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多様性の先駆:キャリアの枠を超えた企業が大切にする「採用と育成」|トランスファーデータ|組織創りの羅針盤 by Genesia.

HR-COMPASS

スタートアップの組織創りにフォーカスしたコンテンツを発信している『組織創りの羅針盤 by Genesia.』シリーズ。

本稿では、私たちの投資先でもあるトランスファーデータの、実際の組織創りのプロセスに関するインタビューをご紹介します。

トランスファーデータは、出張管理SaaS『AIトラベル』をメインプロダクトとして提供するスタートアップです。ITスタートアップらしいスピード感でプロダクトをアップデートし続ける開発・営業チームとともに、ユーザにとことん寄り添ったカスタマーサポートを担うオペレーションチームを抱える同社は、どのようにそのバランスを保ち、両チームが一枚岩として機能するフェアな組織を創り上げてきたのでしょうか。

代表の村田さん、取締役の高氏さん、新卒入社の島本さんからお話を聴きました。

  • インタビュアー:ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 黒崎
  • 聞き手・まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田
  • デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん
  • 以下、敬称略

トランスファーデータについて

黒崎:

本日は皆さんよろしくお願いいたします。
 では最初に村田さんから、会社と事業について簡単にご説明いただけますか?

村田:

トランスファーデータは、『AIトラベル』という法人向けの出張の手配と管理ができるサービスを開発・提供しているインターネット企業です。「世界を最適化する」というビジョンを掲げていて、創業からはもうすぐ10年が経ちます。『AIトラベル』というサービスを作り始めたのは創業の翌年くらいからなんですが、実際にサービスとして使われ始めたのはその4年後くらい(2017年)です。従業員は今ちょうど80人になったところです。
 僕自身が元々エンジニアで、コードを書いて自分の仕事を効率化するということをし続けてきました。自分が作ったものによって隣の人の仕事も楽になるというような、一つのものが広く価値を提供できるということがすごくおもしろくて、それを今は会社として実現しようとしています。最終的には、いろんな無駄なことを効率化して、今までできなかったことができるようになるということも含めた「最適化」を目指しています。

株式会社トランスファーデータ 代表取締役 村田 佑介

CEOの交代から始まった組織創り

黒崎:

今回はトランスファーデータの「組織創り」というテーマでいろいろとお話を伺いたいと思っています。
 まずは経営チームの成り立ちについてお伺いしてもいいですか?最初に触れるべきか悩みましたが、創業初期の段階で、CEOが交代していますよね?村田さんは、前CEOから経営を引き継いだ。その時のお話からお伺いしてもいいでしょうか?

村田:

創業時、僕はCTOというか一人エンジニアとしてプロダクト作りだけに専念していて、前CEOはそれ以外を全部やるという建付けでした。それが急に、僕がCEOになることになりました。最初は自分が経営者だという意識はあまりなかったんですが、いざ交代するとなったらマインドが切り替わったというか、この会社を伸ばすためにできることは何でもやろうとスイッチが入った感覚はありました。

黒崎:

創業時から参画していたとはいえ、一人のエンジニアから経営者になるのは、けっこうなジャンプですよね。

村田:

そうですね。ただ、もうすでに佐藤さん(取締役・佐藤 尚平さん)が隣にいたことも大きな後押しになって、覚悟を決められました。プロダクト開発をしていた頃から、開発以外はやりたくないということはなく、目標を達成するために何をすればいいかという発想でひたすらトライアンドエラーをしていたので、その対象が広がっただけみたいな感覚でした。根っこの考え方はそんなに変わっていないかなとは思います。

CxO採用は、100人に会う/数年越しで口説く

黒崎:

CEOが交代して村田さん体制になってから、経営チームにはCTOの山口さんとCOO(入社時のポジション、現在はCAO)の藤本さんが入られたということですが、CxOクラスの採用において注力したことやアプローチのプロセスなどをお伺いできますか?

村田:

経営チームの採用においては、自分よりも優れた人を採ること、あとはとにかく人に会うことを重視してきました。特定のポジションを採用すると決めて動くので、会った人をベースにポジションを考えるような採用はしていません。COOの藤本さんのポジションだけでも100人以上にお会いしてると思います。CTOの山口さんの採用の時も、「自分よりも優れているエンジニアリスト」というか「絶対に採用できないエンジニアリスト」を作って、アプローチしていきました。

黒崎:

「絶対に採用できないエンジニアリスト」ですか?

