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考え続ける、私たちらしい持続的なスタイルと未来について -設立からの5年間とこれから-

インタビュー

2021年夏。ジェネシア・ベンチャーズは設立から5周年を迎えました。

ここまで歩み続けてこられたのもひとえに、心を重ねて日ごろから一緒に活動してくださっているみなさんのおかげです。本当にありがとうございます。

今から5年前の2016年、一人の起業家として独立した田島。 2018年、同じく独立、かつての上司との共同経営に参画した鈴木。 そして2021年、大企業を離れ、シードVCとしてスタートアップと向き合うことを決めた河合。

今回は、この3人のジェネラル・パートナー、パートナーの視点から、「チームビルディング」「SDGsや多様性・D&I」「スタートアップエコシステムの一員としての役割」などのテーマで、ジェネシア・ベンチャーズのこれまでとこれからについて、お話しします。

“チーム”に向けて。私たちに関わってくださるすべてのみなさんに向けて。

「仲間づくり」と「チームビルディング」

田島:

ジェネシア・ベンチャーズは、2021年8月31日で5周年を迎えました。とても早いなぁという印象なんですけど、この9月から河合さんがジョインして、チームは合計11名。運用残高が120億円。投資支援しているスタートアップの数も100社を超えました。ここまで順風満帆だったかというと決してそうではないんですけど、これまでを軽く振り返ってみたいなと思います。
大きくは「仲間づくり」と「チームビルディング」について。これまでのキャピタリスト採用はキャピタリスト経験のある人はほとんど採用していなくて、経験者は私とタカ(鈴木)のGP二人と、インドネシアオフィスのElshaだけでした。そこに今回、新たに河合さんも経験者として加わっていただいたわけですけど、河合さんのご経験もシードVCという意味では、もう少しレイターのご経験です。それ以外のメンバーは、キャピタリスト経験はゼロでした。これには理由があって、ベンチャーキャピタルとしての活動って、シンプルに言えば「LPの方々からお預かりしたお金をいかに増やしてお返しするか」っていう部分が成果としては大きいんですけど、ジェネシア・ベンチャーズとしての活動っていう視点でいうと、そういう金融機関としてのサステナブルな要素は大前提でありつつも、チームとしてのビジョンや私たち一人ひとりの自己実現に向けたライフプロジェクトみたいなものだと思っています。そう考えると、ジェネシア・ベンチャーズが掲げているビジョンへの共感・・いや、共感を超えて自らが率先してそれを実現していこうとする欲求や意志があるとか、スタートアップへの溢れんばかりの愛があるとか、スタートアップのサービスやソリューションを世の中に伝えていくことで世の中をもっと良くしていくことに対しての欲求や意識を持っているとか、そういう要素を意識して仲間集めをしてきたつもりなんですよね。加えて、これはいつもチーム内でも話していることですけど、キャピタリストって投資家じゃなくて「資本家」だと思うんです。じゃあ「資本家」って何かっていうと、投資家と事業家を足して2で割ったような存在。そうなると、投資家に必要なファイナンスや財務の知識って座学で正直何とでもなると思うんですけど、事業家の部分って、そんなに簡単には何ともならないというか、やっぱり起業家に選ばれる人間性やビジネスセンス、そういったものが必要だと感じています。だから、そういった要素をしっかりと兼ね備えていそうなメンバーにここまで仲間としてジョインしてもらってきたと思ってますし、個人的にはそれが良かったんじゃないかなと思っています。キャピタリストっていう職業に対する先入観があまりない分、ジェネシア・ベンチャーズとしてのオリジナルのキャピタリスト像というか、キャピタリストのあり方みたいなものを一緒に探求してこれたのかなと。それで結果的に、傍観者ではなくてキャピタリスト・・つまり資本家として、当事者として、起業家に伴走できるメンバーが育ってきてくれてるかなって思ってます。
タカはこのあたり、どんな風に考えてる?

