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COO Night Vol.1[前編] 経験の年輪はコピーできない -事業家という手段と、その役割について-|Players by Genesia.

PLAYERS

企業組織における特定の領域のリーダーを「CxO」と呼ぶ文化は、スタートアップを中心に、日本でも一般的になりつつあります。

本イベントは、その中でも「COO(Chief Operating Officer/最高執行責任者)」の在り方に迫りました。

ただし、-職業や職位というのはあくまで手段である- それが私たちの考えです。COOになるためにはどうすればいいか?という手段のための手段の話ではなく、COOとは何か?それは私たちやあなたのどんなビジョンを実現し得る手段なのか?どのようなマインドセットを持ち、どのように行動した人物が、結果的にCOOとなり得るのか?そんなところに目を向けます。

情熱をどこへ向けるか?
そのために学び続けられるか?
そのために身を賭せるか?

そうした問いをひたすらに浴びせ続けられるような、90分間。

―あなたの情熱は、どこにありますか?-

ということで今回は、ジェネシア・ベンチャーズのInvestment Manager・相良が発起人となり、事業創造や課題設定、そして執行において、圧倒的な実績を持つ“Players”が登壇したイベント「COO Night Vol.1」のレポートをお届けします。

※[後編]には、配信には含まれなかった番外編を追加してあります

登壇者

写真左から、守屋 実氏、福島 広造氏、相良 俊輔  ※以下、敬称略

発起人より

相良:

みなさん、こんばんは。まず、特にアジェンダというアジェンダをそんなにかっちりとは決めていないので、カジュアルな雰囲気でやっていけたらと思います。
その上で、このCOO Nightというイベントを企画させていただいた主旨ですが、個人的な嗜好性としてこれまで、型化とか構造化とかが好きなこともあって、実際にジェネシア・ベンチャーズのオウンドメディアでも「DXの型」という、デジタルネイティブなビジネスモデルを構成している基本的なパーツとかフレームワークとかを整理するような記事を書いてきました。一方で、キャリアのバックグラウンドとして、創業初期のスタートアップに飛び込んだのがファーストキャリアでもあるので、整理された情報は有用でありつつも、「真実は混沌の中にある」「カオスの中にこそ価値の源泉がある」というような想いも持っていて。なので、よくメディアで見かけるような、綺麗な、美しいコンテンツの逆を地でいくような、リアルに振り切った情報・コンテンツの集積場を作っていきたいというのが、前提としての背景になります。
その中で、COOという職種・ポジションをイベントのタイトルにも冠している理由としては、大上段でいうと、日本のスタートアップエコシステムをより世界に伍していこうというか、ステージを一段上のレベルに引き上げていくには何がセンターピンになるかということを考えたときに、リスクマネーの流入がそもそも米国対比や中国対比で少ないとか、あるいは起業家の絶対数が少ないとか、そういう点はよく議論に挙がるんですけど、個人的には、変化とか混沌を楽しめる経営レイヤーのビジネスパーソンの層が厚くなることが重要なドライバーになるという風に考えています。では、そういった人たちがどういったポジションやどういった属性で働かれているかというと、まさにCOOが該当するんじゃないかと。

株式会社ジェネシアベンチャーズ Investment Manager 相良 俊輔
守屋:

変化、じゃなくて、「変化点」ですよね?

福島:

そうですそうです。あの記事を見てくださったんですね。「非連続に変化が起きたタイミング」ですね。

相良:

そちらの記事、僕も読ませていただきました。「変化点」ですね。
ということで、こういったスポットのイベントをやりつつ、横のナレッジシェアの場となるコミュニティをゆるやかに作っていけるといいかなと思っています。

守屋:

福島さんの周りにも、事業家マフィアという組織ができる予定ですよね。

相良:

僕も薄々は勘付いてたんですけど、BtoBの事業家マフィアをつくる、というのが福島さんの想いということで、そのあたりも伺っていきつつ、ゆくゆくはうまく合流できると良いなと思っています。

守屋:

今日観てくださっている方もみなさん、結集!ということで!

