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事業のネタ帳#36 日本発コンテンツが世界で熱狂を生むために

IDEA

弊社キャピタリストが持ち回りで、各自の注目領域について執筆している『事業のネタ帳』シリーズですが、今回は、私の主観入りまくりの日本発コンテンツに対する希望と、「あったらいいな」感強めの事業機会について共有できればと思います。

私、この1年間で、自分自身について気づいたことが一つあります。それは、日本発のコンテンツが海外にディストリビューションされ、高く評価されていることがなぜか分からないけれどめちゃめちゃに嬉しいということです。

例えばこちら、昨年12月にインドネシア・ジャカルタで行われた音楽フェスにYOASOBIが出演した際の動画をご覧ください。
2020年にリリースされ、2年の時を経て東南アジアにてTikTokを中心に人気に火が付いた楽曲「たぶん」を、インドネシアの方々が日本語でikuraちゃんに合わせて大熱唱しています。もともとこの楽曲が東南アジアを中心にバズっていることは認識していたのですが、ちょっとこの光景には驚かずにはいられませんでした。そして、これだけ多くの人が日本語の歌詞を熱唱できるほど、YOASOBIの作る音楽が深く刺さっていることが、なぜか自分のことのように嬉しかったのです。

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第一、日本には良い文化的作品が溢れていることは本記事の大前提となります。漫画、アニメはもちろんのこと、ファッション、音楽、文学、工芸作品など、あらゆる側面において日本の文化レベルはかなり高いと感じていて、これは、そもそも土台として長い文化的歴史を持ち、かつ先進国として発展してからの年月が長い国のほうが文化的作品は生まれやすい(世界的アパレルブランドを生み出せているのはフランス、イタリア、イギリスに並んで日本が名を連ねるように)ということと、それでいて1億人を超えるクリエイターの母集団や市場としての人口を抱えていることが理由として大きいと見ています。

目次

  1. ディストリビューションにある伸び代
  2. 「コンテンツが商業的に成功する」を考える
  3. アジアアーティスト特化レーベル「88rising」
  4. 事業ネタ:海外マーケティングツールおよび海外進出専門レーベル
  5. おわりに

ディストリビューションにある伸び代

昨年、ロンドンに数か月短期留学をしていたのですが、ロンドンの中心地を歩いていると、フランス発の香水ブランドDiptyqueや、日本でも大人気の、オーストラリア発のコスメブランドAesopのお店がいくつも目に留まりました。その時ふと私は「このたくさんあるDiptyqueやAesopの代わりに、日本ブランドのSHIROやBAUMがもっとお店を出していても全然おかしくないのに」と感じたのです。(北海道生まれのコスメブランドSHIROは2016年に海外初出展としてロンドンに実店舗をオープンし、現在のロンドンで2店舗が営業中です)

というのも、ロンドンで何度も足を運んでいたセレクトショップには、COMME des GARCONS, KENZO, ISSEY MIYAKE等の歴史ある世界的国内ブランドはもちろん、2000年以降にスタートした比較的新しい国内ブランドであるSouth2 West8やAURALEEのアイテムが、きちんと場所を取って並べられていました。こんなに日本発のブランドが、他国の人気ブランドに並んできちんと売られていることに驚くとともに、「服も服以外も、もっと日本のブランドで世界で評価されるべきブランドってたくさんあるよな」と率直に感じたのです。

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物事が普及するのは、その物事自体のクオリティが高いか、そのディストリビューション・マーケティングが上手いか、の2つの要素に分解できると考えています。
日本で生み出されるもの自体のクオリティが高いという仮説が本当であれば、日本のものが海外にあまり進出できていない理由はディストリビューションにあるとみるのが妥当そうです。ここに大きな伸び代や事業機会がありそうだ、というのが今回紹介する事業ネタです。

