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DXの「はしり」| DX-Compass by Genesia.

STORY

DX界のフロントランナー

Software is eating the world.というフレーズに象徴されるように、あらゆる分野にソフトウェアの効用が染み出し、産業のサービス化が不可逆な流れで進行しています。

製造、物流、印刷、不動産等、インターネットで完結しない領域において起きるイノベーション、つまり既存産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)には今後大きな成長余地がありますが、では数ある産業の中で最も早くDXが進行した業界はどこかといえば、広告業界がその筆頭になるでしょう。

本稿では、DXの「はしり」とも言える広告業界が辿ってきた変遷を振り返ることで、他の産業においてこれから起こるであろうパラダイムシフトを推察する種にしたいと思います。

広告業界の歴史

こう‐こく〔クワウ‐〕【広告】
[名](スル)
広く世間一般に告げ知らせること。
商業上の目的で、商品やサービス、事業などの情報を積極的に世間に広く宣伝すること。また、そのための文書や放送など。

(goo辞書)

そもそも、広告とは何か。辞書的には、上記の通り商品やサービスを世間に広く告げ知らせることを指しますが、昨今のテクノロジーによる変化の過程を踏まえると、その本質は「マッチング」であるように思います。人とモノ、人とサービス、人とブランド、といった具合に、告知の対象になる人と告知したい商品やブランドを結びつける役割を、広告(とその配信面としてのメディア)は担っています。

そんな広告を産業の視座で振り返ってみると、これまで大きく三つの段階を経て進化を遂げてきており、以下ではそれぞれの段階における主要プレイヤーと取引形態について概観してみたいと思います。

三つの段階とは、まず第一に、一般大衆に対して新聞や雑誌、テレビといったマスメディアを通じて広く情報を送り届けるという原初的な形態を取っていたオフライン取引の時代。第二に、インターネットの普及によってWebメディアやモバイルアプリが新たな媒体となって、広告取引手法の多様化を促した「データ化」と「可測化」の時代。そして最後に、広告主と媒体双方の成果向上をサポートするテクノロジーの登場により、取引主体のエンパワーメントと仲介者の介在価値変容が促進された「直接取引」と「自動化(半自動化)」の時代です。

第一段階:オフライン取引

日本の広告業界の歴史は意外にも古く、その創世は江戸時代初期にまで遡ります。越後屋(現在の三越)が江戸全域に配布した引札(今でいうチラシ)が広告の始まりと言われていますが、仲介業としての広告代理店が興ったのは明治時代の後期です。明治21年(1888年)に廣告社が日本最古の広告代理店として創業したことを皮切りに、7年後の明治28年(1895年)には博報堂が教育雑誌の取次店として営業を開始、そのさらに6年後の明治34年(1901年)には電通の前身である日本広告が設立され、朧げながら「広告業界」の原型が見え始めます。

初期の広告は自社の商品を広く一般に知らしめたい広告主と、新聞、雑誌をはじめとするマスメディアが直接取引を行うか、あるいは上述の代理店が広告主とマスメディアの間を取り持って広告を最適な形で最適な媒体に出稿する、というシンプルな構造になっていました。

その後、ラジオやテレビといったニューメディアの出現により、ラジオ広告、テレビ広告といった広告媒体が誕生し、人々の余暇時間の投下対象としてそれらの存在感が増すにつれて広告市場も飛躍的に成長していきましたが、あくまでアナログ、オフラインの場で広告枠の売買が行われていたという点において、原初的なビジネス形態であったと言えます。

第二段階:「データ化」と「可測化」

その後、1995年にインターネットの民間商用利用が解禁されると、広告およびメディアのあり方に大きな変化がもたらされます。1990年代後半から2000年代にかけてはWebメディアが、スマートフォンが普及した2010年以降はモバイルアプリが台頭したことにより、人々の可処分時間の投下対象がマスメディア一極集中から複数メディアへ分散されました。

それに伴い、Webの特性を理解した上で広告主の最適な広告出稿をサポートする存在としてインターネット広告専門の代理店が、一方の媒体側では多様化する広告枠の卸売を専業とするメディアレップという新業態が出現します。インターネットというテクノロジーが広告・メディアの多様化と複雑化をもたらした結果、その取次を生業とする広告代理店が広告主サイド(広告代理店)と媒体サイド(メディアレップ)の二手に専門分岐したのです。

インターネット広告専業代理店としてはサイバーエージェントやオプト、セプテーニが、メディアレップとしてはデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)やサイバー・コミュニケーションズ(CCI)が代表的な企業例として挙げられます。

なお、無数に存在するWebメディアやモバイルアプリを束ねて広告配信をコントロールする「アドネットワーク」が誕生したのもこの段階です。有力プレイヤーとしては、GDN(Google Display Network)、YDN(Yahoo! Display Ad Network)、nend、i-mobileなどが代表的ですが、複数サービスを横断したアグリゲーターという点では、DXの型でいう④番の要素を内包しています。

この第二段階における大きな変化点としては、広告の配信面であるメディアおよびその上で流通する広告素材がデジタル化したことで(=広告の「データ化」)、いつ、どの広告が、いくらで、どの媒体に何回表示され、そのうち何人が反応を示したかということがデータとして計測可能になったということです(=広告の「可測化」)。これにより、広告主は広告のROIを最大化するためにデータに基づいたPDCAを回すことが初めて可能になり、メディアは配信実績の透明化を前提とした本質的な媒体価値向上に努めることが至上命題になりました。

もちろん、従来型のマスメディアも依然として影響力をもつ媒体ではありますが、新聞や雑誌が電子書籍になり、テレビがインターネットに結線されてスマートデバイスになり、ラジオのアプリ化も進む現代においては、純粋なオフライン取引だけで成り立つ広告ビジネスはほとんどなくなってきています。

