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“異常値”や“揺らぎ”を捉える感覚の先に|水谷 航己

ジェネシア・ベンチャーズは2016年の設立以来、「新たな産業の“種”から”最初の芽”を出すこと」を自分たちの役割だと考え、一貫して創業初期のスタートアップの1stラウンドにおいて投資をしてきました。まだ事業アイデアしかない、起業家一人だけのチームで組織もオフィスもない、そんなフェーズのスタートアップに投資し、未来をより豊かにするサービス/プロダクトを広く世の中に届けるために私たちも“チームの一員”という意識で伴走しています。

2022年に、国が主導する「スタートアップ育成5か年計画」が策定され、日本のスタートアップに各方面からの注目と投資マネーが集まり、また、スタートアップを生み出し育てるためのエコシステムも各地・各所で大きく育ちつつあります。

その中で、新しい技術、新しいサービス/プロダクト、そして新しいリーダーたちとともに、「社会に対して大きなインパクトをもたらすスタートアップを生み出すこと」を担うのはやはり、創業初期=シード期から投資をするベンチャーキャピタル「シードVC」であると、そして、私たちがまさにその当事者であると考えています。

本シリーズ『シードVCのシゴト観』では、ジェネシア・ベンチャーズで実際にスタートアップへのシード投資と経営支援に従事するベンチャーキャピタリストそれぞれが改めて考える「シード投資」と「シードVC」についてご紹介します。

・なぜ「シードVC」に懸けるのか?
・「シードVC」としての役割やこだわりは何か?
・そして、ジェネシア・ベンチャーズで実現したいことは?

本稿の主役は、Investment Managerの水谷さん(以下:水谷)です。

  • 聞き手・まとめ:Relationship Manager 吉田 愛
  • 2024/5/31時点の情報です

心の片隅にあったVCへの意識と現実が繋がった瞬間

interviewer:

2018年の中途入社からまもなく6年という水谷さん。建設・製造・飲食・医療ヘルスケア・電力・物流など幅広い産業のDXに挑戦するスタートアップを中心とした投資担当先も20社を超えてきています。今、ベンチャーキャピタリストとして中堅と言える立場になってきたのかなという水谷さんが最初にVCに興味を持ったきっかけは何だったんでしょうか??

水谷:

たしか社会人一年目のとき、大学で所属していたサッカーサークルのOB会があって、そこでお話しした大先輩が日本のトップティアVCのパートナーの方だったんです。ただ、私が当時VCという業態を理解をしていたかというとそんなことはなくて、ざっくり“ファンドの人”みたいな捉え方でした。ファンド=お金儲けみたいなイメージもあったので、「儲かりますか?」なんて訊いたりして。でもその方は、「日本から世界で勝てる事業をつくらなければいけない。それが使命だ」と、真剣そのものという表情でおっしゃいました。すごくハッとさせられました。それからずっとVCという存在は気になっていて、折に触れて、その方のSNSでの投稿やWEBサイトを拝見していました。
その認知の状態から具体的な興味関心に移ったのは、そこから五年が経過した頃の話です。前職の総合商社時代はずっと投資に関わる業務を担当していて、グローバルで社会的にも意義を感じる事業にそれなりの規模の資金を投下をして、収益はもちろん雇用も生み出すシゴトはすごくやり甲斐を感じていたので、今後のキャリアとしても投資自体は続けていきたいと考えていました。ただ、私が所属していたのはコーポレート部署だったこともあり、プロジェクトの中でどうしても受身になりがちな立場だったので、もっと能動的に案件をジェネレーションしていくところからの投資のシゴトがしたいと思っていました。それで、社内での異動も転職も含めたキャリアチェンジを検討していたときにエージェントの方からお声がけをいただいて、VCを勧められました。そこでサッカーサークルのOB会のときから頭の片隅にあった気持ちと現実とが繋がって、自分にもこんなオポチュニティがあるんだなと不思議な感覚を味わいました。

interviewer:

その当時、VCの投資ステージであるシード / ミドル / レイターなどは意識していましたか?

