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「起業家から経営者に進化するということ」|組織創りの羅針盤 by Genesia.

HR-COMPASS

さる2023年12月、ジェネシア・ベンチャーズは投資先のスタートアップ向けに『組織創りと戦略人事ソリューション』をテーマにした勉強会を開催いたしました。

まず、これまで約150社のシード(創業初期)のスタートアップに投資と経営支援を行ってきた私たちが、投資先が実際に直面してきた組織・人事面の課題の支援に向き合う過程で培ってきたナレッジ及び支援策を、このたび『戦略人事ソリューション』として体系化したことを発表・ご案内いたしました。(本稿を含む『組織創りの羅針盤』シリーズにおいても、今後もその一部をご紹介してまいります)

また、パネルディスカッションとして、『組織創り』というテーマの中でも「起業家から経営者への進化」をメインテーマに、3人のスタートアップCEOからお話を伺いました。モデレーターは、GPの田島とInvestment Managerの黒崎が務めました。本稿では、その内容を一部公開いたします。

  • モデレーター:ジェネシア・ベンチャーズ General Partner田島、Investment Manager 黒崎
  • 聞き手・まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田 愛
  • デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん
  • 以下、敬称略

「起業家」から「経営者」に進化するために

田島:

先日、『起業家から経営者に進化するということ』というブログを書きました。その中で私が強調しているのが、経営者が交代しても持続的に成長する組織を創るためには、「CEO is Boss」ではなく「CI(Corporate Identity、以降『ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)』も同様の意味として扱う)is Boss」の組織カルチャーを創ることが大切だということです。

 企業価値の最大化を図る上では、個人のポテンシャルをフルに引き出すことが一番重要だと考えます。やっぱり人間というのは、他人の指示だけに従って動くよりも自分の頭で考えて動いた方が当事者意識を持てるしコミットメントも高まります。つまり、経営者の仕事、そしてスタートアップを成功させるためのキードライバーは、メンバーがそのように仕事に取り組める環境をいかにして作るかということ。経営者は、自分が全てにおいて指示を出さなければいけない状態ではなくて、CI(Corporate Identity)が指針になる状態を作ることを目指す方がスケーラビリティがあるのではないかと考えています。起業家・経営者の皆さんが大切だと思っていることを自分の頭の中のデスクトップに置きっぱなしにせず、チームで共有するクラウドに上げて、そのクラウド上にあるものをチームで育てていくイメージです。みんなが「どうしたらいいか」を常にCIに問い掛け、また、CIの側からも問い掛けてくれる。そして都度みんなで考えて行動に変えていくという仕組みができればベストだと思っています。逆に、経営者自身がメンバーからの「どうしたらいいか」に答え続けていると、メンバーは自分の頭で考えなくなってしまうし、もっと自立的・能動的に動いてほしいのに・・と、経営者はさらに悩むことになります。10人くらいの組織であれば都度会話することで価値観のすり合わせは可能だと思うんですが、それ以上になってくると限界もあると思います。価値観は一人一人違うので、全員の価値観を完全一致させるのは不可能。なので、「私はこう思う」「僕はこう思う」ではなくて「自社(自分たち)としてこう考えるべき」というチームとしてのアイデンティティを作っていく必要があります。そうしないと、いつまでも個人と個人の意見のぶつかり合いが続くことになり、意思決定のスピードが落ち、スケールがどんどん難しくなってしまいます。

 CIというのは、会社の意思決定の全てに資するもの。それが浸透している状態になると、採用基準や新規事業の方向性、カルチャーの設計やステークホルダーへの対応方針など、組織の意思決定の大半がスピーディーに行えるようになり、また、そこに一本の筋が通ります。私たちも今、ダイバーシティについてどう考え、どう対応していくべきかということを、ジェネシア・ベンチャーズを主語にしてCIと照らし合わせながら対話しているところです。個人の意見は当然ありつつも、そうしたCIを中心においた議論から逃げないということを私自身も意識しているつもりです。CIというのは本当に多面的かつ多層的で、メンバーや事業・施策などが増えるたびにどんどん点や面が増えて刻み込まれていくもの。それを育て続けていくことが経営者の仕事じゃないかなと私は思っています。それができれば、経営者が変わろうが、会社としてのDNAを残していける。その状態を作ることに目を向けられるかどうかが、起業家から経営者への転換点だと私は認識しています。

