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【Mined】人は、ソーシャルの中で学びを深める -どんな信念もジャッジしない、マイクロコミュニティのスケールを支えたい-|Players by Genesia.

インタビュー

「教育」「学び」というテーマでの今回のインタビュー。

私は、最近印象に残った記事を思い出しました。以下はその一節です。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00087/041100387/?n_cid=nbpnb_mled_pre

「誰にでも勉強する / しない権利と自由がある」ということと「誰にもそれを侵害する権利はない」ということ。

当たり前のように聞こえますが、これは同時に、「誰もあなたに押しつけない」「誰もあなたに“すべき”と言わない」「正解はない」「自分で選んで表明しなさい」というメッセージのようにも感じます。

人の多様性と、一方でAIによる人の代替性にも注目が集まる今、大人も子どもも、私たちは何を知り何を選び取りどんな存在を目指すのか-?

社会一般的なわかりやすいゴールではなく、私たち一人一人が選んで目指すゴール。そんなことにしっかりと向き合い考えるタイミングが来たのかもしれません。それは易しいことではありませんが、きっと必要なこと。

その舞台は、果たしてどこでしょうか。

ーーーーー

Mined(マインド)は、小中学生向けのオンライン学習サービス『スコラボ』と同じく小中学生向けのプログラミング学習サービス『ちゃんプロ』を提供しているスタートアップです。代表の前田さんは、ピュアに“学びが好き”だと感じる自分に出会い、学びを続け、そして、学びを広げるプラットフォームの開発を進めています。その“好き”の源泉、学びとは何か、そしてMinedが大切にしたい信念や世界観とは?

そのストーリーについて、担当キャピタリストの一戸が聴きました。

  • デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん
  • 聞き手・まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田
  • 以下、敬称略

勉強を楽しいと思えるようになった環境とのラッキーな出会い

一戸:

前田さん、今日はよろしくお願いします。
まずは幼少期のお話から聞いていってもいいですか?

前田:

出身は大阪の和泉市です。若干ムラ社会が残った地方の町です。父親はいろいろな仕事をしていました。大学に行かずにフリーターをしていたら、地元のゲーセンで自衛隊の人に声を掛けられて、そのまま入隊したところからキャリアが始まったそうです。自衛隊を辞めたあとは不動産の営業、バスとトラックの運転手、そしておじいちゃんが経営していたレストランを引き継いで喫茶店を開いていました。僕が覚えているのは、トラックに載せてもらったのと、あとは喫茶店でたくさんの時間を過ごした記憶。母は結婚して専業主婦をしてたんですが、父が喫茶店を開いてからは一緒に働いていました。なので、僕の幼少期は、いつでも両親がいる喫茶店から学校に行って喫茶店に帰ってくるという生活でした。

一戸:

前田さんを誰かに紹介するときに、いつも「東大とMITとスタンフォードに全部合格して、東大とスタンフォードを蹴ってMITに行った人です」と伝えているんですが、今のお話だけ聞くと、同じ人物だとすぐには結びつかないですよね。どこから勉強をするような環境に入っていったんですか?

前田:

職を転々としていた父親から「(結果論として)勉強はしっかりしておいた方がいいぞ」とは言われてたんですが、それもいわゆる中学受験みたいなことではなく、「四年制大学には行っておけよ」というくらいの温度感でした。ただ、父親が実体験を伴ってそういったメッセージを伝えてくれていたので、僕なりにけっこう真剣に受け止めていたのと、あとは、兄弟で競争しているうちに・・という感じです。僕には二卵性の双子の弟がいて、「俺の方がすごい」とか「俺の方がイケてる」みたいにずっと競っていたんです。当初は拳で戦うスタイルだったのが、徐々に口や頭での戦いに変わっていきました。

一戸:

そこから灘(中学・高校)へ行ったのはどうしてですか?

