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【PRES】アカデミアから知のインフラをつくる ーイノベーションが多発する未来のために|Players by Genesia.

インタビュー

「SF(Science Fiction)」という言葉から、あなたはどんな世界をイメージしますか?

私がイメージしたのは、森 博嗣氏のWシリーズという小説の世界でした。

今から数世紀後のその世界では、人間とロボットとニュータイプの“人間”が共存する。ニュータイプの“人間”とは、ボディは人工細胞でできていて、知のデータがポストインストールされた、純粋な人間とほとんど区別できない存在。病気や老化も人工細胞で治癒が可能で、純粋な人間もほとんど不老不死を実現した。一方で、失ったのは生殖機能と独立性。人工細胞はネットワークに常時接続。知はデータ化されているため、ボディを持たずに生き続けている人々もいる。つまりは、世界は広大なネットワークの中にも存在していて、生きている/存在しているという概念が二次元と三次元の間であいまいに浮遊している。ネットワーク上ではトランスファと呼ばれるAIが成長を続けていて、国はお抱えのトランスファ同士で覇権(権限や領域)を巡ってネットワーク上で戦争をする。
(※個人の解釈です。ご興味があればぜひ読んでみてください!)

「SF」で描かれるのは、未来への期待と警鐘。希望と恐れ。そして、「私たちはどんな世界で生きていきたいのか?」「ユートピア/ディストピアとは何か?」「何が本当の理想なのか?」という問い。

今回のお話の中では、希望に満ち満ちた持続可能で壮大なSFの世界を垣間見た気がしました。

PRESは、toアカデミアの研究DXプラットフォーム『Wizdom』を運営するスタートアップです。イノベーションの源泉である研究業界を構造ごとイノベーションすることで、人類の進歩を加速する未来を目指しています。描くビジョンは、連続したイノベーションがつくるSFのような未来。そのストーリーについて、担当キャピタリストの一戸が聴きました。

  • デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん
  • 聞き手・まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田 愛

自身の写し鏡のような、PRESの事業

一戸:

大滝さん、今日はよろしくお願いします。
僕もまだチーム内では若手と言われていますけど、大滝さんは僕よりも若い。今24歳でしたっけ。なぜこうして起業することを選んだのかっていうところも含めて、これまでの歩みみたいなところからお話を聴いていければと思ってるんですけど、まずはちょっと僕の大滝さんへの印象からお話しさせてください。
大滝さんって、知的好奇心というか、社会全体についての理解や認識を深めようっていう欲求が人一倍強いのかなって思うんですね。ある何らかの情報を受け取ったときにその情報を頭の中でConnecting dotsするみたいなことは多くの人がやってると思うんですけど、大滝さんはさらにもう一歩先というか、自分の頭の中だけに限定せずに、例えばインターネットだとか、自分の外にあるCPUも活用しながら、点と点を結びつけて線にするってことをすごくやられてるなっていう印象があります。毎日その日に得た重要な情報をメモアプリにアウトプットしているというのがその例かなと。それがすごく印象的というか象徴的だなって思うんですよね。
それで、PRESの事業と大滝さんの特性や特徴を並べてみたときに、その二つってかなり繋がりがあると思います。大滝さんが自分の頭の中だけに限定せずに外部のCPUを活用してやられている、点と点を結びつけて情報を整理して有機的に繋げる、みたいなことを社会全体でやろうとしてるのがPRESなのかなと。つまり、当然ですけど、世の中にはたくさんの人たちがいて、みんなが日々いろんな情報を受け取ったり処理したり発見したりしてる。その人たちの脳みそ(情報)をすべて一ヶ所に集めて、それらの情報が有機的に繋がるようなしくみを作って、必要としている人のところに必要な情報が適切に行き渡っていく、みたいなことを本気でやろうとしてるんですよね。それが、PRESが目指しているイノベーションの姿。つまり、大滝さん自身の特徴とか習慣とか思考特性みたいなものがそのままPRESの事業に繋がってるんだなと思います。

大滝:

本当にそうですね。僕とPRESは写し鏡というか、完全に連携しているというか。僕がイメージしている世界観みたいなところがそのまま発出したのがPRESですね。

一戸:

大滝さんはいつ頃からそういうこと・・つまり、溢れんばかりの自分の知的好奇心にリミッターをつけることなく、情報を集めて繋げて処理して整理する、みたいなことをされてるんですか?

大滝:

難しいですけど、思い当たるのは小さい頃からの収集癖みたいな部分ですかね。爬虫類とか昆虫とかポケモンとかのフィギュアを集めて、それを「鑑賞点」からの遠近法に沿って配置してみたり・・つまり、1/8スケールのフィギュアを内側に、1/20スケールを外側にして、「鑑賞点」を中心として円形にそれらを配置する、みたいなこととか、自分専用のゲームの攻略情報をインターネット上のどんなサイトより綺麗にノートにまとめたりとか、とにかく一つ一つのオブジェクトというより、特定のフォーマットで揃えられたデータベース全体を愛でる。そんな子どもだったんですよね。一定のルール下で集められたもので特別な空間をつくる、みたいなことですね。そういう癖が今もずっと続いてて、それが一番拡張された状態が今PRESになってる感じです。
ゲームの攻略情報とかもそうでしたし、今でも日々あったこととか読んだものとか見たものとか、それこそ一戸さんが送ってくれたWEBの記事とかもそうだし、そういうものを全部一定のルール下で同じフォーマットで溜めていくみたいなことをしてます。その延長線上で、じゃあ世の中で一番溜めたいものって何だろう?っていう自問自答をずっと繰り返してきた。それが主観的なデータなのか?って考えたときに、もう主語を“自分”じゃなくて“人類”にしてみようってなったんです。博物館を作るのが夢で、もちろん物理的にもなんですけど、それを人類全体の“知の博物館”としてインターネット上に作ろうとしてるのがPRESです。
僕は、ホモ・サピエンスという生物が好きです。そして、集めることが好きです。だったら人類全体が必要としてるものを集めよう、それを仕事にしようって考えたら、やっぱり、人類ならではの知識を集めるのがいいんじゃないかなって。時間を超えて、普通の動物にはできないような知識の伝達が可能な生物=人類だからこそ、それを加速させることによって、何かすごくおもしろいことが起こるんじゃないか。「情報」を集めるということにはものすごい価値がある。それはお金になるとかって次元を超えて、人のためになるとかって次元も超えて、人類そのものの進化に影響を与えるんじゃないか。言葉が発明されたのと同じくらいのレベルの大きな分岐点になるんじゃないか、って考えてる感じです。

