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【メンテモ】クルマの未来を、みんなで創ろう ー“好きなもの”が文化になる「共存」の未来ー|Players by Genesia.

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2020年の12月にグレートコンジャンクションが起こり、世界は、土の時代から風の時代へ、物質の時代から精神の時代へとステージを変えたと言われています。

2000年近く続いたと言われる物質の時代。その間に、たしかに私たちの物質的な欲求はほとんど満たされたと言っても過言ではありません。生活に必要なものは、ほとんどが用意された時代。たくさんの選択肢に加えて、新しい商品も次々に生まれ続ける時代。そんな時代は、大量生産・大量消費の時代とも呼ばれます。

そんな中で、こんなことを考えます。

私が本当に好んで選び取るもの、そしてずっと使い続けたい、手元に残し続けたいものはどんなものだろう?
つまり、自分が本当に好きなものや大切なものについて考える時間が増えたような気がするのです。

また、最近読んだ本にこんなくだりがありました。

「無関心から来る寛容は、ひとたび嵐が来て自分の身に危険が迫れば、たちまち吹き飛んでしまう。だが、ウィリアムズの説く寛容は筋金入りである。彼は、人間が何かを信じるということに、かけがえのない尊さを見いだした。それは、自分とは異なる信仰をもつ人にも等しく見いだされる尊さである。信仰が自分にとってかけがえのない尊さをもつことを知っているからこそ、他人にとっても同じようにかけがえのないものであることが理解できるのである」

不寛容論 -アメリカが生んだ共存の哲学-|森本あんり|新潮選書

つまり、自分が本当に好きなものや大切なものを知っているということは、人も大切にできるということなのかもしれない。

今回、ずっと大切にされてきた古くて美しい一台のクルマを前にして、そんな未来の始まりをふと感じました。

メンテモは、インターネットで自動車整備・鈑金工場を検索・入庫予約できるマーケットプレイス『メンテモ』を開発・提供するスタートアップです。そして、代表の若月さんはこれまで数々のサービスをつくってきた起業家です。でも、それらがなかなか思い通りにいかなかったりチームが解散してしまったりして、道に迷っていた時期もあったそうです。そんな中、小さな頃からずっと大好きだったクルマのことをふと思い出し、思い切ってクルマを買ったところからメンテモがスタートしたそうです。

この時代にとってもこの国にとっても、文化的な価値ある存在としての自動車を、そして何より自分自身にとっても、大好きなクルマを、ずっとずっと遺していきたい。活かしていきたい。そんなストーリーについて、担当キャピタリストの相良が聴きました。

「20歳の僕はパソコンの会社をやっていて、空冷のポルシェに乗ってますか?」

相良:

今日は、山梨のオフィスにお邪魔しています。若月さん、よろしくお願いします。
Playersは、このデジタル時代において、より良い社会・より良い未来をつくろうとしているPlayers(当事者)にお話を聴いていくコンテンツで、特に“人”にフォーカスしています。社会を構成するのも“人”ですし、より良い未来をつくっていくのもまた“人”です。人の周りに人が集まって、広義の「チーム」を形成していくことで、大きなことを成し遂げられる、インパクトを出していくことができる、と僕たちは思っています。
今日は、そのコアとなる人の一人だと信じて僕たちが投資を決めた、株式会社メンテモの代表・若月さんに、いろいろお話を聴いていきたいと思います。まずは自己紹介をお願いできますか?

若月:

