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大企業とスタートアップの共創のあるべき姿 | Collaboration by Genesia. Episode 0

COLLABORATION

あらゆる産業がデジタルトランスフォーメーションを迫られている大きな時代の潮流の中で、モノからコトへのシフトと共にマスではなく個にフォーカスしたきめ細かなプロダクトやサービスが求められ、従来通りの提供価値では成長が鈍化してしまう。その課題の突破口としてスタートアップを巻き込んだオープンイノベーションへの注力を掲げる大企業が増えています。

しかし、大企業にとってスタートアップ連携は新たな試みであり、そのノウハウもゼロベースから構築しなければいけない大企業が大多数です。どのようにスタートアップにコンタクトすればよいのか。どうすれば双方に価値のあるアライアンスが組めるのか。ジェネシア・ベンチャーズでも、大企業の方とお話する際にそのような質問をいただくことが多いです。

そこでCollaboration by Genesia.のシリーズでは、ジェネシア・ベンチャーズが考える大企業とスタートアップの共創のあるべき姿を主軸に、大企業とスタートアップのコラボレーションの事例をご紹介していきます。

オープンイノベーションに積極的な企業が増加する一方で取り組みが進まない現状

近年、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げる事業会社が増えており、国内のCVCは2010年以降に設立されたものが9割弱を占めている状況です。

これらのCVCの多くは事業戦略上のリターンを求めて設立されており、スタートアップ投資による投資収益のみを目的として投資活動を行っているCVCは僅か9%です。

出典:同上

また、狙う具体的な事業戦略上のリターンとしてはデジタル化による業務オペレーションの向上、デジタル化を通じた収益力の強化、新規事業の創出などが多い状況です。

出典:同上

それではCVC設立からスタートアップへの投資実行、そして共創へと関係性を発展させられているのでしょうか。一つの指標として国内スタートアップを対象としたM&Aの件数を見てみると、過去5年間は増加傾向にあり、2016年は53件だったものが、2019年以降は90件超となっています。

この図のみを見ると順調に大企業xスタートアップの連携が進んでいるように見えますが、実はM&Aの買手の内訳を見てみると、その多くが2000年以降に上場した新興企業であり、伝統的な大企業が占める割合はわずか12%です。

注) 買収主体が上場企業の子会社である場合は親会社の上場年月を採用し、
前身企業が上場していた場合は当該前身企業の上場年月を採用
出典:同上

大企業は積極的にスタートアップとの連携を求めているのになぜ進んでいないのでしょうか?

需要と供給のミスマッチ

大企業がオープンイノベーションに取り組むにあたり、どのスタートアップと組むかは非常に重要なポイントになります。企業全体の10年生存率は10%にも満たないと言われる中で、スタートアップに絞ると10年生存率はおそらく5%未満と考えられます。

従来的な考え方だと、その状況を踏まえて「それではどうやってトップ3%のスタートアップを選ぶべきなのか」という疑問が湧いてくるところです。しかし、スタートアップの層が厚くなり、そして資金調達環境が活況の中、適切な問いは「どうすればトップ3%のスタートアップに選ばれ、選ばれ続けられるのか」に変化しています。

(参考)PayPalに買収されたPaidyは累計調達額が約635億円。2021年上半期だけでも3社が100億円を超える調達を実施

国内スタートアップ資金調達金額ランキング(2021年1-6月)

大企業の方にスタートアップとどのように連携を進めるか聞くと、まず自分たちの価値提供として以下のような内容を挙げられます。

▶ 資金
▶ 大企業の持つノウハウを生かした経営への関与
▶ 業界の知見
▶ 自社のアセットを活用した実証実験    など

しかし、それらは実はトップティアのスタートアップ側が求めていることと必ずしも一致しておらず、他社との差別化ポイントにはなっていません。むしろリスクとして、事業会社(CVC)の出資を受け入れることで、自社に色が付くことを懸念するケースが大多数です。

また、大企業がスタートアップに求めるものとしては以下が挙げられます。

▶ 自社の事業戦略のミッシングパーツの提供
▶ 完成に近い、すぐに実用可能なプロダクトやソリューション
▶ Exclusiveな関係

残念なことに、大企業が求めているプロダクトやソリューションをほどよく持っているスタートアップと出会い、連携が実現する確率は非常に低いと考えて良いでしょう。優秀な起業家であればあるほど、新産業を創り出すという壮大な志で事業に取り組んでおり、パーツに留まるマインドセットではないからです。また、ステージが進んでいればいるほど既に他社との協業関係を構築済みであったり、特定の大企業とのExclusiveな関係性から得られるメリットは限定的になります。

「協業」ではなく「共創」という考え方

先日、とある大企業の方から「オープンイノベーションは、今まで言われていた『協業』の言い換えではないのか。何が違うのか」と質問をいただきました。たしかに、「協業」は従来から様々な文脈で使われており、「オープンイノベーション」は平たくというと今風に言い換えただけの一種のBuzz Wordとも感じられます。