一戸:

世の中の情報を集めるっていう発想はわかります。ただ、それってGoogleがすでにやってることにも近いイメージじゃないですか。そこからPRESが、研究領域・・特に研究者とか論文とかにフォーカスしたきっかけって何だったんですか?あと、主語が自分自身の“I”から、人類の“We”に広がったのも何かきっかけがあったんですか?

大滝:

まず先に来るのが、主語が“I”から“We”に広がったっていう方かなと思います。そもそも僕は人間に対する興味が実はそこまでないんです。別に嫌な意味ではなくて、僕は特に共感力が高いタイプではないので、もちろん国語的な意味での会話はできるんですけど、その中の情緒的な面とかは別に楽しんでないというか。どちらかというと、生態系としての人間や人類っていうものの方に興味があるんです。究極的には、僕個人がどう感じるかとかどう思うかっていうこともどうでもよくて、人類全体にインパクトがあるものって何だっけ?みたいなことを考えるのが好きだし、単純にスケールが大きいことほど喜びが大きいって思う部分もあります。僕が興味を持つデータだけじゃなくて、人類全体に必要なデータを対象にした方が、集める対象が増えるよなって。よりたくさんのものを集めたいっていう欲求が一番膨らんだ結果が、“I”から“We”への主語の転換なのかなってイメージです。

一戸:

スケールが大きければ大きいほど喜びも大きくなるってことに気づいたり意識したりしたきっかけはあるんですかね?

大滝:

人生って100年もないわけですよね。その中で自分の喜びだけを優先しちゃったら、すごく短期的なサービスというか短期的な思想しか残らないじゃないですか。それって残して意味あるんだっけ?って、自分の小ささみたいなことを感じるんですよね。僕、70歳とか80歳で絶対にコールドスリープするって決めてるんですよ、それで、普通に死んでたら僕が知り得なかった未来まで見に行きたい。夢みたいな話かもしれないですけど、できるなら絶対にしたい。コールドスリープから目覚めた100年後、その間の歴史を勉強するのがPRESのサービスであってほしい。

株式会社PRES 代表取締役 大滝 翔士

“I”から“We”に、「抜けた」タイミング

一戸:

大滝さんの発想って、本当にリミッターがないですよね。昔から周りに似たような考えを持ってる人がいたんですか?

大滝:

そういうことはなかったですね。でも、自分がすごく小さい存在だってことはずっと理解してた気がします。原点かはわからないですけど、小さい頃、劇団に入って子役をやってたんです。そのときの記憶って、僕にとってはけっこう嫌な記憶で。周りが大人ばっかりじゃないですか、だから自分の主張が全然通らないんですよ。監督やスタッフの人たちの指示のまま、メイクもされるがまま、泊まる場所も食べるものも用意されていて誘導されるがまま。そんな環境の中で、自分の能力の低さというか、できることの少なさや自由のなさみたいなことをずっと感じてました。そのせいか、その後の僕の人生はずっとそういう制限やリミッターみたいなものを取っ払おうって動きが多くなりました。行動が制限されるってことだけに留まらず、生物学的な寿命とか主観的なこととかも、僕にとっては制限の一部で、本当に自由になることを阻む存在だと思ってます。それらを極力排斥しようとしてきた結果、今に至る感じです。
家が転勤族で友だちも多くなかったので、一人遊びとか妄想の時間が長かったことも影響してるんですかね。その中で、自分の世界ができ上がっていったというか。一方で、中学生の頃にやっぱり親の転勤で中国に住むことになったんですけど、その時の衝撃は本当に大きかったですね。それまでの僕の中の常識が全部壊れた感じでした。でも日本に帰ってきてからはまた刺激のない籠ったような日々で、常識とその破壊の行き来の狭間で、自分の中の何かを持て余していた部分や渇きみたいなものもあった気がします。

一戸:

大滝さんってコンプレックスとかあるんですか?

大滝:

コンプレックスしかないんじゃないかなぁ・・いや、でも意外と何もないのかもしれないです。ナルシシズムに近いものがあるかも。というのは、自分の主観とか好みとか、そういう好き嫌いを放棄してるというか。僕にももちろん感情とか人間として合理的じゃない部分とかはあるんですけど、その制限を突破しようと頑張ってる自分のことは好きだし認めてるかもしれないですね。
コンプレックスって、実際はいろいろとあると思うんですよ。それこそPRESのメンバーも含めて僕の周りにいる人たちは、僕ができないことや僕がコンプレックスに思ってることができる人たちばっかりで、そういう人たちとチームを作るっていうスタイルなんですけど、それはまさに、コンプレックスはあるんだけど、それをみんなで相互にどうにかしようよっていうように変換ができているってことで、だから別にコンプレックスを感じてないのかもしれないです。コンプレックスを感じても、助けてくれる人がいないか探してみようとか、自分でどうにか成長できないかとか、そういうマインドを持っている自覚があるから、コンプレックスはないって言えるかもしれません。
例えば、勉強とかもそうですね。僕は本を読む習慣がなかったり、そんなに学校の勉強もしなかったりしたから、歴史とか哲学的なことを考えるのがすごく苦手だったんですよ。でも、ここ3年ぐらいですかね、がっつり勉強して今はむしろちょっと詳しい人みたいになりました。そうなるともう、コンプレックスって何だっけ?っていう。自分次第じゃんって思う部分はあります。だから、コンプレックスそのものがうんぬんていうより、コンプレックスを克服できた喜びの連鎖を重視するマインドがあるような気がします。

一戸:

大滝さんのこれまでの人生振り返って、一番の成功体験って何ですか?