水谷:

そこまで意識はしていませんでした。ただ、商社時代の担当としては、すでに売上が数十から数百億円規模の企業が対象になる投資だったので、シードとはだいぶステージが違うなとは感じていました。そこで私が中途採用の選考で有利になる要素はないし、ハードルが高そうだなと。一方で、シード投資への興味は強くありました。

初めて間近で関わったのは、災害ボランティアに行った土地で出会った社会起業家

interviewer:

ちなみに、商社のコーポレート部門への配属は、水谷さんご自身が志望されたんですか?

水谷:

そうです。大学時代は法学部でしたが、政治学や文化人類学、教育学など、興味の向くままにいろいろなことを勉強していました。それはそれで楽しかったんですが、社会人として働く上で直接的に活用できるような勉強は全くしておらず・・それで、最初の2-3年は、アカウンティングやファイナンス、統計などの実務を経験させてくれる部署でしっかりと足場固めをしたいという希望を出して、それが通ったかたちでした。

interviewer:

話が前後しちゃうんですが、新卒で総合商社に行こうと考えたのはなぜだったんでしょう?

水谷:

元々は、公務員になる人が多い学部にいたので自分も国家公務員を目指して試験勉強を始めたんですが、ちょっと努力と志が足りずに試験に落ちてしまったんです。民間企業の就職活動の準備は一切していなかったので、そちらも全滅。それで、就職浪人というか資格浪人というかたちになりました。それが2011年の春で、ちょうど東日本大震災が起きた頃でした。単位には余裕もあり時間もあったので同年の夏にボランティアに行くことを決めて、三陸の方で中学生の高校受験に向けた学習指導に長期で携わりました。東京のNPO法人の方が、震災直後から現地入りして、地元の教育委員会や学校を動かして、被災を免れた公民館や学校施設を借りて運営されていた放課後学校で、いわゆる社会起業でした。たぶんあれが、私が初めて間近で見た“起業家”新しい価値をゼロから作っていく、その現場に寝食を共にしながら立ち会わせてもらいました。その代表の方や当時のボランティア仲間の動向は今も私のモチベーションになっているし、大きな原体験の一つだと思います。
言ってしまえば、行政や省庁のいわゆる公務員の人たちはその後にやってきて、そこから予算などが組まれていく。そういったプロセスを見てきた中で、自分がやりたいことって、霞ヶ関で予算や法律を作る仕事ではなくて、もっと現場の最前線で価値を作っていくシゴトなんじゃないかと考えるようになりました。そしてそれがグローバルでチャレンジできそうな業種ということで、翌年、総合商社に入社したという経緯です。前の話のように、志望して配属されたのはコーポレート部署でしたが、やっぱり現場に近いところにいることにはすごくわくわくしたし、最初はただただ必死でしたが、それを楽しめる感覚は持っていました。

interviewer:

自分の性質との相性、そして、社会にどのタイミングでどう関わるシゴトをしたいか、という視点を持ってキャリアのスタート地点を選ばれたんですね。

経営のドライビングシートに乗りながら、投資家としてやり切ることで自己実現を目指す

interviewer:

「シードVC」として働こうと決めたときにも、その現場感みたいなものは大切にされていたんでしょうか?

