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【JR東日本スタートアップ】スタートアップ・本体・CVCの三位一体で進める共創 | Collaboration by Genesia. Episode 4

COLLABORATION

足早にJR新橋駅の改札に向かう途中、通路に並ぶお店の中を覗くとそこには宝石箱のように彩り豊かな海鮮丼が並ぶショーケースが。思わず足を止めて今日の夕食にしようかと悩んでいると、次々と他のお客さんが手に取っていくので慌てて一つ確保してスイカでピッとお会計を済ます。実はこの光景はスタートアップとJR東日本の実証実験の賜物です。Collaboration by Genesia. Episode 4 では年間20以上のPoCを手がけるJR東日本スタートアップの柴田社長にお話を伺いました。

JR東日本スタートアップの始まり

吉田:

本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。以前から柴田さんのブログ(鉄道員(ぽっぽや)社長の冒険)をよく拝見しており、今日お話できるのを楽しみにしていました。

柴田:

ありがとうございます。僕たちの活動について様々なメディアで取り上げていただいていますが、実際はまだまだ発展途上です。今日は成功体験というよりは日々の私たちのありのままの活動についてお話させていただきますね。

田島:

JR東日本スタートアップ設立の背景や、なぜそこに柴田さんがアサインされたのかという話を聞かせてもらってもいいですか。

柴田:

JR東日本スタートアップが設立したのは4年前の2018年2月です。当時は大企業によるCVC設立が盛り上がっており、JR東日本でもCVCを設立したい、と若手メンバーから声が上がっていたのですが、社内で案がなかなか通りませんでした。そこでまず第一歩としてJR東日本スタートアッププログラムというアクセラレーションプログラムを主催してみたところ、具体的な新規事業プランが生まれたので、一気に「やるか」と風向きが変わったように感じています。若手による発意を会社の幹部が後押しするという雰囲気で前進しました。世の中的にもオープンイノベーションがブームになっていたので、それも取り組みを加速させたと思います。また、2018年7月に出されたJR東日本の中期経営計画のテーマが『変革』、まさにオープンイノベーションを一つの柱にしていたことも追い風になりました。
当時、僕自身は経営企画部の中計を作るセクションにおり、それがきっかけでJR東日本スタートアップに関わり始めました。

JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長
柴田 裕
田島:

立ち上げ当初はどのようなメンバー構成だったのでしょうか。

柴田:

僕を含めて3人です。僕自身、最初から社長にアサインされたわけではなく、会社立ち上げ時に必要な準備や社内交渉などを必死にやっていたら、流れで「おまえが社長をやれ」ということになりました。あとの2人はそもそものCVC設立の発案者とそのサポーターでした。CVCに関しては素人だったので、設立前から3人で他CVCや金融機関などにヒアリングに行きました。本体でやるべき、外部に任せるべきなど色々な意見をいただきましたが、最終的には私たちは超独立型の出島にするべきという結論に至りました。スタートアップへの出資を決めるにしろ、CVC内で新たな取り組みを始めるにしろ、本体の意思決定を待っていたら何も進まない。CVC内で完結可能なスキームにすることは譲れませんでした。

吉田:

CVC設立に向けて、社内で反対意見は出ましたか?

柴田:

反対は山のようにありました。インフラを担う事業の性質上、JR東日本はリスクを取ることが難しい組織です。出島であるCVCとはいえ、リスクを取る必要性について説明が求められましたし、付帯条項が山のように付き、報告義務を課して活動を縛ろうという流れもありました。
でも、そうして仕上げた最大公約数的な会社設立案を社長のところに持っていったら、「いい加減にしろ」と言われたんです。「何をしているんだ、早くやれ」と。僕たちの設立日が2月20日という中途半端な日付になっているのは、キリの良い日付を待つのではなく、とにかく早くやれ、というスピード感故のものです。そのようなトップからの後押しがあり、付帯条項や制約条件が無くなって、僕たちもどんどん進められるようになりました。

危機感ゆえの本気の取り組み

田島:

本体側の理解者が社長だったということですね。やはり経営トップとして危機感があったのでしょうか。

柴田:

非常にあったと思います。当時、相談しに行った際のその迫力たるや、思い出すと今でも身が竦みます。『変革』という中期経営計画が危機感の塊で、人口減少により車両がガラガラになっているイラストも記載されています。「今までどおりやっている場合じゃない」とすごい迫力でした。

田島:

2017年、2018年当時の乗降者数減少率は、コロナ禍に比べたら限定的だったでしょうし、利益も出ていたときだと思いますが、それでも危機感を持っていたのは、変化できていないことに対しての危機感だったんでしょうか。

柴田:

鉄道事業は人口と極めて相関性が高いです。人口減少は、私たちの事業基盤を揺るがしかねない差し迫った真実でした。そのため、まだ大きな変化が起こっていない今のうちに構造改革するのだという考えが、中計を準備する段階から組織内にあり、より上位のマネジメントに行くほど強かったように思います。特にトップがこのままいったら危ないという強い危機感を持っていました。その源泉は国鉄が潰れたときの経験なのではないかと推察しています。彼らはその危機をリアルに経験しています。一度破綻を経験したことのあるマネジメント層を持つ大企業は数少ないのではないでしょうか。
僕自身や創立メンバーも、何とも言えない閉塞感のようなものがあったのですが、このタイミングでCVCをつくろうという流れになったのは、もしかしたら偶然ではなく必然だったのかもしれません。危機感や閉塞感のようなものが脈々と積み重なり、「変革」を本気で進める土壌が育っていたのかもしれません。

田島:

PoCを行う際の決裁権は柴田さんにあるのでしょうか。

柴田:

そうです。超独立型の出島としたので、ほとんどの意思決定はCVCで行えます。
でも自由にやっていいと言いながら、本当に報告せずにいたら怒る人っているじゃないですか。なので一回目の出資案件だけ、念のため社長に報告に行ったんです。そうしたら報告を黙って聞いた後、「分かった。やれ。ただし二度と説明に来るな。そんな暇があったら仕事をしろ」と言われました。これにはしびれました(笑)。それ以来、一度も説明にはいっていません。

柴田社長自ら考えたJR東日本スタートアップのビジョン

三位一体で取り組む実証実験

田島:

JR東日本スタートアップのPoCの多くが本体の方も巻き込んだ試みになっている中で、様々な利害関係者がいるかと思います。その状況下でもスピード感を持って多くのPoCを推進できる秘訣は何でしょう。

柴田:

一つは出島である、という点です。JR東日本はどうしても失敗やリスクを避けなければいけない組織である一方で、CVCは失敗してなんぼ、といった性質の組織です。大きな組織で新しい試みをするよりは、離れた出島で行ったほうが圧倒的にスピードが速いです。まず試してみてダメだったら後で変えればいい、という考えで、本体では半年くらいかかる意思決定がCVCでは3日くらいでできているように思います。このプロセスはスタートアップでは当然なのですが、大企業、特にインフラの企業ではあり得ません。
もう一つは、現場の人を巻き込み、チームの一員となってもらう、という点でしょうか。僕たちがPoCを行う際は、案件ごとに「三位一体」のチームを作っています。一人はスタートアップ企業、一人はJR東日本スタートアップ、そしてもう一人はJR東日本の事業部門の人間です。JR東日本が持つリアルなインフラを活用するPoCではラボでは起きえなかったことがたくさん発生します。例えばTOUCH TO GOの店舗で子どもが店内を規則性無しに走り回ってカメラのシステムがパンクしたり。そのような不確実性の高い条件が多々ある現場の実証実験をどうすれば成功させられるのか、そしてどうすれば本体のルールやハードルを突破できるのか、チーム全員で必死に考えるんです。すると最初は仕方なしにアサインされていた本体側のメンバーも、いつのまにか夢中になっているんですよね。

吉田:

現場でどんどん巻き込まれていく人たちが同じ夢を見られるのは重要だと思いました。大企業が外注先を探すような流れで必要なパーツを提供してくれるスタートアップを探し、批評家のような立場で接するのではなく、同じチームとしてハードルを乗り越えるための新たな選択肢を考えるプロセスはとても大事だと思います。

柴田:

大企業はアウトソース先を探すのに慣れ切ってしまっているのだと思います。オペレーション改善、工事の発注先、テナント探しなど仕事のあらゆる側面で質の高さとコストの低さを比べて外注先を選んでいます。でもその関係性では新規事業は生まれません。例えば新幹線で鮮魚を運ぼうとしても、既存の事業者でやれる人はいませんでした。だから、一緒に創るんです。私たちにとって、今までにない事業や新規ソリューションに挑戦する起業家の皆さんは決して単なる外注先ではなく、より良い社会や未来を実現する大切な共創パートナーです。

スタートアップへの想い

吉田:

お話を伺っていると柴田さんがスタートアップに魅了されていることがとても鮮明に伝わってきます。

柴田:

スタートアップとの活動を通じて、本当に魅了されている、というか超リスペクトしています。最近だと、駅の遊休スペースを活用した水産養殖にチャレンジしています。駅での陸上養殖という未知の領域に踏み込むだけでもリスペクトなのですが、それが再生可能エネルギーを使用し「海を休ませる」というSDGsを推進するものであったり、実証の現場が福島の浪江駅でそこに震災復興の強い思いが込められていたり。そうした現場に立ち会うと、とんでもなくやりがいを感じます。
30年サラリーマンをやっていますが、自分が成し遂げられたことはどれだけあるのだろうかと反省しています。スタートアップの皆さんの果敢にチャレンジする姿勢にはリスペクトしかありません。

