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【Logpose Technologies】データサイエンスで流通を最適化する ー勝てる意思決定を支えるのは「原理原則」|Players by Genesia.

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印象に残っている本を訊かれて、哲学書を挙げる経営者がいらっしゃいます。

ビジネスは「人」を対象にしたものであり、そのビジネスを作るのもまた「人」。その「原理原則」が説かれたものに触れ、そこから生き方やあり方・働き方のヒントを得るのは、必然的なことかもしれません。

「あなたが信じる哲学は、何ですか―?」

Logpose Technologies(ログポース・テクノロジーズ)は、データサイエンスを武器に物流を最適化する『AI配車アシスタントサービスLOG』を提供するスタートアップです。

好奇心旺盛でさまざまなことに大胆にチャレンジを続けてきた、代表の羽室さん。今に繋がっていると感じるのは、「一つのことをやり抜いた経験」と「原理原則の知恵」だそうです。それらを踏まえて、羽室さんがこれから全力で向き合い、やり抜くと決めたのが、物流業界の課題でした。

その経緯と姿勢について、担当キャピタリストの一戸が聴きました。

  • デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん
  • 聞き手・まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田
  • 以下、敬称略 / 以下、社名を「Logpose」と表記

好奇心旺盛な子ども時代

一戸:

羽室さん、今日はよろしくお願いします。羽室さんの起業までの経緯などは、もちろん投資検討の過程で教えていただいたんですけど、幼少期のエピソードや起業までのお話などはまだお伺いしたことがありませんでした。個人的な印象ですが、なんとなくイメージし難いところもあったので、今日はとても楽しみです。
じゃあまずは、幼少期の頃のお話から伺えますか?何か羽室さんを象徴するような、自分っぽいエピソードってあったりしますか?

羽室:

そうですね、基本的に両親は放任主義だったので、やりたいことは何でもやっていいよっていう方針のもとで育ちました。僕自身も、いろんなことに興味を持ちやすいタイプなので、本当にいろんなことに手を出してきたというか、ちょっとでも「いいな」と思ったことはとにかく全部やるって感じでしたね。身体を動かすことが大好きなので、そういったことやスポーツが軸になってたかなとは思います。漫画にもすごく影響を受けて、サッカーもバスケも野球もテニスも水泳も、バスケは数ヶ月でしたけど、それぞれ大体2-3年はやりました。サッカーは『キャプテン翼』、野球は『メジャー』『キャプテン』、テニスは『テニスの王子様』とか、それぞれ漫画を読んで、かっこいいなと思ったらもう即「やりたい!」っていうタイプなので(笑)。本当に好奇心旺盛な子ども時代だったと思います。

一戸:

その中で一番ハマったことってありますか?

羽室:

一番はテニスですね。

一戸:

僕自身もそうなんですけど、いろんなことに手を出しまくっていると、一つのことを極められないみたいなことってありがちじゃないですか?そういう感じじゃなかったんですね。

羽室:

極めるとかはあまり考えてなかった気がします。とにかくやってみて「おもしろいか、おもしろくないか」が重要で。特に当時は、より自分の実力が発揮できる個人競技が好きだったんです。団体競技も楽しいけど、子どもながらに勝ち負けがはっきりするのが好きだったんだと思います。

株式会社Logpose Technologies 代表取締役CEO 羽室 行光

やり続けることで得た“勝ちグセ”

一戸:

クラスの中や友だちの間ではどんな存在でしたか?リーダータイプ?それともフォロワータイプ?

羽室:

リーダータイプでしたね。休み時間になったら先頭を切って、ドッジボールしに行こうぜ!って飛び出していくタイプでした。

一戸:

なんとなくイメージがつきますね。
僕、人に会うときによく訊く質問というか、相手を知るためにいつも意識的に掘り下げようとしているポイントがあるんですけど、それが、「この人の“勝ちグセ”は何か?」ってことなんです。特に起業家の方の場合って、とにかく自分を信じて、この領域だったら絶対に勝てると思って起業するわけですよね。それってかなり非連続な意思決定だと思っていて、自分を根拠なく信じられてることが必要だと思うんです。ってなったときに、いわゆる「過去に勝ってきた経験」や「成功してきた経験」が積み上がって“勝ちグセ”になって、根拠のない自信がつくというか、非連続な意思決定に繋がるんじゃないかと思っています。羽室さんは、自覚している“勝ちグセ”やそれを得たと思う経験ってありますか?

