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経営者だけが持つ嗅覚で、「世の中からどう思われるか」をデザインする|YOUTRUST 岩崎 由夏

ジェネシア・ベンチャーズがスタートアップ起業家に向けて立てた『10の問い』。

本稿では『ブランド創り&情報発信』というテーマで、YOUTRUSTの代表取締役CEOである岩崎 由夏さんにお話を伺いました。

  • 顧客を追うのではなく、顧客から選ばれるブランディングになっているか?
  • 安売りではなく、高付加価値サービスとしての在り方をイメージし、その実現に努力できているか?

という問いへの、岩崎さんの回答はー?

「うちの会社で何者かになって卒業してほしい」

interviewer:

急成長中のスタートアップとして、企業もサービスも広く認知を獲得しているYOUTRUST。その“台風の目”である岩崎さんには、「ブランド創り&情報発信」というテーマでお話を伺っていきたいと思います。ブランディングや情報発信・PRは、とても重要でありながら成果や効果がすぐには見えづらい性質のアクションでもあり、起業家の中でなかなか優先順位が上がらないことも多いと考えています。岩崎さんがそこに向ける視線を伺う前に、まずは根底にある経営思想について教えていただけますか?

岩崎:

創業時から首尾一貫しているのは、YOUTRUSTで働く人たちに「何者かになって卒業してほしい」ということです。私の古巣であるディー・エヌ・エー(以下:DeNAと表記)の卒業生には”DeNAマフィア”と呼ばれる人たちがいます。そんな風に、YOUTRUSTを通じて何者かになってほしいなと。私はDeNA時代に中途採用を担当していた経験から、キャリアが人生にどんな影響を与えるかを実感しています。どの会社で働いたかという情報は、良くも悪くも、採用企業側の意思決定に大きく影響します。つまり、人生を左右するんです。なので、名実ともに「YOUTRUST出身者なら信頼できそう」「YOUTRUST出身者はやっぱりすごいね」と言われるようなブランドにしていきたいと思っています。その意味で、私たちがしないのは、”すでに仕上がった人”を採用すること。すでに仕上がっている人たちを中途採用してグッと会社を立ち上げるという経営の選択肢もあると思うんですが、その方法は選びませんでした。偉大な会社を作ろうと考えたときに、例えばリクルートさんやサイバーエージェントさんなどを参照すると、若い人たちが活躍して成長して何者かになって卒業していく会社だという共通点がありました。私たちはそっちを目指したいなと。若くて、ここから何者かになりたいというエネルギーが満ちている、むしろはみ出ているような人たちを採用する方針に振っています。そして全員に「何者かになってくれ」と言っています。

自分たちのことを強く信じているチームにしか見られない景色がある

interviewer:

採用後の育成や登用においても、思想や工夫などはあるんですか?

岩崎:

大事にしているのは、「表彰文化」です。『YOUPROMISE(私たちの約束)』というバリューに合った人たちを毎月表彰して、受賞者のデスクには『三種の神器』というグッズを置く。そういったユーモアと、「来月は自分が表彰されるかもしれない」といった健全な緊張感みたいなものを大事にしています。素直な人であればあるほど、とても喜んでくれます。素直な人たちの健全な山っ気がちゃんと報われていくような風土を作っています。

interviewer:

そうなると、素直さや元気さといったところが採用条件になるんでしょうか?

岩崎:

それと、健全な野心みたいなものを大事にしています。前述の『YOUPROMISE』にも「元気」という言葉を使っていますが、元気かどうかというのはいわゆるインターフェイスではなくて、最終的に心が前向きかどうかだと定義しています。うちの人事担当は「青い炎」と言ったりしていますが、わかりやすく赤くメラメラと燃えた炎じゃなくても、内側に燃えているもの=健全な野心があればOK。逆に、何かがうまくいかなかったときに愚痴や弱音を吐くような、負のオーラを出す人は採用しません。とはいえ人間にはテンションが高い日も低い日もあると思うので、そのグラデーションのどこをマジョリティとして判断するかをかなり神経を使って見ています。

interviewer:

そういった「青い炎」や健全な野心というのは、採用面接の場でわかるものですか?