メンテモの若月です。1998年生まれの22歳で、出身はこのオフィスと同じ山梨県甲府市内です。山梨は、人がおおらかだし、道のつくりとかもゆったりしてて、クルマにとってもすごくいい場所だなと思ってます。本社はこれからもずっと山梨に置いていたいです。
僕は、高校を卒業してアメリカの大学に進むことを決めてたんですけど、大学入学までの間に都内のスタートアップで仕事をしていたら、スタートアップおもしろいなぁとなって、一ヶ月で留学を止めて帰国して、2017年に起業しました。当時は、コンシューマ向けのモバイルアプリを作ってました。チャットアプリの『NYAGO』が代表的なサービスだと思います。その後、チームはいったん解散することになって、僕は新しくメンテモを始めたという経緯です。
メンテモは、「クルマの未来を、みんなで創る。」というミッションを掲げています。サービスの第一フェーズとしては、街の自動車整備工場や鈑金工場をネット予約できる検索サイトを開発・提供していますが、メンテモ考案時から考えていることは一つです。大前提として、僕はクルマが大好きです。その上で、「例えば、僕が乗っている1984年式のクルマが30年後の日本の公道を走ることができるだろうか?」という命題に対する覚悟を示したのが、「クルマの未来を、みんなで創る。」というミッションです。クルマは移動手段ですけど、同時に趣味でもあり、ロマンでもあり、生きがいでもあるという方も少なくないです。僕にとっても、クルマは単なる移動手段ではありません。それに今、クルマもいろいろな過渡期にあると思うんですけど、ガソリン車はダメ、エコカーはダメ、といった極端な考え方ではなくて、主流はエコカーといったメインストリームはありつつも、趣味やロマンや自己表現の一つとして好きなクルマに乗っている人もいるというような選択肢を、僕の子どもや孫の世代まで続けていけるような社会を創りたいです。
ただ、自動車を修理する・整備するといった維持に欠かせない作業は、とても専門的で難しい作業です。もちろん、僕たちにできることではありません。なので、僕たちのミッションはあくまで、事業者さんやオーナーさん、ユーザーさんといった自動車・クルマに関わる全ての人たちと一緒に共創して実現していくものだと思っています。それで、ミッションを設定するときには、たくさんの人に伝わりやすい言葉遣いを意識したところはあります。

相良:

メンテモというチームづくりを考える上で、やっぱり個人的には「好き」が帯びる熱量に注目しています。自動車ってやっぱり単なる移動手段ではなく、好きだから乗るという感覚を持っている人も少なくないと思います。それを支えるメンテモが、整備業の側面からユーザーの「クルマが好き」という想いをブーストすることができれば、その「好き」を起点に、濃度の高いコミュニティを形成することが可能になる。チームの組成も同じで、クルマ好きという共通点を持つ人たちが寄り集まることによって、好きだからできる発想や、好きだから思いつける便利な機能、好きだから掛けられる顧客サポートの一声、そういった小さな違いを積み重ねていける。それがやがて大きなうねりとなって業界を席捲していくのだと思います。
そして、そのコアになるのはやっぱり若月さんだと思うんですけど、若月さん自身についてもう少しお伺いしてもいいですか?最初に若月さんから「クルマが大好き」というコメントがありましたが、けっこう昔からなのですかね?

若月:

そうですね、幼少期からとにかくクルマが好きな子どもでした。運動が苦手だったので家の中で遊ぶことが多くて、ミニカーを集めたり、祖父が鈑金屋さんだったので外したエンブレムとかを貰って遊んだりしていました。同時に、読書が好きだったのでよく図書館に行っていて、そこでフェルディナント・ポルシェの伝記みたいな本を読んで、「あ、空冷のポルシェに乗ろう」と心に決めました。これは今もずっと変わらない目標で、さすがに今は相場が上がりすぎてまだ買えないですけど、仕事を頑張っていつかは絶対に乗ります。

相良:

「空冷のポルシェ」には何か理由があるんですか?

若月:

今は水冷がメインですよね。ただ、ポルシェは356から993までが空冷です。996から水冷になるんですけどね。空冷なのは、例えばRR(リアエンジン・リアドライブ)なのでスペース的に厳しかったとか技術的な面とか、いろいろ理由があると思うんですけど、なんか、哲学を感じていいなって。空気で冷やすことも、後輪駆動で後ろにエンジンを置いてることも、非効率で今はほとんど採用事例がないんですけど、それでも速くてかっこいい。フェラーリとかランボルギーニとかが速いのは、ある意味で当たり前ですよね。すごい大排気量で二人乗りでミッドシップで、速い車の要素が詰まってる。でもポルシェは、911に関しては2×2で4人乗れて、RRで、昔のポルシェは3,000cc前後で、それでいて同じくらい速い。しかも空冷っていうところが、美学を追求しながら速くて、かっこいいなって。

相良:

ちなみに、今ふと思い浮かんだ質問なんですけど、ナンバーにこだわる方とかもいるじゃないですか?若月さんはどうですか?