村田:

このタイミングでこのフェーズの会社にこんな条件で絶対に来ないよね・・という理想の候補者をまとめたリストです。でも、だからといってアプローチしないということではなくて、むしろそのリストから当たっていきました。山口さんも、その中の一人。「Pythonしかできへん」って言ってるのに、「いや!Railsもいけますよ!業務委託からちょっとやってみましょう!」って言ってお願いして、うちの開発のやり方になじんでもらいました。「絶対に採用できないエンジニアリスト」はつまり、開発体制や開発言語をすぐにキャッチアップできるようなとびきり優秀な方たちのリストだったので。

黒崎:

100人に会うプロセスの中では、その途中でいい方に出会うこともあるんじゃないでしょうか_そういったナイスな方はどうプールしておくんですか?もしくは、この人だ!という方には会えばすぐにわかるものなのでしょうか?

村田:

山口さんも藤本さんも業務委託として実際に働いてみてもらってから、お互いに判断したかたちです。
 藤本さんの場合は、佐藤さんがジョインしたのとほぼ同じタイミング(2017年)くらいでもうコンタクトを取り始めていて、二年間口説いた後に一年半の業務委託をしてもらいました。当時からサービスコンセプトにもかなり口を出してもらって、実際に多くが反映されています。また、藤本さんは転職族だったので、そのすべてに『AIトラベル』を導入してきてくれて、その上で「これはちゃんと売りたい」と言ってジョインを決めてくれました。

黒崎:

すごいコミットメントの高さですね。藤本さんとはどのくらいのペースでコンタクトしていたんですか?

村田:

毎月コンタクトしていました。

『マザーズハローワーク』の担当者が応援したくなる企業

黒崎:

それでは、今日実際にこの場に同席してくださっている取締役の高氏さんにもお話を聴いていきたいと思います。山口さんや藤本さんとはまた違う流れで入社されたとのことですが、そのあたりから伺ってもよろしいですか?

高氏:

私の前職は金融機関で、他社と合併したことでそこそこ規模の大きな会社になったんですが、それまで本当にいろいろな業務をさせてもらっていたのに、合併した途端にその自由度がなくなってしまったんです。それで、このままではキャリアのステップアップが期待できないかもしれないと思い、転職を考え始めました。当時は子どもがちょうど2歳になったばかりで、保育園の送迎や発熱した時の対応もあるし、どんな働き方が実現できたらいいんだろう・・とすごく悩みながらの転職活動でした。その時に足を運んだのが、田町にある『マザーズハローワーク』なんですが、そこの担当者がすごく熱心な方で。私の気持ちを伝えたら、「あなたにぴったりの会社がある!」「私があと20年若かったら絶対にここで働いている!」「でも今は求人が出ていないから、確認する!〇〇日にまた来て!」と。それで指定の日にもう一度伺ったら、「求人をもらってきたから、すぐに面談に行ってきなさい!」と言われました。

黒崎:

すごいですね。

高氏:

そんな会社があるんだ・・!そんなテンポで話が進むんだ・・!と驚きました。その時、実はすでにメーカーの事務職には受かっていて、私の実家からも近いしお休みも多くて安定していたので、気持ちはそちらに傾いていました。なので、トランスファーデータのようなベンチャー企業を選ぶかどうかは本当に悩んだんです。でも、実際に面談に来てみたら、こんなに楽しそうに仕事をしている人たちが世の中にはいるのか・・!というくらいの衝撃を受けたんです。それで、本当に悩んだんですが、やっぱり楽しい方を選びたいなと思って入社を決めました。2019年の3月18日です。よく覚えています。それで、最初は時短勤務で10時から16時まで働いていたんですが、すぐにフルタイムに変えてもらいました。本当に仕事が楽しくて、もっと働きたい!と思って。

株式会社トランスファーデータ 取締役 オペレーション本部長 高氏 唯衣

時短からフルタイム、そして取締役への登用

黒崎:

高氏さんは時短で入社されて、すぐにフルタイムになって、そこから今は取締役になっていますが、そこまでのステップやどんなことを考えて意思決定をしてきたかをお伺いしてもいいですか?

