DXの型 #10-13 | DX-Compass by Genesia.
DXの「型」
2019年11月に公開した『DXの羅針盤』では、DXビジネスが内包する基本モジュールとして5つの型に触れ、2020年8月にはさらに4つの型を発表していましたが、今回はその続編として新たに4つの型を紹介したいと思います。
DX領域で起業を志す方や、大手企業の中にいながら新たなビジネスモデルの構築を志す方、はたまた投資家としてDXスタートアップへの出資や成長支援を手がける方が、皆で同じ方向を向き、ともに豊かな社会を実現していくための一助になれば幸いです。
型10:1.5次流通
10個目の型は、1次流通(小売販売)と2次流通(中古流通)の間を縫う「1.5次流通」です。8つ目の型でマクアケを例にとり「0次流通」をご紹介しましたが、こちらはお試し購入(流通)ということでその類型とも言えます。
ECの普及によって、消費者は安価な製品であればオンライン上で比較検討から購入までを一気通貫で完了させることも珍しくなくなってきた一方で、家電や家具など、比較的単価が高く実物の使用感が消費購買の決定打となるような製品については従来通り実店舗まで足を運んで検討する必要がありました。
1.5次流通はまさにそんな消費者欲求を満たすものであり、デジタルだけでは購入に踏み切れないユーザーと製品を売りたいメーカーをオンラインプラットフォームがサブスクリプション(定額購買)によって結びつけるという、新たな流通形式です。
家電やカメラを中心に2,450以上の製品を取り扱うRentio(レンティオ)は、この型を内包して成長を遂げるサービスの好例です。コロナ禍によって「非対面、非接触で購入を決める前に一度実物を試したい」というユーザーのニーズが増加していることもあり、家電のお試し利用が大きく伸びています。
メーカーの視点でも、これまで流通業者や小売業者に握られていた最終消費者の興味関心や製品の一次評価といったデータをプラットフォーム経由で収集することにより、早期に生産や企画といった上流工程へ製品に関するフィードバックを返すことができるという点で魅力的な流通形式であり、今後より一層の発展が見込まれるビジネスモデルと言えるでしょう。
型11:ボトムアップ型マーケットプレイス
11個目の型は、「ボトムアップ型マーケットプレイス」です。これは当初、特定業界における企業向けSaaSの顔しか持ち合わせていなかったプロダクトが、ある一定の面を押さえた暁にエンドユーザーにもそのインターフェースを開放することで消費者と事業者を結びつけるオンラインマーケットプレイスへと変貌する、というものです。
事業者の業務や取引に関するデータをボトムアップ式に収集、集約し、そののちにマーケットプレイスを提供するという意味では、「遅効性を伴ったマーケットプレイス」と表現することもできます。
飲食店向けの予約台帳システムで各店舗の空席を在庫データ化し、その上で消費者向けの飲食店予約サービスに昇華した米OpenTableや日本のトレタ等はこの型の典型例ですが、他の分野でも例えば会計ソフトや受発注管理SaaSを通じて売上債権をデータ化しファクタリングへ繋げるアプローチ等もこの類型と言えます。
この型との相性が良いのは、消費者接点がデジタル化している一方で事業者側のオペレーションがアナログなために消費者のUXを棄損している業界です(日本の既存産業の多くが該当するように思います)。
こうした特徴を持つ業界においては、一足飛びにオンラインマーケットプレイスを立ち上げてもマッチングに必要な情報が不足してしまうため、ボトムアップ型マーケットプレイスによって段階的なDXを進めていく方が好手と考えます。
型12:仲介業者のデジタルエンパワーメント
12個目の型は、「仲介業者のデジタルエンパワーメント」です。3つ目の型で「多重取引構造の解消」を扱いましたが、実際には綺麗に中抜きが成立するケースばかりではなく、多重取引構造の改善、つまり段階的な解消が進んでいくことも多いと考えており、今回はその段階的な解消ステップを表した型です。
アナログな多重取引と異なる点としては、仲介業者がデジタルという武器を得てエンパワーされることにより、従来よりも高い効率でより多くの価値を提供できるようになるメリットが挙げられます。
またその過程でブラックボックスになりがちな仲介業者の介在価値(取引量や取引単価、場合によってはユーザー評価等)が可視化されることで、適切な介在価値を出している仲介業者は残り続け、そうでない業者はキックアウトされるというある種の浄化作用が働きます。
