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テクノロジーの恩恵を、真の意味で“すべての人”へ|黒崎 直樹

PHILOSOPHY

ジェネシア・ベンチャーズは2016年の設立以来、「新たな産業の“種”から”最初の芽”を出すこと」を自分たちの役割だと考え、一貫して創業初期のスタートアップの1stラウンドにおいて投資をしてきました。まだ事業アイデアしかない、起業家一人だけのチームで組織もオフィスもない、そんなフェーズのスタートアップに投資し、未来をより豊かにするサービス/プロダクトを広く世の中に届けるために私たちも“チームの一員”という意識で伴走しています。

2022年に、国が主導する「スタートアップ育成5か年計画」が策定され、日本のスタートアップに各方面からの注目と投資マネーが集まり、また、スタートアップを生み出し育てるためのエコシステムも各地・各所で大きく育ちつつあります。

その中で、新しい技術、新しいサービス/プロダクト、そして新しいリーダーたちとともに、「社会に対して大きなインパクトをもたらすスタートアップを生み出すこと」を担うのはやはり、創業初期=シード期から投資をするベンチャーキャピタル「シードVC」であると、そして、私たちがまさにその当事者であると考えています。

本シリーズ『シード投資という仕事』では、ジェネシア・ベンチャーズで実際にスタートアップへのシード投資と経営支援に従事するベンチャーキャピタリストそれぞれが改めて考える「シード投資」と「シードVC」についてご紹介します。

  • なぜ「シードVC」に懸けるのか?
  • 「シードVC」としての役割やこだわりは何か?
  • そして、ジェネシア・ベンチャーズで実現したいことは?

本稿の主役は、Investment Managerの黒崎さん(以下:黒崎)です。

  • 聞き手・まとめ:Relationship Manager 吉田 愛/Intern 夏堀 栄
  • 2024/4/4時点の情報です

ずっと抗えなかった、起業やスタートアップの魅力

interviewer:

前年に2ヵ月間のMBA期間中のサマーインターンを経て、2023年の4月に正社員としてジェネシア・ベンチャーズにジョインした黒崎さん。VCを意識し始めたきっかけはあったのでしょうか?

黒崎:

学生時代や就職活動をしていた頃は、VCやスタートアップには全く縁がありませんでした。大企業に行くことが当たり前という当時の周囲の空気感もあり、僕も自然と大企業に目を向けて、その中でも興味があったテクノロジー領域ということでSIerなどを受けていました。転機になったのは、就職活動を終えた大学4年次のアメリカへの留学でした。僕がいた大学のビジネススクールには、まだスタートアップに転身する前のマネーフォワード辻さんやラクスル永見さんといった方々がいて、起業やスタートアップについてのお話をする機会があったんです。それで純粋に、かっこいいなと。就活中にお会いした大企業の方々の中にも尊敬する素敵な方はたくさんいらっしゃったのですが、それとはまた色が違う、まだ僕が出会ったことがなかった情熱を感じました。そこで本当に初めて、起業やスタートアップとのコンタクトが生まれました。
その後は内定していた富士通に新卒入社しましたが、起業やスタートアップへの興味はずっと絶えなくて、セミナーな本などで情報を貪ってました。そのときに読んだ、たしかサイバーエージェントの藤田さんの本に「起業家を支えるシゴト」としてベンチャーキャピタルが紹介されていて、僕はそこで初めてVCの存在を知りました。それまでは、社会に対して新しい価値を生み出したり事業を作ったりすることをすごくおもしろそうだと感じていたんですが、自分が、そうしたコトを成している「人」にすごくフォーカスしているんだと気付いて。彼らを応援するシゴトこそ自分にフィットするんじゃないかなと考えました。
そうなったらもうすぐにでもVCになりたいと思ったんですが・・

interviewer:

新卒入社からどれくらいのタイミングですか?

黒崎:

二年目くらいだと思います。

interviewer:

早い!すごい行動力ですね!

黒崎:

とはいえ、新卒採用してくれた富士通に対して恩もあるので最低でも三年は働こうと思い、実際に動き出したのはその後からでした。でもその当時、2013-14年頃には今ほどVCの数も多くなく、そもそも面接を受ける先がないとエージェントからも言われました。自分でも、大企業のエンタープライズ営業としての三年のキャリアだけでは難しそうだなとは感じていました。ただ、そこでエージェントの方から「VCに行く前にスタートアップで事業づくりなどを経験してみては?」というアドバイスを受けて、それもありだなと納得したんです。それで、当時アーリーステージだったSansanを紹介され、ご縁があって入社することにしました。結果的にこの選択は自分にとってかけがえのない意思決定になりました。

スタートアップの成長期に身を置いた上で、改めてVCを目指す

interviewer:

新卒からまる三年働いたところでVCになりたいと行動し始めるも、選択肢はほとんどなく。可能性を広げるためにスタートアップへと視点を移して、当時まさにアーリーフェーズのスタートアップであったSansanへ転職。Sansanでのお仕事はどうでしたか?

