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「組織創り」を何から始めるか?|組織創りの羅針盤 by Genesia.

HR-COMPASS

ジェネシア・ベンチャーズの黒崎です。

Vol.1で、組織創りには“共通点”と“違い”があるという点に触れました。

また、「組織=人間の集団」であり、「人」とその「心」に向き合い続ける必要があるという点を“共通点”の一つとして挙げました。

その上で本稿では、組織創りにおける“共通点”と“違い”についてもう一段思考した上で、組織創りの考え方について触れていきます。そして実際に「誰が・何から」着手するべきかについても触れていければと思います。組織創りをこれから始める方のナレッジ取得、そして、既に組織創りを始めている方の振り返りの軸としてもご活用いただければ幸いです。

「組織創り」の考え方 -“共通点”

組織創りの考え方について、“共通点”の側面から捉えていきます。

それは「組織創りは、企業としての目的達成のための手段であり、単体で切り出して考えるものではない」という点です。

私たちジェネシア・ベンチャーズはスタートアップの経営支援に長年携わってきましたが、組織創りを下図のような整理で捉えています。

組織創りの前に、企業がその実現を目指すビジョンやミッションなどの世界観が上位概念(目的)として存在します。そして、それを達成するために、事業戦略、財務戦略、組織戦略があるという位置付けで、事業・財務・組織の3要素はそれぞれ単体で成立する部分もあれば、密接にリンクして形作られていく部分もあります。つまり、「ビジョン・ミッションの達成に近付くため、3要素それぞれのあるべき姿は何か?」という問いに対し、思考を深めていくことが第一歩ではないでしょうか。

ジェネシア・ベンチャーズ作成 ISSUEMAPより引用

この考え方に近い事例として、サイバーエージェント社が挙げられます。創業以来インターネット広告事業、メディア事業、ゲーム事業、AbemaTV事業と目覚ましい事業展開が進んでいる同社ですが、「21世紀を代表する会社を創る」という明確なビジョンを持って活動しており、社員の目的意識にそれがきちんと浸透しているのが同社の強みの一つです。複数事業が展開されていくと、それぞれの事業が蛸壺化して組織としての一体感や士気が少しづつ低下していくリスクもありますが、それを踏まえた組織戦略として、同社の価値観をまとめた本を配布することやミッションステートメントの浸透施策、部門間のフレキシブルな異動制度や交流会などを積極的に行っています。その結果、サイバーエージェント全体としての組織の強さが維持され、ビジョン達成に向き合い続ける土台となっていると感じます。このようにビジョンを土台に、事業と組織(そして財務も)をリンクさせた組織の在り方を創れているのは、参考になるケースですね。

他方、組織創りの考え方はこの例が絶対解であるわけでは当然なく、例えば「こういうビジネスを展開していく」という事業起点で、その事業を成功させるために組織戦略・財務戦略を整備することに着手し、その過程が進む中でビジョン・ミッションが整理されていくというケースもあります。実際はこちらの方が現実的なアプローチかもしれません。いずれにせよ、共通点は「組織創りは、企業としての目的達成のため手段であり、単体で切り出して考えるものではない」という点です。

「組織創り」の考え方 -“違い”

共通点の考え方に触れた上で、もう一側面である“違い”についても言及したいと思います。

前項は、組織のビジョン・ミッション、または事業・ビジネスという目的があって組織創りが始まるという趣旨でしたが、当然ビジョンや事業は個社ごとに異なります。目的が異なる以上、組織創りの戦略や施策もまた個社ごとに異なる、つまり他社とは違うアウトプットになる、という点を理解しておくことが大切なポイントです。

例えば、シングルプロダクトを提供しているSaaS事業者であれば、開発、営業、CSとある程度はやるべきことがフォーカスされており、その部門間の関係性や一体感が顧客へのサービスデリバリーの品質に影響します。この場合の組織創りにおいては、ビジョンやミッション、そしてバリューといった行動形式をベースにしながら、一つのゴールや目標の魅力を経営陣が語り、一つの行動様式をもって一体感を醸成する組織創りがより重要になってきます。

他方、例えば、戦略コンサルなどのプロフェッショナルファームの場合、ビジョンやミッションはあれど、実際問題ビジネスとして重要なのは、圧倒的な社員個人の能力です。その場合の組織戦略としては、個人が最大限に力を発揮するための評価・報酬設計、キャリア設計、成長度合いを実感できる仕組み作りなどが重要になるでしょう。

このように、ビジョンや事業内容によって組織創りの要点は異なってくるため、「自社の」成果を最大化するために何をするべきか?を考えていくことが肝要です。組織創りに“絶対解”や“正解”というものはなく、各社の“違い”に合った“最適解”を追求していく営みであるという点を念頭に置いておきたいところです。

「組織創り」は誰の仕事か?