私たちの支援先で、インドネシアでFMCG(日用消費財)のメーカーと卸売業者、小売店を束ねるオンラインマーケットプレイスを運営するSinbadという会社があります。彼らは多層化する業界構造を一足飛びに中抜きするのではなく、既存の業界構造をある意味で尊重しそれをデジタルで効率化するアプローチを取ることで大きく成長を遂げています。
彼らは卸売業者の活動をデジタルツールでエンパワーすることにより、メーカーや対しては販売状況や在庫の動き、配送状況等のデータを可視化することでより効率的な生産、販促活動を促進できるメリットを提供しています。また一方の小売店に対しても、卸売業者のネットワーク可視化を通じて最適な発注管理や低価格な商品仕入れ等の機能を提供することでより効率的な流通活動を促しています。
他の事例としては、DXが進んだ広告業界において、DSPやSSPという中抜きツールの専門性を吸収し、これを最大限活用して広告主や媒体社に価値を出すことで重宝されている代理店やメディアレップの存在も類例に当たると思います(この例はDXの「はしり」でご紹介しました)。
型13:マネージドマーケットプレイス
13個目の型は、「マネージドマーケットプレイス」です。これ自体はオンラインマーケットプレイスの一派として広く認知を得ているものなので特に目新しさはないですが、ECの普及に伴う取扱商材の多様化や高価格化が進む中で、B2C、B2B双方の領域でより一層存在感が出てきているという点は直近の動きとして注目に値すると考え取り上げました。
従来の世界では、低額商材や日用品を中心とするオンラインマーケットプレイスと、高額商材や専門品を中心とするアナログな市場(商習慣)が各々独立して存在している構図がありましたが、上述したECの普及発展やコロナ禍の非接触ニーズが複合的な誘因となり、高額商材に関してもオンラインで取引をすることに対する(主に買い手、利用者側の)ハードルが下がってきたのが現在だと思います。
他方で、高額商材であればあるほど、また専門商材であればあるほど、オンライン完結型で最適な要件の商品を探し出し、交渉し、適切なリスク計算を経て購入を意思決定することにかかる利用者の負担は増大します。ここにおいて、単純な売り買いの場を提供するだけに留まらない、プラットフォームとして小さくない付加価値を提供してくれるマネージドマーケットプレイスが求められます。
板金加工品の発注者(メーカー)と受注者(サプライヤー)をつなぐCADDiは、 製造業の調達分野におけるマネージドマーケットプレイスの代表例であり、見方を変えればファブレスメーカーということもできるかと思います。板金加工品の調達のように専門性が高く、一社のメーカーに対して無数のサプライヤーが存在する領域においては、見つけるコストを省くだけでなく、交渉したり監督したりするコストも含めて包括的に機能提供をすることで利用者にとっての価値(マーケットプレイスの介在価値)が最大化する、というのは広く応用が効きそうです。
また別の例では、中古不動産の仲介を買取再販という形で行う米OpendoorのようなiBuyerモデルもこの型の類例と言えます。数百万円から数千万円もする不動産の売買を専門知識に乏しい素人間でオンライン完結型で行うというのは原理上無理があるため、専門性をテクノロジーでレバレッジしたOpendoorのようなマネージドマーケットプレイスが間に入って適切に取引を仲介しているのですが、この構図は上述のCADDiと相似するところがあります。
換言すると、ユーザーの「よしなにやってくれ」を叶えてくれるプラットフォーム、それがマネージドマーケットプレイスという見方もできるかと思います。あらゆる分野でECやマーケットプレイスが立ち上がる中で、高額・専門商材を中心に「よしなにやってくれる」機能の有無がプラットフォームの粘着性や成長角度を分ける因子になりつつあるのかもしれません。
おわりに
本稿では、私たちが普段思考のフレームワークとして使用しているDXの型について、その一部を例示しながらご紹介してきました。背景としては、冒頭にも述べた通り、真のDXを実現させるためには各々の企業がバラバラに効率化や個別最適を追求するのではなく、スタートアップも、大企業も、VCも、政府機関も、社会全体が同じ方向を向いて取り組みを進めていく必要があるという強い思いがあります。
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