前田:

ずっと通っていた公文の先生に中学受験向けの塾を紹介されたことと、地元の中学校がわかりやすく荒れまくっていた現状を目の当たりにしたからです。それで、中学受験を目指し始めました。小学四年生のときです。公文では僕と弟がずっとトップを争っていたんですが、新しい塾の方にはもっと頭のいい子たちがたくさんいて、おもしろかったです。僕の性格と塾の雰囲気も合って、楽しんで勉強していたら成績が伸びていったという感じです。

一戸:

当時はどれくらい勉強していたんですか?自分に火がついたエピソードなどはあるんでしょうか?

前田:

兄弟での競争は四年生くらいで終わっていて、その後はやっぱり、自分が楽しいからという理由で勉強していました。勉強すれば成績が上がっていくのもおもしろかったし、あとは、塾の雰囲気や先生との相性が良かったんだと思います。運が良かったです。ただ、小学校では休み時間とかまで勉強しているといじめられるので、やんちゃな友だちとサッカーしたりゲームしたりもしていました。漫画も好きでした。

一戸:

ご両親の教育方針はどんな感じだったんですか?

前田:

特に詳しくなかったということもあって、基本的には放置というか裏方に徹してくれてました。送り迎えしてくれたり教材を買ってきてくれたり。むしろ、「灘中学は遠いから通えないよ!」とか「海外(MIT)に行くのは大学院からでいいんじゃない?」とか、止められることの方が多かったです。

株式会社Mined Co-Founder, CEO 前田 智大

夏休みの宿題は、夏休み前日に終わらせるタイプ

一戸:

灘中学に入ってから環境は変わりましたか?

前田:

すごく変わりました。でも、自由な校風でしたし、集まっている同級生たちもいわゆる優等生というよりは、僕と同じように性格と中学受験に臨む環境がフィットして比較的学びを楽しんできたような子たちだったので、これまでとまったく違う場所に来ちゃったなという感覚はあまりありませんでした。

一戸:

灘中学校出身の僕の友人も、なんというか、野性みがある印象ですね。

前田:

僕も、周りからはよく「エリート街道を進んでいる」と言われるんですが、自分自身の認識とはだいぶズレているなと感じます。真面目に勉強してきたというよりも、たぶん人とは少し違う視点で試験勉強も楽しんできたタイプなんです。地元にいた頃は、あり余るエネルギーが拳に向くことも多かったんですが、それがたまたま知的学習の方に行っただけというか・・

一戸:

「拳」は、前田さんの幼少期の一つのキーワードのようですね・・キャラクターは変わりましたか?

前田:

小学生のときは頭がいいヤツって思われてたんですが、灘での成績は下の方だったので、その点は変わったかもしれません。でも、特に自分自身の振る舞いが変わったということはなかったと思います。地元と灘で共通していたのが「おもろいヤツがえらい」という信仰だったので、何かユニークなことをしようという気持ちはずっと持っていました。男子校あるあるなんですかね。やっぱり、おもろいヤツが人気。

一戸:

前田さんはどんなおもろみで勝負してたんですか?

前田:

中学生のときは、くだらないギャグを連発して滑りまくってました。おもしろいことをしようと頑張ってるヤツって感じでした。でもそのうちに、そろそろ真面目に生きないといかんな・・みたいなタイミングが来て。ちょうど生物の先生が好きだったので、三年生で初めて『生物オリンピック』に出ました。それでなぜか、史上最年少で日本の本選に出場することになり。

一戸:

すごい。

前田:

数学や物理の方へ行く子たちが多かったので、あんまり競合がいない中でポジションを取った感じでした。友だちに「すごいね」って言われても、「おまえが本気出したらもっとすごいだろうけどな」って思ってました。あとは、無駄に人望があって、僕自身は生徒会とかに立候補したことはないんですが、生徒会の応援部隊っていうポジションに中二から5年連続で指名されたんです。応援部隊っていうのは、立候補した子が同学年から一人だけ選べる後方支援メンバーで、すっごく光栄なこと。初年度以外は4年連続で僕が応援した子は負けちゃったんですけどね。

一戸:

だめじゃないですか(笑)

前田:

自分自身が主体じゃないとだめですね。

一戸:

そんなに人望を集められたのはなぜだったんでしょう?

