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DXの型 #6-9 | DX-Compass by Genesia.

STORY

DXの「型」

私たちジェネシア・ベンチャーズでは、日々世の中の普遍的なトレンドに沿った有望なビジネスモデルの発掘、支援に注力する中で、デジタルを起点に消費者体験や企業間取引を持続可能な形に昇華するデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)にも一定の「型」があることに気づき、それらを進んで蓄積してきました。

昨年11月に公開した『DXの羅針盤』では、DXビジネスの基本型として5つの型に言及しましたが、今回はその続編として、新たに4つの型を紹介したいと思います。社内で蓄積しているフレームワークを広く公開、共有することにより、DX領域で起業を志す方や、大手企業の中にいながら新たなビジネスモデルの構築を志す方、はたまた投資家としてDXスタートアップへの出資や成長支援を手がける方が、皆で同じ方向を向き、ともに豊かな社会を実現していくための一助になれば幸いです。

型6:ソフトウェアの利用を前提としたハードウェアの提供(”SaaS plus a box“)

6つめの型は、「ソフトウェアの利用を前提としたハードウェアの提供」です。海外では”SaaS plus a box”とも表現されますが、この型の要諦は、ソフトウェアを起点に顧客との関係を構築(再構築)することにあります。

ハードウェア単体での販売の場合、顧客との関係性は単発で終わってしまいますが、ソフトウェアが顧客とのアンカーの役割を果たすことによって、顧客接点がフロー型からストック型へと変容し、コモディティー化しがちなハードウェアの消費価値を長く持続させることができます。モノからコトへのシフトが謳われはじめて久しいですが、その本質はハードウェアがソフトウェアに100%置き換わることではなく、顧客接点のデジタル化をトリガーとして顧客の購買対象が機能から体験へと変わることに他なりません。

iOSとAppStoreを起点に携帯電話やオーディオプレイヤー、デジタル時計の利用価値を再構築したAppleはこの型の代表例と言えますが、他にもオンラインレッスン/コミュニティーSaaSを起点にエアロバイクを提供販売するPelotonや、自家用車の消費体験をモバイルアプリ+付帯サービスでアップデートするNIOなど、顧客の体験価値を戦略の軸に据えて大きく成長する新興プレイヤーが増えています。私たちの支援先では、モバイルアプリ/オンラインコミュニティーに生育管理機器を組み合わせて都市型マイクロファーミング事業を展開するプランティオも、その新たな体験価値が多くのユーザーに受け容れられています。

型7:半自動

7番目の型は、「半自動」です。デジタルとアナログの間、完全自動と完全マニュアルの間とも言えますが、これまで相反するものとして棲み分けが行われていたソフトウェアや機械による自動化(例:金融のアルゴリズムトレーディングや広告のリアルタイムビッディング)と人的なオペレーション(例:接客や配送をはじめとする現場産業)の二者が、互いの良いところを取り合って折衷型を成すケースが増えています。

これまでも、労働力不足という国家的/長期的な課題を背景に多くの企業が機械化、自動化を推進してきましたが、ここ数年のSaaSの導入普及によって業務効率化のハードルが下がっていること、また20-30代の若年層を中心にウェブ業界から既存産業へ、あるいは反対に既存産業からウェブ業界へとクロスボーダーの人材流動化が進み始めたことに伴い産業間のノウハウ移転/共有が始まっていることなどを主な背景として、デジタルとアナログ双方のメリット・デメリットを理解した上で最適な組み合わせを選んで滑らかなオペレーションを敷ける素地が産業全体で整ってきているように感じます。

とりわけ、クロステック(既存産業×IT)領域のスタートアップを含む新規事業においてはこの型が重視されます。というのも、複雑なオペレーションが絡む業界課題を解いていく上で完全自動のアプローチはそもそもオプションから外れる上、仮に物理的な供給能力の調達ができたとしても、その過程に介在する属人的なオペレーションを解消できなければスケーラブルな事業成長は可能にならないからです。

では半自動を実現するにあたって何が必要かと言えば、全体の工程を分割可能な最小単位まで丁寧に分解し、自動化しやすい工程から順に効率化した上で再度工程間を紡ぎ合わせて全体最適を担保すること、これに尽きると思います。

私たちの支援先では、インドネシアにおいて運送業者とドライバーのマッチングプラットフォームを提供するLogislyがこの型を磨き込んで事業を大きく伸ばしていますし、日本でデスクワーカーのワークフロー最適化に取り組むBizteXも、祖業のRPA(=完全自動)単体では実現し得ない(一方で顧客の本質的な目的である)ワークフローの最適化という課題を解くべく新たに開始したiPaaS事業において、半自動のエッセンスをプロダクトに織り込んで成長を遂げています。