羽室:

明確にあります。高校生のとき、テニスに打ち込んだ経験です。小学生のときは、さっきお話ししたとおり、いろんなスポーツに挑戦して、中学でも入ったばかりの頃はテニスを続けてたんですけど、部活動に合わなくて、すぐやめちゃったんです。でも、高校に入ってから「テニスやろう」って友人に言われてもう一度始めることになって、本当に朝から晩までテニス漬けの日々を送ってました。そのときに支えてくれたのが、今でも恩師だと思ってる顧問の先生でした。すごく厳しい人で、たぶん僕の、いろんなことに手を出したり飽きたらすぐやめちゃったりする性格をわかってたんですよね。なので、すごく手をかけてくれたし、「やり続けろよ」って言い続けてくれて、その結果、インターハイまで出ることになったんです。それはやっぱり、やり続けたからこその成果だと思ってます。卒業するときにもらった色紙にも、先生から「やり続けたらいいことあるだろ」って一言があって。その経験を今でもすごく覚えてます。やり続けることで、勝てるし、見える景色がある。それを実感した、すごく大きな経験でしたね。

一戸:

勉強とかはどうだったんですか?

羽室:

全然やらなかったです・・(笑)

一戸:

(現Logpose TechnologiesのLead Algorithm Engineerでもある)お父さまは大学教授じゃないですか。その影響とかもなかったんですか?

羽室:

全く受けなかったです。本当に放任主義だったので、やりたいようにやれと。勉強しろって言われたことが一度もないです。得意教科はありましたけど、特に勉強した記憶も苦労した記憶もないです。

一戸:

大学に進学するときは、どんな基準で決めたんですか?

羽室:

あんまり深く考えてなかったです。インターハイもあったので、高校3年生の8-9月まで部活動をしていたし、そこから勉強できる期間とか実力とか科目数とかで考えて、結果的に関西大学に入りました。でも、入学式も卒業式も出なかったし、大学での思い出はほぼないです。自分の中で明確に、大学生活は社会に出てからだとなかなかできないようなことをやろうって決めてたので。高校までとの違いは、自由に使えるお金の量です。バイトは10種類くらいやったんじゃないかな。いろんなことを経験してみたい、新しいことにチャレンジしてみたい、っていう欲求が爆発した大学生活だったのかなって思います。

知識を漁った大学時代と「原理原則」

一戸:

大学時代はどんなことにチャレンジしたんですか?

羽室:

バイト以外の思い出だと、大きく二つあります。一つは、本を読み漁ったことです。それまで勉強を全くしてこなかったからなのか、知識を入れることに目覚めて、大学の行き帰りとか週末はとにかく本で知識を漁ってましたね。大阪駅の蔦屋書店で、本棚の端から端まで読むって感じで。

一戸:

どんなジャンルの本が多かったり印象的だったりしたんですか?

羽室:

ジャンルはいろいろでしたね。哲学書、ビジネス書、自己啓発系も一通り読んだし、美術・芸術とかにも触れたし、本当にありとあらゆる知識欲みたいなものがその時に目覚めた感じでした。何がきっかけだったのかは自分でもよくわからないんですけど。

一戸:

記憶に残っている本はありますか?

羽室:

まず哲学書が思い浮かびます。武士道とかソクラテスとか。やっぱり「人間の原理原則」が書かれてるじゃないですか。そういう印象的だった本は、社会人になってから買い直して手元に置いておいて、何かに迷った時に参考書代わりにもしてます。意思決定とか、こういうときにどういうモチベーションやスタンスでいるべきなのかみたいなことを迷った時に、原理原則に立ち戻れるといいなって。

一戸:

最近はどんなことに迷ってますか?