前田:

僕は自分でリーダーに立候補するタイプではないんですが、主体性はあったし、何かやるべきことがあったらすぐ行動するタイプだったから、「やる人」だと思われていた気がしますし、それで人と関わることも多かったです。

一戸:

前田さんはどうしてそういう性質になったんでしょうか?

前田:

昔から、明らかにやった方がいいことが放置されてるのは気持ち悪いと思うタイプでした。誰も対応しないんだったら、じゃあ自分が動けばいいだろうと。逆に、自分がやるべきと認識していないと放置しちゃうので、それ自体が問題になったりすることもあるんですけど・・

一戸:

夏休みの宿題とかも早めに終わらせるタイプですか?

前田:

一学期の終業式から帰ったその日に終わらせてました。

一戸:

ひぃ・・

前田:

だって気持ち悪いんですよ。やらないといけないことを抱えながら夏休みを過ごすのは。

楽しいと思えないことはしょうもない、と感じた原体験

一戸:

双子の弟さんとは性格や性質も似てるんでしょうか?

前田:

似ていないです。弟はすごく社交的で、僕以上に自信家でポジティブ。採点されたテストが返ってきたときに、彼は正解したところを見るタイプで、僕は間違えたところを見るタイプ。僕の方が少しだけ自分に厳しいのかもしれません。僕の方が頑固な面も強くて、人のアドバイスはよく聴くタイプだと思うんですが、自分の中で納得や咀嚼をし切れないと黙り込んじゃったり「やってみます」って言えなかったりするんです。そういうとき、社交性に欠けているかもしれないと思ったりもします。

一戸:

僕、『創業の軌跡』というPodcastシリーズで主に上場企業の社長の方々にインタビューさせてもらってるんですが、その中で、相手が沈黙する時間の長さを一つの目標にしてるんです。例えば、ツクルバの村上さんが僕の質問に対して2分くらいずっと無言で考え込まれたことがあったんです。上場企業の社長ともなればインタビューされることも多くて、同じような質問には割とすんなり答えられますよね。だから僕は、相手がすぐには答えられない、相手がまだ言語化していないことを引き出す質問をしたいなと思ってるんです。

前田:

沈黙すればするほどその話が刺さってる、深く考えさせられてる証拠だと思ってもらえたらいいですね。僕の頑固さは本当に小さい頃からの性質で、両親からもいろんなエピソードを聞かされます。

一戸:

そんなこだわりの強い前田さんが「これは頑張ったな」と思うことって何かありますか?勉強は頑張ったというより楽しんでいたという印象が強そうでしたが。

前田:

労力を使ったという意味では『生物オリンピック』。僕の当時の通学時間って往復で3時間あって、当時はまだスマホもなかったので、生物の勉強がエンタメとして成り立っていたのはラッキーでした。ただ、国際大会に出るときの代表になった後はしんどかったです。やっぱり良い成績を残さないといけないというプレッシャーばかりが大きくて、やってもやっても身につかないし、おもしろくないし、結果的に成績も上がらなかったしで、すごく苦しかった。やっぱり、無理にやらされたり結果に縛られたりということは向いてないんだなって心底思いました。楽しくなかったし結果も出なかったので、時間はかけたけど、あんまり頑張ったとは思っていません。しょうもないことしたなと。

一戸:

その体験は、今のMinedの事業にも繋がっていそうですね。

前田:

強い原体験だったと思います。好きな教科の成績が伸びるのは、やっぱり好きだからじゃないですか。だから、“好き”って気持ちに勝てるものはないなと感じる大きなきっかけになりました。

一戸:

(MinedのCOOである)趙さんとの出会いも学生時代ですよね?