若月:

僕は、自分の車は全部同じナンバーにしたいので、最初に買ったクルマについたランダムなナンバーにずっと合わせてます。そうすれば並んだときにきれいだし、覚えやすいし。だからあんまりナンバーにはこだわりがないです。
そういえば、成人式の日に、10歳の頃に書いた将来の夢?みたいなものがタイムカプセルから出てきたんですけど、「20歳の自分はパソコンの会社をやっていて、空冷のポルシェに乗ってますか?」といった内容でした。広義に捉えるとパソコンの会社をやっているので、前者は満たせたかなと。ただ、後者は満たせていないので、10歳の自分に申し訳ない気持ちになりました。ポルシェの相場が上がりすぎてしまったので許してもらいたいです。

株式会社メンテモ 代表取締役 若月 佑樹

「自分の行くべき大学は日本にはない!」

相良:

空冷のポルシェは、今後の目標として楽しみに残しておきましょう!
話を戻しますが、クルマが大好きな若月少年はその後どういった過程を歩んだのですか?

若月:

それからもずっと、クルマと、電子工作とかのものづくりとコンピュータが好きな子どもという感じでしたね。特に高校時代は、自転車とコンピュータが好きでした。いったんはモテようと体育会系の部活に入ったんですけど、すぐに辞めることになったというか、辞めることにして、同じく暇そうな友人と一緒に自転車をやっていました。ピストバイクだったりロードバイクだったり。友人とパーツを回してゼロから組んだり、山梨から東京にサイクリングに行ったり、本当に楽しかったです。本当はバイクに乗りたかったんですけど、校則で免許がダメでしたし、お金もかかりそうだし、性格的に事故を起こしそうだったので自転車にしました。四輪は安全運転なんですけど、二輪は気持ちいいのでスピード出したくなっちゃうんです。あとは、コンピュータは変わらずずっと好きで、HTMLやCSSでウェブサイトを作ったり、マイコンをやったりしてました。
大学は割と自由そうでおもしろい人が多そうかなと思って、SFC(慶応大学湘南藤沢キャンパス)をAO入試で受けました。でも、面接であんまり話せなくて落ちました。かといって、どうしてもSFCがよかったわけでもなかったんで、一般入試は受けず、代わりにアメリカの学校に行こうと思って、カリフォルニアのコミュニティ・カレッジに決めました。当時は尖ってたので、「自分の行くべき大学は日本にはない!」みたいな謎の発想でした。

相良:

それは尖ってますね。でも、一ヶ月くらいで留学から帰ってきて、そこからはスタートアップ一直線ですよね?きっかけとなる出来事は何かあったんですか?

若月:

大学への進学が決まって、友達と高校の卒業旅行で海外に行こうみたいな話になったんですけど、お金がなかったので、ランサーズでウェブ制作の仕事を受けることにしたんです。ただ、競合が多かったので、これは情に訴えるしかないなと思って、信じられないほど長文のやる気に満ち溢れたメッセージを送って、無事に仕事を頂けることになりました。その会社がドローン関係のスタートアップで、社長から「アメリカの大学に行くまでうちで働いて」と言われたので、東京に行けるしお金も稼げるしいいかなと思って上京したのが、最初のスタートアップとの接点ですかね。その仕事がすごく楽しかったのもあるし、自分でも作りたかったアプリを作り始めてたのもあるし、金銭的にアメリカの四年制大学に通うのは難しそうだったので、とりあえず行くだけ行ってみておもしろくなさそうだったら帰ってきてスタートアップをやるっていう選択肢もありだなと思って、いったんは渡米しました。でも、行ってみると案の定、スタートアップにいた頃の方が楽しかったのですぐに帰国して、仲間を集めて、メンテモの前身になる株式会社UNDEFINEDを始めました。

相良:

スタートアップに戻るんじゃなくて、スタートアップを自分で“始めた”んですね。起業は若月さんにとって身近なものだったんでしょうか?