大滝:

どうかな。定性的ですけど、自分の中「抜けたな」って感じたタイミングがあった、あの経験ですかね。会社を建ててちょっとしてから、あったんですよ、そういうタイミングが。僕がこういうよくわからないことをしゃべるようになったのが、たぶんその時期くらいからなんですよね。さっきの、主語が“I”から“We”に広がったっていう話も、その時期だったかなと思います。ミクロの視点がマクロな視点になった。その瞬間に、全てがどうでもよくなったんですよね。常識なんかどうでもいいし、誰が何をやるとかもどうでもいいし、みたいな。そのタイミングは強烈に覚えてます。伝わりますか?なかなか伝わりづらいんですけど、そのことに気づけたってことと、それが気づけて良かったねって思えたこと、そのリンクみたいなことが、僕の中ではすごく強烈な経験だったんです。今までいろいろ経験したり試したりしてきて、でもなんとなく燻りみたいなものがあって、事業もピボットを繰り返してきたんですけど、その中で「あ、これだ」「カチッとはまった」「やっと見つけた」みたいな感覚。成功体験というか、喜び体験みたいな感じです。何なら、親にも報告しました。

一戸:

そういう報告をするくらいご両親とは仲がいいんですね。どんなご両親なんですか?

大滝:

父が単身赴任中で、妹も忙しいので、家に母と2人でいることが多いんですよね。小さい頃って、寝る前にお母さんとお話しする時間とかあるじゃないですか。それの延長って感じで、今もよく話します。母はけっこう思想が豊かな人というか、さっきの「抜ける」みたいな感覚を持ってる人なんです。僕に自分の小ささを教えてくれたのも母かもしれないです。僕が言ったり考えたりしてることがなかなか周りにわかってもらえないとする。でも、それでいいよね、そういう考え方もあるよね、みたいな対話をしてくれるのは、主に母ですね。僕がいろいろ勉強したり吸収したりしたものを全部そこ(母の前)で吐き出す。向こうは何も返してこないんだけど、理解しようとする姿勢みたいなものを示してくれるので、それがまた僕を刺激して、結果的に僕がアウトプットの中で学びを得て帰っていくみたいなことを、三ヶ月に一回くらいしてます。

一戸:

僕も母とはいろんな会話をするので、その感覚はわかる気がします。あんまり友達が多い方ではなかったので、小学生の頃とかも毎日友達と遊んでるって感じじゃなかったんですね。だから、母と過ごす時間が一番長くて、高校生くらいになっても母と話す時間が一番充実してたというか。それこそ、僕の両親も学歴とかはないんですけど、二人とも心の豊かさというか、思考のバランスみたいなところを持っていて、尊敬してます。僕も実家に帰ると、母にいろんなことをバーッて話して、聞いてもらえるので気持ちよくなって、そんな中でふと母親が言った一言がすごく心に残ったり響いたりして。そういうのって大体後からハッと気づいたりして。大滝さんと近しいところがあるかなと思いました。

人類全体に伝達する手段=科学

一戸:

と、ちょっと話が逸れちゃいましたけど、大滝さんが何でPRESで研究領域を対象に事業を展開してるかってところを聴いていってもいいですか?

大滝:

そこは、思想というよりロジックが先行してるような気がします。情報や人類全体の知識・知恵っていうものをアーカイブして次に紡いでいくような機構を作りたい、っていうのが僕とPRESが実現したいビジョンで、言ってしまえば、それを実現できるならどういうルートでもいいっていうのが本音です。ピボット繰り返してきたのも、ビジョンを変えてきたのではなくて、その手段を変えてきた感じです。
その上で何で研究領域を対象にしたかっていうと、結局その人類の知恵や知識の一番の源泉ってどこだろう?って考えたときに、知識ってたぶん“科学”と似た意味だと思ったんです。科学っていうとどうしても数式とか実験みたいなイメージがあると思うんですけど、「再現性があることを言語化して、どんな状況でも応用できるように後世に残していく」、その姿勢そのものが科学だと思ってます。再現性っていうところが一番大きいんじゃないかなと。だから、科学=情報を次に伝えていく力。宗教革命の時代なんかは、ストーリーで伝えて共感で人を集めていく感じだったと思うんですけど、そういう宗教とか感情とかじゃなく、地域や文化に関わらず、人類全体に伝達する手段=科学っていうのがそもそも科学ができた発想。だから、いわゆる科学者って言われる人たちを一番最初に押さえて、その人たちが気持ちよく情報発信や情報伝達できるような状態にすることが大前提だよねって考えてます。情報の一番の源泉や発端が、科学、つまり研究領域だって仮説を立てた形です。

一戸:

科学や研究って、もちろん難しいと感じるものもあれば身近に感じるものもありますよね。心理学とか社会学とかになると、感覚でわかりそうなことなのにこれも学問・・科学なんだって思うこともけっこうあるじゃないですか。だから、例えば僕自身が何かをふと感じたり考えたりしたときに、それについて調べてわかりやすくノートやメモに残すことも伝えていくこともできるじゃないですか。そういう意味では、僕も科学者の一人と言うこともできると思うんですけど、大滝さんの中では、科学者や研究者ってどこまでの範囲を指すんでしょう?