高氏:

最初はオペレーター職として、企業のお客さまから来た出張手配の依頼にコツコツと対応していたんですが、私が入社してから三ヶ月くらい経った頃に、急に利用企業が増えて業務が忙しくなったんです。そこから新しいメンバーも続々と入社してくる中で、「これまで自分は人に教えてもらう立場だったけど、もうそうじゃないんだ」ということを理解して、自然とリーダー的なポジションになっていったのかなと思います。そして、自分が教えたことを相手ができるようになったり、フィードバックや感謝の言葉をもらえたりするとやっぱり嬉しくて。新しいメンバーが入ってきた時に、もっと楽しんで働いてほしいなという気持ちが芽生えてきました。新卒採用に関わるようになったことも大きかったです。入社から1年4ヶ月くらいが経った頃に、今隣に座っている島本さんとの面談に入って初めて新卒採用に関わったんですが、「この子(島本さん)と働きたい」「この子が来年の4月に入社してくることを考えたら、自分ももっと頑張りたい」と強く思ったのを覚えていて、その感覚がすごく楽しかったんです。

村田:

ちょうどトランスファーデータとして新卒採用を始めるタイミングで高氏さんがマネージャーに昇格して、人事権がついたので、面談に入ってもらったんです。

黒崎:

前職では、そういった採用やマネジメントには関わっていたんですか?

高氏:

全くやってきませんでしたし、人を育てると経験もなかったです。島本さんが入社してくる前の冬に、中途で入社したメンバーのマネジメントを担当したことは大きなきっかけになりました。入社翌月の1on1をしていたら、「周りで若い子がたくさん頑張っている中で、私は全然仕事ができなくて情けない」と言われたんです。全然そんなことなかったのに。たしかにまだシステムの操作とかに慣れない中で、本人が“失敗”だと思ってしまうようことが増えちゃった時期があったんです。それで、本人はめちゃくちゃ落ち込んでたんですよね。私はそれを聞いて、「この間にできたことあるんだからそれでいいじゃない!その他は少しずつ伸ばせばいいんだよ」「私(高氏)くらいできるようにならなきゃいけないと思ってるんだったら、そうじゃないよ」という話をしたんですが、そうしたらすごく感動してくれて。面談の後に「本当にありがとうございました」という長文のメッセージをくれたんです。その時に、私はこういうことを続けていきたいなと思いました。そうした体験から少しずつ自信がついて、オペレーション業務からオペレーションチーム、チームから部署全体、そして組織全体という形でステップアップしていきました。

黒崎:

そうなることをご自身は想像していましたか?

高氏:

2019年に入社して4年。最初は全く想像できなかったですね。母親として、オペレーター職として働くというイメージしかもっていませんでした。

取締役は、組織全体の一体感を作るのが仕事

黒崎:

高氏さんのポテンシャルを経営チームは当初から見抜いていたんですか?

村田:

高氏さんが入社した翌月の2019年4月から、半年ごとに実施する人事評価制度を設定したんですが、二回目以降、高氏さんは職能・業績・資質の項目すべてでずっと最高評価なんです。それを見てみんな納得したかたちですね。一方で、ご家族の不安もあるかなと思ったので、佐藤さんが家庭訪問してご家族とも話をしました。
 うちってベンチャーとしてはやや独特で、ITとオペレーションの組織の両方があって、人のタイプとか好む職場環境とかが違うんですよね。特にオペレーションチームにおいて、合理的でベンチャー気質の強すぎる人がマネジメントをすると、メンバーを守れないかもしれないという危惧がありました。なので、オペレーションチームを守れてしっかりと声をあげられる人をかなり厳選しました。また、チーム内においても、妙な軋轢や感情的な議論が生まれないように、フェアさを守れる人を登用したいと思っていました。高氏さんがよく言っているのが、「こういう人がこれを見たり聞いたりしたらどう感じると思う?」という質問です。「こういう人が見たらどう傷つくと思う?」というような。高氏さんは視点を多角的に持っていて、自分や自分たちを客観視する力がすごく強いんだと思います。

黒崎:

高氏さんがこれから実現したいことってありますか?

高氏:

今はオペレーション本部の本部長というポジションで、部署だけに目が行きがちになってしまうこともあるんですが、私が望んでいるのは、すべての部署が仲間として一体感を持って事業を進めていくことです。今もすでに部署間の壁はだいぶなくなってるかなとは思うんですが、これからも全体に目を向けていきたいですね。今オペレーション本部は50人近い規模になってきましたが、私のマインドは直下のマネージャーたちを通してどんどん全体に伝わるしくみができてきているので、私としては次は他部署にももっと声をかけていきたいです。

黒崎:

まさにそれが期待されているでしょうね。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 黒崎 直樹

新卒入社から約一年でのマネージャーへの登用

黒崎:

島本さんは、2020年の4月に新卒一期生として入社されたんですよね。その経緯や当時の印象があれば教えていただけますか?