水谷:

投資先が創業期であること、また、ジェネシア自体も創業間もないファンドであることに、たしかに現場の高揚感みたいなものを期待していたかもしれません。立ち上げ期特有の“熱”みたいなものだったり、ゼロイチのタイミングが一番楽しいだろうという感覚だったり。
正直、転職を視野に何社かのVCと話していた中で、ジェネシアは一番ハードルが高いと感じていました。シードだし、最初からグローバルだし、ファンド自体も立ち上げ期だし。英語は前職でも使っていましたが、ほとんどどのポイントにも強みを持つわけではない私が選ばれる理由はないんじゃないかと。でも、だからこそ、ジェネシアにジョインすることが決まったら、それまでのキャリアの延長とは考えず、一番下っ端から始めることにも違和感なく、何でもやってやろうという気持ちを持てた気がします。トップまでいけるかはわからないけど、平均点以上ではやり切れるであろうという根拠のない自信や野心みたいなものは持っていたかと思います。

interviewer:

複数のVCとお話をされていたということですが、ジェネシアを選んだ理由はありますか?

水谷:

それぞれに魅力あるファンドマネージャーやキャピタリストの方がいらっしゃったので、いずれも素敵なVCと当時は感じていましたが、田島さんが、「メンバーの自己実現と会社のビジョンが同じ方向を向いていたら、パフォーマンスが最大化される」というお話をされていたのが印象的で、こういうボスのところで働きたいと思ったことは鮮明に記憶していて、「新しい産業を作っていく」というビジョンやミッションにも心が震えるというかすごく共感できるものがありました。

interviewer:

そのとき、水谷さんは「自分自身の自己実現とは何か」ということについてどう言語化していたんですか?

水谷:

ビジネスの世界で一旗揚げる、人との違いを出す、みたいなところで言うと、自分はたぶん士業や開発者などの専門職ではなくて、投資家か経営者の二択かなと考えていました。その上で、VCを選んだら確実に投資家として、中でも、経営のドライビングシートに半ば座るようなスタイルでやり切りたいという思いがあったので、シードVCでリード投資をしていくというシゴトは、自分のビジョンにすごくマッチした印象でした。

一人一人の起業家のことを考えて、心が波立つこともある

interviewer:

水谷さんと私(吉田)は、水谷さんの入社が一ヶ月先輩のほぼ同期ですね。長かったような短かったような・・6年働いてみてどうでしょうか?

水谷:

自分が期待していた成長軌道に乗れているかというと、満足はしていません。自分自身の努力が足りていないのはもちろん、一つのビジネスモデルをシードから成立させていくのには想像以上に時間がかかると感じています。
それでもこのシゴトを続けている理由としては、ご一緒しているスタートアップのチャレンジがやっぱりすごく魅力的であることと、VCという業態そのものもまだまだ発展段階にあっておもしろいということが挙げられます。VCは投資業で金融業に属するわけですが、この業界でここまで発展段階というか、ベストプラクティスが数年でどんどんアップデートされていくような業態は他にはないんじゃないかなと思います。VC同士で競合するのではなくて、関係者みんなで業界のパイを広げていく過程にあって、それぞれの知見を積極的にオープンにしながらマーケットを作っていく。その過程の一端を担えるのはやっぱり楽しいし、大きなモチベーションの要素です。

interviewer:

6年経った今、VC全体やシードVCというシゴトについて、役割が変わっていくであろう部分やその逆で普遍的な部分など、考えていることはありますか?

水谷:

発展段階のシゴトであるからこそ、型化やルーティン化、フレームワークの構築などにも大きな意味があると思う一方で、変にルーティンになってしまったときの“サイコ感”みたいなものへの危惧は感じています。起業家やスタートアップとの一期一会をルーティンにしたりフレームに収めてしまったりすることへの違和感というか。そんなことを感じてしまうのは私の弱さかもしれませんが。

interviewer:

今はまだその感覚を嚙みしめている最中なのか、すでに何らかのスタイルが見えてきているのかでいうと、水谷さんはどんなフェーズにいるんでしょうか?