代表取締役/General Partner 田島 聡一
タカ:

チーム内でも公にも積極的に発信していないものの、田島さんと二人でジェネシア・ベンチャーズの経営を始めたときから、我々二人にGPを限定するのではなく、GPを増やし続けるファンドでありたいと話してきましたよね。もちろん、GPが10人とかはファンドサイズや運用ファンド数を考えても構造的に難しかったりするけど、基本的には増やしていきたい。要は、キャピタリストとして成果を出した先に、一つのファンドを卒業して別のファンドを作るより、ジェネシア・ベンチャーズでGPに昇進する、成果を出せばGPになれる、みたいな、そういう方が一つのファンドとして長い目線で新陳代謝を繰り返しながらDNAを引き継いでいけるというか。僕たちが実現したいビジョンって、けっこう恒久的なものだと思ってるから、そういう意味では、将来的にはGPになってくれるといいなっていう人物像を考えながら採用してるかもしれません。GPになる素質って何なんだ?とツッコミがありそうですけど、個人的には「VC投資という手段を通じて成し遂げたい個人のWillと我々のチームとしてのWillの重なりが大きい」かどうかは強く意識しています。もちろん、個人のWillっていうのは変化していくものなので、仲間になるタイミングでベンチャーキャピタリストとして生きていく覚悟が決まっていないってこともあると思います。なので僕たちは、仲間になる相手のWillをしっかりと聞いて、また、僕たちの目指すWillもしっかりと伝えることを大切にしていて、対話を通じた相互理解を入社前にしっかりとやるようにしています。その後、成果を出したり様々な経験をしたりして、結果的に別のところでチャレンジしたいって人が出てくるのは当然だと思うし、そういう場合はもちろん全力で応援したいと思ってるんだけど、ここで一緒にGPを目指した方がより大きいチャレンジができるよっていう、そういう挑戦し続けられる環境を作り続けなきゃいけないなとは思ってます。なので、GPになる資質を持っていそうな人を採用することと、あとは、経営視点のチャレンジとして、そういう人に魅力を感じ続けてもらえる、一緒にチャレンジしたいって思い続けてもらえる場とか機会とかをいかに作り続けるかっていうところを意識してるっていうのはあるかなと思いますね。
グローバルと違って日本の独立系VCの歴史って、ジャフコさんやグロービスさんは長いですけど、そうじゃないいわゆるインターネット系の独立系VCってまだ歴史が浅いじゃないですか。また、インキュベイトファンドさんみたいな子ファンド戦略っていう方法も一つありますし、他にも方法はありそう。まだベストプラクティスがないかなって印象があるので、そのベストプラクティスをやっぱり自分たちでも作っていきたいなとは思いますよね。あとは、東南アジアもそんなにVCの歴史が長くはないので、僕たちは東南アジアでもプレゼンスを作れるし、そういう、VC経営をしっかりとできるファームになっていけるといいかなと思ってます。

General Partner 鈴木 隆宏
田島:

そうだよね。「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会の実現」っていうジェネシア・ベンチャーズのビジョンは本当に恒久的なものだから、起業家への向き合い方や投資の目利きみたいなところを属人化させずに、チームとしてのDNAに昇華させることを意識してきたよね。GPの頭の中だけに目利きの基準があって、それが属人化してしまうとまさに持続性がなくなると思う。なので、やっぱりチームとしてのDNAとしてオープンにできるといいなと考えていて、まだまだ試行錯誤しながらだけど、力を入れてきたかなっていう感じはあるよね。

外から見た、ジェネシア・ベンチャーズ

田島:

このあたり、河合さんから見て感じていることはありますか?