組織創りは、人事の仕事。あるいは、その時点で最適なものが自然と形成される。

そんな誤解がまだ残っているように思いますが、先述のとおり、これらはいずれも正しくないでしょう。

繰り返しになりますが、組織創りは、企業のビジョン・ミッション実現のための1ピース=経営戦略の一角であり、事業戦略や財務戦略と同時に議論・設計されるものです。つまり、経営の仕事です。

スタートアップの創業期などには、こうした、経営と組織創りの関係性の認識が曖昧なケースが散見されます。しかしながら、その状態のままで採用や制度設計を進めるのはかなり危険だと言わざるを得ません。

わかりやすい例を挙げれば、事業戦略や財務戦略とのリンクを考慮せずに、「社員の残業が増えていて現場が回っていない印象があるから新規採用する」「たまたま実務スキルの高い人材との出会いがあったからリーダーのポジションに据える」「KPIはまだ明確に設定していないが、新規顧客獲得数が多い営業担当を評価・登用する」といったことです。いずれのケースも、ビジョンやミッションとの繋がりや戦略としての一貫性は感じられないと思います。

その意志決定がうまく嵌れば、後々結果オーライということもあるかもしれません。物事がうまく運んでいれば、課題や問題は浮き彫りになってこないものです。しかしながら、「誰の仕事か?(誰が責任を持ってやるべきか?)」という問いは、時として「誰のせいか?」という問いに姿を変えます。物事がうまくいかない時です。つまり、戦略通りに物事が進んでいない時、そして、事業戦略や財務戦略と組織とがうまく機能していないと感じられた時です。そんな時に「経営は組織創りには関与していない」「数字は見ているが、それを生み出している人の存在までは見ていない」「担当者のせいでこうなったのだ」と言えるでしょうか?

「組織創り」は何からやるか?

ここまで組織創りの考え方、そして責任を持つのは経営者であるべき点に触れてきました。それでは、何から/どんなアプローチから始めたら良いのでしょうか。ここでは、2つ挙げてみます。

1.ビジョン・ミッションの言語化

誰にとっても魅力的なキャッチコピーを今すぐに作成すべし、ということではありません。「自社が/自分たちが、●●という事業を通じて、どんな世界の実現を目指すのか?」という方向性=ビジョン・ミッションは、まさに企業の目的そのもので、すべての戦略の上位概念になります。また、組織を創っていく上では、ビジョンを共有できる仲間を集める求心力のコアになります。すぐにきれいな言葉でまとめられなかったとしても、根気強く、言語化に向けて方向性を固めていきましょう。

アプローチの方法として「内観」と「ヒアリング」を挙げます。

まず、企業の目的は、その企業を立ち上げ事業を牽引する、創業者/起業家/経営者の中に存在していると考えられます。何を実現したくて事業を興したのか?その事業(手段)を選んだのはなぜなのか?どんな状態をゴールだと捉えているのか?といった自問を続けてみましょう。考え続ける中で、新たな気づきや適切な表現の発見、変化などもあるはずです。向き合い続けましょう。メンターやコーチを活用するのも良いかもしれません。

自分自身では自覚できない部分については、周囲に尋ねてみましょう。自身の強み・弱み、思考や行動の傾向、コミュニケーションの癖など、思いもよらない言語化のヒントが得られるかもしれません。組織創りを進めていく段階では、経営チームのメンバー同士や社員と継続的に対話をし続ける仕組みを作ることも大切です。なぜ一緒にやっているのか?という周囲の人たちとのリンクを再確認できる機会にもなるかもしれません。

目的ではなく事業やそのアイデアを起点に組織創りに取り組むケースにおいては、まずは2を参照してみてください。

2.自分たちの事業をもとに、最適な組織図を描く

先述の通り、事業起点で組織創りについて考えるケースもあるでしょう。また、組織戦略はそれ単体で切り出せるものではなく、事業戦略や財務戦略と密接にリンクして形作られるという点も、先述の通りです。

そもそも自分たちにとっての事業の成功とは何か?自分たちのサービスを適切に提供できている状態とはどんな状態か?第一、第二、第三フェーズでそれぞれ何を目指すのか?などを定義した上で、その達成や実現に必要な組織のスタイルが決まります。

具体的に組織図を描いてみましょう。部門の分け方・数、そこに所属する人の数、管理部門の位置づけなどを、事業のフェーズと照らしながら、イメージしてみましょう。あとは、それを実現する具体的な人事戦略を描きます。

それぞれの時点でその組織にいる人たちは、どんなケイパビリティを活かして、どんなバランスで働いているでしょうか?そして、どんな表情をしているでしょうか?そんなことをイメージしながら、必要な制度設計や施策、オフィスの設計などまで考えてみるのも良いでしょう。

そうしていく中で、1のようなビジョン・ミッションも徐々に言語化に近づいてくるかもしれません。

なお、最近は組織創りの成功事例や魅力的な施策などの情報がシェアされることも多くなってきました。そして、それらは確かに効果をもたらしたものでもあります。しかしながら、他社の成功事例を取り入れる際にはやはり「本当に自分たちにも適したものなのか?」をまず考えるべきです。それが最適でない場合は、逆の結果を招いてしまうこともあり得ます。

目的起点であれ事業起点であれ、いつでも「自分たち」を主語に考えること。それを続けることです。

おわりに

組織創りにおける“共通点”と“違い”は、まさに表裏一体です。むしろ、自分たちの他社との”違い”を明確に認識して表面化させようというメッセージこそが“共通点”と言えるかもしれません。

その上で本稿では、そのメッセージを土台に、組織創りが経営の仕事であること、また、その始め方・向き合い方について記載してきました。抽象度の高い部分も多かったと思いますが、だからこそ、意識的かつ継続的に取り組むことが必要なのが組織創りです。

今後も私たちの考え方を発信しつつ、実際の企業の組織創りの事例やインタビューなどもご紹介していけたらと考えています。

また次回もお楽しみに!

筆者


ジェネシア・ベンチャーズでは、日本と東南アジアのシード期のスタートアップに投資と経営支援を行っています。起業をご検討中のみなさん、初めての資金調達をご検討中のみなさんは、ぜひお気軽にお声がけください。

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