 それでは、この点を踏まえつつパネルディスカッションに入れればと思います。HRBrainは約200名、ROUTE06は約60名、MOSHは約30名の組織です。私たちの投資先の中でも特に「CI is Boss」を体現しているのではないかなという3つのチームのCEOたちに話を聞いていきたいと思います。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ 代表取締役 / General Partner 田島 聡一

「CI is Boss」に向かうボトルネックがCEOにあるケース

田島:

籔さんはCEOとして、組織にいろんなメンバーが入ってくるたびに権限委譲をしてきたと思うんですが、その過程に苦しみもあった印象です。メンバーに権限を渡して生まれた時間を経営者はどんどん次の役割や仕事に充てていく必要がありますが、迷うこともあったのかなと。そこをくぐり抜けて「CI is Boss」に向かっていった経緯などを聞かせてください。

籔:

弊社ではいわゆるミッション・ビジョン・バリュー(MVV)みたいなものを創業当初から作っていて、採用でもそのミッションに強く共感して入社してきてくれる人が多いです。そういう意味では「CI is Boss」という体制を作る前提はかなり揃ってたと思うんですけど、ちょうど昨年(2022年)の8月くらい、メンバーがちょうど20名を超えたくらいで、僕の役割が大きく変わるタイミングがあったんです。それまでは僕がいろんなところに顔を出して戦略を考えたり決めたりしてたんですけど、新しく大企業やメガベンチャーから入社してきてくれた優秀なメンバーたちが戦略自体を作ってくれるようになって、僕の仕事あんまりないな・・みたいな。それまでの全能感というか充実感みたいなものを削がれた感じがして、ちょっと打ちひしがれました。そのときに田島さんから「籔さん、違いますよ」「現場で意思決定をすることじゃなくて、事業価値を最大化していくこととその経営システムを作ることが経営者の役割ですよ」と言われました。それで改めて、MVVもそうですし、経営戦略やロードマップも仕組み化や言語化をし直して、権限委譲も着実に進めていくようにしました。そうしたらチームが自律駆動していった感覚があって、この一年ですごく事業成長したなと思っています。

 そういった僕自身の経験もあり、CIを作っても組織のフェーズごとにやっぱりいろんな悩みが出てくる体感はあるので、そのあたりではお話しできることがあるかもしれません。

田島:

今のお話だと、MOSHには「CI is Boss」のカルチャーに向かう前提はあったけれど、籔さん自身に何か満たされないところがあって、スムーズに進まない状況があったということでしょうか?

籔:

お客さんと話す頻度やプロダクトに関して意思決定する頻度が下がったときに、メンバーが自律駆動してくれているのはすごく嬉しいんだけど、CEOである自分の役割やパッションを次はどこに向けていけばいいんだ?という問いへの回答が僕の中でふわっとしてしまっていました。そこが中途半端な状態だと、権限委譲もやっぱりうまく進まない。そのあたりに悩んでいたかなと思います。

田島:

たしかに、自分の役割が中途半端な状態で権限委譲だけを進めても、メンバーが信頼してくれなくなりますよね。社長は何してるの?という感じで。そういう危機感もありますよね。

籔:

まさにありました。なので僕も改めていろんなことをインプットしましたし、「事業価値の最大化ということから逆算したときに自分がやるべきことは何なのか」を整理し直しました。そうして、自分が得意なこととかやりたいことだけをやるんじゃなくて、「事業価値の最大化×自分の得意なこと」をやろうと方向性が明確になったので、そういう意味では大きなターニングポイントだったなと思います。

MOSH株式会社 Founder / CEO 籔 和弥

CEO自身の“ログ”で自社というブランドを浸透させる

田島:

遠藤さんはシリアルアントレプレナーですよね。一社目は売却されて、今のROUTE06は二社目のチャレンジですが、やっぱり一社目のときの学びを活かされてるんでしょうか?

遠藤:

今日のテーマに照らしたときに、うちが「CI is Boss」の体制になっているかというとちょっと自信がないんですけど、「CEOってどんな存在なのか」ということはすごく意識して経営に臨んでいます。初めて起業したときはそれこそ「CEOってどんな存在なのか」をよくわかっていなくて、CEOらしい振る舞いがあまりできていなかったと思います。その結果として組織創りには苦労しました。

田島:

具体的には?

