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再現性とスケールを両立するグロースエンジンをいかに作るか— ベトナム・スタートアップ向けの経営実践論|Orbit Workshop

コミュニティ

ジェネシア・ベンチャーズのベトナムチームでは、投資先の皆さんやスタートアップを志す皆さん向けに、クロスボーダーで投資と経営支援を行うベンチャーキャピタルとして、スタートアップに関するナレッジの共有やリレーション構築を目的に、さまざまなイベントを開催しています。

『Orbit Workshop』は、私たちのネットワークに属するスタートアップの起業家・創業者をはじめとしたプレイヤーから、重要な経験と知見をご紹介いただく機会として定期的に開催しているイベントです。

2026年3月27日には、Orbit Workshop「Navigate Growth through Crisis(クライシスを乗り越えてグロースを実現する)」を開催しました。ゲストスピーカーに、LITのFounderであるDuy Nguyen氏(以下:Duy)をお迎えしたトークセッションでは、「不確実性の中でFounderがどのようにグロースを実現し、信頼を再構築し、クライシスを持続的成長へのチャンスに変えるか」をテーマに、豊富な実体験とインサイトをお話しいただきました。本レポートはそのダイジェスト版です。

  • モデレーター:ジェネシア・ベンチャーズ Country Director of Vietnam Hoàng Thị Kim Dzung(ホァンティキムズン)
  • 編集:ジェネシア・ベンチャーズ Operation and Community Manager Vo Thanh Truc(ボー・タン・チュック)、Relationship Manager 吉田 愛

インベスターからオペレーターへ。マインドセットの根本的な変化

Zun:長年VCとしてスタートアップと深く関わってきた中で、あなたがInvestorからFounder/Operator(以下、「経営者」と表記)へと転身した際に最も変わったことは何でしょうか?

Duy:VCは数字を見て、経営者に「なぜ伸びているのか、あるいは伸びていないのか」と問いかける立場です。しかし、自分自身が経営者になると、その数字の背後に何があるのかを実際に体感することになります。経営者は、オペレーション、セールス、日々の細かな問題解決、泥臭い作業まで、あらゆることに自ら向き合わなければなりません。

マインドセットも根本的に変わります。自分がどう見られるかといったことはもはや関係なく、ただひとつ「どうすればこの会社を生き残らせ、成功させられるか」だけを考えるようになります。

サバイバルなくしてスケールなし。トップラインより先に考えるべきこと

Zun:経営を始めて最初に学んだ教訓は何でしょうか?

Duy:私は、多くの経営者が犯すのと同じ失敗をしました。トップライン(売上高)に過度に注目し、できる限り速く成長しようとしたのです。しかし、速く成長すればするほど、損失も大きくなっていきました。

やがて気づいたのは、スタートアップはスケールする前にまずサバイバルしなければならないということです。会社を存続させ、キャッシュフローを管理し、手元のリソースでどこまでいけるかを把握することが先決です。

その失敗から初めて、単に売上を追いかけるのではなく、持続可能なグロースを実現するためのドライバーを探すことに焦点が移りました。

シグナルを見つけてからスケールする。リソース配分の優先順位

Zun:スタートアップでは常にリソースが限られています。まず何に集中すべきでしょうか?

Duy:最も重要なのは、限られたリソースを使って、ビジネスが持続的に成長できるかどうかを示す「シグナル」を見つけることです。

Dr. Pong[*1]では、ベトナムのコンシューマーがどのような製品を好むのか、どのようなコンテンツが機能するのか、収益を生むチャネルはどれか、そして実際にスケールできるチャネルはどれかを理解しなければなりませんでした。強いポテンシャルを示すプロダクトやフォーミュラが見つかった段階で、リソースを分散させずにそこへ集中投下しました。

[*1] Dr. Pong:Duy氏が手がけたコンシューマービューティーブランド。タイで確立されたブランドをベトナム市場向けに展開した。

戦うフィールドを選ぶ― ニッチなマーケットで勝機を探る

Zun:ベトナムでDr. Pongのビジネス機会をどのように見極めたのでしょうか?