黒崎:

当初はVCというその先の目標があった上でのSansanへの転職・・という気持ちだったんですが、結果的には七年間働きました。Sansanに限らずアーリーステージの会社は全てそうだと思いますが、当時はそれなりに仕事量も多くタフな環境でした。将来のキャリアを考える余裕もなく、とにかく目の前のシゴトで結果を出して自分の存在意義を証明し続けることに必死な時期が続きました。最初は営業でも結果を出せずに悩んだりもしたんですが、ただひたすら目の前のシゴトに向き合い続けているうちに、徐々に評価を得て、管理職に登用されて少なくない人数のマネジメントも任せていただけるようになりました。その後、入社から五年ほど経ったタイミングでIPO。よくやってきたという気持ちが生まれると同時に、今後の人生をどう過ごしていきたいかな?と改めて立ち返る瞬間がありました。それで、「起業家を支えるシゴトをしたい」という原点の様な気持ちが消えていないことに気付き、いよいよVCに行こうと動き出したという経緯です。

interviewer:

それでMBAへ。

黒崎:

MBAを選択したのは、VCに必要なファイナンスの知識を補いたかったのと、冒頭でお話ししたアメリカ留学時にビジネススクールを見て、いつか自分もこのグローバルな舞台に身を置いてみたいと長年思っていたことが理由です。2022年の1月に渡仏して、その3月にサマーインターンを探す過程でジェネシアにコンタクト、オファーをもらって7-8月にサマーインターンという流れですね。

interviewer:

「シードVC」ということは意識していたんですか?

黒崎:

ジェネシアに入ってから意識するようになったというのが正直なところです。ただ、レイターになるほどファイナンシャルなスキルやナレッジに重きが置かれるだろうと感じていたので、自分自身の経験でいえばシードやアーリーの方が活きるだろうという感覚は持っていました。その上で、ジェネシアでのサマーインターンを通じて、Sansanで事業づくりをしてきた感覚や感性が活きる実感や手応えを感じました。
分析できるものがまだ何もないシードのスタートアップに対して、業界のマクロトレンドと起業家のポテンシャルにリスクを張って投資をしていくこと=産業をつくることだという田島さんやタカさんの言葉もすごく刺さりました。

interviewer:

アーリーなスタートアップで事業経験を積んだのまさに正解でしたね。

黒崎:

はい、その経験がなかったら今のキャリアはありませんでした。僕の経験談が全ての企業に当てはまるものでは当然ないですが、アーリーステージからIPOまでを経験したという一本の軸があることで、その軸と投資先の軸の比較はできる。その差分について個社の事情や特性を加えた上で思考して結論を出す、という頭の使い方はできるのでそこはすごく大きいと感じています。

真にテクノロジーの恩恵が行き届いた世界を目指して

interviewer:

実際にジェネシア・ベンチャーズに入って、シードVCとしてのシゴトをしてみて、どうですか?

黒崎:

投資活動以外のところでの、ファンドとしての中長期的な競争力を作る取り組みが多いことには正直びっくりしました。やっぱりシードになるほどスタートアップに不足している要素は多いので、VCのサポートやカバレッジが大きくなるのは当然ですし、個の力はもちろんのことチームとしてファンドの強みを作っていくことが改めて大切だと思って取り組んでいます。

ジェネシアは、ミッション・ビジョン・バリューの思想や自分たちの在り方を大切にしながら物事を動かそうとしている。そこが改めて好きだなと思います。Sansanが好きだった理由も、そこに共通点があります。成し遂げたい世界観が明確にあって、そこに対してチームで向かっていくその雰囲気が好きなんです。ジェネシアもいわばスタートアップの一社でもあるので、その感覚を持てそうだと思ったのもジェネシアを選んだ理由です。

interviewer:

ジェネシアを選んだ理由、先に言われちゃいました。

黒崎:

SaaSやスタートアップの業界にずっといたからこそ、最先端のテクノロジーや技術に触れてきたんですが、その恩恵を受けている人たちってまだまだ本当に限定的だと思います。最近はSaaSよりもAIだろうという風潮もあるし、それもまた是だと思うんですが、それって最先端のテクノロジーに触れすぎているからこそのバイアスな気もするんです。世の中全体を見れば、テクノロジーが入り込んでいない領域はまだまだたくさんあるそこに対してもテクノロジーの恩恵が行き届いていく世界を作りたいと僕は思っていて、ジェネシアの「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」というビジョンとまさにシンクロしていると思っています。

interviewer:

直近で言えば、土木領域の『Malme』への投資などがまさにそうだと思いますが、黒崎さんが「まだテクノロジーの恩恵が行き届いていない領域」を投資対象として注目していることがわかりました。

黒崎:

Malmeはまさにそうですね。彼らは土木領域で先端テクノロジーを導入して土木業界をアップデートするチャレンジをしており、これからも全力で支えていきたいと思っています。
もう一つ挙げると、「旧来的なテクノロジーを使い続けてる領域」にも注目しています。例えばエンタープライズ企業の基幹系システムなどはその企業の経済活動を司るめちゃくちゃ規模の大きなシステムで、数百億や数千億円をかけて開発されていますが、これらのシステムの開発スタイルや利用されている言語は少し古い技術で作られていたりします。でも、システムが巨大すぎて現場が利用しているサブシステムとも密接に連携したりしているから、替えようにも替えられない。そんな問題があるんですが、このシステム群を今の時代に即した技術ベースでアップデートすることができれば、その企業に関わる全ての人たちの生産性を大きく向上させることができるんじゃないかと感じています。言うは易し行うは難しなのですが・・テクノロジーの恩恵を広げるという意味で、同領域にも関心を持っています。

自分たちの組織づくりが、持続可能なVCをつくる

interviewer:

入社からもうすぐまる一年ということで、まだインプットが多い段階かもしれませんが、黒崎さんの中で、シードVCとしてのスタンスや哲学は言語化されつつあれば聞かせてもらえますか?

黒崎:

田島さんがよく「VCは投資家ではなくて資本家だ」と言っていました。その言葉をずっと頭の片隅に置いています。VCはもちろん投資家なんですが、シードの場合は8割が事業家で、2割が投資家。だから、投資家としての視点を前提としつつも、起業家と一緒にどう事業を作るかを考える方に重きを置いています。
あとは先ほども話しましたが、「テクノロジーの恩恵を普及させたい」という自分自身の想いをちゃんと語っていくことを心掛けています。それは自分自身が明確にやりたいことですし、想いややりたいことを体現しようとしているのが起業家で、ビジョンを語る人間同士の親和性や共感性ってやっぱりあると思うんです。僕は起業していませんが、事業を作るのって本当に泥臭くてしんどいこと。起業家は分散投資もできず、自分のリソースを一極集中している。その事業が行き詰まったときの苦しさなどを、僕もSansanで目の当たりにしてきました。そういった“自分を全力投下している「人」”へのリスペクトを土台にし続けていきたいです。

interviewer:

黒崎さんは投資先へのバリューアップ支援の一つである『戦略人事PJ / 組織創りの羅針盤シリーズ』のリーダーを務めたり、ジェネシアの採用にも携わっています。そのあたりはどういったモチベーションで取り組んでいますか?

黒崎:

Sansanで見てきた景色がもとになっているんですが、ミッション・ビジョン・バリューを軸にして組織としてのモメンタムを作る重要性を学んだことが大きいです。会社は事業/財務/組織の3要素で構成されていると捉えた際に、事業の重要性は会社そのものであると思いますが、企業価値を上げるための組織というものが事業と同レベルのキーファクターであることを学んだ七年間でした。この部分って、実際に見てきた人間だからこその肌感覚があれど、経験しないといまいちイメージができないところかなとも思っており、自分の知見が投資先にも役に立つならと思い、始めた活動です。
キャピタリストのシゴトは、いい投資をして最大のリターンを出すこと。それを実現するための要素がいくつかあると思っています。大きくは、ブランディングやソーシングなどキャピタリスト達が個々に担う投資に直結する活動と、その投資活動を支えるような中長期的な仕組みを企業として作る活動。そして、ジェネシア自体の土台となる組織づくりの活動。この三つの高度なバランスを築いていくことがジェネシアの企業価値になっていくと思っています。投資活動はもちろん頑張っていきますが、戦略人事PJも絡めてこの二つ目や三つ目の活動にも関わることが、三年先や五年先のジェネシアの価値になるはず。インターンをはじめとする採用も中長期的に重要な要素です。何か一つに偏らないように仕事を創っていっている感覚です。

interviewer:

まさに、ジェネシアが強調する「チームでやる」ということの本質がそこにありそうです。黒崎さんが描いて実行する、VCという事業や組織の全体設計や将来設計をこれからも楽しみにしています!

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