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「言葉よりも行動」急拡大しても崩れない組織カルチャーの育て方|LayerX 石黒 卓弥

ジェネシア・ベンチャーズがスタートアップ起業家に向けて立てた『10の問い』。

本稿では『組織カルチャー』というテーマで、株式会社LayerXの執行役員 CHROである石黒 卓弥さんにお話を伺いました。

  • 持続的な事業成長の土台となるカルチャーを自身が最も体現できているか? 
  • 時代や事業フェーズの変化を踏まえて、カルチャーをアップデートし続けているか? 

という問いへの、石黒さんの回答はー?

  • インタビュアー:ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 黒崎 直樹
  • 編集:ジェネシア・ベンチャーズ PR Specialist 吉田 愛
  • 写真、デザイン:尾上 恭大さん、割石 裕太さん

Trustful Team— 「信頼」をベースに変化し続けるチームを目指して

interviewer:

ブロックチェーンからSaaS、そしてAIへと事業の重心を移しながらも、驚異的なスピードで成長を続けるLayerX。その強さの源泉は、事業だけでなく、ユニークで強固な「組織カルチャー」にあるとも言われます。今日はCHROの石黒さんに、その強い組織創りについてお伺いします。

まず、石黒さんがLayerXにジョインされた経緯と、担われてきた / 担われているミッションについて教えていただけますか?

石黒:

代表の福島(代表取締役CEO 福島良典氏)のことは以前から知っていて、彼が書いた「LayerXが賭ける次の10年」というnoteをシェアしたことがきっかけで話をするようになったのが、転職のきっかけです。2020年の5月からLayerXにジョインしています。

interviewer:

すでに6年になるのですね。

石黒:

メルカリにいた期間よりも長くなります。LayerXには、広報や人事、総務といった領域を担う役割で入社しました。会社のブランドをつくる広報、採用や人事制度、そしてそれこそ「組織カルチャー」と言われるような、例えば当社の行動指針や羅針盤 [*1] をアップデートしていく上でのサポートや、全社への浸透といったところをやってきました。

[*1] LayerX羅針盤: LayerXが重視する行動原則や組織運営の考え方をまとめた資料

interviewer:

石黒さんご自身が最も体現している、あるいは特に大事にされているバリュー(行動指針)は何ですか?

石黒:

当社には五つの行動指針があります。

– 徳
– Trustful Team
– Bet AI
– Fact Base
– Be Animal

唯一日本語なのが「徳」— 英語でいうIntegrity(真摯さ)です。短期的な売上至上主義に走らず、中長期で社会の発展に資する存在であろうというもので、これが一番好きって言うメンバーも多いですね。

私個人としては「Trustful Team」を大切にしています。相手を信頼すること。例えば、フィードバックって、どうしても斜に構えてしまったり、受け止めが難しかったりするケースがありますよね。そこを、相手を信頼してフィードバックをすることもそうだし、されたときも、自分のことや会社・事業のことを信じてのフィードバックだと受け止める。

interviewer:

フィードバックは、する方もされる方も身構えてしまうことが多いですよね。強い組織・事業を創ることを前提に、そして「Trustful」を根底に置くことはとても大事ですね。

石黒:

採用面接のときにも、「耳の痛いフィードバックをどんなふうに受け止めて、ご自身はどう変われましたか?」と聞いたりします。スタートアップにいると、やっぱり変わり続けることがすごく大事なので。

interviewer:

逆に、これからさらに体現していきたいというものはありますか?

石黒:

「Bet AI」ですね。これは元々「Bet Technology」だったものを2025年4月に「Bet AI」に変えたのですが、わかりやすくなったと思っています。この一年で社内のAIシフトはだいぶ進んだなと思う一方で、これは際限がないことでもある。「AI時代のHRとは?」「AI時代の組織運営とは?」という問いについて日々考えながら、私自身も手を動かしています。

Bet AI— 推進の裏にあった、経営とチームのコミットメント

interviewer:

2025年は「AIに賭けて、まず試そう」という一年だったと伺いました。2026年以降は、それを「アウトカム(成果)に変える」一年にしていくフェーズなのでしょうか?