前田:

中学からの同級生ですが、高校に入ってから繋がりが多くなりました。僕は主体性を持って前に出て動くタイプで、趙はそういう人を支えようというタイプ。だから、自然と一緒に何かをすることが多かったんです。一番仲がいい友達というよりは戦友という感覚で、いろいろなことを一緒にこなしてきて背中を任せられる存在だと考えていたので、Minedを創業するときにも真っ先に声をかけました。

ジェネシア・ベンチャーズ 一戸 将未

好きなことに一点集中したヤツらが優等生を追い抜いていく

一戸:

灘中学から灘高校に進学後、大学はMITへ。海外大学を目指そうと思ったきっかけは何だったんですか?

前田:

単純に、おもろいことをしたかったからという理由が大きいです。そこにたまたま、ハーバードに行った先輩から「おまえなら(海外大学に)行けるよ」と言われたことも重なって「よし、行こう」と、高校三年の春に決めました。親からは反対されました。お金は奨学金でどうにかするとして、海外で失敗したらそのまま落ちこぼれちゃうんじゃないかと。なので、海外大学に行くなら東大にも受かりなさいという条件が出されました。そこからはもう、勉強と英語漬けの日々です。

一戸:

MITの魅力は何だったんでしょう?

前田:

高校三年生のときに実際にMITに行ったんですが、そのときの印象として、肩肘張らずに好きなことをやってるヤツが多いなと感じたのと、『化学オリンピック』でめちゃくちゃ活躍した先輩が「MITいいよ」と言っていたので、間違いないだろうなと。

一戸:

日本の教育との違いを感じる部分はありましたか?

前田:

ありました。その体験が、教育領域で起業しようと考えた理由にも繋がっています。基礎学力や偏差値は、日本の学生の方が圧倒的に高いんです。でも、MITには何かしらを一点集中で貫いてきたヤツが多いので、その集中力や熱量が半端ないんです。そういうヤツがさらに集中して四年間学ぶと、やっぱりさらに強いスキルが身について、社会でもいい仕事をするようになる。日本の学生がいろんなことを犠牲にして試験勉強をして学力をつけている一方で、基礎学力で言えば“バカ”ともいえるヤツらが一点集中で日本の学生を追い抜いていく。そういう状況を見て、悔しいと感じました。基礎学力があるのはいいことですが、やっぱり、自分が好きな何かに打ち込むというエネルギーの使い方というものを身に着けておかないと勝てない状況があると認識しました。

一戸:

一点集中するものを見つけたりそこを伸ばしたりすることの重要性について、日本ではまだそこまで重視されていない印象で、教育のストラクチャーによるところも大きいと思うんですが、日本とアメリカでどう違うんでしょうか?

前田:

インセンティブ設計と、それに紐づくエコシステムの違いだと思っています。まずインセンティブとしては、少なくともアメリカのトップ層の大学では、他人と比べて飛び抜けて秀でている何かがあるということで評価されます。他人と同じ基準で競争するよりも、自分の好きなことを追い求めた方が良いという流れがある。そうなると、その流れを取り巻く教育のエコシステムができます。例えば、生物に興味がある子たち向けのキャンプがあったり。そうして、興味を深める機会と同じ興味を持つ子たちとの交流の場が与えられる。そういうことがごくカジュアルに行われている。興味が育って仲間を見つけやすい、そんな土壌があります。

一戸:

ちなみに、前田さんご自身は小さい頃になりたかった職業は何でしたか?

前田:

昔ながらのムラ社会で育ったので、頭がいい子は医者か弁護士になるっていうのが当たり前で、僕も医者になりたいって言ってました。途中、お笑い芸人に変わったりするんですけど、基本的には医者って言ってました。でも、本気でなりたかったわけじゃなくて、選択肢を知らなかったから。MITに行く頃には、研究者になりたいって思ってましたが、それは生物オリンピックでお会いした教授の方たちの影響が大きくかったです。メタ視点で見れば、それくらいしか大人との接点がなかったってことです。

一戸:

大人との接点の多さや広さが子どもの将来の選択肢に繋がるという話はありそうですよね。

大失敗を大爆笑して話す起業家の姿に憧れて

一戸:

大学ではどんな毎日を過ごしたんですか?