羽室:

「人」や「組織」ですね。他とは違う、Logposeっていう会社の個性についてとか、考えてます。組織論ってなるとたぶん行き着くところはみんなほとんど一緒だと思うんですけど、でも、自分がしてきたいろんな経験から形成された自分自身の人格がまずある。そこに原理原則のエッセンスも入れることで、自分の言葉でその確からしさを少しでも表現できるんじゃないかなと思ってます。

一戸:

「原理原則」って言葉を聞いて、僕も思うことがあります。例えば論語とか、中学や高校でも勉強する原理原則みたいなことってそんなに難しい話じゃなくて、誰にでもけっこうスッと入ってきますよね。なるほどな、と。でも、その時点ですごく腹落ちしてるかっていうと、そうじゃないこともある。僕は今ベンチャーキャピタルで働いていて、社会のあり方とか会社組織とかビジネスとか、そういうものをいろいろと見る中で、結局は原理原則というかシンプルなところに行き着くんだなって感じることがあります。あの言葉が正しかったな、と。「急がば回れ」みたいな諺とかも、その通りだなって思うことがあったり。日本語と英語の諺がすごく似てることもあるじゃないですか。不思議ですよね。言葉も環境も時代背景も違うのに、しかも全然グローバリズムがない時代に生まれた言葉なのに、同じようなことを言ってる。それはなぜかって考えると、やっぱり原理原則はいつでもどこでも普遍的なもので、もしかして時代とともに少しずつ変わっていくこともあるかもしれないですけど、概ね共通してるものがあるんだろうなと。だから、そこに立ち返って行動していくことは改めて重要だなと思います。
ただ、それを人に伝えるとなると、原理原則を言うだけじゃ薄っぺらくなっちゃうとも思います。そこは、羽室さんがおっしゃる通り、たぶん自分の経験があってこそ伝えられるもの。世の中や人間の原理原則のうち、自分がどれだけのことを経験したり実感したりできるかはわからないですけど、たぶん全てを経験できるわけじゃないじゃないですか。そうなった時に、自分の人生と照らし合わせて「これは本当だったな」「信じてよかったな」って感じられることをスローガン・・会社でいえば組織文化にしていく考え方もあると思ってます。もう少し言うと、組織文化ってその企業がその事業で勝つためにあるものだと思うんです。それを実現するためのメッセージとして、ビジョン・ミッションや戦略からブレイクダウンして組織文化に落とし込むトップダウンのアプローチもあると思うんですけど、一方で、自分たちがどうやって勝ってきたか/何を体現して成功してきたかっていうボトムアップのアプローチもあるんだと思います。両方が繋がっていないと、薄っぺらくなってしまうか、勝てないものになってしまうか。想いが籠ったシンプルな言葉には、やっぱり感動しますよね。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ Associate 一戸 将未

生活にもキャリアにも影響を与えた、ポーカー

羽室:

大学時代の経験で今にも活きてると思うもう一つのエピソードが、大学4年生の時に休学してカナダに行ったことです。テレビでたまたまカナダの山の映像を観て、翌日にはもう行くことを決めてました。そこからワーキングホリデーのビザを取ったり休学申請を出したりして、一ヶ月後には準備を整えてました。そういう猪突猛進さというか、自分の求めることに忠実であろうってところがあるんですよね。一年間の予定だったんですけど、持っていったのは小さいカバン一つと10万円だけ。カナダの空港のお兄さんに「おまえ、荷物盗まれたのか!?」って言われたくらい軽装でした。滞在先とかも何も決めてなかったので、宿を探すところから始まって。それで、どう生活してたかって言うと、ポーカーをしてました。日本にいた頃、本で戦略を学んでオンラインでけっこうやってたんです。それで、カナダでもカジノに入り浸って、ポーカーで生計を立ててました。マンションも借りて、車も買って、その車で旅をして。カナダとロサンゼルスやカリフォルニアを繋いでる6車線くらいの大きい道路を2,300kmくらい夜通し走ったら、目的地には着いたものの、車がオーバーヒートしちゃったので、そのまま現地の外国人に引き取ってもらったりして。けっこう波乱万丈な旅でした。

一戸:

羽室さんの見た目からはちょっと想像できない破天荒さですね・・もうポーカーはやってないんですか?