若月:

特に起業したいとかはなかったですけどね。スモールビジネスみたいなことは高校生くらいの頃からやってました。
あとは、両親とも家系が自営業だったということもあるかもしれません。父方はずっと宝石商の家系で、特に祖父は従業員数百人規模の大きな宝石卸の会社をしていて、亡くなってからも「すごい経営者だった」と親族に語られてましたし、自然と憧れたというか、自然と経営者というものが自分の選択肢になった部分もあったのかなと思います。一方、母方の家系はそれこそ自動車関連です。祖父は鈑金業で、まさにメンテモの考案にも大きく関わっています。こうして考えてみると、スーツで働いてる大人が全然身近なところにいなかったですね。

相良:

宝石商の息子というのは意外ですね。ふむ、若月さんのアントレプレナーシップには、環境の影響もありそうですね。

「クルマが欲しい」

相良:

それでいざ起業して経営者になる、ということだと思うんですけど、19歳の頃でしょうか。そこからはどうでしたか?

若月:

当時の創業者の3人で意思決定をしていたので、もちろん個人的にもC向けアプリが好きというのはありましたけど、3人の合議で会社の方針としてC向けアプリを作るというイメージでやっていました。会社として必要なのものも最初は全くわからないし、何もかもやったことのない作業でしたけど、一つ一つ楽しみながら、「いつか『Snapchat』を超えるサービスを創りたい」という意気込みでやってました。『Snapchat』は、数日で数万DAUみたいに爆発的に伸びた事例で、夢がありましたよね。それで、いろんなサービスを開発したりVRの受託をしたりしていたんですけど、2018年、Skyland VenturesとEast Venturesから最初の資金調達をしました。その後、チャットアプリ『NYAGO』を始めたタイミングでエンジェルの方たちも入ってくれました。でも、『NYAGO』は閉じて、また数え切れないピボットを経て、結果的にUNDEFINEDとしては創業チームの解散が決まりました。
そこで会社自体をたたむ選択肢もあったかもしれないんですけど、紆余曲折あって、自分が会社に残ることになって、最初は変わらずC向けのサービスをつくっていました。でも本当にうまく行かなくて、どうしようもないなと思って、東南アジアを40日間くらいフラフラしていた時期もあったし、アニメを見続けているだけの時期もありました。本当に、そんな状態の自分を見守ってくれてた株主の方々には頭が上がりません。
そんなある日、不意に「クルマが欲しい」と思ったんです。いくら考えても何かきっかけがあったわけではないんですけど、大好きだったクルマからしばらく離れた暮らしをしていた反動なのか、そこからはもうクルマのことしか考えられなくなりました。くる日もくる日も中古車を探し続けて、2020年2月の中旬くらいだったかに、条件ドンピシャのクルマを見つけて、そのまま新小岩に行って貯金を崩して買いました。MT 車だったので、新小岩から当時の自宅があった幡ヶ谷までの道を運転して帰るときのハラハラ感は本当にすごかったです。でもそんなことにもすぐに慣れて、道が空いている深夜を狙って甲州街道をずっと走ったり、駐車場代を気にしながらですけど、移動もできる限りクルマでしていたりしました。

相良:

『NYAGO』を閉じた経緯や創業者チーム解散の経緯は、若月さんもブログを書かれていましたよね。すごく生々しくて、心に響くものがありました。心境としてつらい時期もあったと思うんですけど、そこで不意に大好きだったクルマのことを思い出した、というのがおもしろいというか、人間のインスピレーションへの興味深さを感じますね。そこからメンテモの着想も不意に、だったんですか?

若月:

メンテモの着想は、とても自然に起こったような気がしますね。事業のアイデアはずっと考えてはいましたし、実際に自分がクルマを買った後に、今や何でもネットで検索とか予約とかができる時代なのに、何でクルマの整備とかはできないんだろう?ドラレコ付けたい!ホイール替えたい!オイル交換したい!とかやりたいことはたくさんあるのにあんまりいいサービスがなさそうだなと思って、自分でつくることにしたわけです。ただ、祖父がやっていた鈑金屋を継いだ叔父にヒアリングさせてもらったんですけど、感触は微妙で・・ニーズがないのかなとも思ったんですけど、「いや、10年後も電話で予約している未来は見えない」と思ったので、そのままつくり始めました。クルマを買ってから、そこまで一ヶ月とか二ヶ月とかの話ですね。