水谷:

今は、いったん棚上げにしてますかね。起業家に新たにお会いすることに臆病になっている自分も、とりあえずそのままにしてます。仮に一年で200社にお会いするとしても、投資できるのはよくても2社とか。そのためにたくさんの起業家にアプローチするわけですが、やっぱりどうしても、投資できない198社のことも考えてしまう。投資した後もそうです。100社のポートフォリオのうち1社でもホームランが出ればいいみたいな話もVC目線ではよく言われることでもあって、それに抗う挑戦をしているつもりですが、その統計的な事実に向き合えば向き合うほど“サイコ感”は必要になっていく。特にシードVCは相対する起業家の数も多くなるし、そういう職種だと割り切る必要があるとも言えますが、一人一人の起業家のことを考えて心が波立つこともある。その感覚をとりあえずそのままにしてます。弱気になっているわけじゃないんですが、頭で理解するのと実践するのとではまた違うフィーリングがあることを自覚しています。長くシードVCをされてる方々は本当にすごいです。たぶん私みたいな次元じゃないんだろうなと思います。

さまざまな変遷の中での判断においては、“異常値”や“揺らぎ”の感覚を大切に

interviewer:

そうして迷うこともありつつ、それでもこのシゴトを続けている理由として「スタートアップのチャレンジが魅力的」で「楽しい」ということを挙げていましたね。

水谷:

スタートアップのハッピーなEXITまでの道のりはすごく長いし、成果として答えがすぐには出ないものも多い。気が重くなることもたくさんあります。でもそうした過程の中で、起業家や経営チームと酸いも甘いも共有しながら、仮説がハマって売上が伸びるとか顧客からの嬉しい声が届くとか、そういったことをスタートアップと一緒に体験できるのはやっぱりこのシゴトの醍醐味。健全なストレスだと受け止めています。それこそ型に収められるものじゃない体験です。自分の中の臆病なメンタリティも認めながら、でもその中で、臆病な気持ちなんて吹っ飛んで、チャレンジをご一緒したいと感じる起業家やチームと出会えたときにはやっぱりすごく興奮します。

interviewer:

どういうチームや事業に、“深入りしたい”と感じることが多いですか?

水谷:

“異常値”みたいなものでしょうか。先ほど、シード投資というシゴトの中で普遍的なものとそうでないものと・・という問いがあったと思いますが、投資判断の基準や事業のネタなどいろいろな軸でどんどん変化が起きていると思います。事業のネタでいえば、コロナ禍くらいまではアナログオペレーションの足りない部分や負を抱えている部分を解決していくようなクラウドの浸透に起因するDX領域が中心だったと思うんですが、シードにおいて、そういった波は一巡したかなと思います。今はその波はよりレイターな、本格的な社会実装に進んでいくフェーズになっているところ。じゃあ次はどこにシードの波があるかというと、“よくわからないもの”が多いと思います。より直感的で、だからこそ現時点の常識のモノサシでは必ずしも計れないというか。だから、初めて起業家のピッチを聞いたときの「わけわからん」「わからんけどなんかすごい」という感覚を最近は大事にしています。正しさはわかりませんが、そういうアイデアに出会えたときは本当に楽しいです。

interviewer:

もう少し具体的な投資領域としてはどんなところでしょう?領域以外にも、投資対象として一貫しているポイントなどがあれば教えてください。

水谷:

覚悟という意味でいえば、常にこれが自分の最後の投資であっても後悔しないところに投資をするという意識が強くなっています。領域としては、昔からある話ではあるんですが、ゴミが資源になったりお金になったりするというアイデアはすごく好きです。サーキュラーエコノミーと言われるものがより切実になってきている時代感にいるので、社会から求められてるビジネスですよね。また、何で今までなかったんだっけ?という問いも、個人的にはすごくポジティブな反応だと感じています。決め手というところでは、さっきも挙げた“異常性”みたいなものを感じるチームが好きです。普通ではしないような意思決定を重ねてすごい成果を積み上げられているような人やチームからは、いつも思いがけない気付きをもらえますし、“何かがある”と期待してしまいます。

interviewer:

シード投資って何を見て判断しますか?って、よくある質問だと思うんですが、そう問われたらそのあたりを挙げますか?