羽室:

やってないです。僕の中ではポーカーもある程度やりきったなと感じたので。

一戸:

それが大学4年生の時で、一年休学されて、戻ってきてから就活を始められたってことですよね。

羽室:

そうです。もともと起業したいと思ってたんですけど、その時点ではまだやりたいことやビジョンもなかったし、自信もなかったので、まずはどこかで学びたいなと思って、いろんなビジネスに触れられるコンサルティング会社に行こうって考えたんです。その中でも船井総研は本当に多種多様な業態のクライアントがいるし、中小企業ともおそらく日本一多く関わってる会社だったので、いろんなビジネスの作り方を学べるかなと思って選びました。船井総研しか受けませんでした。

一戸:

実際に入社して働いてみて、どうでしたか?

羽室:

自分が関わる領域はある程度固定されますけど、同期が至るところに散らばっていくのでその情報を聞いたり、クラウドで管理されてる社内の情報を見たりして、そこは想定通りというか、たくさんのことを学べましたね。

一戸:

その中で、今Logposeで挑戦している物流の領域にも関わったんですよね。

羽室:

はい、一年くらいですね。2016年の4月に入社して、2017年10月に退職したので、在籍期間の多くは物流領域に関わっていたかたちです。

一戸:

そこからサイバーエージェントに転職された。

羽室:

はい。経緯としては、船井総研で一年に一回、経営戦略セミナーっていう大きなイベントがあるんですけど、その講師をされていたのがユニバーサルスタジオジャパンのマーケティングで有名な森岡(毅)さんで、そのお話を聞いて、マーケティングとそれをベースにした数学的なアプローチに引き込まれたのがきっかけでした。ポーカーも統計学ですし、僕も統計や数学はずっと扱ってきていたので、そういうもので何かビジネス作れたらいいなって思ったんです。そこからマーケティングでのキャリアを考え始めて、転職先候補を見ていた時に、日本一投資額が大きくてかつここでマーケティングができたらおもしろそうだなと思ったのが、サイバーエージェント。中でも、毎年200億円の投資をしていて本当にゼロイチの立ち上げの真っ只中だったABEMAでした。採用募集は出てなかったんですけど、飛び込みで代表電話に連絡して対応してもらいました。

一戸:

すごいバイタリティーですね。実際に入社されてからはどんなことを担当されてたんですか?

羽室:

僕が望んでいたマーケティングど真ん中ではなかったんですけど、広告事業部のマーケティング室というところで、今でいうインサイドセールスとか、営業サポートの仕組み作りや組織作り、ABEMAの広告データや広告商品を使ったビジネスアライアンスなどを担当しました。

一戸:

期待とのギャップはなかったんですか?

羽室:

ギャップっていう意味では、業務内容というより、カルチャーというか働き方のギャップの方がインパクトが大きすぎました。船井総研はネクタイが当たり前のカタめの会社だったんですけど、サイバーエージェントは本当に大学のサークルのノリというか。「さん」じゃなくて「ちゃん」で呼び合うとか。あとは、広告領域の横文字の用語とかも始めは全然わからなかったので、そういうギャップに圧倒されて、キャッチアップがかなり大変でした。約4年勤めて、かなりアップデートされましたね。

一戸:

統計や数学が好きってことでしたけど、大学で専攻されてたんでしたっけ?

羽室:

総合情報学部でそういったことも含めたいろんな講義を受けられたんですけど、そこまでキャリア選択に影響したとは思ってないです。それよりはやっぱりポーカーで完全な確率論の中で思考してたので、自然と触れてた感じです。

コロナ禍を経て、父親を巻き込み、起業

一戸:

そこから起業に至る経緯について、改めて教えてもらっていいですか?

羽室:

もともと起業したいと思っていたので、サイバーエージェント在籍中から自分でコンサルティング事業を始めました。お客さんからマーケティングやデータ戦略の相談をもらって、そこにアドバイスしたり多少手を動かしたり。別に思いっきり稼ごうなんて思ってなくて、あくまで箱だけ作っておいた感じです。ただ、2019年頃から中原くん(現Logpose Technologies 取締役CIO)と一緒に仕事をしていく中で、彼はデータサイエンスのプロなので、データサイエンスを軸にした事業をやりたいなってずっと考えてはいました。その上で、コロナ禍が一つの転機になりました。移動がなくなって割と自由な時間ができたこともあったし、前職の繋がりとかで毎週末にいろんな業界の人とディスカッションをさせてもらう機会を作ったんです。僕たちの一番最初のお客さんになってくれた山岸運送さんっていう会社とも、前職の先輩がその常務をやっているご縁もあり、その時に初めてお話の機会をいただきました。そこで「どういうお困りごとやニーズがあるんですか?」と訊いたら、一つが物量予測・需要予測をしたいというところ、もう一つが配車を自動化したいということろだったんです。後者がまさに今の事業に繋がってきました。調べてみると、既存の自動配車サービスもいくつかあったんですけど、「うちの業務は自動化できない」「元々の商慣習とか共同配送とか、そういう複雑な配車業務に耐えられるようなシステムは今はまだ存在しない」と。そのお話を聴いて、やってみましょうかっていうノリで始めたのが最初でした。2020年の8月頃です。

一戸:

最初はけっこうゆるく始まったんですね。

羽室:

そんなに難しくなさそうだよねって中原くんとも話してたんですけど、要件をまとめればまとめるほど、ちょっと難しそうな匂いがしてきて、そのタイミングで、僕の父を巻き込もうかっていう話が出たんです。

一戸:

それまでもお父様と一緒に何かやられたことはあったんですか?

羽室:

いえ、なかったです。父はビッグデータって言葉が流行る前から、データマイニングやデータサイエンス周りをずっと研究してきた人間なんですけど、具体的に何をしてるかとかはそんなに知らなかったんです。ただ、やっぱりずっと話をしたり研究者としての姿を見たりしてきた中ですごい人なんだなって感覚はありましたし、漠然といつか何か一緒にやりたいなって思いはあったんです。そこに自動配送ってテーマが出てきて、もしかしたらこういう問題は得意かもね/巻き込めたらめちゃくちゃ強力なエンジニアかもねってことで相談してみました。すでに顧客候補からもらってたデータを渡して、こういう条件で最適解を出したいって話したら、たしか一ヶ月ぐらいで、こんなんどう?って返事がきました。それがそれなりに動くアルゴリズムだったんですよね。たぶん8月-9月くらいに最初の話が出てきて、9月-10月くらいで父に相談して、10月-12月には初期プロダクトができて、みたいなスピード感でした。ただ、やっぱり現場からはどんどんいろんな追加要件も出てきて・・そのあたりから僕自身もこの領域にビジネスとしての可能性を感じ始めて、物流領域についてとことん調べるに至りました。経産省、国交省、厚生労働省、トラック協会、そのあたりが出してるレポート、ブログ記事とかをかなり読み漁って、今の物流領域の問題の本質とか、僕らがやってることが物流のこういう仕組みと繋がるとか、そういうイメージがけっこう見えてきた。そこで、未来のスタンダードになるような世界を変える事業を作れるよねって本気で思って、2021年の頭くらいに、本腰入れようって決めたんです。山岸運送さんとは当時からプロトタイプも見てもらいながらずっとディスカッションしてきて、「これが本当にちゃんと動くなら絶対に使いたい」って言ってもらって、手応えを得て。それが2021年の5月とかだったと思います。

一戸:

当時、といってもまだここ2年くらいのお話だと思いますけど、振り返ってみて苦戦したところとかはありましたか?

羽室:

プロダクトのコンセプトとして僕がやりたいことは当初からずっと変わらず、自動配車の要件は明確にあったしアルゴリズムもしっかりとしてたんですけど、それを実現できるソフトウェアエンジニアを見つけるのに苦労しました。プロトタイプを作ってくださった方は、家庭の事情でスタートアップにはコミットできないということでした。そこで、本格的にチームを作る/採用をするって考えたらやっぱりお金を作らないといけないなと考えて、資金調達を始めて、ありがたいことにすぐ意思決定をもらって4,000万を調達できました。でも、やっぱり採用はすごく難しくて・・本当に困ってたんですけど、当時出会った方から紹介を受けたのが曽我さん(現Logpose TechnologiesのLead Software Engineer)です。まずは月に数十時間から手伝ってもらって、今年の5月からフルコミットでジョインしてもらいました。そこからもうありえない速度で開発が進められて、「僕が求めてたのはこれだ!」っていうものができてきて、やっと理想と現実が噛み合ってきた感じでした。しっかりとしたアルゴリズムとWEBのプロトタイプはあったので顧客候補に声をかけ続けてきてはいたんですけど、本格的なセールスにはブレーキをかけてアルゴリズムを磨き続けていたところからようやく自信を持って売れるようなサービスが徐々にできてきました。

社会の根源になる業界でも進む、共同化・分散化

一戸:

いろんなレポートを読んだり業界の中の方々とお話しされたりしてきた中で“見えてきた”タイミングがあったということでしたけど、羽室さんが考える物流業界のあるべき姿や未来の姿について教えていただけますか?