命を乗せるものなのに/命を乗せるものだから

相良:

僕が若月さんに会ったのは、それからちょうど一年ほど後の今年の3月くらいでしたかね。同じくジェネシア・ベンチャーズの投資支援先のHOKUTOの五十嵐北斗さんが「いい起業家がいますよ!」と紹介してくれたのがきっかけでした。
一方的に起業家を評価するという立場からは距離を置きたいと考えている前提ですけど、僕が考える良い起業家の特徴の一つに「良質な頑固さ」というものがあるんです。要するに、基本的には素直で他人の意見に対してオープンな姿勢を持つ一方で、要所要所で「ここだけは譲れない」という独自の視点や優れたものの見方を持っているという性質なんですけど、若月さんはまさにこの特徴を備えた方だなと第一印象で感じました。あとは、初回MTGの前に共有を受けたNotionページですね、いわゆるピッチ資料に近いものというかExecutive Summaryのようなものだったと思うんですけど、文章の構成や内容が非常に緻密で、受け手の頭の中を覗き込みながら同期を取りに来るようなスキルやスタンスを感じたんです。「あぁ、この人はプロダクトづくりにおいて非凡な能力を持っているのだろうなぁ」と、会う前からすごく良い印象を持っていたことを覚えています。『NYAGO』を開発した起業家であることを初回ミーティングの時に知って、「なるほど!」と膝を打ちましたね。それに、そうしたものづくりの力は、幼い頃からの習慣だったり環境だったり、ユーザーとしての体験を積み重ねる姿勢から来るものなのかもしれないなと、今のお話を聴いていて思いました。
また、僕自身も4~5年前から車に乗るようになったので、自家用車のオーナーとしての整備や修理のニーズを肌身で感じていたことは、少なからず事業への理解や共感を助けたように思います。実際に車を持っていないと、なかなかピンときづらいサービスですからね。ボディーの凹みや擦り傷が気になって直したいなと思っても、ディーラーに相談すると保険の利用やマージンが載せられた提携工場を推奨されそうだし、かといって街の整備工場に突撃していく胆力もリソースもないという。仮にその気があったとしても、当時乗っていたのはドイツ車だったので、ボディーカラーが国産車とは違っていて、対応できる鈑金屋さんも限られました。整備工場の数はコンビニよりも多いと言われれますし、それを一軒一軒行脚することは不可能なので、結果的に諦めざるを得なかった。これが僕自身の自動車整備・修理にまつわる負の原体験です。ちなみに一度、千葉に住んでいる義父が長年懇意にしている鈑金屋さんを紹介してもらおうと検討したことがあったんですけど、自分自身の生活圏から距離があったり先方のスケジュールが合わなかったりでズルズルと時間だけが過ぎていき、そうこうしている間に車検のタイミングが近づいてきたため、結局乗り換え用の下取りに出してしまいました。それが最適な行動なのか当時は判断ができなかったんですけど、もしあの時にメンテモがあれば、状況は変わっていたかなと今となっては思います。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ インベストメント・マネージャー 相良 俊輔
若月:

僕も、相良さんが実際に車を持っていて生活の中で利用しているオーナーであることが、サービスの理解やコミュニケーションを円滑にしてくれたかもしれないと思っています。
今のお話を聴いていて改めて思いましたけど、僕たちが目指すのは「クルマのことならメンテモ」という状態です。その状態を早く作りたいです。僕たちは鈑金屋にはなれないですけど、クルマを購入・維持・売却する上で欠かせないあらゆるジョブのUIを向上させる抽象化レイヤーを担う会社になるイメージです。
正直、今の自動車マーケットを見ても、大きな負や課題はないというか、ユーザーのニーズはほとんど満たされているんじゃないかと思っています。クルマの売買なら、新車・中古車に関わらずディーラーさんや中古車屋さんが存在するし、整備するにしてもいろいろな選択肢があります。ただ、それらの体験がまだまだシームレスじゃなかったり、シナジーを作り出すことが難しかったりという部分にニーズがある。メンテモはサプライヤーではなく、あくまで抽象化レイヤーとして包括的に心地よいユーザー体験を提供することで、“メンテモがなかった頃”が想像できない未来をつくっていきたいと考えています。相良さんが困ることもきっとなくなりますよ。
クルマを所有している人はよく分かると思うんですけど、基本的に自動車の業界構造は情報の非対称性がすごく大きいです。部品点数が3万点を超えると言われている自動車のことなので、素人には細かいことはまるでわかりません。できあがりをイメージしたり、何かをぱっと判断したりすることもできません。飲食店のように、ふらっと入って試してみるというようなことも難しいですし、そもそもその料理が美味しいかどうかという判断すら、自動車の場合は難しいんです。命を乗せるものなのに、多くのドライバーにとって、その中身はブラックボックスなわけです。そういった事情から、「(なんとなく)信頼できるから」という理由で自動車に関することは何でもディーラーに頼むという人も実際に多い[※1]です。でも、本当にクルマのことをよく理解していて実際に素晴らしい腕を持った事業者さんは本当にたくさんいます。一方で、法律も守らず仕事もずさんな事業者さんがいるのも事実です。そういった玉石混交の事業者さんを個人がスクリーニングするコストが高いので、メンテモは、このスクリーニングをきれいにすることにフォーカスしています。ディーラーさんが悪いと言ってるわけじゃありません。みんなに選択肢や機会を増やして、これまで以上にクルマに関するいい体験を増やして、もっとクルマへの愛着だったり関心だったり思い出だったりが増えていくといいなと思っています。

[※1]自動車整備工場のイメージに関するアンケート|一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会

自動車の大きな過渡期の中で、できること

相良:

メンテモがミッションに掲げる「クルマの未来」というのは、クルマを取り巻くしくみやシステム・構造の整備、デジタルの介入といったことだけではなく、クルマと人の関係性・感情の新しい未来の形とも言えますね。

若月:

そうですね、テクニカルな話だけじゃないと思っています。自動車自体がこれからどのように変わっていくのか、今はその大きな過渡期にあると思います。クルマが好きだから、知り尽くしているから、その移り変わりに対応していこうとしている素晴らしい事業者さんには僕たちから声をかけ、メンテモに登録していただいています。そういう、ある意味で同じミッションの実現に向かう“仲間”を集めて、「メンテモに頼めば安心」という部分を叶えることが、最初の一歩です。クルマに関する情報の非対称性をインターネットで埋めていく。でもただ埋めるだけじゃない。信頼を積み重ねていって、ユーザーにとって本当にいいものをつくる。これがメンテモのやることです。

相良:

若月さんの言う通り、自動車のアフターマーケットは、他のあらゆる多重取引構造を持つ市場と同じく、サービスの利用者と提供者との間に極めて大きな情報の非対称性があります。個人的にも、この大きな溝を埋めていきたい。ではどう埋めるかということを考えるにあたって鍵となるのは、自動車整備・修理の持つ高度な「専門性」と、従来自動車ディーラーに握られてきた「商流」にあると考えています。Howの詳細は戦略の肝に通ずる点でもあるので割愛しますが、高度な専門性とディーラーによってバンドリングされた商流を可視化・分解していくチャレンジを若月さんとご一緒できることにワクワクしています。
アナログな商習慣を前提に形成された多重取引構造は、どこかに必ず矛盾や歪さを内包しています。自動車整備業界で言えば、下請けの整備工場が提供する役務の量や質に対して享受できている収益が小さいことがその矛盾に該当します。その背景には、自動車の販売という川上(商流の起点)を押さえているディーラーが送客手数料として20~30%を取っている構図がある。ユーザーの情報収集の窓口が人(ディーラーの担当者や友人など)しかない時代にはこの手数料率にも妥当性があったかもしれないですけど、飲食業界において食べログが行ったように、ひとたび整備工場ごとの強みや特徴がオンライン上で可視化され始めると状況は大きく変わってきます。
メンテモは、安心や信頼、そして透明性によって、自動車整備業界のこの構造そのものを持続可能な形にアップデートできる可能性を秘めていると思っています。

若月:

戦略みたいな話で言えば、明確に三本の矢があると考えています。今公開されているのは一本目の矢で、まだまだ僕たちが目指す世界の規模感には程遠い、本当に生まれたばかりの状態です。まだまだ始まったばかりなので、ここから大きく戦略を引き直す可能性も高いですけど、目指す世界と解決すべきイシュー自体は変わることはないと思っています。最初にもお話ししたように、実現したいことは一つ。「クルマの未来を、みんなで創る。」ということです。これは変わりません。そのためには手段にこだわらず、クルマとそのオーナーのために何が最適なアプローチか、そこでいかにメンテモがお金をいただけるだけの価値を生み出せる存在になれるか、という観点で施策を洗い出していきたいと思っています。それには、僕たち自身が常に現場の肌感覚と移りゆくマーケットの変遷を見ながら、柔軟に意思決定していく姿勢も崩さないでいたいです。
正直に言って、一朝一夕で実現できるものではないと思っています。一歩ずつ積み重ねて、再現性を作った上でスピードを上げる。その繰り返しと、正しい方向性を向いているかのチューニングを続けて、長期でやっていくことだと覚悟しています。もちろん、可能な限り早く、でも長期戦であることは忘れずにいたいです。

相良:

飲食店探しにおける食べログ、美容院探しにおけるホットペッパービューティーと同じようなポジションを自動車整備領域において作り切ることが、戦略上はまず何よりも大事だと考えています。それが実現できれば、二の矢・三の矢の事業はスムースに構築できるイメージがあるので、当面は一本目の矢を射抜くことに集中して一点突破を図っていきましょう。

クルマという文化、クルマの未来

相良:

「自動車の変化の過渡期」というフレーズが何度か出てきましたが、若月さん自身はこの過渡期をどう捉えていますか?

若月:

大きく分けて自動車を取り巻くトレンドは二つで、一つは「乗る人の安全性」、もう一つは「環境への配慮」です。
前者に関しては、自動車の機能の高度化で対応するという方針を各メーカーが取っています。かつて安全装置といえばエアバッグとABSくらいだったものが、いまではレーンキープアシストや前方障害物衝突被害軽減ブレーキといったような、レーダーやセンサー、カメラをコンピュータで制御し、実際に操作をアシストするレベルまで進んでいます。この流れは今後も続く可能性が高く、最終的にはレベル5の自動運転まで進化していくと考えられます。つまり、自動車が機械からコンピュータに変わる過渡期が今、ということです。この変化に対応すべく、自動車整備関連の法律も急ピッチで網羅されている最中です。高度化した自動車を直すための認証や、これまで機械を診断するという意味合いの強かった車検を、コンピュータを診断するという方向に舵を切るようなものです。これは大きな変化です。
後者に関しては、排出権取引やCAFE(企業別平均燃費基準)といった規制が論点ですけど、基本的には今後はハイブリッドカーや電気自動車が新車市場のセンターピンになっていくはずです。国レベルでもうガソリン車を作らないといった意思決定がされたニュースをご覧になった方も多いかと思います。環境への配慮という意味では、すごくインパクトのある大胆な方針だと思います。一方で、どうしてもガソリン車でないとニーズを満たせない山林エリアに居住している方やクルマ好きの方からすると、ガソリン車に乗りたいという欲求は変わりません。その欲求があるかぎり、流通はし続けるはずです。そのため、中古車市場は今よりも活性化し、今後さらなる巨大マーケットになると考えています。選択肢が増えるとともに、ニーズは先鋭化する。それによって年間400万台を超える廃車が今後は自然と減っていき、一台のクルマに長く乗るというトレンドはより一層強くなっていくのではないかと考えます。それが環境にもいいですし、クルマの文化をつくることにもなると思います。
ずっと日本の最大重要産業である自動車を大事にしないと、遺産が残らないですよね。アフターマーケットをやるからには、その部分に責任があるんじゃないかなと思っています。繰り返し使うことはサステナビリティにもつながると思いますし、というか、単純にもったいないなと思うんです。一つのものを長く使うことが当たり前に環境にいいだろうなって。しかもそれが当たり前に文化的に価値を残した方がいいものだと思うから。僕にとってはすごく自然なことです。多様なニーズを満たす、多様化した自動車整備が、自動車マーケットの大きな変化の中で重要な役割を果たしていくことは間違いないです。

相良:

まさに、自動車マーケットのゆく先とメンテモのミッションがリンクしますね。
自動車整備業界に焦点を絞ったミクロな視点で言うと、整備工場の人手不足と高齢化による事業承継の問題が不可逆なベクトルを伴って進展しています。これは製造業において町工場が抱える課題と似ていますが、いずれも事業者間の合従連衡と業界外のサードパーティーによる事業者のデジタルエンパワーメントが進んでいく可能性は高いと見ていて、その流れをメンテモがリードすることができると素晴らしいなと思っています。
最後に、こうした流れの中でメンテモのミッションを実現していくチームや人について、思い描いていることはありますか?