河合:

まさに今お二人がおっしゃっていた、目利きみたいなところを属人化させないとか、あとチームカルチャーの統一化みたいなところとかっていうのは、すごくジェネシア・ベンチャーズっぽい話題だなと思いますね。私は前職のDBJキャピタルで、ジェネシア・ベンチャーズのファンドのLP投資家として外から皆さんを見させていただいてたんですけど、すごく伝わってくるところがありました。
まず一番最初のきっかけみたいなところからお話すると、2017年の4月に私はDBJキャピタルに異動になって、そこからキャピタリストになったんですけど、赴任直後にJVCA(日本ベンチャーキャピタル協会)の研修を受けさせていただく機会がありまして、そこで田島さんの講演を聴いたっていうのが本当に最初の接点なんですよね。それで、そのときの講演の内容を今でもよく覚えているんですけど、たしか、テクノロジーとかビジネスモデルの進化の過程みたいなものをパターン分析されて、そういう本質を踏まえた上で、将来のあるべき姿を思い描きながら投資すべきテーマだったりタイミングだったりを適切に見極めるべきだ、みたいなことをおっしゃっていたんです。それが、すごく論理的で本質的な物事の捉え方だなって、すごく感銘を受けました。当時ちょうど、私もこれからキャピタリストとして業務をしていく中で、自分なりの投資基準や投資プロセスみたいなところを確立したいと思っていろいろとお話を聴いたり調べたりしているところで、田島さんのお話がすごく腹落ちしてですね、自分の行動にもすごく影響を与えていただいたのかなと思ってます。
一方で、ジェネシア・ベンチャーズというファームとの接点で言うと、たしか2019年頃だったと思うんですけど、2号ファンドへのLP出資のご提案をいただいて、そのときに改めて深くファンドとしてのお話を伺いました。まさにそのビジョンだったり経営哲学だったり、あるいは日々の起業家さんへのアプローチの仕方とか、あるいはLP投資家との協業のあり方みたいなところをいろいろとお話伺って、そのときにやっぱり感じた印象っていうのも、JVCAの研修で最初に田島さんから受けた印象とすごく近いものがあったんですね。すごく論理的で、すごく真面目で、地に足のついたVCっていう、そういうイメージです。

Partner 河合 将文
田島:

なんか、遊びがないイメージですね・・!

河合:

いや、逆に、もともと田島さんはサイバーエージェント・ベンチャーズの代表でいらっしゃって、見た感じもすごく存在感があったので、研修のときは何かIT業界の中での武勇伝みたいな話をされると思ってたんですよ。でも、その先入観をいい意味ですごく裏切られて、それが逆に印象に残ったっていうのはあります。
それで、ジェネシア・ベンチャーズというファームについても全く同じ印象を受けたっていうのは不思議だなと思ったんですが、たぶん、例えばコーポレートアイデンティティの設定みたいな、ああいう強い組織作りのノウハウを形式化する試みであったり、『DXの型』みたいに事業構造の理解を深めようと類型化する試みであったりとか、そういうところに実はすごく特徴的に表れてるかなと思いますね。属人的ではなくて、きちんとロジックや一貫性を持っている。やっぱ再現性を高めるためにはそういう取り組みが必要なんだろうなって。
特に素晴らしいなと思ったのは、やっぱりカルチャーっていうか、ビジョンとか想いとか、そういうものがチーム全体に深く浸透していて、チームとして本当にそこを目指してるんだなっていうのはすごく感じましたね。ベンチャーキャピタルっていうと、個人商店とか個人事業主の集まりみたいな言われ方をすることもあると思うんですけど、ジェネシア・ベンチャーズに関しては、チームとしての統一感とか一体感みたいなものを感じる。それは大きな特徴の一つかなと思いました。
・・ちょっとほめ過ぎですかね?

タカ:

ありがたいっすね!