Duy:タイで成功したフォーミュラをそのままベトナムに持ち込むのではなく、市場リサーチをゼロからやり直しました。コンシューマー行動が全く異なるからです。

その結果、グローバルブランドと正面から戦うことは、スタートアップにとって極めて難しいと判断し、Dr. Pongが自然なアドバンテージを持てるニッチを探しました。最終的に注目したのはアクネケア(ニキビケア)セグメントです。強いポテンシャルがある一方で、市場を完全に支配する大手プレイヤーが存在しなかったのです。そのシグナルを確認した後、同領域のプロダクトにリソースをすべて集中投下した結果、Dr. PongはShopeeで1位のプロダクトになりました。

一つのウィニングプロダクトでは不十分。ポートフォリオ戦略の重要性

Zun:ウィニングプロダクトが見つかったあと、どのようにして持続的な成長を維持しますか?

Duy:一つのプロダクトは特定の時点では勝利をもたらしてくれますが、それに永遠に依存することはできません。あるプロダクトが成功すると、競合他社が気づいて同じ領域に投資し始めます。

だからこそ、私は一つのSKU(Stock Keeping Unit:在庫管理単位)を何としても守ろうとはしません。プロダクトの効果が低下してきたら、リソースを引き上げて別のチャンスに振り向けます。現在は複数のSKUを持ち、それぞれに異なる役割を担わせています。ヒーロープロダクトとして機能するもの、カスタマーベースを構築するもの、そして追加投資をすでに停止しているものもあります。常に新しいグロースの機会を持てるよう、十分に幅広いポートフォリオを構築することが目標です。

データからフォーミュラを見つけるために。実験の設計が成否を分ける

Zun:グロースの正しいフォーミュラを見つけるために、データをどのように活用していますか?

Duy:データは非常に重要ですが、さらに重要なのは実験をどう設計するかです。

あるライブストリーマー(ライブ配信を行う販売者)の売上が他より多いからといって、即座にその人の方が優れていると結論づけることはできません。タイミング、予算、プロダクト、トラフィック、その他結果に影響しうる変数を総合的に見る必要があります。常にテストを繰り返し、ノイズを除去し、実際にパフォーマンスを動かしている要因を特定します。機能するフォーミュラが見つかったところで、スケールを開始します。

グロースの「質」を問い、トップラインの裏にある実態を読む

Zun:非常に速く成長しているスタートアップを見たとき、トップライン以外で何に注目しますか?

Duy:グロースの「質」を見ます。

売上はどこから来ているのか。新規顧客と既存顧客の比率はどうか。CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)はいくらか。顧客はリテンション(継続利用)しているのか— こうした問いに目を向けます。

ビジネスというのは、ディスカウントやアグレッシブなマーケティングによって急速に成長することができます。しかし、そうした施策を止めた途端に売上が大幅に落ち込むならば、そのグロースモデルは持続可能とは言えません。重要なのは「どれだけ速く成長しているか」ではなく、「なぜ成長しているのか」「そのグロースは続くのか」を理解することです。

マーケティングが連れてきて、プロダクトが引き止める— リテンションの本質

Zun:マーケティング主導のグロースとプロダクト主導のグロース、どちらがより重要だとお考えですか?

Duy:どちらも重要です。

マーケティングは顧客を連れてきます。しかし、プロダクトがその顧客をリピーターにするかどうかを決めます。広告費の増加やディスカウント、プロモーションを継続しなければ成長が止まるのであれば、それは真のグロースとは言えません。マーケティングはトラフィックと売上を生み出しますが、強いプロダクトこそがリテンションとリピート購買を創ります。

チャネルの成長はビジネスの成長ではない。インクリメンタル収益を正しく測る

Zun:あるキャンペーンやチャネルが大きな売上を生み出したとき、それを本当の意味でのグロースと見なしますか?