島本:

私は旅行業の専門学校出身で、旅行業界への就職を目指していたんですが、ちょうどコロナ禍の時期で募集が全くなくなってしまったんです。そんな中、トランスファーデータの求人票が学校に届いて、出張を手配するってどんな仕事なんだろう?と興味が湧いて説明を聞きに行きました。業務だけじゃなく、人間的にも成長できるよというみなさんのメッセージの影響も大きくて、入社を決めました。

黒崎:

今担っている役割は何ですか?

島本:

セクション長かつマネージャーです。20人くらいのチームを見ながら、4人をマネジメントしています。

黒崎:

新卒一年目のマネージャー登用とは、すごいですね。

村田:

うちではそうした声掛けは、実際の登用の半年前にしています。半年の準備期間を設けて、目の前の業務だけでなく、部やチームに求められていることをより多角的に見てもらうような、そうした準備をしてもらう期間です。なので、島本さんも実際の就任は二年目に入ってすぐの時期でした。

島本:

私が新卒で入社した時、オペレーション本部はまだ15-20人くらいの組織でした。そこでまずは、高氏さんをはじめとした先輩メンバーからオペレーションの業務を教えていただきました。その後、一年も経たないうちに「マネージャーをやってみない?」と声をかけていただいて、今に至ります。ある時、私がマネジメントを担当していたメンバーが、普段言えないことや悩みを率直に私に吐き出してくれたことがあって、信頼を得られているということを実感できてとても嬉しかったです。そして、これからもメンバーの考えに寄り添っていきたいと思っていて、人を育てるマネージャーという仕事を楽しみながら日々がんばっています。

黒崎:

同期のメンバーはいらっしゃったんですか?

村田:

新卒同期はもちろん、旅行業界の経験者も含む年上の中途入社の同期も10人ほどいました。その中でも、高氏さんが登用したいと言ったのが島本さんでした。

高氏:

島本さんが目立っていたのは、やっぱりやり切る力の強さかなと思います。身体ももちろん、メンタルもとってもタフ。安心して仕事を任せたいと思える。しっかりと報告もくれるし、判断もフェア。すごく信頼のおけるメンバーだったので、もっと伸ばしたらきっとおもしろいなと思いました。それに、そういう一生懸命頑張る人にメンバーはついてきますよね。特に新卒の子たちは、そういう背中がかっこいい人に憧れも持つと思います。昨日の月次1on1でも「島本さんはやっぱりかっこいい!」って言ってる人がいましたよ。

島本:

・・! 照れちゃいます。

黒崎:

とはいえ、中途入社の年上の人たちをマネジメントしていくとなれば簡単じゃないところもあると思うんですが、そのあたりで意識していることなどはありますか?

島本:

年齢はあまり意識していません。やっぱりフェアに、同じ目線で話すことを意識しています。

株式会社トランスファーデータ オペレーション本部 BTSセクション長 島本 千広

抜擢人事が当たり前の企業文化とは

黒崎:

高氏さんも島本さんもかなりの抜擢人事だと思うんですが、コンフリクトなどは発生しなかったんですか?

村田:

なかったと言えば、嘘になります。特に高氏さんの登用の時には一瞬、足を引っ張ろうとするようなコミュニケーションもありました。でも、割とすぐに「高氏さんなら」というモメンタムができていった気がします。島本さんの登用時には、すでにフラットな環境ができていたかなと思います。

黒崎:

お二人が行動で示した点ももちろんだと思いますが、周囲の方のフォロワーシップというか、フラットに受け入れる力というのも感じますね。そこはやっぱり高氏さんが意識的に育ててきた文化みたいなものなんでしょうか?

高氏:

文化については、本当に妥協せずにコミュニケーションしています。少しでも違うなと感じることがあれば、すぐに伝えるようにしています。「私たちはこういう風にやってきて、これからこういう組織を目指していて、それで今こうなってるから、そこはそうじゃないんだよ」ということをしっかりと伝えます。長文になっちゃいますが、なぜ違うのかはしっかりと説明します。

黒崎:

それって何か、バリューや行動指針みたいなかたちで言語化もされているんですか?

