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事業のネタ帳 #32 アパレル業界におけるビジネスモデルの転換

IDEA

こんにちは、ジェネシア・ベンチャーズの一戸です!

以前、↓このような記事を書いたのですが、それ以降もアパレル業界について色々とリサーチをしたり、考えを巡らせてきました。

そのような中で、経産省が今年の4月に公開した「ファッションの未来に関する報告書」というものが、アパレル業界の潮流を認識するだけでなく、スタートアップの事業機会を模索する上でも有用だったため、今回はこちらのレポートをベースに、私の考えも織り交ぜながら”事業のネタ”を考察していきたいと思います。

目次

  1. 課題認識
    ①大量廃棄
    ②GHG排出
    ③労働環境
  2. 事業機会
    ビジネスモデルの転換
    受注生産へのシフト

課題認識

まず、アパレル業界における課題についてしっかりと認識を深めたいと思います。既にご存知の方も多いと思うので、読み飛ばしていただいても構いません。

①大量廃棄

レポートによると、2020年におけるアパレルの国内新規供給量は81.9万トンありますが、その一方で廃棄は51.2万トンも存在します。また、家庭から排出される衣服の74.7%が焼却処理されているというデータも存在します。

アパレル業界において、根本的に課題となっているのはまさにこの大量廃棄問題であり、中には、いかに革新的な素材でアパレル品を生産するよりも、そもそも何も生産しないのが最も好ましいとさえ言われていたりします。

また、フランスでは2022年1月から衣服の廃棄を禁止する廃棄対策・循環型経済に関する法律が施行され、企業による在庫商品の廃棄(埋め立て・焼却)が原則禁止されました。このような動きがある中で、企業としてはフランスで事業を展開するか否かにかかわらず、可能な限り廃棄を行わないためにバリューチェーンやサプライチェーンを見直す必要があるのです。

②GHG排出

こちらは↑の大量廃棄に紐づく問題でもありますが、世界のCO2排出量333億トンのうち、衣類からのCO2排出量は21億トンもあり、国内に供給される衣類からのCO2は日本全体の排出量の約8%に相当します。

また、アパレルビジネスから排出されるCO2の9割以上はものづくりの工程で排出されており、これらを踏まえると、廃棄をしても環境に負荷がかからない素材で生産することと、可能な限り余分に生産しないことの2点が重要だと考えられます。

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ファッションの未来に関する報告書 P.30

③労働環境

加えて、個人的に重要視しているのが労働環境の問題です。アパレル業界における労働環境問題というと、海外の生産工場での強制労働等の人権侵害が真っ先に思い浮かぶと思いますが、そこまでとは言わずとも、日本の生産工場でも低賃金での労働を強いられている方々が少なくありません。

最近では円安もあり、国内の生産工場に受注が集中し、一部では”国内生産回帰”と言われていたりもしますが、こちらの記事によると、それに伴って縫製加工賃についても上昇傾向にあるということです。

受注の増加と同様に、縫製加工賃についても、上昇傾向にある。「少しずつ上がっている状況。ブランドにもよるが、適正な縫製加工賃を要求しやすくなっている」(イワサキ)、「発注元と同じ目線で工賃交渉が出来るようになった」(サンワーク)との声が聞かれる。

《縫製トップに聞く①》国内工場に受注が集中 工賃上がるも「まだ足りぬ」

一方で、このような指摘もあります。

ただ、これも今までの工賃が低すぎた裏返しともとれる。ある工場経営者は今の環境ですら、著名レディスブランドを運営する企業から「裁断、プレス、検品、出荷送料込みでブラウス1400円、ワンピース1800円という依頼が来た。久しぶりに衝撃を受けた」と話す。

《縫製トップに聞く①》国内工場に受注が集中 工賃上がるも「まだ足りぬ」

したがって、ようやく適正な工賃に近付いているものの、これも短期間での急激な円安が要因であることからいつまで続くかわからず、中長期的に持続可能な形での工賃上昇が必要であると考えています。

今回取り上げた課題以外にも、レポートでは土壌汚染や水質汚染等にも触れられており、より幅広く見たいという方はぜひそちらをご覧いただければと思います。

事業機会

上記で見てきた課題を踏まえて、アパレル業界においてどのような事業機会が存在するか模索していきたいと思います。もちろん数多くの事業機会が存在しますが、今回はその中でもインパクトが大きく、かつ構造的なイノベーションを生じ得るものを取り上げます。

ビジネスモデルの転換

先ほど取り上げた記事にこのような記載があります。

辻洋装店は「以前から、アパレル業界はコスト削減を製造側に負わせて原価率を下げる手法で生き延びてきたが、もう限界にある」と強調する。「生産性の改善も手は尽くした。都内で縫製業を営むにはビジネスモデルを変換しないと継続は難しい」のが実感だ。丸和繊維工業も「現状の低い水準の工賃のまま少し上げても意味がない。他産業と比べて若い世代が、『ここで働きたい』と思えるレベルまで引き上げないと今後、縫製工場は存続できなくなる」という。

《縫製トップに聞く①》国内工場に受注が集中 工賃上がるも「まだ足りぬ」

つまり、工賃を上げるためには、構造的にビジネスモデルを転換する必要があるのです。そうすることで優秀な人材を雇用でき、結果的に日本のアパレル産業が競争力を持つことができます。

ビジネスモデルの転換の仕方としてはさまざまですが、最近では生産工場がD2C化してオリジナルブランドを展開する動きがあったりします。一方で、SHEINのようにリアルタイムでトレンドを掴み、短期間・小ロット生産を連続的に行っていくというような革新性はなく、非連続な成長を遂げているわけではないかもしれません。

一方で、スタートアップにとってビジネスモデルの転換はお家芸であり、システムではオンプレミスからSaaS、広告では視聴・閲覧数から成果報酬型へ転換してきた歴史があります。そのため、アパレル業界におけるビジネスモデルの転換もスタートアップが担うことができるのではないか、いや、スタートアップこそ担うべきではないかと考えています。

受注生産へのシフト

ビジネスモデルの転換として、上述したような課題を解決できるのが「受注生産」だと考えています。つまり、作ったものを売るのではなく、売れたものを作るということです。

もちろん言葉で言うほど簡単なことではなく、様々なテクノロジーを駆使することでやっと実現できるものだと思いますが、完全な受注生産でなくとも、SHEINのように”半”受注生産(短期間・小ロット生産)のような形もあることですし、二元論ではなくグラデーションになっているものと考えています。

一方でそのためには、素材在庫等のリアルタイム把握と、それに基づいた商品カタログ、注文をリアルタイムで受注するシステム、受注から発送までをデジタル上で管理可能な生産管理システム等の生産側のDXも必要ですし、そもそもバリューチェーン最上流のデザインの在り方が変化する必要があるなど、アパレル業界とテクノロジーの両方に精通した方でないと一定程度のハードルが待ち受けていることでしょう。

とはいえ、日本の素晴らしい技術を上手く活用することで、国内のみならず海外においても勝負できるぐらい大きな挑戦を行うことも可能な領域だと考えているので、もし当てはまる起業家の方や本事業機会にご興味のある方がいれば、ぜひディスカッションさせてください!

最後までお読みいただきありがとうございました。

筆者

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