石黒:

「使う」という点では、エンジニア、ビジネスサイド関係なく全社員がAIを使うようになりました。ただ、「実際に事業のアウトカムに繋げられているか」という点では、難しいという調査結果がグローバルでも多いようです。

LayerXにおいても、「Bet AI」というカルチャーを、お客様への価値提供や事業成長にどう繋げるかがすごく大きなテーマになっています。

interviewer:

「Bet AI」を社内に浸透させる上で、苦労した点などはありますか?

石黒:

とにかくみんなで使っていこうという働きかけはしました。その中でも、情報システム部門にあたる「コーポレートエンジニア室」が、様々なガードレールを敷いてくれたのが、頼もしかったです。

どのツールをどこまで使っていいかわからない、会社の情報を個人のアカウントで入力していいのか、といった無限に出てくる疑問に対して根拠をもって回答して、使える仕組みを徹底的に作ってくれています。

また、エンジニアメンバーが「Bet AI Guild」のようなチームを作って、ビジネスチームやコーポレートチームの利活用をサポートしてくれました。当社らしく、ありがたいカルチャーです。

interviewer:

自由に安心してAIを使えるガードレールがあり、また、経営メンバーが誰よりもAIを使っている。そうなると“やらない理由がない”環境ですね。

石黒:

そうですね。当社は福島と松本(代表取締役CTO 松本勇気氏)の両代表が圧倒的にAIを使って最前線を走っているので、彼らについていかなければというプレッシャーを感じることもあります。いい意味で、ですけどね。

議論を重ね、あえて“変えない”ミッションと行動指針の価値

interviewer:

市場環境やテクノロジーの進化にあわせて事業の重心も変遷させてきた中で、組織カルチャーとして“変えなかった根幹の部分”と、逆に“アップデートしてきた部分”について教えてください。

石黒:

「すべての経済活動を、デジタル化する。」というミッションは一言一句変わっていません。私たちは基本的に、「先端技術の社会実装をやっている会社」という認識で、ブロックチェーンもAIも、先日M&Aを実施したセキュリティ領域も、方向性としては一貫しています。

interviewer:

意図的にアップデートした部分では、先ほどの「Bet AI」でしょうか。

石黒:

昨年、創業以来初めて、五つの行動指針のうちの一つを「Bet Technology」から「Bet AI」にしました。それはすごく大きな変化だったかなと思います。

interviewer:

基本的にはミッションや行動指針の全てが、まさにLayerXのカルチャーをつくるコアとして不変の部分であるということですね。

石黒:

一方で、ミッションや行動指針を変えること自体を否定しているわけではありません。見直そうか?というアジェンダは、私たちの経営会議や経営合宿でも常に挙がってきます。

interviewer:

どのくらいの頻度で議論されるのですか?

石黒:

企業のミッションに関わるような大きなテーマは一年に一回くらいですかね。定期的に議論をして「変えない」というのと、ただ漠然と「変えない」というのは別だと思うので、しっかりとプロセスを踏むことを大切にしています。

interviewer:

カルチャーの浸透という観点では、どのような仕組みがあるのでしょうか?

石黒:

従業員が様々な場所で、羅針盤や行動指針に触れる仕組みができています。私はよく「Daily、Weekly、Monthly、Yearly」で説明しています。

interviewer:

詳しく教えてください 。

石黒:

Dailyだと、Slackのスタンプ。「Bet AI」とか「Trustful Team」とか、めちゃくちゃ押されます。Weeklyだと、チームのミーティング。例えばHRチームの週次定例には「感謝のコーナー」というのがあって、「今回の石黒さんのBet AI良かったね」というように、羅針盤や行動指針に即した形で感謝のフィードバックをしています。

Monthlyだと、月間MVPの表彰です。四半期ごとに「重点羅針盤」というものを三つ設けているのですが、その羅針盤を最も体現した社員を全社員の前で表彰しています。さらにYearlyだと、社員総会の場で年間MVPの表彰もあります。

また、評価制度にも関与してくるので、常にカルチャーに触れている状態があると思います。

真似される会社でありたい― 組織の仕組みをオープンにする理由

interviewer:

ここまでで教えていただいた取り組み自体も、創業当初からあまり変わっていないのでしょうか?