若月:

メンテモでは、「自律する」「チームでやる」「一歩ずつ」という三つのバリューを掲げています。どれも文字通りすごく重要なことですけど、特に最後の「一歩ずつ」には深い思い入れがあります。うちの会社は今のメンテモ体制になる前、『NYAGO』というチャットアプリを筆頭にC向けアプリを開発する会社でした。結果としてうまく行かなかったんですけど、今でこそ明確にその理由がわかります。当時、「インターネットサービスらしく圧倒的なグロースをしよう」という心意気はあったものの、実際にそれを実現するための積み重ねはできていませんでした。その経験から、圧倒的なグロースも、非連続な成長も、そのベースを作り出すのは泥臭い一歩一歩の積み重ねだと考えるようになりました。高い目標を達成するためには、そこから逆算してまず「最初の一歩」を踏み出す。ウルトラCが見つかればもちろんこの上ないですけど、基本的には「一歩ずつ」積み重ねること。この想いが根幹にあります。ちなみに、今あたかも僕が気づいたかのように話してるんですけど、このことを教えてくれたのは、新体制になってからのメンバーたちです。
僕は、自分一人で会社をやっていた期間が長かったこともあって、自分の無力さを意識することが何度もありました。開発もできて一人でプロダクトを作れるからこそ、全能感というか万能感に駆られて、一人でやっていける!と勘違いしていた時期もありました。でも、今となってはそれが愚かな考えだったと思えます。ミッションが大きくなればなるほど、集合知が必要です。いくら賢い人でも、いくら教養のある人でも、一人で見える視野には限界がありますよね。自分の視野を正しく認識して、そのスコープの外を見るためには他のメンバーの力が必要だと考えられる人でないと、チームとして働くことも、高い目標やミッションの実現も難しいと思います。「素直さ」というと言葉が平たくなりますけど、自分ひとりの限界の壁にぶち当たったことのある人や、チームでやることの重要性を意識できる人に、ぜひ仲間に加わってもらえるといいなと思っています。

相良:

成功体験と同じくらい、失敗体験は大切ですよね。むしろ大きな失敗体験の方が、その後にもたらしてくれるものは大きいのかもしれないとも思います。

若月:

人間って本当に複雑で、一番難しいと思います。人には心があって、雰囲気があって、その日の仕事に対するモチベーションがありますよね。そういう変数の上下は仕方がないし、僕自身が人間である以上、向き合っていかなければいけない事象だと考えています。ただ、雰囲気やモチベーションは、隣の席の人に強く伝播するものでもあるので、そういった意味ではネガティブな感情はある程度コントロールする必要もあると思っています。その上で周りと接する。これは実はとても大切な能力だと思っています。自分をはじめ、誰かの機嫌が悪ければ組織やチームの雰囲気は重くなるし、誰かのモチベーションが下がっていればやっぱり全体のモチベーションが下がるということを何度も体験してきました。これも自分自身の反省がきっかけになったんですけど、「チームでやる」というバリューにはそんな意味を込めています。これも平たい言葉かもしれませんけど、お互いの「思いやり」が大切だなと。いいチームを作ります。仲間になってくださる方、募集中です。

相良:

若月さんの体験から、僕も学ばせていただくことがたくさんあると思います。また、これからは一緒に一歩ずつ、たくさんの新しい体験を積み重ねていきましょう!「クルマの未来」を一緒に創っていけるのを楽しみにしています。

※こちらは、2021/8/2時点の情報です
(デザイン:割石 裕太さん、写真:井原 純平さん、聞き手/まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ 吉田 愛)

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