羽室:

WEB2.0からWEB3.0へ、中央集権型から分散型へ、みたいなイメージですね。WEB3.0に限らず、分散型が次の世界を作るっていう発想は僕自身も持っていて、物流も一緒だと思っています。物流業界は多重構造で、下請けのみなさんはけっこう疲弊しているのが現状です。まさに中央集権型。その中で僕らが目指すのは、運送会社それぞれが力をつけて、適切な競争が生まれる環境・業界だと思ってます。例えば、A社はサービスに注力してますだったり、B社は安全性が高いですだったり、そういう強みで戦えるイメージです。今は各社が運賃を削り合ってるだけなので、やっぱりどうしても疲弊する。それはどう考えても適切じゃないと思います。なので、小さな会社でも安心して安全に働けるような世界を作りたいと思っています。

一戸:

僕のイメージも共有させてください。先日、別のスタートアップの出張同行で大阪に行ってきて、町工場を4社ほど訪問してお話をさせてもらってきたんですけど、その4社は一つの製品を作る上での一つのサプライチェーン上でそれぞれ別の工程を担当している工場だったんですね。そこでおもしろいなと感じたのが、その4社がすごく協力・協業しているってことでした。例えば、前の工程でこんなふうに加工してもらえると次の工程がすごくやりやすくなるからこうしてね、みたいなかたちで連携している。それで利益率がけっこう変わるらしいです。これまでは一つのサプライチェーン上にいても競合みたいな関係だったそうなんですね。でも今は、一つのサプライチェーンが一つのチームになって戦わないと勝ち残っていけないということだそうで、そこの情報連携が大切だって感じたのが一つ。一方で、もちろんみんなデータを元にした経営の意思決定をしたいと思ってるのに、でもやっぱり、データを取るっていう作業がとてつもなく難しいと。データを取ろうとしても、現場で働く方々が“クリック”をしてくれないらしいんですよね。そこで、その町工場では、現場の方々のクリックの許容回数をデータで取られていた。それが1.5ぐらいだったらしいんですよ。つまり、1クリックだったらしてくれる、2クリック必要になるとしてくれない、ってことがわかったそうです。と、それくらい本気でDXを進めようとしているのに、なかなか前に進んでいないんだっていうことを実感しました。ただ、現場のデータを実際にしっかりと取って、そのデータをサプライチェーンの上流から下流にかけて全部流してあげることで、一気に効率化できる部分があるんだろうなって。そうすることで、報われるべき人が報われる世の中になっていくんだろうなってこと。それが二つ目に感じたことでした。
この例は製造業ですけど、物流領域もそういった部分をものすごくわかりやすく担ってるじゃないですか。だから、Logposeがその仕掛け役になっていけるといいなと思っているのと、物流領域を根幹として他の業界にもそういう流れが波及していくとすごくおもしろいなと思ってます。社会のIT化やソフトウェア化が今どんどん進んでるとはいえ、物は絶対必要。そうなると、物流の役割はやっぱりすごく大きいので、僕らがその業界をより良くしていくことで、副次的に良くなっていく業界も出てくるんだろうなと思いますし、それだけインパクトのある業界なんだってことを実感します。

羽室:

本当に、物流はビジネスの基本ですからね。小売業の企業さんともお話しするんですけど、今までは一つの運送会社さんに全てお願いして商品を運んでたけど、運送会社さんは人手不足、一方で小売業は小ロット化しているから、今までと同じ方法じゃ運べないって話なんですね。だからこそ、一社一社の取引が無理だったら、例えば二社合同で一つのトラックを借りましょうとか、そういう発想になってくる。僕らはそこを見据えて、共同化・分散化する社会に根差すようなインフラ設計・サービス設計・デザインにこだわったプロダクトを作っていきたいと思っています。

原理原則+個性あるチーム

一戸:

最後に、チームについて聞かせてください。これから僕たちの大きなビジョンを実現していくためのチームづくりをしていく上で、羽室さんが目指しているイメージなどはありますか?