型8:0次流通

8つ目の型は、「0次流通」です。1次流通(小売)より前の仮想的流通(プレマーケティング)を指した造語ですが、この型のポイントは、企画の意思決定工程をデジタル化することによって製販の分離ならぬ「製販の逆転」が可能になり、無駄のない効率的な企業活動ができるという点です。

クラウドファンディング大手のマクアケは、ビジネスモデルとしてこの型を体現することで、消費者とメーカーの双方に大きな付加価値をもたらしています。とりわけ、新たな企画製品を検討しているメーカーに対して先行予約販売のノウハウを提供する取り組み(Makuake Incubation Studio)が製造業向けのオープンイノベーションプラットフォームとして機能している点については、メーカーのDXを大きく促進するという意味で特筆に値するものと思います。

なお、このメーカー×マクアケの座組みを一社単体で実現し得るプレイヤーとしてはD2C企業があり、私たちの支援先ではTOKYO MIX CURRYを運営するFOODCODE、TAIROED CAFEを展開するカンカク等が、デジタル化した顧客接点を軸に企画〜生産〜販売のPDCAを高速かつ柔軟に回しています。またメーカー以外の業種では、ソーシャルゲーム業界で新タイトルの「引き」を測るためにゲームのリリースに先立って公開する事前登録サイト(ティザーサイト)も、一種の0次流通と言えるのではないかと思います。

型9:ノウハウ提供型SaaS

9つ目の型は、「ノウハウ提供型SaaS」です。コスト削減のみを目的とするSaaSと比較した場合、利用者がコストメリット以外に付加価値を享受できるという点で優位性があります。

この型の特徴は、従来特定分野のスペシャリストのもとに偏在していた専門的な知見やノウハウを、広く一般のユーザーに届けられることにあります。もともとソフトウェアが持つ特徴として語られてきたこの民主化というメリットは、ソフトウェアをサービスとして提供するSaaSには色濃く反映されるはずであり、実際にそれを地で行くプレイヤーがあらゆる領域で立ち上がっています。

世界トップクラスの技術者集団が自社プロダクトの開発、分析のために内製したシステム/フレームワークを一般向けに製品化したGoogle Cloud Platform、自らが広告主としてテレビCMを出稿する過程で感じた非効率や課題欲求を「運用型テレビCM」という外販サービスに昇華させたノバセル、会員制の飲食店を経営する過程で蓄積した集客ノウハウやCRMの手法を飲食店向けのバーティカルSaaSとして提供するfavyなど、その事例は枚挙にいとまがありません。

私たちの支援先では、信越化学工業出身の起業家が製造業のスキル教育管理のノウハウを凝縮して作り出したスキルノートがこの型を織り込んで順調に業績を伸ばしています。

ノウハウ提供型SaaSは、ユーザー企業の視点では人材採用難という課題の解消に有効です。例えばマーケティングを強化するためにP&G出身の敏腕マーケターを採用するのはコストや希少性の観点で難易度が高い一方、P&G出身の起業家が生み出したノウハウ提供型のSaaSを月額数十万円で利用することは可能なのです。

一方ベンダー企業の視点でも、プロダクトが元々内包しているノウハウに加えて、ユーザーが提供してくれる情報や知見がさらにそのノウハウを増長させていくという点でネットワーク効果が利くため、単価向上や解約率の低下といったメリットを享受しやすいモデルであるということが言えます。

もちろん、SaaSの導入メリットからコストの視点を取り払うことはできず、どんなSaaSであっても対オンプレミスや対人件費、あるいはそれらを包含したTCO(Total Cost of Ownershipの略で、総費用の意)でコスト優位性が認められる必要はあるため、単純な左から右へのシフトというよりは、左(コストメリット)をカバーした上でいかに右(ノウハウやネットワーク効果)の要素を加えられるかという見方をする方が正確かと思います。

何れにせよ要旨としては、コスト優位性のみを売りにするプロダクトは構造的に顧客が離反しやすいため、今後はSaaSに限らずあらゆるB2Bビジネスの成長性を検討する上で重要な観点の一つになっていくものと考えます。

おわりに

本稿では、私たちが普段思考のフレームワークとして使用しているDXの型について、その一部を例示しながらご紹介してきました。背景としては、冒頭にも述べた通り、真のDXを実現させるためには各々の企業がバラバラに効率化や個別最適を追求するのではなく、スタートアップも、大企業も、VCも、政府機関も、社会全体が同じ方向を向いて取り組みを進めていく必要があるという強い思いがあります。

DXを通じて、データによる取引の透明化や低コスト化といったソフトウェアの効能が企業内オペレーションや企業間取引、消費者体験にまで広く染み出していくことで、結果的に機会の偏在や情報の非対称性が解消され、受注者と発注者、提供者と利用者、企業と従業員との間に嘘のない関係が再構築される。そんな社会を、皆さんと共に作っていけると良いなと考えています。

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