前田:

日本にいた頃から続けていたブレイクダンスを週12時間くらい。あとは、男40人くらいで寮みたいなところに住むフラタニティという仕組みがあって、高学年になってからはその長(プレジデント)をしました。いわゆるコミュニティづくり。あとはやっぱり、研究です。授業の方がおもしろいときだけ授業に出て、あとはずっと研究して、放課後にブレイクダンスして、家に帰ってプレジデントの仕事をして、宿題して、寝る。そんな生活でした。

一戸:

自分の興味ベースで埋め尽くされているような一日ですね。

前田:

そうですね。みんなそうでしたよ。

一戸:

同じ寮に起業家がいたんですよね。

前田:

Scale AIのアレックス・ワンです。彼は一年生のときから賢いと評判で、すでに起業していたので、それで僕も起業を身近に感じていたところがあります。彼はたしか冬休みか夏休みに「起業するからいったん寮を離れるね。うまくいかなかったら戻ってくるからよろしく」という感じで抜けていって、それっきり帰ってきませんでした。

一戸:

起業する人が多い環境だったんですか?

前田:

同じラボにいたメンバーの半分くらいが起業しました。教授自身が起業家で、ラボより起業に関連する活動を優先するような人だったので、みんな自然とその選択肢が育っていたんだと思います。

一戸:

元々研究者になりたいと思っていたところから、起業にシフトしたきっかけは何だったんですか?

前田:

– 大学院が入っていたメディアラボという環境の影響がありました。そこは、社会と関連した研究をしようという場所だったので、ソーシャルインパクトについてものすごく考えるようになりました。当時実際にあった研究としては、アメリカの軍事研究機関である『DARPA』から予算をもらったものなど、おもしろいんだけど、実用までには10年くらいかかりそうだなという印象のものが多かったんです。将来的には絶対に実用されて社会にインパクトを出していくんだろうと思いながらも、個人的には、そこまでの遠さみたいなものを感じてしまって・・実際、研究とは全く別の領域で起業するラボの先輩たちもいたので、直接的に社会にインパクトが出せることって何だろう?と、フラットに起業についても考え始めました。すごく悩みました。
そんなとき、孫正義財団に入ることになって、2019年の末にその年末パーティーに参加したんです。孫さんに「今年(2019年)一番の学びは何でしたか?」って質問したら、爆笑しながら「WeWorkだ!」っておっしゃってました。当時のWeWorkといえばかなりマズい状況だったんですが、「ああいうことがあると頭がフル回転するよ!」ってめちゃくちゃ楽しそうに言ってたんです。それを見て、社会にインパクトを出しながらもこんなに楽しめる道ってあるんだなって感じました。その後日本に帰ってきて、温泉でぼ~っとしながら、起業することを決めました。23歳のときです。

学びの一番のモチベーターは、人と人とのソーシャルな関係

一戸:

当初は事業アイデアはなかったんですよね?

前田:

なかったです。僕の研究分野だと軍事利用が多かったので、やっぱり時間がかかる。だから全然違う領域も見ようかなと思っていたときに、日本の学生とMITの学生を比較したときの感覚を思い出したんです。好きなことに一点集中するというエネルギーやパワーを間近に見ていると、日本もそちら側を向く必要があるだろうなと考えました。でも、周りを見渡してもそういうことにチャレンジしている人はいなかったので、自分が変化のタネの一つになれるんじゃないかと思って、教育という領域を選ぶことにしました。

一戸:

元々、教育というテーマへの関心はあったんですか?

前田:

学ぶことが好きだし、人の変化も好きだったので、自分がどう学びを深めていくかということも含めて興味をもってリサーチしていました。大学時代は教育系のNPOでも働いていました。

一戸:

アメリカで起業する選択肢はなかったんですか?