岩崎:

何を言うかもそうですが、言葉以外のところに出ることも多いです。例えば、自分の利益を優先する人は、常にアテンションが相手よりも自分に向いている。だから、相手が言ったことに対してあまり笑わないとか、相手を横目で見て話すとか、コミュニケーションの中でそういうちょっとした違和感を感じます。これは蛇足かもしれませんが、うちの最終採用面接では「スーツである必要は一切ありません。自分に一番似合う格好で来てください」と事前にお伝えしています。なぜならば、どうしても入りたい会社の最終面接に行くという前提であれば、素直で一生懸命な人はいろいろ考えて来てくれるはずだからです。やれることを全部やりきっているかどうかはそういうところにも表れる気がします。

interviewer:

そうした“人を見る目”には、前職での中途採用のご経験が影響されているんでしょうか?

岩崎:

いいえ、以前の私はロジカルさや頭の良さを優先してしまうタイプの人間だったので、あまりそうした人の見方はしていませんでした。今は、その上でさらに会社の空気を大事にしているんです。「私たちはイケる!」と自分たちのことを強く信じているチームにしたい。そういうチームにしか見られない景色があるはずなんです。「目標高すぎだし、こんなの無理じゃない?」みたいな、自分たちを信じていないチームではやっぱり目標を達成できません。なので、絶対にそういうチームにしないこと=チームの信じる力を下げる人を採用しないということは、私の最終責任だと思ってます。もちろん入社後のコミュニケーションにもとても気を遣っています。例えば、オフィスの使い方。食事などの場でもそうですが、スペースが広くて人と人の間に距離があると、あんまり盛り上がらないんです。なので、オフィスもあえてちょっと狭いくらいの密度やピチピチ感を意識しています。そういう距離の近さだったり、人間の生物的な性質をハックすることは確実にチームの空気を変えると思っています。

昇進の登竜門として設置した『モメンタム局』

interviewer:

社内のモメンタムを上げるという目標を掲げられた全社横断組織『モメンタム局』を設置した意図もそのあたりにあるのでしょうか?

岩崎:

人間をたくさん集めて何もせず放置すると、空気は淀んでくるんです。物理でも二酸化炭素濃度が上がりますし、エントロピーの法則のようなものでそれは致し方ないこと。だから、エネルギーをかけて空気を良くする活動が必要だと思っていて、それが『モメンタム局』の役割です。『モメンタム局』は、モメンタムの上がる毎月の全社会を運営してチームを盛り上げたり、全社合宿や打ち上げといったイベントを発生させたりするんです。業務なので、原則全員参加です。メンバーとコミュニケーションを取ったり仲良くしたりすることは業務上必須である、という位置づけです。

interviewer:

かなりエンターテインメント性を取り入れているんですね。

岩崎:

私は理学部出身で生化学を専攻していたこともあって、“生物としての人類”みたいなものに強烈に興味があるんです。だから、エンターテインメント性だけではなく、そういった視点を持って人や組織を見ているところがあります。例えば、営業担当が契約獲得したときに銅鑼を鳴らす会社がありますよね。人間って、なぜか大きい音にテンションが上がる生き物なんです。人類は古来からお祭りで太鼓を叩くよねとか、カラオケは楽しいよね、という話と同じかなと。全社会でガヤをやったり鳴り物で音を出したりするのも同じで、大事なタイミングで大きな音が出ることの影響力はバカにできないなと考えています。私自身も、結婚式場の人に教わった大きな音を出す拍手の仕方を全員にレクチャーしたりしています(笑)

interviewer:

『モメンタム局』の皆さんは日々どんな仕事をしていらっしゃるんですか?

岩崎:

全員が本業と兼任しているので、そこに『モメンタム局』の業務が乗っかるかたちです。つまり、シンプルに仕事が増えるわけですが、『モメンタム局』に呼ばれることは一つの誉れ。私たちらしい文化を保つためのリーダーやマネージャーにふさわしい人は、チームのモメンタムを牽引できる側の人たちなので、『モメンタム局』のメンバーは各チームのネクストリーダー候補です。しかも、『モメンタム局』は社長直下のチームです。100人規模の会社になると社長と直接仕事をしないメンバーもいる中で、役職や年次などに関係なく社長と仕事ができるのは大きなチャンスです。そこで半年間、社長と一緒に会社のモメンタムを上げる活動をして、卒業したらリーダーやマネージャーになってもらう。『モメンタム局』は登竜門なんです。

interviewer:

リーダーやマネージャーの育成機能を果たしているんですね。

岩崎:

あえて自分たちを賢いか否かという軸と、走れるか否かという四象限に分けてみたときに、もちろん一番いいのは「賢くて走れる人」なのですが、それ以上に重要なのは、とにかく自ら意思を持って走り続けることができるか。賢いかどうかは二の次なんです。かたや一番厄介なのは「賢いが走らない人」だと私は思っていて、それを「シャニカマ(斜に構える人)」と呼んでいます。そういう人たちって、得てして明るくて元気な場を避ける傾向にある。そういう人を寄せつけず、逆に素直で「一緒に走りたいです!」という人たちが来てくれるフィルターの役割も果たしているので、採用にも非常に影響の大きい施策です。

“ゼロから何者かになる”三つのフェーズ

interviewer:

2024年のシリーズCの資金調達を発表されたときの情報発信や拡散の体制がとても印象的でした。大きな話題にもなっていたと思います。ここまでのお話に繋がるところもあるかもしれませんが、「自分たちらしさ」やブランド、その発信といったところで大切にされている思想などはありますか?

岩崎:

私たちはゆくゆくは“コーヒーならスターバックス”みたいな「王道」のブランドになりたいと思っているんですが、まっすぐそこに辿り着けるわけではなく、その過程にはきっと紆余曲折や変わりゆくものもある。ただ、そのためにやるべきことには一貫性があるように思っています。いわゆる広報やPRの戦略で、ゼロから何者かになる方法っておおよそこのパターンしかないのではないかなと思います。

Phase 1.勝手に“旬の人”になる
例えば、私たちがやっている”BU☆CHI☆A☆GE(ぶちあげ)”です。自分たちでX/Twitterのポストを徹底的にリポストする。何か大きなリリースのときに、全員で拡散の時間を確保してその日のトレンドに入ることを目指すのは、もはや文化として定着しています。トレンドになれば、指数関数的にバイラルしていきます。まずは、自分たちで勝手に“旬の人”の椅子に座ること。

Phase 2.“あのメディアに載った人”になる
1をやり切っていると、メディアの方々がご連絡くださるようになります。ちょっと失礼かもしれませんが、ここでその全てに対応するのではなくて、おそらくは“メディアの方々が見ているメディア”というのがあるので、そういったところを優先的に対応させていただきます。そうすると、“〇〇(あのメディア)に載っていた人”としてまた他のメディアの方からもご連絡いただけますし、記者さんと定常的にコミュニケーションが取れるようになって、Phase3に繋がります。

Phase3.“安定の人”になる
断続的にメディアにも出られるようになると、だんだんとポジションができてきて“安定の人”になります

interviewer:

創業当初からそのような考えを持って動かれていたんですか?

岩崎:

最初は私もPRなんて初めての経験だったので全く勝手がわかりませんでした。といっても、シードとレイターでは掲載されるメディアが違うよなというような感覚はあったので、本当に一歩一歩積み重ねさせてもらった感じです。

interviewer:

そもそもシード期からPRに注力されていたのはどんな経緯からだったんですか?

岩崎:

正直それしか方法がなかったんです。創業期はお金もないですし。事業的にも、『YOUTRUST』はSNSなので、広告で広くたくさんのユーザーを獲得するというよりも、リアルに繋がっている人たち同士の狭いコミュニティをドミナントに獲得していく必要があったんです。そうなるとグロース方法が最初はPRしかなくて、具体策の初手がX/Twitterのジャックだったんです。

interviewer:

なかなかそのように割り切ってコミットできる経営者は少ない印象がある中で、岩崎さんは事業拡大のための一施策、一本の柱としてPRを据えたんですね。

岩崎:

toBの事業だったら私もここまでやらなかったと思います。YOUTRUSTの場合は、ユーザー獲得のための一番相性の良いチャネルがそれだったというだけです。PRにコミットできるか、するかどうかの判断には、自分たちの事業にPRが効くかという観点と、経営者の性格的にそういうアクションが得意かどうかという観点がありますよね。例えば、イベントに登壇するゲストの並びを若手・シニア・男性・女性・業界などでマッピングしたときに、当時の私はたぶん“女性起業家”と認識されていることが多かった。そんな風に、自分たちがどういうカテゴリーと認識されるかを理解しておくことはとても重要だと思います。

interviewer:

Phase3まで解説いただきましたが、次のフェーズはどのような想定ですか?