私たちは、協業とオープンイノベーションはその根底にあるスタンスに大きな違いがあると考えています。協業は大企業の自前主義を軸とした、大企業主軸の取り組みであり、スタートアップを下請けとみなす風潮がありました。連携の実態の多くは「委託」であり、コスト削減が主眼で、連携先も既知の会社や近くの大学など限定的です。

一方で、オープンイノベーションはスタートアップを共に事業を創る(「共創」)パートナーとしてみなし、対等かつ協調的な関係を構築します。積極的に社外の優れた技術やアイディアを獲得し、これまで付き合ったことのない組織や会社と連携することにより新たな発想によるブレイクスルーの実現を目指します。

この共創のスタンスに立つと、前述した事業会社からの提供価値やスタートアップに求める要件は一方的なものに感じられます。共に創る、のではなく、どちらかがもう一方のアセットを利用する類の連携です。

そのため、アセットを提供し、スタートアップにも独自のアセットを求める大企業は会社として何を提供できるのかを慎重に見定め、長時間かけて検討を進めます。出会いから実際の連携について話し始める期間が長引けば、その分スタートアップのスピード感とのズレが生じ、成果につながる確度は逓減します。また、アセットを基軸に関係性を構築できたとしても、その関係性は有限なものでしょう。

ここで考える共創の在り方は、両利きの経営とも調和します。両利きの経営の考え方では成熟事業で成功する組織を設計すると同時に、新興事業でも競争しなくてはならないとされています。そして、成熟事業の成功要因は漸進型の改善、顧客への細心の注意、厳密な実行である一方、新興事業の成功要因はスピード、柔軟性、ミスへの耐性で、その両方ができる組織能力を「両利きの経営」と呼んでいます。

従って、大企業の経営者は相矛盾する二つの事を同時に遂行する必要がありますが、当然ながら新興事業に必要なマインドセットやスキルは大企業では育ちにくい要素であるため、新規事業創出は既存事業の改善とは全く別物であることを認識してスタートアップと共創する必要性が生じるのです。

スタートアップが大企業に求めているもの

スタートアップ側が大企業に求めているものは端的にいうと「共創パートナーとしての経営トップの変革への強い意志と覚悟」です。特定のアセットを活用したい、という近視眼的な考えではなく、互いに共感できる確固たるビジョンを持ち、共に大きな山を登れる仲間を探しています。そして山の頂に到達するまでに立ちはだかる障害を乗り越えるためにはトップのコミットメントに基づく全社一丸となった取り組みが不可欠となります。

よくある事業連携が進まないパターンとして、スタートアップ連携を積極的に進めたい部署と他部署の利害の対立、というのがあります。一つの部署ではDX (Digital Transformation) を掲げ、スタートアップ連携を進めようとしたら他部署から既存の仕組みに合致せず、変更が煩雑なためやめてほしい、とストップがかかるような状況です。部署ごとにそれぞれ異なるスタンスでDXに取り組めば意見が一致しないのはごく自然です。一方で、トップが自らDXの旗を振り、DXを全社的に進める、と宣言していたらどうでしょうか。全部署で同じゴールにめがけて走るのであれば、途中に障害があってもそれを乗り越えようと協力し合うスタンスに様変わりします。

意思決定スピードも大幅に加速します。関係者全員が同じ判断軸を共有していれば、それだけ判断しやすくなり、決裁権限もより現場に近いところに移譲できるかもしれません。

全社的なコミットメント、という文脈ではスタートアップとの窓口となる担当者のコミットメントも問われます。人生賭けて事業に取り組んでいる起業家と対峙するメンバーが社内異動などによりすぐ変わってしまうのでは、信頼関係の構築はできません。スタートアップコミュニティにしっかりと根ざし、起業家と同じ熱量でビジョンについて語れるメンバーがいてこそ優秀な起業家との関係構築、そして共創実現へと進むことができます。

明確なビジョン、それにコミットするトップ、そしてビジョンに基づくスピーディな意思決定ができるスタートアップコミュニティに根ざしたメンバー、それらを備えてようやく優秀な起業家との信頼関係を構築し、共創実現へのステップを踏めます

Collaboration by Genesia.について

ジェネシア・ベンチャーズが運用するファンドには多くの事業会社にご出資いただいています。出資の狙いの一つとしてオープンイノベーションや新規事業創出のためのスタートアップ連携を実現させるべく、スタートアップについての情報とサポートが欲しい、という視点があります。しかし、「知る」だけでは、スタートアップ共創は実現できず、むしろ知った先のコミュニケーションや共創に向けてのステップを進めるところに課題があるのではないかと考えています。この課題はスタートアップとの連携を図る企業の多くが抱えているものではないでしょうか。私たちがミッションとして掲げている「アジアで持続可能な産業がうまれるプラットフォームをつくる」を実現させるためには、ファンドのLP出資者にとどまらず、多くの大企業の方に私たちが考えるあるべき共創の仕方を届けなければと思い、Collaboration by Genesia.シリーズを開始しました。当シリーズがスタートアップ連携が前進するきっかけとなれば幸いです。

(デザイン:割石 裕太さん、執筆:ジェネシア・ベンチャーズ Portfolio Manager 吉田 実希)

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