大滝:

一次レイヤーとしては、論文を書く人です。まだ世の中に明示されていないことを調査して、それを再現性あるかたちで世の中にアウトプットしようとしている人のことを研究者って捉えてます。二次レイヤーになると、いわゆる専門家みたいな人たちも入ってきます。論文をたくさん読んだ人がその分野の情報をまとめて抽象化したら、それもまた新たな情報源ですよね。そんな感じのイメージですけど、いずれはもちろん一次とか二次とか関係なく全部に対応したいと思ってます。一戸さんは、今のままなら一般的な人たちという意味での三次レイヤーだと思いますけど、一次レイヤーや二次レイヤーになる可能性ももちろんありますよね。

一戸:

PRESが目指す世界観について、僕は大きく二つのことをイメージしてます。一つが、単純に業務を効率化をしていくところ。もう既にある研究の仕方だとか、共同研究のマッチングの仕方だとか、そういうところを効率化していくことによって、さらに研究のスピードが上がったり成果が最大化したりすることを目指すってことですね。もう一つが、PRESが存在しているからこそ生じるイノベーションをいかに多く生み出していけるかというチャレンジ。やっぱり研究領域ってイノベーションの一番川上というか、社会全体でも最先端な感じで見られているところかなと思いつつ、とはいえ、他の領域と同じように課題や非効率なオペレーションは当たり前にあるじゃないですか。PRESとしては、まずそうした負の解消に取り組んでいく中で、副次的にデータが蓄積されていく。その蓄積されたデータをもとに、我々PRESが存在するからこそ生じるイノベーションを引き起こしていくっていう流れだと思っています。たくさんの企業と研究室だったり研究室同士だったりの共同研究を増やしていく、みたいなところですね。それが、PRESの介在価値や存在意義になるのかなと思ってます。一方で、そのプラスアルファのところって難易度が高いとも言えるので、初期的にはとにかく研究室の業務効率化に注力していく必要はあるかなと思ってるんですけど、大滝さんがイメージする5年後とか10年後とかのPRESの位置づけみたいなものってありますか?

大滝:

僕は、僕たちのビジョンの実現までには4段階あると考えています。一戸さんが言ってくれたのがまさに最初の2段階です。まずは源流の効率化、そこに続くかたちで、情報共有や拡散のしくみづくりの加速化。そして結果的にマッチングやイノベーションが生まれる。それこそ、第1フェーズの効率化がマイナスからゼロにするしくみで、第2フェーズ以降はゼロからプラスにするしくみですね。で、それらが整った後に第3フェーズとして、研究者という範囲をどんどん広げて展開していく。最後の第4フェーズでは、それが人類全体に広がるイメージですね。10年後とかってなると、第2フェーズと第3フェーズの間くらいかな。例えば、研究室の中で何か研究を始めようってなったら、当たり前のインフラとしてWizdomが導入される状態ですね。なぜならそれ一つで全て済むから。第1フェーズでは、研究者が研究にフォーカスするためにWizdomを導入するっていうすごく当たり前の状態を目指します。第2フェーズでは、みんながもうWizdomを使っているので、そこが共同研究のHUBになってる状態ですね。そこまではけっこうイメージはついてます。ただ、第3フェーズになると、もうどんどん情報が公開されてデータベースみたいなものが一定出来上がってるイメージなんですけど、それをどう一般の人に展開していくかが難しいなと思っています。

一戸:

一般の人にも展開していくイメージって、具体的に言うと?

大滝:

純粋な論文が一次だとしたら、書籍とかWEBの記事とか大学の授業とか解説動画とかが二次・三次の情報で、それらの発信源が有機的に繋がってる状態というか、全てのデータがデータベース上にマッピングされてるというか、そんな状態をイメージしてます。科学されたことが論文になって、それがまとめ論文みたいになって、それを読んだ専門家が本にしたり発信したりして、それを一般の人が受け取る。これを全部同じデータベース上でやるイメージです。

一戸:

PRESには「イノベーションのインフラを確立する」っていうミッションがあるじゃないですか。その第3フェーズまで手を広げるということは、そのミッションとどう関連してくるんですか?

大滝:

インフラってTimelessというか、時代によって本質的な価値は変化しないものだと思っています。そこで、ずっと言っているように僕の主語はあくまで“We”で、人類全体なんですね。なので、今いる研究者の人たちだけが働きやすくなればいいっていう思想じゃなくて、人類全体がよくなっていくためにはまずは源流である研究者たちの体験を一番いいものにしなきゃいけない、それから次に研究者になる世代やそのまた次の世代のことまで考えて、人類全体にイノベーションを起こす可能性を持っている一人一人の人にしっかり種を植えておかなきゃいけないっていうのが僕のイメージですね。だから、研究者だけとか一定レベル以上の人たちだけをターゲットとして限定することが「イノベーションのインフラになる」ってことじゃなくて、人類が、個としても種としても成長できるインフラを整えるっていう意味です。みんなが適切に知識を得て成長していくことができれば、イノベーションが生まれる確率も多くなっていきますよね。今の研究者の人たちだけじゃなくて、その子供とか孫とか、次世代の人たちがどれだけ早くイノベーションを起こせるかとか、どれだけ豊かな発想でイノベーションを起こせるか、みたいな話です。

“知識版のGoogle Maps”をイメージした「独学インフラ」

大滝:

僕たちが目指す世界の話を改めて整理すると、研究者の人たちの業務が効率化された状態が第1フェーズで、共同研究とか助成金とか含めて資金の流れとか全ての流れというか循環のしくみが研究市場全体でしっかりとできている状態が第2フェーズ。第3フェーズが、それらが一般の人たちにもより流通しやすいようなしくみになるってことでした。で、第4フェーズについてはもうムーンショットみたいなことにはなるんですけど、イメージは「教育市場をつくる」ことです。今の言葉で言うと「教育市場」なんですけど、僕たちは「独学市場」とか「独学インフラ」ってあえて言ってます。要するに、教える側っていう立場がなくて、そもそも学ぶ側の視点から市場って作られるべきだよねっていうのが僕のそもそものメッセージなんです。じゃあ「独学インフラ」って何かって言うと、まさに知識に対する万能感というか、何でも学べる/何でも学ぶことができる力を持ってる感じで、その機会が誰にでも平等にある。どんな立場でどこにいようがどういう人だろうが関係なく平等にチャンスが与えられていて、やろうと思った人/やる気がある人はどんな人であっても情報にアクセスできて学ぶことができる。それが、僕たちがイメージしている「独学インフラ」です。
具体的にどんなものかっていうと、“知識版のGoogle Maps”みたいなものです。Google Mapsを作るにはそもそも地図のデータが必要ですよね。それがPRESでいうと知識のデータ。それらが全てプロットされるデータベースみたいなものがまずあります。それが、マイルストーンの1から3までで作られた知識のネットワークで、地図全体。そこに、ユーザーの目的地と現在地を両方とも取る。目的地っていうのは、Google検索とかと同じで、知りたいこととか学びたいことをキーワード検索したりピンを立てたりするみたいなことです。今もみんなやってますよね。逆に、今は全然できていないと思うのが、自分の現在地を取得すること。自分が知識のマップ上で今どういう位置にいるのか、どれぐらいのことを知っているのか/学んだことがあるのか、みたいな現在地をちゃんと取得することができるようにする。この3つ=「地図データ」と「目的地」と「現在地」のデータが揃うことによって“知識版のGoogle Maps”が実現できると僕たちは考えています。そして、この3つがわかることによって、ルート検索ができるようになる。こういう道筋で学んでいけばいいよっていうことがわかる。目的地にピンを立てたら必然的なルートが算出されて、あとはどれを選ぶかだけの話です。どの電車に乗るか、それを選ぶと時間やお金がどれくらいかかるか、そういうことがぱっとわかるっていう話になってくると思います。
人が生まれたとき=0歳のときにこの独学インフラのアカウントを与えられて、そこからずっと知識のログみたいなものがその地図上に全部プロットされて、自分の歩みが記録されていく。その最新版が現在地で、そこからどこに行きたいかっていうのを決めるとルートが算出されて、その通りに勉強していくってことをずっと繰り返していく。そういう状態が、PRESが目指している本当に極限の世界です。そこまで来たら、もうPRESはいらないというか、インフラになっているので、僕たちもmission accomplishedだって思える状態だと思います。一つ一つのマイルストーンもそれぞれすごい大きいことなんですけどね。最終的に目指すところは、本当に極限まで大きいことだと思ってます。それが実現される頃には、ビジネスじゃなくて公共事業みたいになってるかも。

一戸:

公共事業っていうのは本当にその通りだなと思いますね。というのも、PRESが取っていくデータというか知の範囲って、民間で運営している限りは、全てではないと思うんですよね。PRESが初期的に研究領域とその派生領域から事業をスタートすることを考えると、例えば小学校の算数とか国語とかのデータはPRESにはなくて、それはまた別のプレーヤーが蓄積してると思うんです。だから、自分たちだけでやろうとしても蓄積できるデータの範囲に限界がくるから、公共事業なのかNPOなのかとかはたしかにわからないですけど、全てのデータを取りまとめるような機関というか機構みたいなものを立てて、そこがPRESのデータも他のプレーヤーのデータも束ねて、複雑に絡み合ったものを整理して、一つのプラットフォームとして管理するというような。

大滝:

オープンソースっていう言葉がたぶん一番近い気がします。Google MapsのAPIとかもそうだと思うんですけど。ただ、土台はしっかり専門家たちの手で管理されている。だからこそ、そう、インフラだからこそ、その上に成り立つビジネスもきっといくつも出てくるはず。例えば、一戸さんが挙げてくれた小学校レベルの教育領域とかもそうだと思うんですけど、うちのデータベースでいうとこれくらいっていう知識をさらにわかりやすくかみ砕いたり要約したり教えたりっていうのは、派生ビジネスとして成り立ってくる。まさに、オープンソースっていう感じですね。

研究の電子化とオープンデータ化という潮流

一戸:

そんなPRESのビジョンやミッションを後押しするトレンドとか大きな潮流みたいなところでは、電子化とかオープンデータ化[*1]、さらにSDGsみたいなキーワードがあると思うんですけど、個人的には、SDGsの17のテーマのどれかに当てはまるっていうよりは全てのテーマの基盤になっていくものなのかなって、全てのテーマに対してインパクトを与えるものなのかなって思ってます。知のデータベースをしっかり整理したところから共有や循環が生まれて、イノベーションを継続的に発生させていく。それによってSDGsの全てのテーマにおいて目標を達成しやすくなるとか、目標達成できるとか、そういうイメージが一番近いかなと思ってます。
一方で、Why Now(なぜ今なのか)みたいなところを考えると、SDGsも電子化とかオープンデータ化とかも、割とロングスパンの流れだと思うんですよね。そこをよりミクロでというか短期間の目線で考えたときに、一つは10兆円ファンドのことがあるかなと思っています。これは日本国内の話ですけど、10兆円規模の大学ファンドが実際に2020年から設立・運営もされ始めて、日本の研究領域をもっとちゃんと盛り上げていかなきゃいけないよねっていう国と現場のムーブメントが重なり合って、共通認識ができて、こういう形になったのかなと思ってます。あとは、10兆円ファンドの資金使途を見ると、若手研究者比率を高めるとかダイバーシティ環境を醸成するとかが挙げられてるんですけど、やっぱりそういった現場の人たちの属性が変化するタイミングがこれまでのオペレーションとか業務フローを見直す機会にもなり得るのかなと思うので、そこにPRESがうまく価値を提供していけるといいなと思っています。
大滝さんは実際にこの一年くらいをかけて80以上の研究室を周られてたと思うんですけど、その中で感じたことって何かありますか?