岩崎:

次のPhase4がたぶん“定番”や“殿堂入り”だと思うんです。例えば、人材と言えばリクルート、飲食と言えばスターバックス、そういったイメージや同社の文化がこれから大きく変わるイメージってないじゃないですか。そういう“王道”の椅子に座ったら、よほどのことがない限りひっくり返らないはず。そこに辿り着くまでにはまだまだ課題もたくさんありますし、頑張らないといけないなと思っています。

世の中からどう思われているのかを感じる、経営者だけの嗅覚

interviewer:

ここまでのお話から、YOUTRUSTの場合、その”らしさ”を見せることがそのまま事業への貢献を果たす構図が非常にわかりやすいと感じました。

岩崎:

シンプルに私たちの事業成長に効くんです。でも、やりすぎるとやっぱり安売りになってしまうので、最近は少し絞っているところです。例えば、シンプルに新規ユーザー獲得という目標だけを追うのであれば、とにかくメディアに出まくろう!目立ちまくろう!でもいいと思うんです。でも、私の中には“この世の全ては「みんながどう思っているか」で決まる”という仮説があるんです。株式市場でも「期待値」で株価が動くのに近いのですが、誰の期待値やねん!って話じゃないですか。要するに「“みんなが”期待しているから自分も期待する」「“みんなが”ダメだと言っているから自分も手を引く」。そんな人類の集合体の空気がこの世のあらゆるものの価値を決めている気がするんです。つまり、安売りしすぎてしまうと期待値は下がる。そこには何か簡単には定量化できない、肌で感じるものがあると思います。そして、その世の中への嗅覚を持つことは経営の仕事。弊社では私がかなり細かくチューニングさせてもらっています。わかりやすい定量的なエビデンスが出しづらいので、経営者でないと決めるのは難しいと感じています。

interviewer:

そういった嗅覚は先天的なものなのでしょうか?それとも後天的に身に着けたものなのか。

岩崎:

私は元々、かなり定量的に物事を見るタイプなので、後天的なものかなと思います。以前、ユニコーン企業の創業者にマーケティングのお話を聞く機会があって、「どうやってその変わった施策の当たり外れを判断するんですか?数字のデータは取れないですよね?」と質問したら、「そんなのTwitterを見てたらわかるでしょ」と言われたんです。タイムラインがざわざわしてるなと感じればその施策は正解だ、と。なるほど!って思いました。でも、たしかにそれって人間誰しもが持っている感覚で、ほとんどの人にわかることだとも思いました。これはサムイなとかオモシロイなとか、人気だなとか反感買ってるなとかって、みんな少なからずわかりますよね。「世の皆さんにどう思われているか」。その、数字にできないものをだんだんと信じられるようになってきた感じです。

生物としての人間、その集団やコミュニティへの強い興味

interviewer:

とはいえ、先天的な感性や本能めいたものを感じるんですが、岩崎さんのキャラクターや感性を形成したり彩ったりした体験などはありますか?

岩崎:

今振り返れば、元々そういう人間だったのかもしれません。大学は理学部化学科という、感覚的なものとは真逆みたいなところでしたが、中学・高校は6年間女子校に通っていたんです。6年かけて大学受験するぞ!というTHE進学校だったんですが、そこである程度のキャラクターはできていたかなと思います。例えば、修学旅行でバスに乗ったときにどこに座りますか?

interviewer:

バスの座席・・

岩崎:

私は絶対に一番後ろの真ん中の席に座る人間だったんです。なんとなくわかりますか?ボスゴリラっぽい感じです。みんなで何かするのが大好きで、集団を動かしたり集団を眺めたりするのがずっとライフワークでした。合唱コンクールの前には、学級委員でも合唱部でもないけど「明日の朝、何時まで全員集合!」って言ってクラスの皆を集めてました。完全ソロプレイの受験前にも、「クラス全員で合格するぞ!」って言って、教室の壁に公式を書いた模造紙を貼りまくったりしてました。当時からとにかく、チームで何かすることに興味があったと思うんです。そのときは、組織や集団もだし、生物として、生きている / 生きていないと人が呼ぶものの境目に興味があった。それで理学部に行ったんです。

interviewer:

その女子校時代のキャラクターが、今の岩崎さんにすごく繋がっている印象ですね。

岩崎:

今すごく楽しいです。どんどん組織規模が大きくなって、組織のメカニズムというかOSみたいなものがどんどん変わっていくことを、まさに真正面で体験できているからです。4-5人の家族みたいな規模から10人、20人、1クラス規模の30人、1学年規模の100人と、経営の仕方がどんどん変わるのは本当におもしろいなと思います。

interviewer:

ちなみに、ご自身が得意な規模みたいなものはあったりしますか?