遠藤:

最初はとにかく強い人を集めて事業を伸ばすところに集中して、一番重要なところは自分が見て手も動かす体制にしていたんですけど、どんどん雰囲気が悪くなりました。そのときの僕って、CEOとして会社のビジョンを語ったり表現したりということを全然しなくて、ただ数字や事業ばっかりを見る人だったんです。

田島:

社長が何を考えているかわからない、という状態ですね。

遠藤:

めちゃくちゃ言われました。未だに言われますけど、もう7-8年くらい経営をやってきているので、今となってはそれはそれで個性だとも思っています。

 僕自身はCIというよりも「ブランド」を意識しています。ROUTE06という会社がどんなブランドで、そのブランドの哲学に沿って何をすべきかということを指針として、自分がまず体現する。それによって、社員や関係者の方々がROUTE06というブランドの振る舞いを理解するようになる、という考え方です。

田島:

表現は違えど、ROUTE06では遠藤さんが考えているその「ブランド」を遠藤さんのデスクトップに置きっぱなしにせずに、ちゃんとクラウドに置いて共有できている印象があるんですが、そのあたりはどうですか?

遠藤:

採用面接やオンボーディングでは必ず話していますし、言語化もしています。あとは、その言葉単体というよりも、意思決定のログというか、態度や振る舞いを見せることを意識しています。「遠藤さんだったらこう言うよね」「こういうの好きだよね」という認識を社内でどう作るか。ログの積み重ねでブランドの認識を作って、それを言語化してインストールして、そこから外れるものの良し悪しを判断する、ということを意識しています。そういう意味ではまだ「CEO is Boss」の状態かもしれません。

 あと、うちはフルリモートワークなので、普段の一つ一つのコミュニケーションやドキュメント、社長と役員がどんな行動をしたかということがみんなに注目されていて組織に波及しやすい感覚があるので、常に見られていることを意識しています。

株式会社ROUTE06 Founder / CEO 遠藤 崇史

「CI is Boss」を実現するための「CEO is Boss」

田島:

堀さんは前職がサイバーエージェントですね。アメーバブログが同社の主要事業だった頃にまさに藤田さんの右腕として事業責任者をやっていて、たしか300人くらいのチームを率いていましたよね。そういう状況を経験しているからなのか、個人的にはHRBrainにはこれまであまり組織トラブルがなかった印象を持っているんですが、実際に堀さんが組織創りで意識してきたことはありますか?

堀:

HRBrainもマジョリティーとしては「CI is Boss」のカルチャーになっているのかなと思いつつ、瞬間瞬間や題材によっては「CEO is Boss」でもあると思っています。大前提としてこの話は、対極的な二元論というより、グラデーションや反復がある話ですよね。ただ、僕も意識的に「CI is Boss」に向かおうとしてきたところはあります。遠藤さんもおっしゃっていましたけど、自分がどういう背景で意思決定しているのかを面倒くさがらずに伝えることはもう習慣になっていて、それを幹部も見ていて自ずと似た価値観のもとで意思決定をしてくれたりメンバーに伝えてくれたりして、だんだんと布教してきたかなと思います。

 言い換えると、CIで経営していくという理想論はありつつも、現実にはそうはいかないことも山ほどある。でもその中でも、向かうべきところや行動指針の共通認識をゆっくり育てていかないといけない。だから、「CI is Boss」を実現するために「CEO is Boss」をやっている感覚です。CIを育てることをCEOの僕がBossとしてリードしている。なので、存在感としての「CEO is Boss」は当然あっていいだろうと思っています。意思決定の軸をCIに置くという話もその通りだと思う一方で、例えば非連続なことにチャレンジしようとするときって、一人の孤独からアイデアが生まれることがすごく多いと思うんですよね。CIからは生まれてこなかったりする。通常業務やエグゼキューションの部分はやっぱりCIがあった方が速く進むと思うんですけど、数年に一度くらいの頻度で必要なこともある非連続な意思決定の部分とかではあえて枷を外して、究極的にはCIですらも自己否定しながら会社を大きくしていこうという感覚で、このあたりのテーマについては向き合ってきたかなと思います。

株式会社HRBrain 代表取締役 CEO 堀 浩輝
田島:

まさにグラデーションですよね。私も「CI is Boss」と「CEO is Boss」が対極にあるものだとか二元論的に区別されるものだとか、そういう認識ではないということは改めてお伝えしておきたいと思います。