石黒:

あまり変わらないですね。結局、会社として生き残るための事業上の意思決定はその都度変更してきましたが、ミッションそのものを変えていないということが大きいと思います。

福島がやりたいこと自体がずっとそんなに変わっていなくて、私たちもそこに強く共感している。そして幸せなことに、『バクラク』や『Ai Workforce』という事業・サービス— つまり、私たちがカルチャーを変えずに作り上げてきたものがお客様に受け入れていただけている。すごくありがたい話だなと思います。

interviewer:

他社が真似しにくい、LayerXならではの仕組みという意識はありますか?

石黒:

真似しにくい仕組みというのはあまり意識していないんです。むしろ「真似したほうがいい」と思っています。だから私たちは数多くの情報発信をしています。

interviewer:

たしかに、情報を非常にオープンにされている印象があります。

石黒:

LayerXにしかない仕組みや運用なんてない、と私は思っています。今も、5年後や10年後のスタートアップも、私たちの発信を見て教科書にしてくれたらいいなと思っています。

interviewer:

その思いはどこから来るのでしょうか?

石黒:

「真似される会社でありたい」という思いは、自分たちのやっていることに誇りを持つという観点からも大切にしています。私たち自身も、先人たちの歴史から学んでいるので、ペイフォワードの精神と言えるのかもしれません。実際アイデアなんていくらでもあって、オープンにもされている。あとはエグゼキューションだけ。そこで差がつくと思っています。

interviewer:

やり方がわからない、リソースが足りない、今じゃない、などは全て言い訳ですね。

石黒:

社会にない新しい価値を生み出していくのがスタートアップだと思うんです。そして、普通10年、20年かかることを3年、5年で実現するのがスタートアップだとするならば、人がやっていないことをやっていく必要があります。そういう先端の価値づくりが、私たちの誇りにも繋がっていると思います。

700人全員が、組織をつくるカルチャー担当であるということ

interviewer:

とはいえ、組織が急拡大する中で、カルチャーが薄まったと感じる瞬間や浸透に課題を感じる瞬間はなかったのでしょうか?

石黒:

ないですね。

interviewer:

ない、ですか。

石黒:

従業員からも「300人、500人を超えてきても大丈夫ですか?」とよく聞かれますし、採用面接でも一番いただく質問かもしれません。

interviewer:

その質問には、どうお答えしているのですか?

石黒:

「大丈夫かどうかは、あなたが担うものです」とお答えしています。

interviewer:

あなた自身が当事者である、と。

石黒:

私は「カルチャー担当」を置きたくない派なんです。700人の従業員がいたら、700人全員がカルチャー担当全員がカルチャーに責任を持つべきだと考えています。

例えば、会社が大事にしていきたいカルチャーが薄まっているとしたら、自分が薄めているかもしれない。一人一人がそれくらいの自負を持って、会社を背負っていくことが大事です。

組織の30人・50人・100人の壁とよく言われますが、それを言い訳にしたい部分もあるのではないかと思います。例えば、Amazonは社員数が100万人を超えても爆速で成長していますよね。そういう事例を見ると、言い訳している暇はありません。

文化は言葉ではなく行動から― 採用で見るのは、当事者意識

interviewer:

採用においてカルチャーフィットを見る際、どのような点を重視していますか?

