事業のネタ帳 #12 東南アジアにおけるWeb3スタートアップの事業機会
2021年後半から日本や米国だけでなく、東南アジアやインドのテックメディアでもWeb3という言葉を頻繁に目にするようになりました。東南アジアのVCと話していても必ずと言ってよいほどWeb3が話題にあがります。
また、ベトナム人起業家によって創業された「Sky Mavis」によるNFTゲーム「Axie Infinity」が2021年に大ヒットし、a16zやParadigmなどから時価総額$3Bで$150Mの資金調達を発表したことで、ベトナムでもWeb3への注目が大きく高まりました。
ベトナム人起業家やVCの友人がWeb3の世界に飛び込んでいく姿を見たり、Web3スタートアップが破格のオファーで他のスタートアップや大手IT企業からエンジニア人材を引き抜いているという話を多数耳にしています。
今回は東南アジアのWeb3スタートアップエコシステムの全体像と事業機会についてご紹介します。
目次
- Web3とは
- ブロックチェーンスタートアップへのVC投資動向
- 東南アジアの暗号資産普及度
- 東南アジアWeb3スタートアップエコシステム
- ベトナム
- インドネシア
- フィリピン
- タイ
- シンガポール
- おわりに
Web3とは
Web3の定義は様々ありますが、Not BoringのPacky McCormickは下記のように定義しています。
Web 3 is the internet owned by the builders and users, orchestrated with tokens(Web3はトークンの活用によって開発者やユーザーによって所有されるインターネット)
Web3にはセキュリティやスケーラビリティ、手数料やエネルギー消費、規制や分散性など様々な問題点や論争があります。
本記事の論旨ではないため詳しくは触れませんが、Web3の社会実装が広く実現されるには多くの課題がありつつも、優秀な人材や多額の資本が流れ込み課題解決に向けて日々前進していることには疑いの余地はありません。
インターネットの歴史を振り返ると、インターネット人口が10億人を超えたタイミングでマスマーケット向けのソリューションが急速に普及しました。現在イーサリアムのアドレス数は約1.8億と言われていますが、このままの増加速度ではあと5年ほどで10億に達します。
On crypto side, mass adoption of web 3 tech is only starting.
— Tascha (@TaschaLabs) December 12, 2021
Experiences from previous two waves of exponential tech— internet and mobile— show that mass-market applications start to get major traction once underlining tech reaches 1 billion users. pic.twitter.com/i57PO2EH7S
ブロックチェーンスタートアップへのVC投資動向
CB Insightsの「2021 State of Blockchain」レポートによると、ブロックチェーンスタートアップへのVC投資額は2021年に$25.2B(約2兆9000億円)に達し、2020年の31億ドルから8倍以上に増加。世界のVC投資額の4%を占め、2020年の1%から上昇しました。
Web3のユニコーンスタートアップは65社を超え、そのうち40社は2021年に設立されています。2021年にa16zは$2.2B、Paradigmは$2.5Bのクリプトファンドを組成しており、Sequoiaも2022年2月に最大$600Mのクリプトファンドをローンチしました。
東南アジアの暗号資産普及度
Chainanalysisによる2021年暗号資産採用度ランキングでは、1位ベトナム、2位インド、3位パキスタンとトップ3ヵ国がアジアから選出されました。ベトナムは人口の約6%、約600万人が暗号資産を保有しています。
※本調査は流通金額を購買力平価(PPP)で調整しているため、各国の流通総額の単純比較ではなく、所得水準に対して暗号資産の取引が活発に行われている国が上位となっています。
東南アジアからはベトナムに加えて、タイが12位、フィリピンが15位にランクインしています。ランキングに入っていないインドネシアも暗号資産の取引人口は650万人で、株式投資人口537万人を上回っています。
東南アジアにおける暗号資産人気の背景としては比較的緩やかな暗号資産規制、通貨信頼性の低さ、株式市場のパフォーマンス低迷などが考えられます。銀行口座保有率が低く金融サービスへのアクセスが限定されているため、ベトナムやインドネシアではリープフロッグ的に既存の金融サービスの浸透よりも早く暗号資産が浸透する可能性もあります。
現時点では投機的な利用も多そうですが、Axie Infinityの最大の利用者数を抱えている国はフィリピンであり、所得水準の観点からも東南アジアはWeb3サービス普及の土壌があると言えそうです。
東南アジアWeb3スタートアップエコシステム
Lightspeed Indiaの「Lightspeed’s India & SEA Crypto Market Map」では、インドと東南アジアのWeb3スタートアップをマッピングしています。