[*1]オープンデータ化:「研究データを研究室内だけではなく全世界で共有し、協力しながら研究を進めていく」という意味で使用

大滝:

僕の中では、電子化とかオープンデータ化もどちらかというとミクロの話だと思ってます。どちらも第1フェーズに関わることだなと。
まず電子化でいうと、例えば文科省が研究のDXを推進していることが挙げられます。研究データの公開や共有の推進、産学官ユーザーの横断検索などを可能にするため、2022年度には62億円の予算案を提出しています。
そして、オープンデータ化っていうのは、グローバルの話なんですけど、すでにGitHubとかで実験器具の情報をデジタルで取得するAPIみたいなものとかが公開されてたりするらしいんですよ。それこそ、僕がヒアリングした研究室の方が作ったミニアプリケーションみたいなものがアメリカのどこどこで使われてたみたいな話があったりとか。そういう、情報をオープンにして研究界隈全体で助け合っていこうみたいなムーブメントが、すでにあるらしいんです。
あと、一戸さんは、論文のアーカイブってご存知ですか?論文公開のプレプリントサーバってものです。こちらはかなり前からある仕組みではあるんですけど、数学や情報学などの分野ではプレプリントの論文を公開することがよくあります。通常。論文は「査読」というかたちで、同じジャンルの研究者からチェックを受けるプロセスを経て、一般に公開されます。プレプリントというのは、その査読プロセスを省いて、そのまま公開されている論文のことです。科学的な正確性の担保という意味で査読は重要なんですけど、めまぐるしいスピードで情報が更新されていく現代では、玉石混交が前提ではあるんですけど、そういう点も踏まえてみんなで情報共有しながら研究を発展させていくみたいなことがもうかなりメジャーになっています。それって一昔前だと考えられなかったことらしいんですけど。これまでは限定された人たちの中で極秘に進められていたようなことも、多少のリスクは考慮した上で、いろんな人とどんどんコミュニケーションしながら進めた方が早かったりいろんなコラボレーションが生まれたり、こちらもインプットを得られたりして、結果的にWin-Winなんじゃないかみたいな流れが来ているのは確実に感じますね。特に、すでにWizdomを使ってくださっている若かったりビジネス感覚が強かったりする研究者の方たちは、リスクとかじゃなくて、むしろどんどんオープンにやっていった方がいいよねって考えられていると思います。
研究DXの流れの後押しもあるんですけど、電子化っていう流れは確実にあるよねっていうのが一つ。そして、共同研究のマッチング活性化にも繋がってくると思うんですけど、グローバルなオープン化の流れが一つ。この二つは、研究領域の中で感じていることですね。

イノベーションを生む、アカデミアとビジネスの関係性

一戸:

最近、YouTubeの動画で見た話をしてもいいですか?中国で今めちゃくちゃ研究が進んでるっていう話は有名だと思うんですけど、ただ、今後もさらに中国の研究っていうのは進化・進歩していくのか?っていう疑問を投げかける動画だったんですね。その疑問の根拠は大きく分けて二つありました。一つ目が、そもそも研究ってコラボレーションが重要、かつ特にこの先はコラボレーションが不可欠になっていくのではという点において、中国は閉ざされてる/閉鎖されているから、よりグローバル化していく必要があるよねっていうことでした。二つ目が、科学ってそもそも批判志向だと思うんですけど、中国の政権とか体制の中だとそれがなかなか醸成されにくいのではということ。批判思考を持つ者は叩かれるイメージの国だと思うので、そこが一つのボトルネックになるんじゃないかということですね。その二つが挙げられていました。
今の大滝さんからのお話で、僕自身、特に一つ目のコラボレーションっていう点の重要さを改めて認識したんですけど、大滝さんがコラボレーションをより意識するようなできごととかタイミングとかって何かあったんですか?徐々にって感じなんですかね?

大滝:

オープンデータ化とかコラボレーションの流れって言っても、実際には国内でできていることってまだ本当に少ないと思ってます。海外に比べたら国内はやっぱりまだ一歩も二歩も遅れてる前提で話を進める必要があります。やっぱり海外の流れがまずあって、そこを後追いする形で日本が入っていくっていう構造ですね。なので、ここまで話してきた“流れ”っていうのも、まだ海外での最先端の動きという話で、国内では正直まだないんですよ。
ただ、電子化っていうところが今けっこう強制的に始まったんですよね。今まではその必要性に気づいた人たちから徐々に始めていくかたちだったのが、コロナ禍で一気にみんなやらざるを得なくなったみたいな。なので、デジタルへの関心はちょっと後れを埋めてきているところはあって、このまま日本でも電子化がスピーディーに進んで、ボタン一つでオープンデータ化もできます!みたいになるんだったら、近々のトレンドになる可能性はあると思います。でも、今はまだその文化がないのかなと思います。

一戸:

ちなみに、今研究室が電子化するってなったら、PRESのWizdomを導入しようっていうのも一つの動きだとは思うんですけど、実際には何に取り組んでる例があるんでしょうか?