石黒:

「カルチャー」って、便利な言葉ですよね。「LayerXのカルチャーっていいですよね」と皆さんおっしゃってくれます。そこで、採用においては、「じゃああなたはどう実行しますか?」「あなたはどう体現しますか?」、逆に「気になるものはありますか?」と聞いていく必要があると思っています。

interviewer:

行動指針をどう自分ごと化しているか、ですね。

石黒:

なので採用面接では、「耳の痛いフィードバックを受けた時に、あなたはそれをどう受け止め、どう行動を変えましたか?」というような、具体的なストーリーを聞くようにしています。

interviewer:

カルチャーは言葉ではなく、行動から生まれる、と。

石黒:

はい。実際、当社の羅針盤に「文化は言葉じゃなくて行動から」と書いてあるページがあります。仮に日本の100万社が「Bet AI」と言ったとしても、AI推進は実現されないじゃないですか。でも、行動したら進む。行動が先で、言葉は後なんです。多くの会社は、言葉を先に置いて行動を後から追いつかせようとするから浸透が難しいのだと思います。

当社では、すでに浸透している行動を言葉にしています。羅針盤の最上段には「凡事徹底」という言葉があります。それは、「凡事徹底してるLayerXいいな」と思って掲げたものです。社内にある「いいな」と思った行動を言語化して羅針盤にしている、と福島も話しています。

AI時代こそ、「スタンスを持つこと」がより重要になる

interviewer:

AI時代において働き方が変わる中で、採用や評価において重視するポイントに変化はありましたか?

石黒:

AIそのものが社会をガラッと変えていますが、働く上で大切なこと― 例えば自分なりの「意思を持つ」「意見を持つ」「スタンスを持つ」ということは、より重視される時代かなと思います。

結局、平均点をとるような意見をまとめる作業はAIが実現できてしまいます。そうではなく、「自分はこの案でいく」というスタンスを取れるか。その上で、世の中や会社の状況を見ながら柔軟に変化し、時には「Disagree and commit(賛同しないがコミットする)」することもできるかどうか。このようなスタンスは、ビフォーAI時代よりもアフターAI時代の方がより求められるようになっているのかなと思います。

interviewer:

それを変化(強化)したことと捉えるとしたら、一方で、変わらないものは何でしょうか?

石黒:

「学ぶことが好き」「新しいものに対して興味を持ち続ける」というマインドかなと思います。LayerXにはどんな人が多いですか?と聞かれたら、私は「学ぶことが好きな人」とよく答えています。

interviewer:

受験勉強のような「勉強」とは違いますよね。

石黒:

はい。新しい技術やビジネスモデルが出てきたときに、聞き流して終わるのではなく、「どういうことだろう?」と興味を持ってみる。さらに、自分が理解して説明できるようになろうとか、それによって社会はどう変わるんだろうとか、自分はどう行動を変えたらいいんだろうとか、そういったことを自律的に考えられる方は、すごく当社の不変な部分にマッチしていると思います。

未来の組織カルチャーは、今いる人たちで今この瞬間につくられる

intervierwer:

最後に、将来を見据えて、今から仕込んでいるカルチャー施策などはありますか?

石黒:

特殊なことはやっていないですね。やっぱり一日一日を大事にするという話だと思っています。まさに「凡事徹底」です。

intervierwer:

日々の積み重ねが全て、ということですね。

石黒:

あとは、社員に向けて「今いるみなさんが、次の100人を定義するんだよ」とよく伝えています。私たち一人一人が今つくっているこのカルチャーが、これから入ってくる人たちのスタンダードになるということです。だから、LayerXの一員になった瞬間に、カルチャーを「濃くする存在」であってほしい。「薄くする存在」ではなく。

例えば、次の一人が入社したときに、その人がカルチャーを薄めるのではなく、むしろカルチャーを体現する一員になれるようにする。それを入社する方が増えるたびに繰り返すことが大事だと思います。

intervierwer:

5年後、10年後を予測するのが不可能な時代だからこそ、今を大事にすると。お話を伺えば伺うほど、凡事徹底、基礎の徹底— やり切ることがすべてなのだなと感じました。

石黒:

都合のいいことって、勝手には起こらないですよね。「銀の弾丸」はない。ただ、そう思いながらも、「銀の弾丸を探さない」こととはまた別だと思います。

ない、ということを認めながらも、「もっと良い解があるんじゃないか」と探し続けることがすごく大事だと思っています。凡事徹底の中に、偶然に素敵な出会いがあるかもしれない。その両面を認識しながら行動し続けることですね。

※これは、2026年6月30日時点の情報です

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