チーム内の多様性を認識する試み

田島:

たしかに、VCのチーム作りみたいなところはすごく難しいなと、キャピタリスト仲間や先輩方からも聴きますし、私自身も感じてるんですけど、試行錯誤しながら少しずつ前に進めてるのかなと思ってます。
強く意識しているのは、個人の強みやWillを大切にしながらそれらをいかに掛け算にしていくかや、個人が持つ多様性みたいなものは大切にしながらも、ジェネシア・ベンチャーズとしてのアイデンティティみたいなものをどれだけ確立していけるか、みたいなところです。メンバーの数だけ多様性があるのは真実なんですけど、ただ当然チームとして勝っていかないと私たち自身がサステナブルにならないので、そこの両立みたいなところはすごく試行錯誤しながら、ここまでタカと一緒にやってきたかなと思ってます。ビジョン・ミッション・バリューの言語化しかり、ビジョンと私たちの投資活動を有機的に紐づける『6つのチャレンジテーマ』の選定しかり。あと、最近始めている取り組みとしては、やっぱお互いをよく知ることっていうところですね。チームランチっていう取り組みで、愛さん(吉田)がリーダーをやってくれてるんですけど。お互いが違うことを知るって言った方が正しいかも?、本当に、みんな全然違うんだなってことがわかります。その違いをなくしたり矯正したりしようとするんじゃなくて、仲間とはいえこんなにも違いのある人たちと仕事してるんだから、歩み寄りとか思いやりとかコミュニケーションとかがやっぱり大事だよねってことを認識し合いたいと思ってますね。

タカ:

性格診断や優位感覚にまつわる理論とかを使った簡易チェックみたいなものとかを毎回取り上げてくれてますけど、それぞれ結果をシェアすると、なるほどなっていう感覚ありますよね。そういうところをお互いに認識することで、それに合わせたコミュニケーションを多少はできるようになるかなみたいな。そういう試みですよね。

河合:

そういうのをみんなの前でさらけ出すのって若干恥ずかしくないですか?

タカ:

そうですね。ただ、さらけ出すってことをあえて月に一回やってるって感じですね。今ってまさに世の中ではダイバーシティとか多様性とかいろいろ言われてる中で、マクロとミクロの視点みたいなこともあるのかなと思います。僕たちチームって11人しかいなくて、でもそれぞれの価値観があってそこに多様性が存在しうるので、マクロの動きはあれど、まずはそのミクロなチームの中でも多様性を認め合ったり受け止め合ったりみたいなことができないかなと。それができないと、そもそもマクロ的な多様性に対しても向き合えないんじゃないかとも思ってるので、そういう意味での実験的な取り組みですね。なんだかんだ、一緒に働いててもそういう話はしないじゃないですか。なので、あえてそういう話をする場を持つことによって、関係性が深まるんじゃないかなと思ってますね。
コロナ禍で、スタートアップにしてもやっぱりみんなチームビルディングに悩んでいるなと思います。ずっとリモートワークで、実際に会ったことない同士で働いてますって人も今は多いじゃないですか。そういうときに「僕たちはこういう施策やってるよ」みたいなことをシェアすると、「私たちもやってみます」みたいなこともあったりするので、自分たちがチームビルディングを頑張ることで、結果的に支援先のスタートアップをはじめとした誰かの役に立ったり、そこからまた一緒にディスカッションしてさらにその新しい何かが生まれたり、そういう循環が生まれるのもいいなと思いますね。

河合:

まさに、SDGsやESGをテーマとして掲げてる人は多いと思うんですけど、自分たちが日々の業務の中で実践するっていうのは、正解もないですし、いろいろチャレンジしてみるのってすごくいいですね。

タカ:

目標が大きすぎるとぼやけちゃうっていうこともありますよね。主語が自分たちなのか、世の中なのか、誰が何のためにするものなのかっていうのがわからなくなっちゃうというか。そこは、やっぱり基本的には主語を自分たちに置いた方が実感が湧くと思うので、まずは自分たちができるところから始めて、それが支援先のスタートアップやLPの皆さんにも伝わって、その先にも伝わって、みたいに徐々に影響範囲が大きくなってくるといいかなって。

ジェネシア・ベンチャーズらしさの探求

河合:

ジェネシア・ベンチャーズの印象っていうところでもう一つ思い出したんですけど、「チーム」っていうものを考えたときに、社内のメンバーだけじゃなくて、例えば投資支援先のスタートアップの起業家だったり、あるいはその従業員だったり、LP投資家だったり、あるいは連携先だったり、そういう全部をひっくるめて一つのチームとして捉えようって考え方をしてるじゃないですか。だから、私がDBJキャピタルにいたときも、本当に連携しやすいパートナーだなと思ってました。それも同じく、大上段に風呂敷を広げるっていうより、自分たちにできるところはあくまで一部だったとしても、そこから少しずつ場を広げていくみたいな発想ですごくいいなと感じましたね。

田島:

特にスタートアップを取り巻くエコシステムっていうのは、実際にステークホルダー全体で一つのチームみたいなものですからね。そういう世界観でこれまでもやってきたし、これからもそこはすごく意識していきたいと思いますね。
あとは、そうだなぁ、やっぱりこの5年を振り返ると、ジェネシア・ベンチャーズらしさみたいなところをけっこう探求してきたかなって思いますね。さっきの話とも関わるんですけど、世の中的にはこうすべき、こうあるべき、みたいな話があるじゃないですか。とはいえ、私たちが実際に考えて当事者として実行してみる中でようやく腹落ちしてそれが人に伝えられるようになることもあると思っていて。まさに、さっきの多様性とかSDGsの話もそうですね。すごく素敵な取り組みだし、SDGsに則って活動します!やります!って言うことはすぐできるんですけど、自分たちの目指すビジョンや価値観と照らし合わせると具体的にどういうものなんだろうって議論で、やっぱり私たちには「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」っていうビジョンがあって、そこと普段の投資活動っていうのを紐づけていくみたいなことをチームで逆算で議論して、それを『6つのチャレンジテーマ』に落とし込んだ経緯もある。あれは、ある意味でジェネシア版のSDGsみたいなものなのかなと思ってます。自分たちで、「ジェネシア・ベンチャーズで言うとこれってどういうことなんだろうね?」みたいなことをちゃんと自分たちの頭で考えて、チームでディスカッションしながら落とし込んでいくことをすごく大切にしてきたかなと思ってますし、そういう進め方はこれからもすごく大切にしたいなと思っています。やっぱり私たちらしさを意識することはすごく重要かなって思ってますね。

河合:

すごく説得力を感じるのは、まさにそのSDGsを、誰にとっての誰が実践するSDGsなのかを意識していることかなと。自分たちが取り組むSDGsなのか、投資支援先に求めるものなのか、あるいは投資支援先を選定する基準としてのSDGsなのか、みたいなところがあると思うんですけど、単にスタートアップに要求するものだったりすると何か押し付けがましくなって、それって誰にメリットがあるのか?っていうところが見えにくくなると思うんです。なので、まずはやっぱり自分たちでしっかりと落とし込んで実践してみるっていうのは、スタートとしてすごく健全な気がします。

タカ:

SDGsやESGの流れで女性の役員や管理職の比率を上げるという話が上場企業でも増えているじゃないですか。ただ、そういうことも、“それだけ”だと本質的な取り組みじゃないんじゃないかなと思っていて。最近、感度の高い若手の起業家から、「僕らも今から積極的に取り組んだ方がいいですか?」って質問を受けたんですよね。機関投資家の方々を含めて、SDGsとかESGとかそういうことをしてたら評価される可能性が高いんですよね、だったらそのための逆算でアクションしといた方がいいですよね、っていう質問だったんですよね。そういう気づきとかきっかけとかがあることは、すごくいいと思うんですよね。一方で、僕が彼に言ったのは、「もちろん女性役員の比率を上げることはたしかに将来的に重要な評価軸になる可能性があるけど、評価されるためにやるっていうことと、会社や事業として成果を上げることとは直接的な相関がある訳ではないと思う」「だから、しっかりと成果を上げるためにどういう人が必要かっていうところをまず大前提に考えて、その上で、それを担える人をしっかりと採用したり登用したりしていく。つまり、女性を役員にすることがゴールじゃなくて、会社としての成果を継続的に出し続けることが一番大事だよね」ってことでした。会社とかチームとしてはサステナブルに成長し続けることがまず大事で、その上で、どうやって女性をはじめとしたあらゆる人が活躍できる会社にしていくかって話だと思うって伝えました。

