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産業をつくる×日本が勝てる×わくわくする、その交点にある私のシード投資|河合 将文

PHILOSOPHY

ジェネシア・ベンチャーズは2016年の設立以来、「新たな産業の“種”から”最初の芽”を出すこと」を自分たちの役割だと考え、一貫して創業初期のスタートアップの1stラウンドにおいて投資をしてきました。まだ事業アイデアしかない、起業家一人だけのチームで組織もオフィスもない、そんなフェーズのスタートアップに投資し、未来をより豊かにするサービス/プロダクトを広く世の中に届けるために私たちも“チームの一員”という意識で伴走しています。

2022年に、国が主導する「スタートアップ育成5か年計画」が策定され、日本のスタートアップに各方面からの注目と投資マネーが集まり、また、スタートアップを生み出し育てるためのエコシステムも各地・各所で大きく育ちつつあります。

その中で、新しい技術、新しいサービス/プロダクト、そして新しいリーダーたちとともに、「社会に対して大きなインパクトをもたらすスタートアップを生み出すこと」を担うのはやはり、創業初期=シード期から投資をするベンチャーキャピタル「シードVC」であると、そして、私たちがまさにその当事者であると考えています。

本シリーズ『シードVCのシゴト観』では、ジェネシア・ベンチャーズで実際にスタートアップへのシード投資と経営支援に従事するベンチャーキャピタリストそれぞれが改めて考える「シード投資」と「シードVC」についてご紹介します。

  • なぜ「シードVC」に懸けるのか?
  • 「シードVC」としての役割やこだわりは何か?
  • そして、ジェネシア・ベンチャーズで実現したいことは?

本稿の主役は、Partner / Chief Sustainability Officerの河合さん(以下:河合)です。

  • 聞き手・まとめ:Relationship Manager 吉田 愛/Intern 夏堀 栄
  • 2024年4月18日現在の情報です

リーマン・ショックを経て考えた、「本当に人の役に立つ投資とは何か?」

interviewer:

新卒で入社した農林中央金庫から投資家としてのキャリアをスタートさせた河合さん。そもそも投資に興味を持ったきっかけや理由は何だったんでしょうか?

河合:

最初はとても単純な動機で「グローバル資本市場で大きな投資をすることのダイナミズム」を刺激的でおもしろそうだし、何となく世界経済の動きがわかりそうと感じたことでした。それで農林中央金庫に新卒で入社して、機関投資家としての投資業務を始めました。

interviewer:

同じ「投資」業務とはいっても、グローバル資本市場でのオルタナティブ投資から国内シードスタートアップ投資への転身にはかなりのジャンプがあると思いますが、どのような経緯だったんでしょうか?

河合:

機関投資家としての投資は、世界の一流ファンドや投資銀行を相手に取り扱う金額も大きく、10年ほどの業務の中で本当にたくさんの貴重な経験を積ませてもらいました。ただ、あるときから金額がただの数字に見えるようになってきている自分を感じ始めたんです。弱肉強食の資本市場において、企業経営者や消費者の顔が見えないまま、大きな数字だけが動いていく。そうした状況に、私の中でリアリティが失われていく感覚がありました。そして、そんな私の気持ちをさらに加速させる大きなきっかけとなったのが、2008年のリーマン・ショックです。金融の世界で起きたリーマン・ショックの影響により、金融とは無関係の多くの人々が職を失ったりする現実を目の当たりにして、ただの数字に見えていた金融取引が生活者に及ぼす影響の大きさを痛感しました。同時に、自分が実態経済や人々の生活への影響について深く考えられていなかったことにも気付き、「自分が本当にしたいことは何だろう?」と考えるきっかけになりました。
農林中央金庫は、国際分散投資で得た収益の還元により日本の第一次産業を支え、食料安全保障や環境保全等にも貢献する素晴らしい金融機関です。私も投資活動を通じてその一端を担っていることに誇りを感じていましたが、当時は日々の業務に忙殺される中で、徐々にその使命感を忘れてかけていたのかもしれません。そのような反省もあり、一旦思い切って環境を変えようと思いました。投資業務自体は好きだったので、これまでの経験の延長線上で、ただし今度はもっと直接的に誰かに寄り添い伴走するような投資、そして、資金の提供だけでなく産業そのものを興すといったことに挑戦したいと考えました。また、ちょうど留学を経て日本という国の良さを強く意識していたこともあり、公的な仕事に関わりたい気持ちもあったので、リスクマネーの供給×公的な役割という軸で、日本政策投資銀行(DBJ)という政府系の金融機関に転職しました。

interviewer:

より“人に近い”投資という軸を重視したイメージでしょうか?