「コンテンツが商業的に成功する」を考える

コンテンツが商業的に成功する、とは、ざっくり3つの要素に分解できると考えています。
①良いコンテンツを作ること
②多くの人の認知を取り、ファンになってもらうこと
③マネタイズにつなげられること
です。
この3要素について、特に日本発コンテンツを海外に届けるにあたり、課題となるのは②と③だと感じており、ここに事業機会があるのでは、と感じています。

余談ですが、世界最大級の漫画・アニメ紹介サイトのMyAnimeListと200以上の国と地域でアニメやマンガを提供するCrunchyrollが、前者はメディアドゥ、後者はソニーとどちらも日本の会社の傘下にある価値は大きく、日本カルチャー発信のためにもっと有効活用できる道があるのでは、と感じています。

アジアアーティスト特化レーベル「88rising」

冒頭で紹介した、YOASOBIが出演していた音楽フェス「Head in the Cloud」を主催しているのは、アメリカに拠点を置き、アジア出身アーティストの海外進出支援を行っている「88rising」というレーベルです。直近日本からは「新しい学校のリーダーズ」という女性グループが新たに所属し、昨年夏にはグループ初となるアメリカでのワンマンライブ2公演とフェス出場を果たし、どちらも大熱狂を呼んでいます。(新しい学校のリーダーズ、ほんと良いですよね、H ZETT Mさん時代も、MONEY MARK時代も、どっちも好きです)

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88risingの果たしている役割は何なのか、を考えてみると、これは推察の域を出ませんが

・その国の人に刺さる楽曲やPVを作れる人とアーティストを繋ぎ、より刺さるコンテンツを作る
・ライブイベント関係者とアーティストを繋ぎ、ライブの出演権を得る
・ターゲットとなる国(新しい学校のリーダーズの場合はアメリカ)でのデジタルマーケティングの実施
・その国の人に刺さる、ローカライズされた広告を作成する
・その国でのファンの大きさを推定し、ライブ会場を選定する
・その国の人に刺さるよう、ライブパフォーマンスをローカライズ
・オフィシャルグローバルサイトの作成
・その国の人に刺さる、YouTubeコンテンツの発信
・海外版CDの作成

など、前段落で記載した
②多くの人の認知を取ること
③マネタイズにつなげられること
の支援を多方面に行っていることが考えられます。

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上記に挙げたようなアクションを純粋な国内企業が行うのには、特に人的ネットワークや商慣習の把握の点で厚い障壁があり、海外進出支援とする事務所やレーベルが価値提供できているのだと理解しています。

同様に、あらゆる文化的作品の海外進出・販売の仕方を考えてみましょう。

例えば
アニメの海外マーケティングを担っているのは誰なのか?
昨年冬アニメのチェンソーマンが、製作委員会方式ではなくアニメ制作スタジオMAPPAの単独出資で制作されたことが驚きを持って受け止められたように、基本的にアニメは複数社からの出資により構成される製作委員会をもって作られますが、その構成企業の中でどこが海外マーケティングを担っているのでしょうか?

アニメ『チェンソーマン』異例となる「100%出資」の理由は? FIREBUG佐藤詳悟×MAPPA大塚学が語り合う“アニメビジネスの未来”|Real Sound

近年、MAPPAのようなトップレベルのアニメスタジオはNetflixなどのプラットフォーマーと提携することで配信チャネルを抑えることができていますが、海外でのマーケティングをどこが担っているのか、また、海外の人はどのようにしてアニメを認知し視聴するのか、ということはあまり見えていません。

同様に、アパレルブランドの海外マーケティング&ディストリビューションを担っているのは誰なのか?書籍の海外マーケティング&ディストリビューションを担っているのは誰なのか?といった具合に、各商材によって異なるプレイヤーが異なる動きをしていると考えており、この解像度は今後高めていきたい部分ではあるのですが、大きな仮説として、「ほとんどの日本企業は海外マーケティング&ディストリビューションを得意とせず、十分に行えていないのでは」と感じてもいます。