福島:

あ、そのあたり、最後に言おうと思ってたんですけど・・

初代COOと三代目COO

相良:

さて、今日は初回ということで、お二方にお集まりいただいたんですけど、僕にとっては、このイベントをこの主旨でやるならこのお二方、ということで、あまり迷いなくお声がけさせていただきました。
守屋さんとは、共同投資先の懇親会でうちのメンバーと接点を持たせていただいて、お話ししていくと嗜好性とか方向性とか、考えていることがけっこう近しいものがあって。

守屋:

そう、似てるんですよ。

相良:

それで、月に一回くらいですかね、メンタリングや情報交換・意見交換の場をいただいているという関係性になりました。

守屋:

福島さんのもそうなんだけど、相良さんの、あの読み手を選ぶようなnoteがいいですよね。さらっと読むと味わいを感じるのは難しいけど、三回くらい読むと味わい深くって、そういうことか!っていう学びがめっちゃある。福島さんと相良さんは、その双璧だと思います。

福島:

僕が相良さんとこうやって会うことになったきっかけもnoteで、お互いのnoteをいいねし合う仲ですね。

相良:

はい、福島さんとの関係はまさに今言っていただいた通りで、実はお会いするのは今日が初めてです。時期は不明瞭なんですが、お互いにSNSをフォローし合う関係で、一度会ってお話をしてみたかったというところはありつつ、国内の成長企業の中で「COOといえば」というところがやっぱりあったので、この企画にぴったりだなということで今回お声がけさせていただいたという経緯があります。
では、まずお二人から、簡単にこれまでの経歴などをお話しいただいてもいいでしょうか?

守屋:

観てくださっているみなさん、こんばんは。守屋と申します。僕は基本的には「新規事業屋さん」です。初めて会社をつくったのが19歳のときで、今から32年前の話。そこから基本的にはずっと新規事業をやっています。僕は、起業家じゃないんですよ。先輩が立ち上げた大学のサークルに入って、そのままそのサークルを会社化したので、そのまま先輩のもとにいただけなんですね。その後は、ミスミという会社に入りました。ミスミでは、会社員・組織人として、新規事業にアサインされたという立場でした。なので、僕自身が起業家なのかというと- 何社かは社長をやってるんですが、基本的には新規事業が大好きで、ずっと何かしらの新規事業に参画させてもらい続けているかたちです。今51歳なんですけど、歳と同じ数、51個の新規事業に、これまで混ぜてもらってきました。それくらい新規事業をやらせてもらっているキャラクターです。よろしくお願いします。

守屋 実
福島:

福島です。ラクスルに入る前は戦略コンサルのBCGで、企業変革の領域で、トランスフォーメーションとテクノロジーアドバンテージという感じで、要は、大きな会社をテクノロジーで変えていくということをやっていて、5年前にラクスルにジョインしました。課題感としては、相良さんがおっしゃったように、日本て何が足りないかというと、もちろん起業家も足りないかもしれないし、大企業の変革も足りないかもしれないけど、やっぱりスタートアップが大きくなっていく、GAFAMみたいにスケールしていくことが足りないんじゃないかと思っていて、そういうスケールやグロースにコミットできる人材に、自分もなりたいし、日本のスタートアップコミュニティの中でそういう人を一人でも多くつくりたいと思って、こちらに飛び込んだのが5年前です。その当時、ラクスルは30億円くらいの売上規模で、そこから5年くらいで10倍近くなってきましたが、その中にもいろいろなフェーズがあったので、そのあたりをお話しできたらなと思っています。
あと、守屋さんとの関係でいうと、ラクスルの創業時の初代COO的な役割が守屋さんで、今ANDPADのCOOをしている堀井さんが二代目、そして私が三代目です。他にもラクスル出身でスタートアップCOOをやっている人は2-3人いて、ラクスルは歴代こういう役割の人たちを輩出してきたところがあるので、こういうタイトルのイベントで守屋さんとお話しできるのはとても楽しみです。よろしくお願いします。

ラクスル株式会社 取締役COO 福島 広造

COOとは何か

相良:

さて、ここからは、特にスライドなどは用意していませんので、僕の訊きたいことと、事前にいただいている質問やコメントなどを軸に、オープンにディスカッションしていけたらと思います。
まず始めに、今回のイベントのテーマでもある「COOとは何か?」ということを考えてみたいんですが、福島さんがいろいろなメディアで語られていることを見聞きしていて、FASTGROWのANSWERS (β)という、エキスパートに質問して答えがもらえるという新サービスがあるんですけど、そちらでCOOの定義について語られていた内容が個人的にはすごくしっくりきたんです。「非連続な成長を目指すスタートアップにとっては、役割の三遊間が生じてしまうから、そこを拾いに行ってカタチに落とし込んで、それをインストールして手離れさせて、また次の非連続を起こしに行く」という。それが、僕が今まで見聞きしたCOOの定義の中で一番しっくりきました。これってシンプルだけどとても奥深いテーマなので、これをお話しする機会があったらおもしろいなということで、企画させてもらいました。