前田:

日本で起業することにした理由は二つあります。一つ目は、妻が大のアメリカ嫌いで、僕自身もちょっと情勢に懐疑的だったこと。二つ目は、シンプルにビザの問題です。でもやっぱり日本を変えたいという気持ちも強かったです。MITから日本の大学に訪問したりもしてたんですが、日本の学生はめちゃくちゃ賢いのに行儀が良すぎると感じていました。とりあえずアメリカのトレンドを見て、その論文に+αしようという思考。妻もMITの生物系で一番の研究室で働いていたんですが、日本に来て東工大で働いていたときに「学生の優秀さは全く変わらない。違いは論文を『nature』に出そうという意志があるかないかだ」と言っていました。すごくもったいないと。そこを変えたいなと思いました。

一戸:

具体的にどう変えていきたいと考えたんですか?

前田:

誰もが自分の好きなことを見つけて、それを追い求められるようにしたいと考えました。それは正しいと思うし、今でも全くブレていないんですが、当時はHowを簡単に考えすぎていました。例えば、コーチングでその人のやりたいことを引き出せばOKだとか。かなり甘い考えでした。

一戸:

一戸
今、起業してから三年半ですか。この間に考え方はけっこう変わりましたか?

前田:

目指すところは全く変わっていないですが、Howの認識がだいぶ変わりました。何かを学びたいけれど何をしていいかわからない人って、大人にも多いですよね。そういう人に「こんなことをこんな風に学ぶといいよ」と客観的に提案することはできますが、それが本人の性質や志向にマッチするかというと別問題。それだけじゃダメだと気付きました。つまり、良いコンテンツを作れば自然に人が集まってくるというのも違う。学習者の興味やエネルギーとその適切な対象をどう繋げていくかというところには、もっと複雑なインセンティブやモチベーションのダイナミクスがあるなと感じています。

一戸:

自分がやりたいと思うことに出会えることがまず一歩目で、そこからその先を深掘りしてのめり込んでいくような過程が存在すると思うんですが、このラインを超えるのが意外と難しい気がしています。学ぶ楽しさやのめり込む快感を知っている人はできるけど、そうじゃない人は小さな違和感で諦めたり躓いたりしちゃうこともあると思うんです。Minedのサービスはそのあたりも意識されているんでしょうか?

前田:

僕は、学びというのはめちゃくちゃソーシャルなものだと思っています。わかりやすいコンテンツよりも、人との関係性がモチベーターなんです。例えば、学校や塾に行く学生は、そこで何かを学んで成績が上がることよりも、友達に会えるとか休み時間におしゃべりできるとか、そういうことをモチベーションにしていることが多いと思います。先生のことが好きなら授業も聴く。自分の成績が上がらなくてもライバルの成績がもっと下がっていたらそれでいい。コロナ禍で大学を退学する人が増えたというニュースもありましたが、やっぱり一人で学ぶのはきついんですよね。だから、“周りがいる感覚”というのは大事です。それで僕たちも、先生と少人数で話す場から始めて、最近はよりカジュアルに相互コミュニケーションしたり非同期で評価し合える仕組みを作っています。リアルの教室でもあるようなおもしろい体験ができる場にしていきたいんです。それで、アーカイブを残さないライブ授業にもこだわっています。そんな中で、Minedの授業の受講を親におねだりするという子どもたちのコメントを見かけて、すごく嬉しかったです。

一戸:

前田さん自身が、子どもの頃に兄弟で何かを競っていたり、良い先生と出会えたりした経験をしたことが強い原体験としてありそうですね。

教育の“出口”の変化が、教育を取り巻くエコシステムを変える

一戸:

ちょっと視点を変えてみますが、今の日本の教育に課題意識を持っている人って多いと思うんです。実際に政府も『GIGAスクール構想』などに取り組んでいますが、前田さんとして、そのあたりはどう見られていますか?過去10年くらいを振り返って、次の10年くらいの見通しを立ててみると、どんな世界が見えますか?