河合:

それに近いです。その軸で、当初は大企業向けのエクイティ投資や事業再生ファイナンスなどをイメージしていました。でも、改めて「日本にとって必要なリスクマネーの最たるものは何だろう?」と考えたときに、徐々に「ベンチャー投資じゃないだろうか」という想いが芽生えてきたんです。MBA留学ではアメリカの西海岸に滞在していたのですが、そのときの友人たちの多くが起業していたのを目の当たりにした影響もあったかもしれません。それで、ベンチャー投資を行う子会社のDBJキャピタルへの出向願いを出していたところ、2017年に念願が叶い、そこから私のVCキャリアが始まりました。
私の場合、最初からVCに興味を持っていたりVCを目指していたりというわけではなく、それまでのキャリアの積み重ねやリーマン・ショックといった出来事、友人たちの動向などを含めた様々な要因が影響し合って、少しずつVCという選択が自分の中で浮かび上がってきたという感じです。

スタートアップの成功の歴史の原点から関わることができるのが、シードVC

interviewer:

VCの中でもシードを選んだ理由はあるんでしょうか?

河合:

DBJキャピタルは幅広いステージのスタートアップに投資をしているのですが、私自身は最初から意識的にシードやプレシリーズAくらいの早い段階での投資を多く行っていました。シードを希望した理由としては、本当に何もないところから新たに事業を生み出していくプロセスへの好奇心もありましたし、起業家とより近く深い関係性を築きたいという気持ちもありました。例えば、レイターのステージで複数いる投資家の中の一人として後から関わるのと、一番最初の投資家として関わり続けるのとでは、起業家との関係性や事業に対する愛着の深さもだいぶ異なるのではないかと思います。また当たり前ですが、その起業家や事業が成功することを信じて投資しているわけなので、その成功の歴史の原点から関わりたいという想いは自然と自分の中にありました。

interviewer:

数字を追うだけではなくより人に近い投資をしたいという軸があったというお話でしたが、今、ジェネシア・ベンチャーズでのシード投資を通して、それは実現されているでしょうか?

河合:

昔と比べると扱っている金額は小さくなりましたが、その一回の投資から得られるものは今の方が大きいと感じています。シード投資をきっかけに、起業家や経営チームとの強い一体感が生まれ、斬新なアイデアや事業構想の実現に関与することができ、事業成長の先にある大きな社会インパクトの創出に向けて、運命共同体で一緒に夢を見させていただけるのは、本当にありがたい立場だなと日々感じています。

ディープテックは有望な投資対象領域、そして、純粋に楽しい領域

interviewer:

河合さんは投資対象領域として環境や宇宙などを中心とするディープテックに注目されていると思いますが、何かきっかけがあったんでしょうか?

河合:

経済学部卒の金融キャリアですし、実は子どもの頃からサイエンスが大好きで~ということでもありません。シンプルに、社会により大きなインパクトをもたらす手段を考えたときに、自然とディープテックという投資領域に辿り着いたのだと思います。例えば、宇宙や核融合といった日本に研究分野の強みや蓄積があって、世界的に評価の高い唯一無二の技術を活かせる事業では、最初からGo Globalが前提になっていますし、そのような革新的な技術には、やはり世の中を大きく変える力がありますよね。もちろん難易度やリスクも高くなりますが、日本から世界で戦えるユニコーン企業を生み出せる領域でもある、という考えですね。

interviewer:

河合さんは科学番組が好きな子どもみたいに無邪気にディープテックを追求されている印象があったので、最初のきっかけが「投資対象として有望」というすごくシンプルな理由だったのに正直驚きました。

河合:

その点、もともと技術的な専門性があるわけではなかったので、投資領域として意識するようになってから勉強を始めることがほとんどです。そして、ハマりましたね。純粋に楽しくて、だからずっと続けられている。入り口は仕事として始めたことかもしれませんが、今は技術的な調査や専門的な業界分析をすること自体を趣味的に楽しんでいるので、「シゴト」と「好きなコト」がうまくリンクしたかたちです。
外的な要因で言えば、前職のDBJキャピタルでは、政府系金融機関ならではの投資活動を意識する必要がありましたし、何かしら民間VCとの違いも出したいと考えていました。そのときにディープテックは一つの選択肢でした。今でこそ多くのVCが注目するようになってきましたが、当時はお金も時間もかかるリスクの高い領域として、投資家はなかなか手を出しづらかったんです。
最近、その頃に投資したスタートアップの実績が出てきていて、さらに楽しいですね。例えば、宇宙ロボットを開発しているGITAI。当時はまだ小さなラジコンみたいなプロトタイプしかなかったんですが、いまやNASAや大手宇宙企業から受注するような世界的な宇宙ベンチャーになっています。そういう進化を見聞きするにつけ本当にわくわくした気持ちになりますし、それもあって一層この領域にのめり込んでいます。

フラットな議論に必要となる、起業家との強い信頼関係をチーム全体で築いていく

interviewer:

ディープテックに投資をする上でたくさん勉強されているということでしたが、シードVCとして働く上でも意識していることや大切だと考えていることはありますか?