守屋:

いい言葉ですよね、「役割の三遊間」て。

相良:

ポジションというよりも、「役割の三遊間」を企業の中で担っていく人っていうのは、どんな人でどんなミッションを担うのか、というところでご意見いただけたらと思うんですけど。

福島:

なぜそういうポジションが必要かというと、例えば大きな会社で20%くらいの連続的な成長をしているんだったら、営業やマーケティングやオペレーションといった静的な機能の部門でまかなえるものだと思っていて、基本的にはヒエラルキーやマトリクスの組織論が強い構造だと思っています。でもスタートアップって、その機能が必要だったり必要じゃなくなったり、ビジネスモデルとか勝ち筋が変わったら、営業じゃなくてマーケティングでしたとか、そういう大きな戦略変更とか勝ち筋の変更とかが起きるべきだし起こせる方が強いという、そういう柔らかい状態で構えておくというのが、たぶん勝つために大事なことですよね。あとはやっぱり、事業が30-40%とか伸びたときに、人数が同じだけ伸びると組織崩壊するか組織の希薄化が起きるかどちらかが起きるので、採用せずに何とか凌いでいくっていうしくみにするまでですね、そういう、戦うための構えとして事業体や組織の状態を維持しておくっていうのは、勝ち抜くためには大事かなと思っています。そういう状態をつくり出すっていうミッションはなかなか可視化しづらいし担いづらいんですが、不確かなことや大きな成長にチャレンジをしていく上では、どこかで求められる役割なのかなと思います。規模の大小関わらずそういう状態をキープする人みたいなのは大事だし、いろいろなことが変わっていく上での、一つの大事なタイトルというか役割というかになっていくんじゃないかな、というのが、今回COOという言葉をわざわざタイトリングしてお話しした背景です。

守屋:

僕も同じ考えです。福島さんもお話ししていたように、最初からCOO像みたいなものをかちっと定義してもしょうがないと思っていて。とにかく最初のうちって自分たち自身が作ったパワポとエクセルが嘘ばっかりじゃないですか。作っても作ってもどんどん変わっちゃうし変えるべきだし、先月と今月と来月で全部一緒なんて、ウッソー!試し打ちが足りないんじゃない!?とか、そういう感じだと思うんですね。変わって然り、という。で、事業が変わると、そりゃ人の方も全部変わるわなという話なので、そこに常に誰も取らないボールが存在しちゃうんですよね。みんなが得意なボールが打ち上がってるなら誰かが取ればいいんだけど、みんなが苦手だとかみんなが取ったことないボールが打ち上がると、これは最悪なケースで、どこかで誰かが何かをやらなきゃいけない。そのときに、まず最初にそれに気づいて「あれ?ヤバいの打ち上がっちゃってるじゃん」て組織を見渡しても、「ヤバい、誰も取れないじゃん・・・・俺か!?」というのが、一番初期のCOOの原型みたいな感じですよね。会社として成長する上で絶対に必要、でも誰も取れん、みたいなものを「俺が行くぜ!」って腕まくりして頑張って何とかする、みたいな。それから戦略が固まってくると、だんだんそこまでの混乱はなくなるので、そこから先はむしろ未来を見据えて「ここをやるべきだ」というところに着手していくこと。そんな感じに変わっていくんじゃないかなというようなイメージですね。

福島:

COOって、フェーズによって役割というか得意がかなり違うので。私は、守屋さんが参画されているような新規のアーリーステージの会社にいても何にも役に立たないと思います。それくらい違うと思います。

相良:

たしかにステージによって、大枠での共通点はありながらも、やっていることは全然違うと思います。

守屋:

事業と会社組織自体の目標が変わりますからね。僕の日本語で言うと、「勝ち筋を見つける」まで -自分たちの勝ち方が定まってないから、とにかくいろんなことをやって俺ららしい山の登り方みたいなのを決めようぜっていうようなフェーズ- と、勝ち筋が決まった後では、後者はもう勝ち切るってことが大事なんだと思うんで、このあたりの組織として目指すべきものが変わると、それぞれ役割とか取り組みの姿勢とかも変わってくる。最初のうちはとにかく狩猟民族で、何でもいいから獲物を捕まえてこいよ!みたいな話なんだけど、勝ち筋が決まった後は、あんまりバラけるな!と。そういう感じで変わってきますよね。

”前と後”のCOOの役割

相良:

時期は違いますけど、お二人の共通点で言うと、ラクスルにいらっしゃった/いらっしゃるってことなんですけど、守屋さんがいらっしゃった頃の創業初期のラクスルって、松本さん(ラクスル株式会社CEO・松本 恭攝氏)がいて、守屋さんがいて、他にもたぶんメンバーの方がいたと思うんですけど、どんなことをされてたんですか?