岩崎:

得意な規模があるわけではないのですが、やりたいことはあって。私はよく変な意味は一切なく「健全な宗教を作りたい」と言っているんですが、例えば、従業員が10万人いる会社ってもはやそれは一つの宗教だと思うんです。社長に直接会うことなんてほとんどなくても、その会社で頑張ることが人生の豊かさや幸せに繋がるって信じられる。そこまでの規模の経営というのはもはや宗教に近いんじゃないかなと。どうせ経営をやるならそこまでやりたいと思っています。人類の最上級のコミュニティそういうものに興味があるんです。

interviewer:

これから組織規模をさらに拡大していく上でのテーマなどはありますか?

岩崎:

今が100人で、来期には200人を目指しています。そしてその頃には「50人将」を「4人」置くと言っています。その規模以上になると経営陣の横に経営の言葉を媒介して実際に組織を統治をする人たちが絶対にいるんですよね。そういう層を厚くしないといけないので、来期には4人を役員に昇格させると宣言しています。

interviewer:

伝道者のようなポジションをしっかり作るということですね。

岩崎:

一人の人間が本気で面倒を見られる人数って3人くらいだと思うんです。そう考えると、たぶん階層は4マンセル(4人で1チーム)がベスト。その樹形図でどんどん会社を大きくしていきたいと考えています。

ブランディングの一歩目は、「減点要素」と「論点」を作らないこと

interviewer:

社内外双方に向けたブランディングや組織創りのお話を聞いてきましたが、ここが得意だという経営者も、しっかりと自分の役割だとコミットして実践できている経営者も、そこまで多くない印象があります。岩崎さんから学びたい人も多いと思うんですが、そういう方々に向けてお伝えできそうなマインドセットなどはありますか?

岩崎:

逆説的ですが、まずはマイナスポイントを作らないことが重要かなと思っています。情報発信やPRって、基本的には加点要素じゃないですか。一方で、減点要素を作らないということも、ブランド創りにおいてはとても大事だと思います。芸能人や著名人を見ていても、一つの失敗が致命的になることは少なくありません。そんな事例が山ほどありますよね。例えば、あの人はお酒を飲むと素行が悪いとかあの人はお金の使い方がどうこうとか、誰でも身近にそういう話は聞くことがあると思います。そして、そういう情報は一瞬で広まって、本人の見えないところで圧倒的なブランド低下に繋がる。発信もいいですが、何よりもまずは「無用な減点ポイントを作らない」こと。私はたまに、SNSのフォロワー数=監視員の数なんじゃないかと思うときがあって、増えれば増えるほど怖さも感じるんです。だから、事業に必要ないのであれば別にフォロワーを増やすことに労力をかける必要なんてなくて、「なんとなくあの会社好きだな」「好きか嫌いかでいえば好き寄りかな」って思ってくれている人の数を増やすべきだと思います。実際にお会いした人に失礼なことをしないとかプライベートで変なことをしないとか、そういうことが初手だと思ってます。

interviewer:

たしかに、ブランディングやPRという空中戦の手前というか、対面の地上戦でそもそも失敗しているケースもありますね。

岩崎:

「論点を作るな」という言い方もしています。コンサルタントの方たちは、タクシーから降りる姿をクライアントに見せないようにオフィスの少し手前で降りるそうです。わかりやすいブランド物でクライアントに往訪しないというルールが徹底されている企業もあるそうです。小さいことですが、ステークホルダーの反感を買ったり無用な論点を作るようなことは、コトに向かうのであれば極力避けるべきだと私は考えています。しかもそういう心がけは誰でもできます。

interviewer:

相手との関係性を理解して、この自分の振る舞いを相手がどう思うかという想像力を働かせる。そして、「相手とどういう関係性を創りたいか」や「相手からどう思われたいか」から逆算して、自分のキャラクターや言動を決めていく。徹底するのは意外と難しいかもしれませんが、それが初手であり大前提というのはたしかにと思います。岩崎さんがおっしゃった、「世の中からどう思われているか」を感じ取る嗅覚とも通じるところがある気がします。

岩崎:

私が起業してすぐの頃、ツクルバの村上さんが「経営者は、自分をコントロールしてRPGをするんだ」っておっしゃっていました。自分が行きたい方角があっても、一歩引いて、自分で自分を調整する。私自身、今でも意識しています。

※こちらは、2025年3月11日時点の情報です

  • インタビュアー:ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 黒崎 直樹、PR Specialist 李 彩玲
  • 編集:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田 愛
  • 写真、デザイン:尾上 恭大さん、割石 裕太さん

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