高氏:

MVVとRule of Conductはあるので、目標設定の時もそこを見てねとは伝えています。オペレーション本部の文化も決して独自のものではなくて、当たり前ですがそこから来ています。でも、ただ見ておいてねと言っても、見え方や考え方ってけっこう人それぞれだったりするんですよね。例えば「プロ意識」という言葉一つとっても、島本さんと私でも微妙に違ったりする。それを「オペレーション本部としてはこう考える。だからこう行動する」ということを、毎回ちゃんと言葉を尽くして伝えるようにしていますね。そういうところに時間を使いたいです。

黒崎:

論理的な話だけじゃなくて、そういう話は本当に大事ですよね。

高氏:

はい、そこが本当に一番大事なんじゃないかと思っています。そうして伝え続けていると、人も組織も本当に変わっていく。実際にその変化を見てきました。だから楽しいし、もっともっとやっていきたいと思います。

早期からの新卒採用が企業文化を育む

黒崎:

企業文化の浸透を実現していく上では、新卒採用も大きな意味を果たしますよね。トランスファーデータはスタートアップの中でもかなり早期に新卒採用を始められていて、来年も6人ですか、相応の人数が入社されると聞いています。初期のスタートアップやベンチャー企業は、やっぱりふつうは即戦力になる中途採用をメインに考えると思うんですが、その中で新卒採用に積極的に取り組まれている理由などをお伺いできますか?

村田:

事業成長に伴って組織規模を急拡大することを想定していた中で、事業計画に対して中途採用の予算コントロールがなかなか難しいという感覚がありました。それで、毎年安定的に同じ人数を採用して、採用・育成/教育のルーティンを作ろうと体制を整えたというのが始まりです。あとは、仮に旅行業界の経験者であっても、うちの業務システムの前ではみんなほとんど横並びの未経験者になります。その点、新卒も中途も一から学べる人がいいと考えていて、あまり区別がありませんでした。あとは、昔ながらの旅行会社の文化とうちが目指している文化とのギャップを感じることも多々あったので、旅行業界で働くことを志していてうちに合う人がいるのであれば、最初からうちの文化を吸収してほしいと思いました。人事や組織設計を経験したことのあるリーダー層が多かったのもよかったかもしれません。新卒を受け入れて育てるための体制を組むことで、逆に中途のメンバーもより働きやすい環境が作れるということもあります。うちの研修は、新卒向けの研修をベースに中途向けにも設計しています。

高氏:

新卒って、夢がありますよね。新卒の子たちって、新卒の先輩たちががんばって活躍している姿を見たら、やっぱり「かっこいい」とか「私もあんな風になりたい」って憧れを抱くと思うんです。経営者からしても、新卒のメンバーが会社と一緒にどんどん成長して幹部になっていく姿を見ていたら、もっともっと夢を見たくなりますよね。私は、そこに一番意味があると思います。

黒崎:

島本さんも、最初からどんどん上にいきたいという志向だったんですか?

島本:

そうですね。採用面談の時に高氏さんから「若い人でもたくさん活躍できるよ」というお話は聞いていて、入社前からとてもわくわくしていました。

文化は「実際に使えるもの」であるべき

黒崎:

さて、ここまでお話を伺ってきて「文化創り」という言葉がたくさん出てきたと思いますが、トランスファーデータの場合はどういうところから始められたんでしょうか?

村田:

僕の体制になった頃からでしょうか。それこそジェネシア・ベンチャーズの田島さんから「CI(コーポレートアイデンティティ)は大事だ」「P/Lでは見えない世界も時価総額に大きく影響する」「それを示せるのは経営チームだけなんだ」とずっと言われていたので、体制が変わるタイミングで言語化に取り組み始めました。たしか同じくらいのタイミングでちょうどジェネシア・ベンチャーズもCIやコーポレートサイトを一新していましたよね。それを見て、デザインや発信するメッセージでこんなに印象が変わるんだという驚きを感じましたし、先行事例を見せてもらった気もして、僕たちも一緒に進めたという感覚があります。ただ、うちの経営チームには、僕も含めてあまりエモーショナルな人がいなかったので、かなり苦戦しました。

黒崎:

それでも実際に、高氏さんや島本さんのような方が仕事を楽しみながら意思を持って育っていらっしゃるのは本当にすごいですよね。高氏さんが入社前に「みんなが楽しそうに働いている会社だと感じた」とおっしゃっていましたが、すでに何かしらの文化はあったということなんでしょうか?