前田:

学校をベースに、受験や成績アップのために塾に通うという消費者行動自体はあまり変わっていないように思います。ここ10年くらいで一番大きな変化は、特にコロナ禍で、子どもたちのデバイス操作力が上がってることではないでしょうか。みんなタイピングができるし、ネットネイティブな使い方が自然とできる。同時に、刺激の量が圧倒的に増えている。大人にしても、例えば50分のオンラインセミナー中に一度もスマホを触らずにいられますか?ほとんどの方がNOだと思います。子どもたちのオンライン授業もそんな感じです。なかなか集中を維持できない。

一戸:

僕は浪人生時代、スマホを解約して寮に入って勉強以外の一切を断ち切りました。それは勉強が楽しいとかのめり込むという感覚とはまったく別物で、人間として、自分がおもしろいと思ったものに引き寄せられていっちゃうからです。それは自然なことですよね。

前田:

学びが好きだと言っている僕自身も、オンラインの学習コンテンツを見始めた5分後にはYoutubeに切り替えてるなんてことはざらです。そうした自分の一消費者としての行動を振り返ることで、やっぱりHowは考え直さなければいけないと感じました。

一戸:

前田さんはそのあたりのバランス感覚がいいですよね。

前田:

ただ、そうした変化を経て次の10年はどうなっているかというと・・・・全くわからないですね。ただ、教育の一つの出口としての就職などを考えたときに、AIとバトルすることになっていくのは絶対なので、必要なものは変わってくると思います。その点、今のままの教育ではやっぱりしんどいんじゃないでしょうか。人はわかりやすさが好きなので、同じテストで同じ状況下で同じ偏差値という指標で比べる、みたいなことに惹かれる部分はあると思うんですが、近い将来、そこに大きなイノベーションが起こる可能性があると思います。

一戸:

僕、前田さんの「学歴社会が悪いわけじゃなくて、その学歴が勉強の偏差値でしか測れないことが悪い」という言葉がものすごく心に残っています。学歴の多様化はすでに始まってきているんでしょうか?

前田:

始まっているし、加速傾向だと思います。でないと、教育の出口が合わなくなってくる。日本の場合、会社が責任を持って新卒を育てるじゃないですか。だから、学生は自分で考えて頑張らなくても、学校を卒業して新卒という仕組みに乗っちゃえばよかったと思うんですが、人材が流動化して中途採用が活発になったり新卒よりAIの方が仕事ができるようになったりしてくると、出口が変化してきます。多様にもなるし、求められるものも明確になる。それをやりきっているのが、やっぱりアメリカです。MITの学生って三人に一人がコンピュータサイエンスを専攻してるんです。なぜかというと、一年生の最初にいきなりキャリアフェアというイベントがあって、100社以上の企業の9割以上がコンピューターサイエンスしか雇わないと言っている。そうすると、それまで生物や物理を勉強しようとしていた学生たちがみんな路線変更するんです。中途採用も競争相手で、完全に実力で測られる社会だから、学生も自然とやるべきことが定まる。アカデミックという点からすると微妙ですが、一つの出口である社会のニーズと教育や学びが完全に合致している状況です。

一戸:

そういった、教育と社会の整合性や、それに合わせた多様化といった変化が予想される中で、Minedはどんなポジションを築いていきたいですか?

前田:

野心的に、全てを飲み込みたいとは考えています。Minedのサービス上で学ぶのが一番楽しいという状態、そして本当に最終的には、Minedのサービス上で学んだこと自体がオフィシャルな学歴になるような状態にしていきたいです。そうした社会インフラと言っていいレベルまで持っていくことを目指しています。まずは、エンタメなのか学びなのかの境界線がわからないくらいのところまで楽しいサービスにしていく。そして、その学びが適切な評価やフィードバックに反映される、ソーシャルでモチベートされる場にしていく。まだまだ試行錯誤もありますし、抽象度も高いですが、そんなポジションを作っていきたいです。

どんな信念もジャッジしない、学びのマイクロコミュニティのスケールを支える

一戸:

最後に、また前田さんご自身とチームについて聞かせてください。前田さんが尊敬している経営者や憧れの会社ってありますか?

