を、遠くない未来に100名超の組織にしたいと考えています。いわば、「FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)のノンテック版」です。
それが実現したら、とてつもないインパクトを生みそうですね。
各事業部にビルダーが張り付いて、現場の課題をどんどんAIで解決していく。そうなれば、組織の生産性は飛躍的に向上するはずです。AIの登場によって、職種の壁は確実に溶け始めています。営業、CS、開発、法務、経理— あらゆる職種の人間が、自分の役割を“越境”して新しい価値を生み出せる時代です。そうした「越境人材」をいかに育て、彼らの価値をどう評価していくか。それが、これからのSansan、そして私自身の大きなテーマです。

※こちらは、2026年9月8日時点の情報です