羽室:

昔から漫画の『ワンピース』が大好きで、あれが理想の組織かなと思ってます。まず、ルフィ(船長)のやりたいこと=海賊王になることがビジョンとして言い続けられている。チームメンバー全員が海賊王になるわけじゃないけど、でも、船長のビジョンを本気で支えたいと思ってるし、そのビジョンが達成されたときにそれぞれのメンバーのビジョンの実現もついてくる。ゾロだったら、世界一の剣豪になりたいとか。そういうチームって最高だなと思っていて、僕がみんなに訊いてるのが「Logposeで何をしたいですか?実現したいことは何ですか?」ってことです。それがLogposeの仕事とビジョンとマッチしてたら、そんな幸せなことないなと思ってます。

一戸:

社名も『ワンピース』から来てるんですよね?

羽室:

そうです、グランドライン(荒れた海)を渡るのに必要なのが「ログポース」っていう方位磁石なんですよね。僕たちもデータを使って企業の次の進路を指し示せるような存在になれたらいいよねって考えて名付けました。

一戸:

Logposeらしい人のイメージってあったりしますか?

羽室:

あんまりみんなお金(報酬)に向いていない気がします。それよりも、本当に世界を良くしたいとか、この仕事って本当に意義があるよねとか、そういう言葉が会話の節々に出てきますね。僕らのサービスが普及したら、例えばCO2排出量が減って地球が良くなるよねとか、運送会社のみなさんが疲弊せずに働けるようになるよねとか。そういうところに共感してくれて、Logposeの事業にやりがいや興味を持ってくれる人がやっぱりLogposeらしいと思います。

一戸:

採用のときからそういった会話はするんですか?

羽室:

最近そういうところで企業を選ぶ人も増えてきてると思います。労働人口が減る中で、どこもきっと給料は上がってるじゃないですか。だから、採用候補者は企業を選びたい放題だと思うんですよ。その中で自分が長い人生かけてやる仕事を選ぶとしたら、結局そういう感情報酬みたいなところに集約してくるのかなと思ってます。

一戸:

ルフィみたいな存在っていうのが答えかもしれないですけど、組織やチームの中で「社長」ってどんな存在でありたいと思いますか?

羽室:

二つありますかね。一つはやっぱり、旗を立てる存在。絶対ここに行くから!っていう旗を立てる。ただ、それにはみんなを納得させるだけの信頼性みたいなものが必要だと思ってるので、僕は自分が言ったことは絶対に達成しようと思ってますし、やり切らないと絶対に誰もついてこないと思ってます。そこだけは、絶対。もう一つは、意思決定の質・精度を最高に高められる存在。会社の中ではやっぱり僕が一番業界のことを知ってると思ってるので、僕がちょっと違った意思決定をした途端に、会社全体が全く違う方向に向いちゃうわけです。そうならないためにも、いろんな人の意見を取り入れて、いろんな本を読んだり歴史を学んだりして、勝てるような意思決定ができる存在でありたいと思います。

一戸:

その意思決定の質・精度を担保する要素って、人の意見や歴史、その他には何かありますか?

羽室:

やっぱり、原理原則かなと思います。人間こうあるべき、こう仕事すべき、こういう生活をすべき、みたいな話って至るところに書いてあると思うんですけど、やっぱりお天道様に恥じない生き方みたいな話じゃないでしょうか。
そこさえ守れていたら、あとは自由にやっていい気もします。そういう意味では、「侘び寂び」というか、自分の美学とか倫理感とかを持った人と一緒に働きたいと思います。基本的な方針として、裁量権を持って自由に働いてもらいたいので、その人が悪に染まってたらやっぱり組織も悪い組織になっちゃいますよね。なので、最低限そこだけは、胸張って仕事できていれば、どんなやり方でもいいんじゃないかなって思ってます。

※こちらは、2023/1/17時点の情報です

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