Duy:必ずしもそうではありません。

例えばライブストリームが数十億VND(ベトナムドン)の売上を生み出したとしても、その一部は他チャネルからの「カニバリゼーション(共食い現象)」に過ぎない場合があります。ディスカウントやプロモーションによって、他のチャネルで購入していたはずの顧客がライブストリームに流入しているだけかもしれません。だからこそ、キャンペーン前・中・後の売上を比較し、実際のインクリメンタル(純増分)収益を把握する必要があります。あるチャネルが成長しているからといって、ビジネス全体が同量だけ成長しているとは言えないのです。

Founderこそグロースをリードすべきである理由— 早期外部委託のリスク

Zun:初期の段階からHead of Growthというポジションを採用すべきでしょうか?

Duy:初期段階においては、経営者が直接関わるべきだと考えます。

私自身、データ、Excel、オペレーション、マーケティング、テストすべてを担当しました。Founderは自社のビジネスがどのように機能しているか、顧客がどう行動しているか、グロースが実際にどこから来ているかを深く理解する必要があります。ビジネスへの理解が浅いまま早期にグロースを外部委託してしまうと、チームが正しいことをやっているかどうかの判断が難しくなります。経営者はPMF(Product Market Fit)を真に理解するまでグロースをリードすべきです。その後、チームを構築して実行をエンパワーしていけばよいのです。

グロースを「見つける」から「スケールする」フェーズへ。経営者の役割の変化

Zun:経営者がグロースを直接管理するポジションから一歩引けるのは、どの時点でしょうか?

Duy:プロダクト、マーケット、グロースフォーミュラを真に理解した経営者は、信頼できる人材やチームを構築してエグゼキューション(実行)を引き継がせることができます。

経営者はすべてを永遠にやり続ける必要はありません。しかし、ビジネスを十分に深く理解して、チャンスを見出し、問題を認識し、リソースをどこに配分すべきかを判断できる状態であることが前提です。最終的な経営者の役割は、会社を前進させる最も重要な問題にその時間を集中させることだと言えます。

まとめ:再現可能なグロースエンジンを構築するために

今回のOrbit Workshopでは、Duy氏の経営者としての実体験を通じて、持続可能なグロースを実現するための本質的な考え方が語られました。重要なポイントを改めて整理します。

まず、サバイバルを優先すること。スケールよりも先に、会社を存続させるためのキャッシュフロー管理とリソース配分の把握が不可欠です。次に、スケール前にシグナルを見つけること。限られたリソースで実験を繰り返し、持続的成長の可能性を示すシグナルを特定してから集中投下することが鍵となります。また、グロースの「質」を問うこと。トップラインだけでなく、CAC、リテンション率、リピート購買率といった指標を通じてグロースの持続可能性を評価する視点が求められます。さらに、データ主導の実験設計を徹底すること。単に数字を見るだけでなく、ノイズを排除して実際のドライバーを特定できる実験設計が重要です。そして、経営者はPMFを理解するまで自身でグロースをリードすること。早期の外部委託ではなく、まず経営者自身がビジネスの深部を掴むことが、その後のスケールの基盤となります。

持続可能なグロースは、スピードだけでは構築できません。正しいシグナルを見つけ、データから学び、継続的に適応していく能力こそが、スケーラブルで強靭なビジネスを生み出します。これは、経営者が困難を乗り越え、グロースの機会を解き放ち、自信を持ってスケールするためのシステムを構築することを支援するという、Orbit Workshopの核心的なミッションでもあります。

ジェネシア・ベンチャーズのベトナムチームは、今後もOrbit Workshopを通じて、経営者の皆さんにとって実践的なナレッジと学びの場を提供し続けてまいります。

※これは、2026年3月27日時点の情報です

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