河合:

そうですね。誰かの評価のため、だと、その「誰か」が興味を失ったら、じゃあ評価を受けられないからやめますってことですかっていう話になりますよね。

タカ:

人にも働き方にも必ず多様性があるんだから、だから当たり前にマネジメントや経営陣にも多様性が必要だっていう話ですよね。だから、ダイバーシティがあることが結果的にサステナブルな事業成長に繋がるだろうって、たぶん今コンセンサスがあると思うんですね。なんだけど、そこの繋がりの部分を無視してゴール目標だけが独り歩きしちゃう形になると変な感じになってくという感覚です。例えば、すでに女性役員の比率が高い企業さんって、昔から女性が普通に活躍して役員になってるんですよね。それが自然だよな、とは思ってます。だから、本質的には、やっぱり自分たちの事業としての成長の中にダイバーシティが必要だよねっていう結論を導き出す議論を企業内でしていくことによって、初めて意味のあるシフトができるのかなと思ってます。一方で、まずはわかりやすい目標があった方が動きやすいみたいなところもあると思うので、これは鶏と卵の話だなとは思いますし、難しいなとも思いますけどね。僕らも、どういう風に捉えていけばいいだろうってところは、まだまだ日々悩みながらやってますね。

河合:

たしかに、まずは形から入って、アクションしていく中で徐々にその価値を理解して落とし込んでいく、みたいなこともアリかもしれないですね。

選ばれるチームであり続けるために

田島:

今の話も含めて、外部環境の変化がめまぐるしいというか、本当に速い。そしてそれはVC業界も同じだなと思っています。シリーズA以降を主戦場にしていたVCがシードの方に移行してきたりなども含めて、シードVCが増えていますよね。個人的には、起業家のゼロイチのチャレンジを応援するプレイヤーが多い方がイノベーションの数っていうのは間違いなく増えると考えているので、この流れはとてもいいことだと思ってます。あとは、資金調達手段が増えてますよね。株式投資型クラウドファンディングとかベンチャーデッドとかSPACとか。それも選択肢が増えてすごくいいなと思います。一方で、ジェネシア・ベンチャーズとしてどうすれば素晴らしい起業家に選ばれる存在であり続けられるのか、どうすればもっと選ばれるチームであれるのか、っていう部分はもっと考え尽くさないといけないし、どんどんチャレンジしていかないといけないなと思ってます。
そのあたりタカと河合さんはどう考えてますか?

タカ:

僕は今VC歴10年ちょっとなんですけど、成功確率が高いというか比較的順調に組織も事業も成長している起業家の特徴っていくつかあるなと思ってて。こんなことを言うと元も子もないんですけど、まず大前提として、その起業家のことを僕がよく知ってるっていうことなんですよ。
もともと仕事抜きの友人っていうケースもあれば、仕事を通じて出会ってキャリアの過程を知っていて、そこから起業相談が来るみたいなそういう関係。ゼロイチなんだけど、ゼロイチの前から知ってる人ですね。そういう人への投資とか支援ってけっこううまくいってるケースが多いかなっていう印象は、個人的にはあります。単純にその人のコミット力とかグリッドとか、そういう特性をよく知ってるから信頼して投資できるっていうことももちろんあると思うんですけど。シード投資というかゼロイチフェーズの投資って、事業ドメインは大前提として重要ではあるけれども、やっぱり起業家がすべてだと思うんですね。ってなったときに、同世代のまだ起業しない友人とか、ちょっと世代とか立場が違っても仲良くなる瞬間があった人とか、そういうご縁みたいなのはけっこう大事にしてて。
シードVCって、単純に「投資したい」「資金調達したい」ってところから関係を始めるだけじゃなくて、これまで積み重ねてきた人との繋がりの中にけっこう機会があることが多いかもしれないってことは個人的には感じてます。そういう意味では難易度の高い戦いではあるものの、積極的にスタートアップじゃなくてもいろいろなところで活躍されてる人とか、頑張られている人との接点は意識的に作っていかないとなと思ってます。結局、スタートアップが全てじゃないじゃないですか。スタートアップがあれば大企業もあるし、いろんなステークホルダーがいるので、当然いろんなステークホルダーの人たちと日常的に意識的に接点をもたないと、どうしてもスタートアップに寄りすぎちゃう。革新的なことを起こすことが正義みたいになりすぎちゃうとか、あとは資金調達が全てみたいにもなっちゃう。そうではないなって。資金調達しなくても素晴らしい事業を作られてる会社もいっぱいあるわけで。っていう感じで、そういういろんな選択肢について僕自身がもっと解像度を高めていきたいし、メンバーにもそういう意識とか視点を持っていろんな人たちと付き合ってほしいなと思いますね。
とはいえ、これについてはソーシングという意味では数年単位の時間がかかるものではあるので、足元でいうと、僕たちは割としっかりいろんな発信をしてると思うんですけど、改めて3号ファンドのレイズ含めて、そのあたりはさらにしっかりやっていきたいですよね。これから起業しようと考えてる人、事業のタネを探してる人、これから初めて資金調達しようとしてる人、そういうたちに僕たちが選んでもらうために何ができるかみたい視点での施策は、チームでもまさに考えてるところで。ファイナンスや事業の型、事業のタネ、グローバルな事例、あとは僕や田島の頭の中にあることとかですね。そういうアウトプット自体が、起業家へのGiveだけじゃなくて、僕たち自身の事業をつくる脳ミソを育てることにも、チームの意思決定のチューニングにも効いてくると思いますよね。結果的には、DNAとかチームづくりにも繋がってくるんじゃないかなと思ってます。

田島:

まさにそうだよね。ジェネシア・ベンチャーズを設立してから5年、タカがジョインしてくれてから3年か。いろんな局面でこういう話はしてきてるけど、どうすれば素晴らしい起業家に選ばれる存在であり続けられるのか、どうすればもっと選ばれるチームであれるのかという部分は、少しずつだけど、私たちがチャレンジすべきことやあるべき形が見えてきた気はするね。
あと、河合さんはこれまでどちらかっていうとシリーズA以降の投資がベースだったと思うんですね。だから、きっと河合さんから私たちの意思決定を見たときに、「あれ?」とか「おや?」っていうポイントはたぶん出てくると思うんですけど、そのあたりも新しい視点も取り入れながら、意思決定のスピードと質をトレードオンさせていけるといいなと思ってます。

繋がりを生み、育む存在でありたい

田島:

河合さんは、どうすれば素晴らしい起業家に選ばれる存在であり続けられるのか、どうすればもっと選ばれるチームであれるのか、っていう部分についてどう考えますか?

河合:

おっしゃる通り、シードVCとしてスタートアップを発掘するところって私にとってはこれからチャレンジしていくところになるんですけど、投資後の事業支援みたいなところでいうと、冒頭からずっとお話にあるところの「ワンチームとしていろんなステークホルダーを巻き込んでサポートしていく」みたいな発想はより重要になってくる気がしてます。スタートアップ単独とかVC単独でできることっていうのは、それはそれで拡充しないといけないんですけど、やっぱり限界もあるだろうと思っていて、なのでいかに周りの人たちを巻き込んでコラボレーションしながら事業価値を高めていくか、みたいなところはすごく重要な視点だと思いますね。その中心的なハブみたいな役割になっていきたいですよね。スタートアップと大企業をはじめ、スタートアップと行政、スタートアップ同士、あるいは海外市場と日本市場、国内外の機関投資家も含め、異業種とか異なる市場の結節点みたいになっていけるんじゃないかなと思ってます。
ジェネシア・ベンチャーズ自身の周りに独自のエコシステムを作っていくみたいなイメージですね。投資したスタートアップに対して、そこでみんながサポートして事業を育てていくような。またきっとそのエコシステムの中には自ら起業を目指すような人たちも出てくるでしょうから、そういう人たちがまた投資対象になってくるみたいな。そういう循環というかエコシステムができていくとおもしろい気がします。