大滝:

それが、正直まだないんです。例えば事業会社だと、売上を上げるかコストを下げるかで純利が上がるみたいな構造が前提として頭の中にあって、そこを効率化したりITツールを導入したりしてコストを下げるとか、それが結果的に生産性の向上に繋がるみたいなビジネス思考があると思うんですけど、研究領域ってそういうわけではないんですよ。ビジネスから切り離された世界なので。ただ、わかってはいるんですよ。電子化した方がいいですよね?って訊いたら100人中100人がYESって言うんですけど、じゃあ何かしますか?っていうとNOなんですよね。外部からの営業に対して研究室にはとことん壁があるみたいな話もあるんですけど、効率化とか生産性とか言っても、シンプルに“伝わらない”んですよ。だから、ちゃんと内側に入って、すごい定性的ではあるんですけど、これ使ってみたらなんかいいよね、効率化とか生産性とかはよくわかんないけどなんかうまく回るようになったよね、じゃあ使おうかって、そういう体験を丁寧に作っていくことが大事だと思ってます。研究に特化すべき人たちなので、それが当たり前なんですよね。世の中にはすでに効率化のサービスっていっぱいあるのに、単純にリソースもないし入ってくる情報もないっていう感じですね。

一戸:

これからPRESは、特にまずはそういう国内の研究室をターゲットにしていくと思うんですけど、大滝さんが彼らにこんな風になってほしいとか、こういうのが理想の状態だよねとか、そういうイメージはありますか?

大滝:

ちょっとアイロニックな話ではあるんですけど、僕はむしろ研究者の方にはより研究をしてほしいなって思ってます。最高のUXは、研究者が研究のことだけを考えていれば全てうまくいくっていう状態だと思ってるんですよね。研究者の方たちはビジネス思考を理解しなくてもいい。そんな極論を持ってます。アカデミアとビジネスはそれぞれ違うことをしようとしてるので。ただ単純にそこにHUBが存在していないだけ。僕たちは、それぞれの専門家ほどではないけどなんとなく両面について知ってる存在だから、そのHUBになることができる。僕たちは両面を知って動くのが仕事、アカデミアの人たちはアカデミアで動くのが仕事、だと思うんですね。
研究者の方たちにヒアリングすると、もっと研究したり実験したりしたいのに時間が足りないっていうニーズが実は一番多かったんです。それは裏を返せば効率化しようってことにもなるんですけど、僕たちが彼らに何かしてほしいっていうよりも、彼らは何もしなくても効率化とかコラボレーションとかが実現できる世界を僕たちが作る必要があるって考えてます。だからこそWizdomに価値があるっていう考え方です。それが実現できてないってことは、むしろ僕たちが悪いよねって。

一戸:

比較優位というか、それぞれが集中すべき領域に集中すればいいよって話ですね。

大滝:

そうですね。第3フェーズ以降で一般の人たちもWizdomに入ってくるようになっても、例えば学生は学ぶだけでいい、達成したい目標や目的があるならそれに応じたものをひたすら突き詰めていけばいい、中途半端に他のことに気を遣わなくていい、複雑なことは考えなくていいししなくていい、っていうのがPRESが目指すところですね。

一戸:

僕もそれは同意見で、とにかく研究者が自身の研究に割くリソースを最大化できるサービスに仕上げていきたいなと思ってます。イノベーションって、ビジネスとアカデミアのマッチングで生まれるっていうのはもちろんなんですけど、根本として研究が進まないと意味がないというか、どんどん新しい研究が進んでいくことが大前提ですよね。かつ、研究ってもちろん時間だけで解決するものではないものの、当たり前にそれなりの時間を要するものだと考えたときに、単純に100時間必要な研究があるとすると、1日10時間×10日なのか/1日5時間×20日なのかで成果が出るまでのスピードが2倍も異なりますよね。なので、PRESとしてはやっぱりまずはアカデミアがしっかり研究成果を上げ続けられる/持続可能な形で運営されていくっていうところをやっていかないといけないなと、まずはforアカデミアで研究者に大いに寄り添ったサービス作りをしていかないといけないなと思います。まずはそこが実現できないと、ビジョンも何も話にならないですよね。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ アソシエイト 一戸 将未
大滝:

全ての根源がアカデミア=研究室になると仮説を立ててるので。まずはそこに寄り添って彼らの声を一番最初に聞いていこうというのが今の段階ですよね。

「Good Questions, Great Answers」

一戸:

さて、だいぶいろいろ話してきましたけど、決して簡単なチャレンジではないことを改めて実感しますね。最後に、じゃあそのチャレンジをどんなチームでやろうとしてるのかってところを聴いてもいいですか?事前に「1.4B: Be Bored, Be Bold」「2.GQGA: Good Questions, Great Answers」っていう二つの指針をお伺いしてたんですが、具体的にどういうものなんでしょう?

大滝:

まだ策定段階で、ここからメンバーが増えてきて初めてこれが正しいかどうかわかるものだと思ってるんですけど、ただこの二つは本当に基本的なことだと思っていますね。今すでにチーム内で実践してることでもあります。例えば、何時から何時までずっとオンラインじゃなきゃいけないみたいルールも基本的には作っていなくて、かつ、睡眠とか散歩とか勉強会とか、仕事以外の活動を推奨してる。そして、その時間や活動も評価してる。そういう時間の中で得た新しい価値観とか新しい考え方を大胆に実装していこうっていう文化がある感じですね。そういうすでにあることを今回こうして言葉にしてみた感じです。

一戸:

休むことを評価する、っておもしろいですね。休むこととか余白の時間をつくることを推奨する、そしてその成果を評価するっていう企業やチームはあると思うんですけど、PRESは休むっていうプロセス自体を評価するってことなんですよね?

