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組織創りの羅針盤 by Genesia.

HR-COMPASS

ジェネシア・ベンチャーズの黒崎です。

ジェネシア・ベンチャーズは、2016年の創業以来、これまでに約150社(2023年9月時点)のシードステージのスタートアップに投資と経営支援を行ってきましたが、多くの企業が組織・人事面で課題に直面するシーンを見てきました。そしてその中には、組織や事業の運営にかなり大きなダメージを及ぼすものも少なくありませんでした。

100の組織やチームがあれば、100の色や文化があります。そのため当然、その中で発生する課題にも一つとして同じものはありません。一方で、「組織=人間の集団」であるという点は、どの組織にも共通します。そして人間には、性格や価値観、感情の揺らぎや思考特性といったものがあり、それぞれに“共通点”もあれば“違い”もあると私たちは捉えています。100を超えるスタートアップの組織・人事課題に向き合ってきた中で、私たちはその“共通点”を実感する、いくつかの似たような展開を目撃してきました。

そこで私たちはその共通項を可視化し、スタートアップで発生し得る組織・人事課題を予防する、そして、起きてしまった課題を解決するための手助けが出来ないかと考え、このプロジェクトを立ち上げました。

組織・人事のフレームワークを作ることは目的ではありません。事例、考え方、対応策に触れることで、起業家やスタートアップに携わるみなさんが、組織を構成する「人間」に向き合うきっかけを作る。そんな貢献が出来れば良いなと考えています。

本稿では、プロジェクトの過程や試行錯誤をオープンに公開していこうと思います。日々、常に新しい課題が発生してくる可能性も、また、私たちの考え方が変化していく可能性もあるためです。みなさんと一緒に「組織」と「人間」について考えるための情報共有・話題提供をしていきたいと思います。

はじめに

1.『ISSUEMAP』の策定

100を超えるスタートアップの組織・人事課題に向き合ってきた私たちは、その中に見出した共通項を『ISSUEMAP』としてまとめることにしました。

『ISSUEMAP』とは、スタートアップの成長過程で実際に起きた/その事例をもとに起き得ると考えられる課題を抽出したドキュメントです。私たちはそれを、私たちの投資支援先のスタートアップが「想定される人事・組織課題を先回りして認識しておくことで、落とし穴に落ちてしまうことや人事・組織課題による致命的なダメージを避ける」ために使ってもらうことをイメージして、初稿の作成に臨みました。

その際に基準とした軸は、以下の通りです。

▼フェーズの整理

スタートアップと一口に言っても、そのフェーズは様々です。私たちはまずそれを大きく2つに分けました。私たちが投資と経営支援に大きく関わるシード期=事業・組織ともに立ち上げ期である「Road for Series A」と、事業がPMFし大型の資金調達にも成功した後の成長・拡大期である「Road for IPO」の2つです。

Road for Series A
シリーズAの資金調達に向かうシード期。事業・組織ともに立ち上げ期。事業はPMFを模索している段階で、従業員は~20名程度。

Road for IPO
シリーズA以降の大型の資金調達に成功した成長期。事業・組織ともに拡大フェーズで、明確なKPIが設けられ、その実現を目指す時期。

このように、『ISSUE MAP』は、それぞれのフェーズに起き得る課題を参照できる構成になっています。

▼課題の抽出・類型化

スタートアップで起き得る課題の抽出においては、まず各メンバー(投資担当者)がこれまでのキャリアやスタートアップ支援の中で実際に直面してきた組織・人事課題を共有してもらい、それらを3つのカテゴリーに類型化しました。

経営者の魅力
強い組織の構築や才能ある経営メンバーの採用において、やはりポイントになるのは経営者個人の魅力・ポテンシャルです。経営者が成し遂げたい世界観を実現するために、どれだけ本気で事業や人に向き合えるかが、優秀な人材の採用成功や組織の一体感醸成にダイレクトに繋がります。このカテゴリではそれでも起きてしまう「創業メンバーの離脱」「事業成長と経営者の成長のミスマッチ」「組織が大きくなってきた際の権限移譲の歪み」などを取り上げています。また昨今は経営者の「メンタル面の課題」が事業に影響を及ぼすケースも増えているため、それらの実例や対策を扱っています。

採用と育成
スタートアップにおいては、経営メンバーの採用と並行して、現場のオペレーション担当者や将来のマネジメント候補者の採用も行う形になります。基本的に事業に向き合い業務量に忙殺されている中で、採用活動も並行して行われるため、採用計画や基準が曖昧な状態で採用の意思決定がされるケースも多いです。しかしながら「軸のない中で行われる採用と育成」が組織に混乱をもたらすシーンは極めて多いです。少人数チームであるスタートアップでは一人一人の存在感が大きいため、組織にフィットしない思想や言動のメンバーが一人混じることによって、時には組織の崩壊が引き起こされることもあります。この辺りの要因や対策を扱っています。