水谷:

特に後者の部分があるかなと思います。やっぱりシード投資の意思決定って、絶対に揺らぎの部分がある。機械的に解が出る問いを相手にしているわけじゃないので、やっぱりきっちり割り切れたり全員が納得できたりということはありません。10人いたら7人が反対するくらいがいい、みたいな話もあったりしますが、実際そうですよね。私の中にはいつも、一定の再現性を担保しようという動きと、常に何かしらそれに相反するような外れ値を出していかなきゃ存在価値や進歩がないという思いの両方があります。チームに反発するわけでは全くなくて、相反するものやそれこそ“異常値”の扱いも含めてチームでどうするかを考えていくのが大事になっていくと思うんです。

VC / スタートアップ全体での知見の還流をより活発に

interviewer:

水谷さんのそういった、“揺らぎ”を本筋と同じくらいに意識するシード投資への考えは、徐々にブラッシュアップされてきたものですか?どこかで一気に変化するタイミングがあったんでしょうか?

水谷:

どこかでパラダイムシフトみたいなことが起きたわけではなく、やっぱりいろいろな人と対峙して徐々に変化してきたと思います。多くのスタートアップに伴走させていただく中で学習してきたこともあります。だからたぶん一年後に同じ問いをもらったら、違う回答をしていると思います。同じ回答をしてたら進歩がない。以前は必要以上に一貫性を重視していた時期もあったんですが、最近は「一年前は何て言ってたっけ?」というくらいのテンションで自分の変化を受け止めているというか、少し割り切れてきた感覚があります。

interviewer:

すごく共感する部分が大きいです。私も、例えばチームづくりに関して、三年前には一生懸命「こうあるべき」と主張していたり信じていたりしたことを、今は「どっちでもいいんじゃないかな」って思っていたりします。サポーターとしては頼りなく感じられてしまうのかもしれませんが、「一社一社、一人一人で考え方や感じ方は違うんだから、何かを押しつけるのは違うな」「もっと目の前の相手の話を聞いて考えていきたいな」と。どちらが正解・不正解ということではなく、どちらもその時点での自分の感覚。だから、その感覚をその感覚としていったん受け止めようかなという感じでいます。このシゴトを通じて出会った人たちの影響がやっぱりとても大きいです。そして、これから先のこともやっぱりわからない。

水谷:

そうした学びや気付きを今、スタートアップもVCも含めて業界全体でアップデートしている気がします。『THE MODEL』が流行った時期がありましたが見直しもされているように、新しいスタートアップの経営モデルが出てきたときにはみんなでそれを検証・実践して共有して、反証やまた新しいものが出てきて、という流れが起きていると思います。
個人的にも、これからチャレンジしたいことの一つに「知見の共有」という軸があります。シード期のスタートアップ経営のガバナンスやアクションという領域では、私にももっと書き出せる部分がある気がしています。以前に『【シード投資先100社に学ぶ】シード期のスタートアップ経営 虎の巻』というブログを書きましたが、今はさらにブラッシュアップできるなと。もっと逆算思考でスタートアップ経営を考えたいんです。ジェネシアの投資先150社をサンプルにするアプローチもある一方で、上場してグロースしている企業n社をサンプルにすることの方がフィットする学びも多いと思いますし、私自身のシードスタートアップ経営の解像度も上がってきたので、ビジネスモデルや事業フェーズごとにカテゴライズしたアウトプットなどもしていきたいです。

interviewer:

VCの知見もより溜まっていく中で、その役割も変化していくでしょうか?