大滝:

そうです。惰性で休むのと、しっかりと決めて能動的に休むのとではすごく違うと思うんです。何が違うかっていうと、その人自身のマインドです。惰性で休んだ日ってやっぱりダラッとしちゃうと思うんですけど、ちゃんと休む準備をして実際にちゃんと休むと、能動的にリフレッシュする体験を作ろうとすると思うんです。送り出す方も送り出す方で「いいことだね」「どんな休みだったかぜひ話を聴かせて」みたいになって、「忙しいときに休みやがって」みたいな空気にならない。そういう文化にしたいんです。そうなると、みんな休みに積極的になって、心身共に健康という大前提の話ができると思ってます。休めない会社ってむしろダサくないですか?
「Be Bored」で積極的に余白の時間をつくって、そこで得た一見仕事に関係ない情報とか、自分を客観的に見た視点とか、そういうものを「Be Bold」でガツッと仕事に活かしていこう!という。

一戸:

「Good Questions, Great Answers」についてはどうですか?

大滝:

これも社内で実際に感じてることなんですけど、僕やマネジメント/リーダーポジションのメンバーがどんな要素を以てそれぞれのポジションなのかっていうと、「上下との連絡」だと思ったんですよね。要するに、下に対して適切な質問(イシュー)を渡せるかっていうことと、上からの質問に対して適切な答えを出せてるかっていう、その二つに集約できたんですよ。PRESでたぶん一番使われてる言葉が「責任」で、責任ってネガティブに捉えられることもあると思うんですけど、PRESでは、責任=何をどうすればより良くできるんだろう?っていう思考の話で、それを実際にできる人っていうのは、まず下にどれくらいいい質問ができるかっていうことと、上からの質問にどれくらいちゃんと答えられるかっていう、ここに集約されてるのかなと思ってます。あと、これは英語ベースで考えてるので、「Good Questions」には「難題」って意味もあるんです。英語だと、「答えにくい質問だね、えーと・・」みたいに使われたりもする。なので、本当に聞くべき質問って何だっけ?そんなに単純な問いじゃないよね?っていうメッセージを持たせてるところもあります。芯を食った質問こそ答えにくいから、それぐらいの難題というか、本当に答えるべき質問をできてるか/させてるかみたいなところをイメージをして。
あとはやっぱり、いい質問をする人といい回答をする人は同じくらい価値が高いっていう話があるんですけど、僕はどちらかというと質問の方を重視しているので、そのあたりも伝えていきたいなとは考えてます。僕の中では確立してるんですけど、言葉としてはまだ策定段階・試行錯誤段階っていう感じなので、チームでの共有や実践については、これからのチャレンジですね。

一戸:

チームPRESに必要な要素として僕が考えたのは、僕たちはHUBみたいな存在を目指しているので、イノベーションの主体ではないのかなと思う一方で、HUBとしてマッチングを生み出していく作業とかに入っていったら、そこには僕たちの意思も反映されるという意味で、一つのイノベーションの主体になっていくのかなと思うんですよね。となると、確実な正解とか不正解とかがないグラデーションの中で、僕たちとして何を良しとするのか、何を優先させるのか、みたいな話もあるじゃないですか。そういうときに高い倫理感をもって思考できる人がすごく重要だなと思ったんですよね。だから、ビジョン・ミッション・バリューの言語化とか、そこに強く共感してくれる仲間を集めることは、本当に改めてがんばっていきたいと思いました。

大滝:

僕は、僕たちはHUBでもあるんですけど、インフラを目指してると思ってるんですよね。で、個人的にはインフラがイノベーションの主体になるイメージはないんです。例えば、交通事業をやってる人からしたら道路ってたぶん良くも悪くも使われるべきものだと考えてると思います。スマホとかもそう。犯罪者全員が道路を使ってたり、犯罪者全員がスマホを使ってたりしても、それって道路が悪いとかスマホが悪いとはならないですよね。仮にそこでその技術やサービス自体に何か善悪の判断が生じてしまった時点で科学にとってはマイナスだと、僕は思うんですよね。もちろん最低限の倫理観はありつつも、人の視点の数だけ正義や真実はあるわけで、使い方の善悪まで提供側が決めすぎてしまうと、当然広がらないし社会も前に進まなんじゃないかと思ってます。
一戸さんの質問はすごく重要だし、たしかに懸念点だとも思います。もちろん、正しい心を持った人を採用したいと思ってます。一方で、僕がイメージしてるPRESっぽい人っていうのは、そこの善悪を自分個人で主導してしまう人ではないんですよね。

一戸:

純粋な研究自体に善悪はないというのは、たしかに理解できます。ただ、その先の人の意思・・悪意も含み得る人の意思について僕たちがどう捉えてどう考えてどう対応していくかっていう点は、継続的にディスカッションが必要というか、それこそチームの中心に据え続けておくQuestionsにすることは必要だと思いますね。

大滝:

このあたりは本当に大事な問いだからこそ、やっぱり一概に答えが出せないですよね。Great Answersには辿り着けないかもしれない。だからこそやっぱり、Good Questionsの方が重要ですね。
究極的には、研究と同様に僕たちのサービスもイノセントなものでありたいという思想です。基盤となるサービス上にいろんなイノベーションが発展していくように、たぶんいくらでもいろんなことができてしまうのかなとは思います。でも僕たちはその判断にまでは干渉しない。僕ら独自の正義感みたいなものを振りかざすことはしない。それがWizdomっぽいと、現時点では考えてます。

※こちらは、2022/3/2時点の情報です

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