前田:

起業家として尊敬しているのはやっぱり孫さんです。ダイナミックな動きで社会を大きく変革しているところにすごく憧れます。一方で、教育という領域に関わる企業には、より市場と信念のバランスが求められると思っています。例えば、ただ市場原理にしたがうと、保護者の負への不安や不満を煽って過激な教育競争に向かわせるということが成立してしまう。でも、それがヘルシーな状態だとも長期的に社会を良くする方向性だとも思えません。なので、株式市場において企業価値を挙げていくことと、社会に長期的なグッドインパクトを残すという意味で、市場と信念のバランスが大切だと思うんです。その点、最近すごくいいなと思ったのは、ラッパーのケンドリックラマーです。彼は、詩的かつ社会的なメッセージが強いラップをするんですが、商業的にも成功しています。アメリカの高校生が、ケンドリックの複雑に構成された歌詞を理解するために真面目に分析したりしているのを見るとすごいなと感じます。

一戸:

それに関連するかもしれませんが、教育って誰もが当事者であるという特徴もあるので、関わる人たちは皆さんご自分の信念を強く持っていることが多いですよね。ただ、信念が強すぎるとそれ以外の人たちを全く排除してしまう、信念が弱すぎると逆に強烈な人たちも入ってきちゃうというような、プラットフォームの特性があると思うんです。このあたりはどんな風に考えていますか?

前田:

その点、『Reddit』は成功しているように思います。一つの大きなコミュニティじゃなくて、マイクロコミュニティをたくさん作っていくタイプのプラットフォームです。Minedとしても、基本的にはどんな信念もジャッジせず、Aという信念で学びたい人はAというグループ、BならBというかたちでそれぞれが活性化するような、信念とスケールがバランスしていくような方法を採りたいです。ただ、これも非常に難しい問題ですが、科学的な嘘や詐欺的なものをシャットアウトするような仕組みやポリシーは必要だと思っています。

一戸:

これからMined自体も組織を拡大していく中で、教育にいろいろな思い入れがあるメンバーを受け入れていくことになると思うんですが、どういう信念やマインドを持った人が合うと思いますか?

前田:

教育に対する信念が強すぎない方がいいですね。僕たちの「教育はこうあるべき」みたいな思想が、実は消費者が求めているものじゃなかったりしたらいけないので、いったんはピュアに消費者が求めていることを理解しに行けるといいかなと思います。多くの人がそれぞれに居心地がいい学習環境を作っていくにはどうするか?といった考え方ができる、コミュニティ思想が強い人の方が向いているかなと思います。

一戸:

メンバーのイメージも踏まえて、Minedが目指す“いい組織”の姿ってどんなものでしょうか?

前田:

事業体系に合わせて組織体系も変わっていくと思うので、今のPMF前の段階でなかなか明言しにくいところはあるんですが、非連続的な組織であり続けたいという想いはあります。論理的にも考えるけど、その上でぐっと飛躍する部分があるというような。C向けのコミュニティを作っていく以上、インセンティブ設計やプロダクト設計に、かなりレバレッジが効く進み方をせざるを得ないと思うので。教育的な良し悪しのような判断もあると思うんですが、例えば“好きな先生を推す”ようなアクションも実際に出てきていたりして、VTuberやアイドルのファンだったらそれは当たり前ですから、学習において良い影響を及ぼすんだったら、それはそういうものとして見守るということも大切だと思っています。ソーシャルで起こる自然なアクションをバランスよく学びの力に昇華していけたらいいですね。

※こちらは、2024/6/20時点の情報です

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