水谷:

スタートアップの経営って手探りで始められる方が多いので、ちゃんとガバナンスの効いた経営者と投資家間のコミュニケーションをセッティングするという役割は私たちに引き続き求められていくんじゃないでしょうか。あとは何といっても、VCの一番の価値はスピーディに投資の意思決定をして早く大きくお金を出すことなので、シンプルなことのようでいて、プレイヤーが増えれば増えるほどその戦い方の価値はより高まってくると思います。もう一面としては、キャピタリストとして求められるインターフェースが変わってきていると感じています。ちょっとしたブレスト、ちょっとした喝、しんどいときに率直に共有ができる信頼関係・・そういった役割への期待値はより一層高く求められていると思いますし、どれだけ競合が出てきても、もしくはAIが発達してもユニークであり続けられる部分になるはずです。

紋切型ではない、自分だけにしかできないコミュニケーションを

interviewer:

最後に、水谷さんがシードVCとして意識していることがあれば聞かせてください。

水谷:

起業家の意志— その人が本当に何をしたいのか、何を成し遂げたいのかを確認すること、そのために私自身がコミュニケーションのしやすいインターフェースであること、あとは、紋切り型のコミュニケーションにならないこと。前の二点はほとんど無意識かもしれませんが、三つ目は強く意識しています。ナレッジを蓄積していく上でパターン作りのようなことは必要だと思う一方で、個別の事象や相手にそれをあてはめるということはしたくありませんし、そもそもそれじゃあ相手にも響かない。ジェネシアも150社の投資先を見てきてある程度の経営上のイベントや落とし穴がわかってきていますが、それを紋切型にせずにどう届けてどうアクションに繋げていくかというところは試行錯誤しています。
事業アイデアへのリアクションにおいても同様です。起業家がプレゼンする事業アイデアに対して、「微妙だよね」「無理そうだよね」「市場が小さい」と反応することは正直簡単で誰でもできると思うのですが、「自分だったらどうするか」という視点で頭をひねることは意識するようにしてます。先日、とある大学のイベントにて事業アイデアのメンタリングをさせてもらったんですが、そこで「各講義の単位の取りやすさなどの口コミをデジタル化する」というようなアイデアがあったんです。言ってしまえば、もう既にありそうなアイデアで、「どうやって口コミを集めるの?」とか「競争優位性は?」といったフィードバックもありだとは思うんですが、誰でも言えそうなフィードバックだったら自分が言わなくてもいいじゃないですか。だから、ユーザーのネガティブな抜け道思考を逆にポジティブなものに転換してみて、「履修登録をするときはみんなやる気がある状態だし、特に年次が上がって自分の意志で就職や進学を決める段になったときには、講義で学んだ内容を身につけることの重要性を感じるタイミングが来る。それを想定したら、受講する講義の理解度を上げてしっかりと良い成績を取るためのソリューションの方がお金も払うんじゃないか?」ということを視点を変えて話してみたり。ちょっと時間がかかっても自分なりのリアクションができないかについてはこれからも意識していきたいです。

interviewer:

起業家の方に新しい視点をもたらしている水谷さんが想像できます。
今ふと聞いてみたくなったんですが、これからのキャリアや自己実現を俯瞰したときに考えていることはありますか?

水谷:

キャリアについて逆算でを考えるのはたぶんあんまり得意ではないので、その時々で心を動かされたものに全力で向かっていくという感じではあるんですが、まずはとにかくVCとして、社会に知られるようなシゴトというか、ちゃんと実績を作っていかないといけないフェーズに来ていると思います。チームとしても個人としてもですね。そういえば、数年前に新卒で入った部署のチーム長に久しぶりに会ったんです。ジェネシアのWEBサイトか何かで私のプロフィールを見てくれたみたいなんですが、「おまえのキャリア、学歴が一番ピークだな」「このままだと落ちぶれるだけだぞ」って言われて。

interviewer:

ええっ・・!!

水谷:

ある意味、その通りだなと思いました。語れるものを作らないと埋もれていくなって。急ぐわけじゃないですが、日々そこに繋がるアクションができているかと考えています。

interviewer:

投資の成果と、業界全体や次の世代に残るようなグッドインパクトについて考え続けて、また、実践し続けていきたいですね。これからもよろしくお願いします!

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