村田:

それこそ、高氏さんが入社後にそのあたりを言語化して、MVVの策定も中心になって進めてくれました。田島さんにも何度もお尻を叩かれました。その過程で、田島さんから黒崎さんを紹介されたんですよね。

黒崎:

僕がジェネシア・ベンチャーズに社会人インターンで入っていた、2022年の夏ですね。前職であるSansanの事例などもお話しさせていただきました。

村田:

そこで田島さんと黒崎さんから「同じ言葉を使っていても、人や部署によって捉え方が違うことがある」というフィードバックをもらって、僕たちも実際に各部署で「“お客さん”って誰のこと?」みたいな会話をするようになって、徐々に議論が活性化していった印象があります。それで最終的には2022年末の経営合宿で方向性を固めて、2023年の年始に設けた村田プレゼンという時間で全社員に発表しました。

黒崎:

社内からの反応はどうでしたか?

村田:

実際に“使われること”を意識して作ってきたので、しっかりと使えるようなものに落とし込めたかなと思います。約7年越しのリリースになりました。

黒崎:

田島の名前も出てきましたが、MVVの策定や文化創りにおいては田島からのコメントの影響も大きかったんでしょうか?

村田:

田島さんは、僕たちと同じようにトランスファーデータを自分の会社だという目線で関わってくれるので、やはり存在感があります。CIの大事さを伝え続けてくれたこともそうですし、わざわざ組織の様子を見に来てくれたり、何かあれば合宿を開いてくれたり。今も定例ミーティングの最後には必ず「組織のコンディションどうですか?」と聞かれます。おそらくはジェネシア・ベンチャーズのビジョンとの重なりを感じてくれていて、常に意識してくれているのかなと思います。僕たちもCxOクラスの採用・登用のタイミングで田島さんに必ず会ってもらっています。

高氏:

私もお話ししましたが、そのミーティングの前日は緊張して眠れませんでした。田島さんからの最初の質問が「リーダーとして大切にしていることは何ですか?」というもので、「上司とか部下とかは関係なく、一緒に戦うメンバーなので、一人一人に寄り添って、その人の人生がより良くなるようにしたいです」と答えました。

村田:

田島さん、涙ぐんでいましたね。

「人を育てる」環境を作り続ける

黒崎:

そろそろ締めに入れればと思いますが、村田さん、改めて自社の採用や組織創りを振り返ってみてどうでしょうか?

村田:

お客さまにサービスを提供するとなると、技術のこともビジネスのこともわかっている人が必要だと思います。でも、両方できる人なんてなかなかいない。でも、いないことを前提にして組織を創ろうとするのは良くないと思っています。そういう人を探し続けるのもそうですが、僕たちはやっぱり、人を育てられる会社でありたいです。サクセスストーリーみたいなものって一から自分で作るのは難しいかもしれないけど、周りが環境を作るとか邪魔をしないとかそういうことはできると思うし、確変的な人が生まれてくる可能性は大いにあると思うので、どんどん推進していきたいです。そして、やる気のある人は引き続きどんどん抜擢したいです。
 僕たちは、部署やポジションに関係なく組織横断型のプロジェクトに参画するということも積極的にやっています。お互いの仕事を教え合ったり技術を共有し合ったりすることで、隣接する専門領域も経験してもらいます。高氏さんのオペレーション本部は特に盛んにやってくれていて、実は今うちの中核を担っているミドルマネージャークラスには、オペレーション本部の出身者がけっこういるんです。プロジェクトを通じたラーニングを経て、入社時とは違う部署のマネジメント職をしてくれているんです。

黒崎:

人を育てて輩出しているんですね。高氏さんからも最後に一言いただけますか?

高氏:

私が組織をどうしていきたいかという点についてはここまでお話ししてきた通りで、そのベースになるトランスファーデータのマインドも村田さんのコメントの通りだと思います。
 経営チームについて触れておくと、とてもいろいろなタイプの人がいます。みんなが同じタイプだったら良い組織って作れないと思いますが、私を含めていろいろな意見が出てきます。その中で、村田さんは淡々としてますが、みんなの考えに共感を持ってしっかり受け止めてくれているという安心感や信頼感があります。意見が違っても声をあげるということをしっかりと重要視してくれています。

黒崎:

トランスファーデータが、経営チームの「人を育てる」という強いマインドをコアとして、縦横に意思のあるコミュニケーションを生み出し、強い組織創りに取り組まれていることがよくわかりました。本日はありがとうございました。

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