また、広告配信を仲介する広告代理店やメディアレップといった中間プレイヤーにとっても、配信成果が可視化されることによって、介在価値を目に見える形で継続的に提供することを求められるようになったという点で、業界のパワーバランスに構造的な変化をもたらすターニングポイントであったと言えます。

第三段階:「直接取引」と「自動化(半自動化)」

メディア・アグリゲーターとしてのアドネットワークが登場してからさらに数年後、2010年頃には「アドエクスチェンジ」という広告の取引市場が誕生しました。アドエクスチェンジは、広告枠をインプレッション(Webページやアプリにおける一回毎の表示配信)単位で取引する市場であり、広告主とメディアの需給バランスから広告枠の価値を算定して配信価格を決定します。アドエクスチェンジのうち、広告枠のインプレッションが発生するたびに競争入札を行い、最も高い入札額をつけた購入者の広告を表示する方式はRTB(Real Time Bidding)と呼ばれ、こうしたテクノロジーにより、理論的には広告配信を全自動で運用することが可能になりました。

第一段階のオフライン取引が第二段階でデータ化・可測化され、また配信効率を最適化するためのアドネットワークが出来上がったことで、広告は取引市場(マーケットプレイス)でリアルタイムに売買される対象になったのです。

取引市場ができたことにより、広告を出稿する側の広告主は、広告素材の内容やサイズ、入札価格等の諸条件を決めさえすれば、広告代理店を介さずに直接広告を配信、管理することが可能になりましたが、複数のアドエクスチェンジやアドネットワークを個別で管理するには大きな負荷が伴います。

その負荷を解消するために登場したのが、DSP(Demand Side Platform)と呼ばれる新たなプレイヤーです。広告効果を最大化したい広告主は、取引市場において広告配信の頻度や間隔、配信面、入札単価、リターゲティング条件などあらゆる情報を処理して運用する必要がありますが、これらを全て手動で行うことは難しく、システマティックに柔軟な広告運用を可能にするソリューションが求められた結果、時代の要請としてDSPが誕生してきた背景があります。

時を同じくして、媒体側の収益を最大化させるためのソリューションとしてSSP(Supply Side Platform)が登場しています。広告主の課題と同様、媒体社にとっても日々膨れ上がるオーディエンスデータ(メディアを閲覧するユーザーの視聴データ)を分析してインプレッション価格を算出、落札条件を調整するような運用業務を手動で行うのは非常に骨が折れるため、インプレッションごとに最も高額かつ親和性が高い広告が自動で配信される仕組みを提供する機能として、SSPが求められたのです。 

DSPの代表例としては、DoubleClick Bid Manager、Rocket Fuel、FreakOut、MicroAd BLADE等があり、私たちの支援先では位置情報ターゲティングを専門とするGeoLogic Adがこの分野で順調に事業を伸ばしています。SSPではPubMatic、Rubicon Project、国産ではfluctやAd Generationが高いシェアを取っています。

DSPやSSPは、複雑な広告運用をシンプルにし、データに基づいた意思決定を可能にするという点で、取引主体(広告主・媒体社)をエンパワーする側面を持ちます。それまで広告代理店やメディアレップという中間プレイヤーに手数料を支払って依頼していた広告(枠)運用業務を、ツールの力を借りながら自社で行う選択肢を持てるようになったためです。従来広告代理店が担っていた役割がDSPに、メディアレップが担っていた役割がSSPに、それぞれデジタルトランスフォームしたと言い換えることもできます。

さらに、CDP(Customer Data Platform)やDMP(Data Management Platforom)といった、広告(を含めた広義のマーケティング)効果を最大化するために顧客データやメディアデータ、広告配信ログデータ等を一元管理するデータ・アグリゲーターの登場によって、広告主はそのパワーをさらに増大させました。前者(CDP)の代表例としては私の古巣でもあるArm Treasure DataやTealium、Segment等があり、また後者(DMP)ではbluekaiやAudienceOne、そしてつい先日上場を果たしたIntimate Merger等が主要プレイヤーとして挙げられます。

これらのエンパワーメントツールは、広告主と媒体社に、広告の「直接取引」と運用の「自動化(半自動化)」というオプションをもたらしました。ただし、自社のリソースやスキルセットとの兼ね合いもあり、広告運用業務の全てを社内で完結することがROIの最大化に繋がるとは限りません。高度な技術的知見やノウハウを必要とする運用業務の一部を代理店に委託したり、自動取引の対象にはならない広告枠の販売をメディアレップに委託したりしながら全体最適を図ることは十分に考えられますし、実際に多くの会社でそうした体制がとられています(図中の青色面積が代理店、メディアレップの領域全てを覆っておらず、上下にはみ出しているのはそのためです)。

近年では、集客力の強いメディアとそうでないメディアの間の格差が拡大するにつれてSSPの存在感や役割にも変化が見られるようになっており、また一方の広告主も、高単価商材を取り扱うブランド企業を中心に、プレミア媒体に厳選して出稿することで成果向上を図りたい意向を持つ企業が増えています。そこで、双方のニーズを折衷する形で、限られた広告主とメディアしか参画できないPMP(Private Market Place)と呼ばれるプライベートな取引所が誕生しました。「直接取引」と「自動化(半自動化)」に加えて、この「オープン・マーケットプレイス→参加者を限定したプライベート化」の流れも、今後様々な業界にも応用可能なトレンドと考えられます。

他の産業領域におけるアドネットワーク、アドエクスチェンジ、DSP、SSP、PMPがあるとしたらどういうプレイヤー/事業プランになるかという点については社内でも日々考えを練っていますが、もしアイディアをお持ちの方がいれば、ぜひ一度ディスカッションしましょう!

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