田島:

スタートアップへの想いが積み重なっていく感じでしょうか。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ CEO
田島 聡一
柴田:

惚れちゃってる感じですかね(笑 )。JR東日本スタートアップとしての活動を始めて、最初に出会ったスタートアップからしてそうでした。今一緒にTOUCH TO GOを運営しているサインポストという会社や、駅構内で鮮魚店を展開するフーディソンという会社などです。最初はスタートアップに慣れていないこともあって、彼らの自由闊達なスタイルや事業を成し遂げるための熱量の高さに戸惑いました。どんなハードルがあってもものともせずにぶつかっていくんですよね。「駅には魚をさばく場所がない」とダメ出しされても「近くの店でさばいて運びます」と代替案を出す。エラーが山のように出ても、挫けるどころか翌朝のオープンまでシステムを書き換えちゃう。新しいことを実現させるというのはそういうことなのか、と学びました。
できない理由を考えるのは非常に簡単です。でも大事なのは、やるための工夫ですよね。特に起業家の皆さんの夢を実現するための当事者意識はものすごい。無人決済を実現したい、駅で魚を売りたいからと、どんなできない理由が出ようと諦めない。何としてもそれを実現させるための工夫をします。彼らのその姿勢を見たときに自分が恥ずかしくなりましたし、自分も一緒にやりたいという気持ちが生まれました。
起業家の皆さんが持つ当事者意識や情熱は、多くのサラリーマンが失っているものではないでしょうか。僕自身、入社当時は地域を元気にしたいという夢を持っていたにもかかわらず、いつの間にかそれを忘れて、言われたことを効率的且つ確実にこなすことが仕事の目的になっていたように思います。起業家と出会い、彼らのがむしゃらに取り組む姿を見て、忘れていた夢を30年ぶりに思い出しました。今さらかもしれませんが、彼らの夢の実現に一緒に取り組むことで、自分の夢をも実現しようと思っています。これは一方的に惚れている感じでしょうか(笑)。

次のチャレンジ

吉田:

未来変革パートナーシッププログラムについて質問させて下さい。今回のプログラムでは従前とは異なり特にシード期スタートアップが対象となっていますが、なぜ こうしたプログラムを設けたのでしょうか。

柴田:

新規事業をもっと増やしたいから、という理由に尽きます。毎年新たに20個ほどのPoCをしていますが、もっとできると考えています。従来のJR東日本スタートアッププログラムは期限を決めており、必ず年度内にPoCをすることをコミットしています。期限を切ることにより不必要な延長を避け、人事異動などでまた振り出しに戻る事態を避けられるので、その点ではこの仕組は理にかなっている反面、期限設定があるとプログラム対象者が、ビジネスモデルが確立していてプロダクトも出来上がっている先に絞られてしまいます。今までプログラムを進めてきた中で、まだ取り組めていないシード期のスタートアップとの連携余地を感じる場面が多々ありました。プロダクトが出来上がって出店準備をする手前の段階の、そもそも出店するためには何が必要か?というところから一緒に取り組めるのではないかと考えたんです。
僕たちはクリエイティビティーが問われるゼロイチはできません。でもイチから十、十から百に進めて社会実装するのは得意です。なので起業家の皆さんとの役割分担で面白いビジネスを創り上げたいと思っています。未来変革パートナーシッププログラムを通じてより多くの起業家と出会い、そして実装につなげる。そのほうがforスタートアップ、for JR東日本、強いてはforジャパンになるのではないでしょうか。とはいえこの試みも始まったばかりで、まだ試行錯誤しながら進めている段階です。

吉田:

JR東日本スタートアップにとっての次のチャレンジは何でしょうか。

柴田:

僕たちは活動を始めてからまだ4年しか経っていません。何か新しいことを始めるというよりも、今僕たちができることをとことんやり切ることが大事だと考えています。それは、スタートアップが持つ独創的なアイデアやテクノロジーと僕たちの持つアセットを掛け合わせることで、起業家の皆さんの夢を社会実装することだと思います。鉄道会社だけに「プラットフォームになる」という表現がぴったりですね。日本や社会を元気にする新規事業を、僕たちのプラットフォームからどんどん発車させていきたいです 。

右から:ジェネシア・ベンチャーズ 田島、JR東日本スタートアップ 柴田さん、ジェネシア・ベンチャーズ 吉田

※こちらは、2022/5/19時点の情報です
(デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん、聞き手/まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Portfolio Manager 吉田 実希)

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