 私たちの投資先でも、自律駆動型の組織を作ることを目的化してしまってうまくいかないケースを見てきました。事業がスムーズに立ち上がっていればいいですが、そうじゃないケースも当然多々ある。そういうときに必要な軌道修正の意思決定をメンバーに任せてしまうと、逆にスピードが落ちてしまうこともある。だから、あくまでも企業価値の最大化というゴールがあった上で、その手段としての「CI is Boss」です。ただ、トップダウン=「CEO is Boss」で決めなければいけないこともあるし、まさにグラデーション。「CIを作っておしまい」ではないということは皆さんも聞いたことがあると思いますし、その肌感覚もあるのではないでしょうか。

スタートアップという“弱者”の採用戦略

田島:

次のテーマです。成長・成功しているスタートアップには「採用に本気で取り組んでいる」という共通点があると思っています。採用、つまり仲間集めに対する執着の強さは、本当にダイレクトに事業の成長スピードに直結します。エース級の仲間を採用し続ければ、どんどん新しい事業が生まれていくし複層化もしていける。でも、そうじゃないと自分が常に司令塔でないといけない。その差はどんどん大きくなります。

 皆さんが、特に経営メンバーやキーパーソンの採用で意識したり実践したりしていることあれば、ぜひ教えてください。

籔:

エグゼクティブ採用は本当に時間軸も長いですし、かといって時間をかけたら成功するというものでもないですよね。実際に、口説くのに5年くらいかかったエンジニアもいますし、それくらい時間をかけてコミュニケーションしてもお断りされた方もいます。ただ、お断りされた方にも、違うところに入社したタイミングでまたお声掛けしてみるつもりです。転職“後”のタイミングって実はすごくチャンスなんですよね。そういった共通認識をボードメンバー内で持っていて、僕だけじゃなく、本当に全員でエグゼクティブ採用に取り組んでいます。また、極端な例で言うと、大阪のリードエンジニア候補の方にお会いするために一時間だけ大阪に行ったりもしました。長い時間軸で見て、しつこくやり続けるのみです。

田島:

採用できる人を採用するのではなく、採用したい人を採用するというのはすごく重要ですよね。

遠藤:

うちは、僕自身の思考からなんですけど、基本的にスタートアップというのはマイノリティで弱者だと思っているので、弱者の戦法を取っています。知名度のないよくわからない会社が理想の人材を採用できるかと言うと、なかなか難しい。できるのは、スタートアップ全体の0.1%くらいのモメンタムのある企業だけ。うちはそうではないし、勝てる領域でもないと思っています。じゃあどんな人を採用するかというと、優秀なんだけどちょっと変わってる人。それでうちのチームのマジョリティと人間的にフィットする人をマネジメントクラスで採用するようにしています。ちょっと変わってる人たちでバランスされている組織の方がうちとしてはベストパフォーマンスに繋がるという考え方で、僕はそういうブランディングをすごく考えています。採用において自分からスカウトや個別連絡をすることはかなり少ないですが、雰囲気の設計に時間をかけています。それもカルチャーというか、ある意味ではCIなのかもしれないですけど。

多様性を受け入れない振る舞いを変える必然性

田島:

僕が知っている限りですが、HRBrainの採用で印象的なのはCFOの井出さんですね。今回のEQTとの交渉も、まさに井出さんがいなければ実現できなかったというくらい活躍されている認識です。井出さんの、CFOポジションの採用には堀さんも相当な時間をかけていましたよね。

堀:

2年とか、もうちょっとやってたかもしれないですね。

田島:

井出さん以外の幹部メンバーも育っていると思うんですが、堀さんはどんな活動をされてきたんですか?

堀:

僕自身も今でも毎日2-3人の最終面接をしてるんですけど、まさに遠藤さんがおっしゃっていた通り、まずはどのレイヤーにどういう人を採用するのかを決めることが一番大事かなと思っています。全員Googlerみたいな人たちを採用するのか、それとも、うちにカルチャーマッチしたメンバーみんながベストパフォーマンスを出せる秀逸な仕組みを整えた会社を目指すのか。これって全然違いますよね。そういった方針がないと、全てのポジションでエクセレントな人が採用できていないと良くないというような空気が出てくる。なので、レイヤーごとの採用対象のレベル感みたいなものを決めて悩まないようにする、ということをずっとやってきました。