『オタク経済圏創世記』『推しエコノミー』など、エンタメコンテンツに関する書籍を多数執筆されている中山淳雄さんも、日本アニメの海外展開に関し、このようなコメントを残しています。

──差別化が図れていて、かつ日本アニメは作品数も多いにもかかわらず、ハリウッドアニメの40%と日本アニメの25%の差にはどのような理由があるのでしょうか?
ユーザーに対するデリバリー(届け方)の問題だと思っています。年間300本は新しいコンテンツが生まれ、作られているコンテンツはとてもよい。それなのに日本アニメは、『Netflix』や『Amazon Prime Video』に“ただ置かれているだけ”の状態なんですよ。~略~いまだに好きな人がこっそり楽しむコンテンツという現状があります
にもかかわらず、世界で25%のシェアを持っているのは、実はすごいことなんですよハリウッド映画の10分の1の制作費規模でも日本アニメは負けていない。~略~今いちばん考えるべきはコンテンツの広げ方なのかなと思います

https://fumufumunews.jp/articles/-/23177?page=2

また、日本企業が海外展開を苦手としてきたことに関しては

「日本のテック企業が海外チャネルを作れていたらよかったのですが、中韓のテック企業に比べてずいぶん後れを取っているんですよね。従来は国内向けに、テレビ局も出版社もレコード会社もコンテンツを出したらそれで終わり。利益は最初だけというのがスタンダードでした。メディアもテックも国内が盤石だったために海外にそのチャネルを広げず、そこに従属するようにコンテンツ企業・クリエイターが制作だけに徹してしまっていた。8割方のエンタメ系企業が、“海外事業に力を入れないと……”という流れになっていますが、実際に積極的に推進しているのは1〜2割くらいしかない印象です

──なぜエンタメ業界は海外進出に踏み切れないのでしょう。
いちばんわかりやすい理由としては、経営陣の海外経験が少ないことですねここは中韓企業とは愕然とするような違いがあります。~略~新規事業を一から作り上げた経験者がいれば結構違うんですが。」

https://fumufumunews.jp/articles/-/23177?page=2

と述べておられることからも、私の仮説は一定正しいように思えてきます。

これまた余談ですが、先述したチェンソーマンを制作したMAPPAは、自社で110万人の登録者を抱えるYouTubeチャンネルを持ち、チェンソーマンの動画を公開すればコメント欄は外国語で溢れかえるにもかかわらず、海外向けの動画は一切無く、字幕すらほとんどつけていないのを見て、「あーなんてもったいないことをしているんだ。。。」とひとりでに悲しくなっていました。まじで、とりあえず今すぐ全部字幕だけでいいからつけてほしい。

事業ネタ:海外マーケティングツールおよび海外進出専門レーベル

ここから考えられる事業ネタとして、海外マーケティングプロセスの一部を自動化するツールなどのプロダクト開発、または、88risingのようにブランドやクリエイターを所属する事務所を作り、各国で最適なマーケティングを実行する、ECロールアップのコンテンツ版、的な事業をイメージしています。前者に関しては、そもそも海外マーケティングをどれだけ属人的でない形で、テクノロジードリブンに推進できるのかどうか、後者に関しては、海外マーケティングに特化した、経験豊富なクリエイティブチームを作れるかどうか、が事業の始める際のカギになりそうです。
もし、これらの事業ネタが実現した際に狙えるマーケットの大きさ、日本と世界に与えるグッドインパクトの総量は計り知れないほど大きなものになると考えています。

おわりに

今回はかなり夢見がちな事業ネタの紹介となってしまいましたが、少しでも面白いな、共感できるな、と思っていただけたのなら幸いです。
「コンテンツが流行る因数は何なのか」
「日本発コンテンツが海外により届けられるために何がカギになるのか」
「グローバルで見ると韓国に完敗している日本のアイドルがここから世界に羽ばたくためには」
など、このあたりのテーマについてご興味のある方、ぜひ一度ディスカッションさせてください!!!
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