守屋:

今まで使った日本語で言うと、「勝ち筋を見つける」ために一生懸命がんばってましたね。事業・組織・カネと三つくらいに分けたとして、事業の面でいうと、例えば、いろんな考え方があるんだけど、ラクスルってTVCMですごく成長したんですけど、その前ってそこまで天井が抜けてるような絵って描けてなくて、どうしよう・・という混沌としていた時期があります。その天井が抜けるまでの間、勝ち筋が決まるまでの間をとにかく迷ってたんですね。そこが決まったからぐいっといきました。事業でいうと、そこが分け方かなと。組織でいうと、今まさに福島さんとかが中心になっている、いわゆる「経営チーム」ができたのが、その勝ち筋が決まってからなんですね。その前は、堀井さん(現:株式会社アンドパッド 取締役/元:ラクスル株式会社 取締役・堀井 浩平氏)や利根川さん(ラクスル株式会社 共同創業者・利根川 裕太氏)や僕やっていう人たちがいたんですけど、チームにはなってなかったんですね。それぞれが一生懸命がんばってて、混沌としていて。そしてようやく、こうだ!というものが見つかってからは組織化されて、会社も思った通りに上がっていったというところです。

相良:

なるほど、その「勝ち筋を見つける」前と後がありそうですね。それでいうと“後”の方になると思うんですけど、今のラクスルさんって、福島さんをはじめとしてボードメンバーがすごくバリバリキラキラなチームだとお見受けしてるんですけど。今のステージでいうと、福島さんは時間の使い方というかリソースの使い方として、日々どんなかたちで活動されてるんですか?

福島:

守屋さんからのつなぎでいくと、やっぱり守屋さんの時代ってすごく強いメンバーが、「オールスクラム」っていうラクスルスタイルがあったくらいなので、みんな一緒に同じグロースドライバー見つけるぞ!って、そこに向かってひたすらいろんなトライをやって、勝ち筋を見つけてくれたっていうフェーズかなと思ってます。
私はまさに、その勝ち筋によって40億調達して、それで伸びきるぞ!っていうハイパーグロースを目指すときに入ったんで、守屋さんがおっしゃるように、まず事業ではもう、エグゼキューションですね。きちんと勝ち筋のマーケティング投資を踏んで、それでオペレーションと組織がちゃんとついていくっていう、そういうことをマネジしていくっていう世界でした。次に、ひたすら兼務して、エグゼキューションが足りないところとか穴があるところを埋めていくっていう、穴埋めフェーズ・兼務フェーズがあって、そこで一個変わったことというと、役割分担ですね。田部さん(ラクスル株式会社 取締役CMO/ノバセル事業本部長・田部 正樹氏)が伸ばすんで、後ろをちゃんと守りますっていうのが私の役割。その役割分担になってきたっていうのがまた次のフェーズで、このあたりでたぶん100億を超えてきたかな。そこから、ここ一年から一年半くらいの、一部上場まで行ったくらいからですかね、そこでもう一回フェーズが変わって。もう、一つの勝ち筋はあるんだけど、それだけじゃなくてもっと新たな価値とか、本当にスケールしていくための仕込みみたいな、どちらかというと、次の方向性・次のグロースのミルフィーユを重ねていくっていうフェーズになってきました。そこは、エグゼキューションして穴埋めしていくっていうよりは、本当に強いチームががんがんグロースしてくれてる中で、その角度を変える取り組みって感じです。利益面でも成長面でも、何がどう角度を変えられるんだろうっていう。その課題設定にひたすら100%時間を使うっていう。そこらへんが、ここ一年くらいで一番変わったところな気がします。
組織としても、自分は組織を持たなくなったんですけど、しっかり執行していくチーム体制ができて、僕はそれに対してアディショナルに非連続なことを足していくっていう、ちゃんと走れていく事業体制になっています。これが、(これまで)3フェーズくらい変わってきた、僕の役割のイメージですかね。