 あとは、異分子を恐れすぎないということも途中から意識し始めました。例えば最初の3人の中に異分子がいたらめちゃくちゃ気になるけど、人数が増えてきたらそうでもないじゃないですか。だから組織の異分子に対する許容度ってどんどん高まっていくし、高めていくことで組織は強くなると思うんです。それを最近は多様性って言いますよね。CI、僕自身、そして各幹部たちも、そういう多様性を吸収できるよう状態になっているか?という意識はすごく大事にしています。例えば、営業としてめちゃくちゃ成果を出してきた古株メンバーがいたとして、新しく営業メンバーを拡充するタイミングでその古株に合わないって理由で採用にブレーキがかかったりしたら、すごくもったいないですよね。それが社長だとさらに最悪。なので、多様で優秀なメンバーを採用するために必要な振る舞いができていないんだとしたら、社長であろうが幹部であろうが古株であろうが、変えてもらわなきゃいけない。そういうメッセージをストレートに発信することを意識しています。

組織を分裂させないフィードバックとは?

遠藤:

僕から堀さんに質問してもいいですか?今のお話にもありましたけど、幹部へのフィードバックってめちゃくちゃ難しいじゃないですか。幹部と喧嘩すると組織が一気に割れてしまうような懸念もある中で、どういう風にフィードバックをされていますか?僕は、ジェネシア・ベンチャーズが提供している組織アセスメントの『G-Owl』を活用しています。アセスメントの結果をもとに「自分もそう思っている」と伝えたりしています。

堀:

問題が起きるときのパターンっていくつかあると思うんですけど、大きいのが、会社が成長してきたときに特定のロールにそれまでの幹部が合わなくなってきたということだと思います。フィードバックのタイミングとしてもかなり大事ですよね。そこに対して、僕は適材適所を絶えず考えていて、ミスマッチが顕在化する前に新たなミッションを渡すということをしています。それでも合わなかったら、そのポジションのままフィードバックし続けるよりも、もっと合うミッションや配置に変えていく方がいいと思っています。

遠藤:

人に関しての解像度がめちゃくちゃ高いですね。

田島:

サイバーエージェントも人材の適材適所をかなり意識している会社でしたね。

籔:

僕も聞いてみたいんですけど、特に若手メンバーへのいい意味での突き上げってどんな風にされていますか?ここもかなり気を遣うところだと思うんですけど。

堀:

若手の抜擢へのハレーションにどう対処したか、みたいなことですか?僕は「変化対応に強い組織」ということを圧倒的な是として、全ての人が流動的であるということをずっと伝え続けてきています。言葉もそうですけど、一番わかりやすいのが、実際に幹部のミッションをころころ変えることだと思います。それでもその幹部がベストパフォームしようとしている姿をメンバーは絶対に見ているじゃないですか。そうなると、自分や仲間のミッションが多少変わろうが、それが抜擢やあるいは降格みたいに見えようが、誰もそんなことにこだわっていられなくなるはずです。

経営者は何にどれだけ時間を使う?

田島:

それでは、質疑応答に移ります。

質問1:

新卒のような質問ですけど、皆さんの一日のスケジュールと一ヶ月の時間配分を、可能な範囲で教えていただけますか?プライベートなども含めて、どんな時間の使い方をしているかを知りたいです。

堀:

採用と、UI/UXなどを含めた中長期のプロダクト戦略と、あとはファイナンスです。僕の今の仕事は、大きくこの三つ。逆に言うと、エグゼキューションの数字の確認にはそこまで時間を使いません。できるだけ中長期的に重要なテーマに時間を割くように、早い段階からシフトしています。ハードワークする時期も当然あるんですけど、基本的には長距離走を意識しています。SaaS事業って、一定規模になるまでを10年スパンくらいで考えていないと、とてもじゃないけど大きいことはできません。気が遠くなるぐらい時間がかかる。短距離走だと思って生活していると絶対に無理なので、ある程度のゆとり持ちながら、頭の中が常にポジティブかつクリアであるように人間らしい生活を大切にしています。

遠藤:

僕も似た感じかもしれません。一社目のときは自分がプレイヤーとして稼働する時間が全体の7-8割くらいありましたけど、今は、特に二年目くらいからはプレイヤーとしての稼働は2-3割くらいで、どちらかというと組織の仕組みや社内外に発信するメッセージについて考えたりリサーチしたりすることに時間を使っています。プライベートでは、よくゲームをしています。APEXにハマっていて、知らない方とボイスチャットを繋げてやったり。仕事のことばっかり考えていると現実的なことを言い過ぎちゃうので、全く関係ないことをして頭を完全にリセットします。その方が仕事でのパフォーマンスも良くなる気がするんです。