カルチャー設計
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は、採用や組織カルチャーづくりにおいて、間違いなく大きな意味を果たすものです。昨今では、多くの起業家や投資家からMVVの重要性が発信されることも多くなってきたと感じます。ただし経営者によっては、作って終わりで浸透策を打てていない、事業に集中するあまりMVVの言語化やそれに関する発信が疎かになり組織の危機を招く等の実例もあります。実際に「どの段階でどこまでMVVに注力するか」「どの様にengagement向上に繋げていくか」等のポイントに触れています。

カテゴリー内の各ISSUEの内容は、基本的に3点セット(ISSUE概要、発生予防のための留意ポイント、事例)で記載されています。

今後は、それらの課題解決の一助になるようなソリューションの提供準備も進めていく予定です。

2.キックオフミーティング

1の『ISSUE MAP』の拡充と、新メンバーとの情報共有・認識の深化を目的に、オフサイトでのキックオフミーティングを開催しました。

改めて全員でこのプロジェクトの目的と『ISSUE MAP』を俯瞰的に眺めてみると、一つの改善点が浮かびました。言ってしまえばISSUE(課題)とは「結果」であり、下位の概念。その前/上段には「原因」(上位の概念)がある、ということです。それでは、上位の概念とは何でしょうか。

事業の観点
そもそも組織のコアである事業がPMFしていない/しきっていないタイミングで、組織・人事課題が噴出するケースが多いようです。事業がうまくいっていれば、いい人が集まりいい組織ができていくという仮説をもとに考えると、逆の場合は然りと考えられます。「誰のせいか?」という問いが出てきてしまう可能性もあり、経営者の求心力と信用が落ちることもあります。そもそも今、事業は本当にうまくいっているのか?PMFしているのか?という問いはとても重要なようです。

経営者の資質
スタートアップの経営、そして、組織・人事課題に改めて向き合っていると、やはりその中心にあるのは、経営者の存在だということを実感します。事業領域やビジネス・プロダクトの魅力はもちろんですが、人の集まる中心には、やはり人=経営者や経営チームの求心力があります。それでは、スタートアップの経営に必要な経営者の資質とは?伸ばせる資質と伸ばせない資質(そもそもそんなものがあるのかも含めて)とは?などの問いに、もう少し向き合ってみる価値がありそうです。

カルチャー
組織カルチャーや企業文化といったキーワードも、昨今よく耳にするようになりました。ただし、それを説明する共通言語はまだないように思います。そこにも様々な解釈があるためです。ミーティングの中でも、「(改めて、組織・人事を語る上で欠かせないキーワードとなっている)カルチャーとは何か」という点で様々な問いが生まれました。

  • カルチャーとはそもそも何で決まるのか?事業モデル+起業家のパーソナリティ?
  • カルチャーマッチとは結局のところ、経営者マッチなのではないか?
  • カルチャーマッチとはどれだけしている必要があるのか?多様性とのバランスは?
  • カルチャーマッチという言葉の裏に、別の問題が隠されているケースがありそう
  • 多事業展開する企業では部門によって違う可能性もある

このあたりの各項は、本シリーズでも今後さらに深掘りしていきたいテーマです。

これからについて

今回実施したキックオフミーティングでの気づきを踏まえて、今後は、組織・人事課題の「上位概念」を改めて抽出しながら、まずはそこに紐づく課題(ISSUE)を整理した『ISSUEMAP』の作成を進めていく予定です。

ただし、あくまでこのフレームワークは一例なので、余計なバイアスとならないよう配慮していく必要もあると考えています。

また、組織の在り方というのも、画一的な正解というのは存在しません。業界や事業、何よりそこで働く人たちによって、最適な在り方が定義されていくものだと考えます。例えば私たち自身にも、「シード期のスタートアップの経営支援をする独立系のVC」「アジアで投資をするグローバルチーム」、そして私たちのアイデンティティといった条件下での最適な組織のかたちが存在するはずです。

私たち自身も、“正解”や“正論”といったまやかしに捉われることなく、広い視野をもってこのプロジェクトを進めていきたいと思っています。本稿を最後までお読みいただいた皆さんと一緒に、この『組織創りの羅針盤』の輪郭を一歩一歩描いていけたらと思います。

また次回の更新をお楽しみに!

筆者


ジェネシア・ベンチャーズでは、日本と東南アジアのシード期のスタートアップに投資と経営支援を行っています。起業をご検討中のみなさん、初めての資金調達をご検討中のみなさんは、ぜひお気軽にお声がけください。

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