守屋:

ちなみに、穴埋めって言ってたんだけど、穴埋めのクオリティが違うんですよ。僕とかがやってたのは、もう勝手に開いちゃう穴の穴埋めなんですよ。もともと空いてたのかもしれないけど気づかなかったりしてね。で、ヤバいヤバいって必死になるみたいな、そんな穴埋めですね。かたや、福島さんがやった穴埋めってちょっと違ってて、やっぱり成長するネットのプラットフォーマーみたいな会社は、フロントサイドは強いんですよ。「売る」みたいな話。だけどやっぱり生産サイドっていうのは、ラクスルでいうと、ラクスルっていうサイトでバンバン世の中の細かい注文をバーッと受けますっていうところはいいんですけど、その後それを印刷会社さんにちゃんと刷ってもらうっていうところは、やっぱりどっちかというとフロントに比べて遅れるんですよね。このときに、我が社の課題としては、この後ろの部分(生産サイド)をを強靭化すべきだって言って、そこに入っていくっていう。穴の埋め方がちょっと違うんです。時間が違うからっていうのもあるんだけども、やっぱり、「我が社としてここをやるべきである」っていう大きめの設定をして、そしてやりきった人です。

相良:

リソース配分も含めて総花的に、あるいは均等公平にやってしまいがちなところを、そのタイミングで重要なドライバーはここだ!って設定して、リソースを割いて、体制化する、みたいなことをスピーディに緻密にやるっていうのが、福島さんの仕事のスタイルって感じなんですかね。

福島:

そこでいうと、事業と組織、二つの面があるかなって思っていて。事業の方でいうと、プラットフォームビジネスはまず絶対そうなんですけど、ただ他もそうだと思うんですけど、(例えばフロントとバック、セールスとオペレーションなど)どっちかだけが強い状態みたいにバランスが崩れるというのは、事業上どっかで必ずボトルネックになると思ってます。なので、そのバランスを、全体像の中で今どっちが弱いんだっていうのを見に行くんです。結局、外に出る事業価値って、強い方じゃなくて、下の(弱い)方に合うんで。どっちともきちんと伸びてくるバランスをどうとるかっていうのは、プラットフォーム全体のグロースのために大事かなって思ってます。

縦長の組織で「下」をやる

福島:

一方で、汎用的に組織でいうと、守屋さんが説明してくださったみたいに、大体いろんな会社って上下関係があるんですよね。営業の強い会社、経理畑の会社、とか、トヨタだと調達が強い会社ですよね。こういう風に、基本的には強い部門があって従う部門があるっていう上下の関係で、今ほとんどの企業体って動いていると思ってます。でも、たぶんテクノロジーカンパニーというか、今後本当に伸びていく会社って、そういう話ではないと思うんですよね。でいくと、きちんとサプライ側もオペレーション側もプロダクトもテクノロジーも同等で、ちゃんと同じ土俵に乗っていて、事業価値に対してみんなで向き合っていくっていう、そういうことって大事なんじゃないかなって。ナントカ畑っていう世界をなくして、価値に向き合うようにしたいっていうのが、組織の一個目の話です。
あとは、「日陰」ってあるじゃないですか。日陰をやるってまさにその、縦の(組織の)中で下をやるってことなんで、評価されないんですよね。評価されてるのは、上。出世するのも、上。なので、下をやるっていうのはキャリアリスクがあるんですよね。評価されないし、下がちょっと上がったところで結局上がグロースのドライバーなので、永遠に評価されはしないと思うんです。マインドセットとしては、“自分が”評価されたいなら(上の)光が当たってる方にいったらいいと思うんですけど、事業価値をどう上げていくかっていうことを考えると絶対に下を上げた方がいいんです。だから、自分を主語にして、自分が評価される承認欲求を動機にするんじゃなくて、本当に事業が伸びるために今やらなきゃいけないことが何かって、それだけに向き合うことが楽しいっていうか、事業が伸びることをすごく楽しめるっていう、そういう人はこういう役割には向いているのかなと思いますね。

相良:

めちゃくちゃ大事ですね。本当にいろんな機能が会社の中にはあって、それぞれが上位下位ではなくて、同じくらい重要なミッションを背負っていて、対等に同じ世界に向けて走っていけることが理想なんだけど、現実の組織にはどうしても日向と日陰ができてしまうから、意識的に日陰にアンテナを向けて底上げしていくという。という意味では、COOは個別機能も見ていかないといけないし、組織全体の機能軸で見たときのバランスについても見て、いびつになっていたら直しにいくみたいなことも必要で、事業と組織とが基本的には対の概念というか、一緒に見ていかないといけないなとは思いますね。それぞれのプロである必要もあるし、非常に奥深い重要な役割だなっていうのを改めて思いましたね。

守屋:

頭ではわかるし概念ではわかるんだけど、実際の現場の実務みたいな話でいうと、「とはいえ」だったりとか、なんだかんだでババ引くの嫌だなって思ったりとか、いろんなことがあるじゃないですか。その、いろんなことがある中で、本当にそれを俺がやるって言って宣言して着手して本当にやりきるのって、やる本人ももちろん怖いと思うんですよね。だって、うまくいかなかったらねって話もあるじゃないですか。だから、そういう中でちゃんとやり切る人ってやっぱり稀有だし、やり切れたことには運の要素もあったのかもしれないし、仲間の要素もあったかもしれないけど、でもいずれにしてもその中心点に立ち上がった人って僕すごいなって思うんですよね。うん、福島さんすごいなって言ってるんです。

相良:

最初に手を挙げて本当にやり切るっていうのは、とても大事ですね。

理想のCOO像は、ない

相良:

ちなみに、ミスミとかエムアウトにおいても、COOっていう職種・職種っていうのは設置されてたんですか?

守屋:

三枝さんの時代のミスミってみなさん知ってると思うんですけど、僕がいた頃は田口さんっていう人が社長だった時代で、そもそも上場もしてなかったんですよ。そんな大昔です、と。その昔話でいうと、田口さんという社長は、それぞれの事業チームにかなり権限委譲をしてましたね。で、僕たちはどっちに進んだほうがいいですかね?今迷ってるんですけど・・?って相談すると、それ決めるのあんたでしょ!あんたが経営者なんだから!って従業員に言っちゃう社長だったんですよ。だから、強いCEOっていうよりは、おまえらみんな経営者だからな!っていう、そういう感じの人でしたね。そういうCEOでした。

相良:

そのために、オーナーシップを持たせるような組織設計もしていたってことですか?

守屋:

「ガラガラポン」って僕たちは呼んでたんですけど、年度末に全部のチームがなくなるんですよ。で、来期どのチームやろうかって、国盗り合戦みたいなのが始まるんですよね。自らの意志で、俺はこの事業をこれだけ育てたいって立候補して、それで勝ち抜いたやつがそこの事業責任者になるっていう。毎回毎回社内が焼け野原になって、城を作り直すみたいなことを当時やってましたね。と、それが組織っぽい話で、かつ人事っぽいインセンティブみたいな話でいうと、自分たちで出した事業計画で出た利益を自分たちのチームで山分けしていいっていうしくみだったんです。だから、どれだけ最小の人数でどれだけストレッチするのかっていうのを勝手に考えるんですよ。というのもあって、その田口さんという経営者が、現場まで全員が経営者思考になるには、報酬も含めて、稼ぎたかったら自分で稼げ!知恵絞れ!みたいな、そういう構造・しくみに会社を持っていった人ですね。

福島:

さっきの話に戻るんですけど、今のラクスルの経営チームが強いって言っていただいたのはありがたいなと思ってるんですけど、でも(もともと)強かったわけじゃないんですよね。でいうと、ラクスルってミスミのモデルで作ってるんで、ミスミのその田口さんの文化っていうのはDNA的に刻まれているところがあって。やっぱりちゃんとCEOが権限委譲して任せていくっていうスタイルだったり、経営チームで経営していくんだっていう意志をファウンダーが持つだったり、そこがたぶん源泉としてあるんです。そういう環境だから、今のCxOが活躍するフィールドもあったし、評価されないまでもそういうことを“やっていい”っていう環境セットアップはあって、そこの自由度がラクスルの独特なところだったと思います。その環境であれば、一定の人たちがコミットしていけば、どんどんそういう(強い)人たちが生まれていくんじゃないかなと思いますね。

相良:

ラクスルさんではよく標語的に「仕組みが変われば、世界はもっと良くなる」って言われてますけど、それは事業にも言えるし組織にも言えるっていうか、両方に通じているものはありそうだなと、伺っていて思いました。