籔:

僕も基本的には普通の生活だと思うんですけど、ちょっと変わってるかなってところでは、最近は全国各地のクリエイターさんに会いに行くようにしています。直接いろいろなお話ができることはもちろん、例えばMOSHを使い始めたエピソードなどを聞いて社内に持ち帰れることがめちゃくちゃ大事だと思っているので、そういうネタ集めという意味でも全国行脚をしています。月に一回くらいですね。あとは、会話量を増やすためにCTOと同棲しています。CTOにも家族がいて普段は神戸に住んでるんですけど、東京に来るときにはうちに住んでもらって。あとは、MOSHのユーザーさんのサービスは自分でも積極的に受けるようにしています。パーソナルトレーニングとか鍼とか。変わってるところはそのあたりでしょうか。

遠藤:

僕からもお二方に伺いたいんですけど、“社長は何に時間を使うべきか問題”でどれくらい悩んでいますか?起業してから時間が経って、悩まなくなりましたか?

堀:

自分の中で、自分がフリーマンになれていてかつビジネスが伸びていたりすると、僕がやるべきことができているかなと認識しているので、今はあんまり悩まないかもしれません。

籔:

悩みはたくさんありますね。基本的に中長期的な思考と仕込みに時間を使うようにしつつも、やっぱり足元の話は入ってくるので、常にそのジレンマと戦っている感じです。

エグゼクティブ採用に臨むときの“覚悟”とは?

質問2:

エグゼクティブ採用についてお伺いしたいです。皆さんもエグゼクティブ採用に時間を使っているというお話がありましたが、何年かけても採用したいという人が今目の前にいたときにどのようにアプローチすると良いでしょうか。例えばまずは事業相談の壁打ち相手になっていただく選択肢などもあると思うんですが、その場合はどこまで経営戦略をお伝えするべきかなど、全体的なコミュニケーションに迷っています。

遠藤:

候補者を口説くのは苦手だしあんまりしないとさっき言ったんですけど、思いついたタイミングで無邪気に「うちに来ませんか?」というようなメッセージを送ったりもしています。人間、たぶん10回くらい誘われるとその気になったりするじゃないですか。意外と真面目に考えすぎずにコンタクトを取ってみるのはいいと思います。僕は、一社目のときには真面目に考えすぎちゃってそういうことができませんでした。今はもうちょっとカジュアルに話しかけてみてもいいかもしれないと思っています。あとは、エグゼクティブ採用においては、カルチャーマッチはもちろんですけど、最終的にはその人との関係がダークサイドに落ちたときにたとえ恨まれたとしても厳しい判断をすることができるかという、そういう覚悟を持てるかどうかを意識して採用に臨んでいます。

堀:

僕も今の遠藤さんの最後のお話が真っ先に思ったことです。やっぱりいつでもお別れできる覚悟をしておくこと。確率論で、ほとんどのエグゼクティブ採用は失敗するしお別れの日が来るんです。もっと言うと、合わなかったエクゼクティブ(だと思った人)には自主的に出ていってもらわないと、次の人が入れなくて、そうなると詰んじゃいます。なので、もちろん気持ちを乗せて採用するんですけど、一方でいつでもお別れする覚悟を持っておく。そういう矛盾を抱えながら付き合っていくことは大事かなと思います。

籔:

僕も、エグゼクティブ採用はやっぱり先方のタイミングによるところが大きいと思っているので、定期的にカジュアルに接点を作ることを意識しています。ランチでも何でもいいと思います。あと、口説き切らないことも意識しています。やっぱり先方に覚悟を持って決めてもらいたいので、オファーの仕方も工夫しています。

堀:

補足すると、社内に“口説ける人”を増やすことがすごく大事だと思っています。人事はもちろんのこと、各職種に一人は、その職種における世の中的なハイレベルの人が来たとしても“口説ける力を持っている人”を置いておくこと。いつも僕が出ていかないと口説けないんだとしたら、それは採用力の不足です。必要な要素としては、実力と人間性かなと思います。

田島:

そろそろお時間になりました。皆さん本日はありがとうございました。

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