タカ:

「アジアで持続可能な産業がうまれるプラットフォームをつくる」っていう僕たちのミッションには「ベンチャーキャピタル」って言葉はないんですよね。ここを「プラットフォーム」って言ってるのがけっこう重要だなと思ってて。今はだいぶ変わってきましたけど、以前はスタートアップ村の人と大企業の人みたいな分断が存在してたと思うんです。最近はBtoBビジネスで産業をDXするようなプレイヤーが出てきたりしてここが溶け合い始めてはいるものの、本質的にまだまだ溶け合いきってはいないと思ってて、そこをうまく翻訳したり繋いだりすることってすごく大事だと思ってます。成功事例もまだ多くは出てきてないですしね。その間に、僕たちの役割がある気がしますね。で、そういうことをぐるぐる回そうとしたら、スタートアップだけを支援するじゃ足りないんですよね。やっぱりステークホルダーを巻き込んで初めてビジネスって成り立つので。だから、僕たちが「ステークホルダーも含めたワンチーム」っていうのは、そのプラットフォームのイメージに近いのかなと。

河合:

単に紹介して繋ぐだけだと目に見える成果に繋がらないケースも多いでしょうし、あまり持続的な取り組みにならないことも多いと思うんです。いかに熱量の高い担当者と組めるかがキーなのかな。

タカ:

プラットフォームって言いつつコミュニティなのかもねって話を最近はしてますね。そこに参加してる人たちの有機的な繋がりとかをイメージすると、プラットフォームの方がなんとなく人と人を繋ぐ線が少ない気がするので、もしかしてコミュニティの要素が強いのかもしれないなみたいな。このあたりは僕たちの次の大きなチャレンジになりそうですね。

河合:

大企業との連携みたいなところに関して言うと、私がDBJキャピタルにいたときの反省の一つでもあるんですけど、スタートアップは大企業を紹介してくれって言うし、大企業にもスタートアップと組みたいって言うし、お互いにニーズはあるんですけど、私たちVC(セクター)はスタートアップの側にばかり目を向けがちで、逆に銀行のビジネスサイドの人は大企業の側にばかり目を向けがちなので、それぞれでは理解しているんだけど、ここを両方同じレベルで理解してる人が少ないっていう、そこは課題に感じてたところかもしれないですね。そこはもっと理解を促したり入り込んでいったりする必要はあるかなって思います。

田島:

そうですね、LP投資家の経営層の方々と直接繋がって、スタートアップの紹介にとどまらず、DX戦略についてのディスカッションをしながら、投資支援先スタートアップの企業価値向上に繋がるような戦略的なアライアンスを仕掛けたりとか、これまでも力を入れてきたつもりですけど、もっと積極的にいきたいですね。日本のスタートアップエコシステム全体の底上げという大きな視点で言えば、もっとスタートアップと投資家や大企業のキーパーソンが有機的に繋がれる場が必要だと考えています。コロナ禍でオフラインのカンファレンスも減ってしまったし、一期一会をより有機的に生み出せる場がないと、スタートアップと大企業の共創や大企業によるスタートアップのM&Aは増えないですし。ジェネシア・ベンチャーズが中心とかじゃなく、スタートアップに関わるすべての人でエコシステム全体の底上げに繋がるような、盛り上げていけるようなことに積極的に挑戦していきたいですね。

「これからも、ジェネシア・ベンチャーズをよろしくお願いいたします!」

※こちらは、2021/9/13時点の情報です
(デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん、聞き手/まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ 吉田 愛)

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