2021年にインドから暗号資産取引所CoinDCXとCoinSwitch、東南アジアからはNFTゲームのSkyMavis(ベトナム)、暗号資産取引所Bitkub(タイ)、暗号資産金融サービスMatrixport(シンガポール)がユニコーン企業となりました。
各国のWeb3エコシステムはローカル暗号資産取引所が牽引しており、エコシステム拡大のためアクセラレーターや投資部門を設立する取引所も多いです。一方で、2021年にDeFi、NFT領域が大きく成長したことで、取引所への資本集中は減少傾向にあります。
また、Appworksの「2021 Greater Southeast Asia Web3 Ecosystem Map」では、東南アジア各国のWeb3スタートアップとエコシステムについて紹介しています。
ベトナム
ベトナムからはSkyMavis(Axie Infinity)を代表に、SipherやPEGAXY、My DeFi PetやTHETAN ARENAなど多数のNFTゲームが勃興しています。
2014年に大人気となったFlappy Birdはベトナム人開発者によるゲームでしたが、ベトナムには中小ゲームスタジオが多数存在し、それらがNFTゲームに新規参入しています。一方で、ICOブーム時と同様に多数のScamも存在しています。
NFTゲーム以外では、暗号資産取引所のCOIN98やDeFiのKyberNetowrkなどが挙げられます。
インドネシア
インドネシアは世界第4位、東南アジア最大の約2.7億人の人口を誇ります。
2021年に株式投資アプリAjaibがユニコーン企業となり、Bibitも大型ラウンドを予定、PluangはAccelをリードに$55Mを調達したようにインドネシアの資産運用市場は急速に拡大していますが、それでも株式投資よりも暗号資産投資人口が多いという意味では、Web3スタートアップにとっても魅力的な市場だと言えそうです。
Indodax、Tokocryptoなどの暗号資産取引所を中心に、暗号資産運用アプリnobiやNFTゲームのAvarik Sagaが注目を集めています。
フィリピン
フィリピンでは人口の約4%、436万人が暗号資産を保有しています。オンラインゲームギルド自律分散型組織(DAO)のYield Guild Games(YGG)、Tiger GlobalやUBXの投資する暗号資産取引所PDAX、ゲーム内NFTの生成に取り組むBreederDao、2017年にGojekに$72Mで買収されたCoins.phなどのスタートアップが挙げられます。
タイ
タイはサイアム商業銀行(SCB)が全株式の51%を178.5億バーツ(約610億円)で取得した暗号資産取引所Bitkub、シンガポールのUOB銀行傘下のUOB Venture Managementやセブン銀行から資金調達している国際送金サービスLightnet、Multicoin CapitalやDefiance Capitalから資金調達して複数DeFiプロダクトを展開するAlpha Finance Labなどが代表的なWeb3スタートアップです。
シンガポール
CoinHubによる「The Definitive Crypto Country Ranking Guide For 2021 Q4!」レポートでシンガポールは暗号資産の1位となっています。金融機関による受け入れ、取引所やウォレットの有無、政府の規制、分散型金融(DeFi)の普及、金融サービス、透明性、仮想通貨の利用、仮想通貨をめぐる銀行の動きの8項目を基準とした調査であり、シンガポールは暗号資産の法整備や普及に対して戦略的に取り組んでいました。
一方で、2022年1月にシンガポールの金融管理局(MAS)は国内における暗号資産関連の広告を制限するガイドラインを公開しており、新規ライセンス取得への規制も強化されたことによってドバイやヨーロッパへ拠点移転を実行/検討する会社が増加しています。
シンガポールのWeb3スタートアップとしては、暗号資産金融サービスMatrixportがユニコーン企業となっており、SBI Holdingsなどから資金調達する暗号資産取引所Coinhako、Accelやa16z、Tiger Global ManagementなどからシリーズBラウンドで$75Mを調達したブロックチェーンデータ分析のNansen、Crypto.com CapitalやHashedから$18.9Mを調達したNFT特化型プラットフォーム開発ENJINなどがあります。
おわりに
東南アジアにおけるWeb3スタートアップの事業機会は既に大きな動きのあるローカル暗号資産取引所やNFT、DeFiやL1/L2はもちろんのこと、セキュリティ、インフラ&Dev Tool、暗号資産クレジット・デビットカード、中小企業ファイナンス、DAOツール、NFT SaaSなど広範に存在しています。
直近数ヶ月、東南アジアのWeb3スタートアップやクリプトファンドとお話しする機会を増やして全体像がうっすらと掴めてきたタイミングですが、まだまだ広く深くは理解できていません。Web3領域は急速なスピードで発展しており、新たな事業機会が生まれ続けるマーケットであり、今後さらにキャッチアップを進めていくのがとても楽しみです。
私たちジェネシア・ベンチャーズもWeb3スタートアップへの投資に取り組んでいきます。Web3領域の起業家や投資家、アクセラレーターや弁護士などエコシステムビルダーの方々とお話しさせて頂きたいと思っています。
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