河合:

特定の産業領域や技術、ビジネスモデル、何でもいいんですが、とことんのめり込める領域を持つことがとても大切だと感じています。シードは特に不確実性が高いので、当然リスクも大きいです。それでも、自分自身がその領域やビジネスをとことん突き詰めて理解しようと思えるかが重要。そして、それができるかどうかは、やっぱり自分の好きなコトかどうかだと思います。
キャピタリストとして気を付けたいことは、コミュニケーション上のバランス感覚ですね。基本的にキャピタリストは起業家を支える献身的で応援団的な立場であるべきだと考えていますが、一方で状況によっては、複数の事例を見ている立場だからこそ伝えられることもあります。起業家を信じて寄り添い続けるという基本スタンスを維持しながらも、時には信念を持って調整役を果たさなければならないこともあります。ベースは黒子でありつつ、場面に応じて伴走者としての責任を果たす、その両面が必要なので、今でも試行錯誤しながら最適なバランスを探っていますね。

interviewer:

河合さんにもそんな試行錯誤があるのですね。ある意味で不完全な部分というかまだ柔らかい部分を率直に開示してくださってうれしいです。河合さんのそうしたコミュニケーションが、起業家との信頼関係づくりにおいても一役買っているのかもしれませんね。

河合:

フラットな議論をするためにも、起業家との強い信頼関係が必要です。その点、ジェネシアはチーム全体として投資先スタートアップとの深いコミュニケーションをとても意識しているので、ここは大きな強みだし魅力だと思います。

interviewer:

河合さんは、Chief Sustainability Officerというロールでもあります。チームや人と人との関係性のサステナビリティという点で、考えていることなどはありますか?

河合:

まず、チームとしてビジョンや基本的な価値観を共有していることは大前提だと思います。その上で、いかに多様性を認められるかも重要ですね。私自身は、特定の型にはめ込んだり、わかりやすくステレオタイプ化したりすることがあんまり好きじゃないんです。世の中は想像以上に複雑だし、関わる人の個性や数や相互作用によって全く違ったりもするので、外部環境に応じて最適化できるように、自分たちも常に変化していけばいいんじゃないかと思います。その意味では、融通無碍でいられる柔軟性や寛容さが大切なのではないでしょうか。普段から特別強く意識しているというわけではないですが、あるとしたらそういったことでしょうか。組織やチームというのも一つの手段。目的やビジョンを実現するために最適なかたちを模索し続けるという姿勢が大事だと思います。

次世代に繋げる産業を、日本から生み出すために

interviewer:

役割や立場は徐々に変わりながらも、投資家として長く働いてきた河合さんがこれから実現したいことは何でしょうか?

河合:

「社会に役立つものに投資したい」という想いはずっと根底にあります。農林中央金庫でも日本政策投資銀行でも半官的な役割を担う組織で日本の産業に貢献したいという想いを持っていましたし、シードVCとしても、そうした大義は持ち続けたいです。社会や誰かのためになる事業に資金提供や事業支援といったかたちで関わり続けていけたらいいですね。考えてみれば、この想いはライフステージの変化と共に強くなってきた気もします。例えば、子どもが生まれたとき。「次の世代にしっかりと何かを残さなくては」という使命感が強くなりました。そこに私自身の興味を掛け合わせて、10→100のアップデートよりは0→1の新しいものを生み出すフェーズに関わっていきたいです。
投資領域で言えば、やはりクライメートや宇宙といった領域に興味があります。次に大きくなるであろう市場で、日本が競争力を高めていけるような環境を作っていきたいと考えています。例えば、宇宙ってとても参入障壁が高い領域だと思っています。長年の研究成果の蓄積が必要で、そういったバックグラウンドがある国自体が少ない。人工衛星を飛ばしたことがある国も数えるほどしかない。その点、日本は宇宙にも対応できる素材・材料や精密機器といった関連産業の技術力も高いので、本来すごく強みがあるはずなんです。宇宙に限った話ではありませんが、そのように参入障壁が高く、これからさらに拡大していくであろう領域で、かつ日本にアドバンテージがあれば、やはり日本は負けちゃいけないと思います。そして、その領域で勝つためには、その産業を牽引してくれるスタートアップに育ってほしい。スタートアップと一緒に新しい産業を興して日本が勝っていく未来を想像すると、とてもわくわくします。

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