福島:

ただ、絶対に権限委譲した方がいいかっていうと、フェーズとか事業体とかによるかなと思っていて。正直、アーリーフェーズとかで権限委譲しない方がいいと思うんですよね。チームじゃなくて、まさにオールスクラムでがんがん試した方がいいんで、あなたはこの役割ねとか言ってたら、たぶん立ち上がらないと思うんですよね。本当に今権限委譲とか、もしくはこの事業の複線化とか、そういうことが本当の事業の課題だったらそうしたらいいと思いますけど、なんかあまり闇雲にというか、自分たちの事業環境と関係なくデリゲーションするとか分散するっていうのは、少なくともこれから勝ち筋を見つけてグロースしていくスタートアップにとってマイナスのこともあるので、そこは見極められたらいいんじゃないかなと思いますけどね。

守屋:

なんかこういうセミナーとかウェビナーで話をしていて思うのは、例えば60分話した中で、聞き手が「ここだ!」というところだけを抜き出して参考にしちゃうと、けっこうケガすると思うんですよ。それって一連の流れの中でたまたまここでそういう話が出現しただけで、前後左右いろいろあるんだから、それはそれぞれの会社でよーく考えた上で引っこ抜くようにしないと、引っこ抜くところを間違っちゃうと、「福島さんが権限委譲したって言ってたのに、あの人の言う通りにしたら大事故じゃん」って(なる)。

福島:

今回COOっていうテーマで話してますけど、私がラクスルにジョインした5年前でいくと、誰かメンターをつけようと思って探しても誰もいなかったっていうくらい普及してなくて。今すごくメジャーっていうか、すごく光が当たり出して、こういう場があるのはすごくいいなぁと思うんですけど、時々「COOってどんな人採用すればいいんですか?」って訊かれることあって、かなりの確率で「いらないと思います」「フェーズじゃないと思います」って言ってるんです。そこはやっぱりちゃんと見極めた方がいいかなと思います。だし、大体そういうことを訊いてきてくださるCEOの方って、組織に対して全体観を持っていて非常にバランスを取れるタイプの人で、先行的に心配になって私に話を訊きにきてくれるんですよね。だから、むしろ逆にそういうところに出てきていないようなCEOとかですね、そういうことにまったく懸念のない人たちの方が危ないと思うんで、そういう人たちにはちゃんと検討をオススメした方がいいかもしれないですけどね。
基本的には、会社組織でいうと、なんかギシギシいってて危なそうとか、事業でいうと、CEOすら全体が今どうなっているかわからないしコントロールできないっていう、そういう風に歪みまくってて、なんかもうアンコントローラブルになってるっていうか、危機対応みたいなときにはこういう役割って欠けてるのかなと思いますけど、そうじゃないのであれば別に教科書通りにCOOを採用すべきとかって話じゃないと思う。

相良:

そうですね、創業初期は本当に、全員がある種COO的な役割を担わなきゃいけないというか、担うべきというか、COOというタイトルじゃなくても、みんながみんな、例えば最も重要だと思われる顧客のアカウントを開けるために全力を尽くすとか、そのためには役割もへったくれもないっていうタイミングがあったりしますよね。だから、初期のタイミングで、じゃあCOOとして来てくださいみたいなことよりも、一体となって向かっていくためには役割も権限も別に柔軟でいいよね、っていう人が入って徐々に組織化していって、それを横串でちゃんと見た方がいいよねっていうタイミングで結果的にCOOという職位がついてくる。そんな感じのイメージが僕の中ではしっくり来るなと思うんですけど。

守屋:

そんな感じじゃないですかね。最初からCOOっていうと、その人が持っているCOO像でやれると思っちゃうんですよね。そうじゃなくて、我が社をどうにかするときにがんばれっていうだけじゃないですか。そこを、自分のCOO像を実現したいとかって思ってる人が、COOという募集につられて入ってくると、けっこう事故が起きるんじゃないかなと。

福島:

怖くてCOOポジションへの応募はできないですよね。そこでその役割を担えるか、わからないですからね。自分だったら応募できないなっていつも思います。
プライオリティってやっぱり事業のグロースなので、大体の場合、COOよりもCMOとかセールスとかですね、グロースをきちんと作れる人っていうのがプライオリティ1で、その人のグロースに対して組織を作ったり事業を整えたりっていう背中を負う役割がCOO。グロースがあって初めて、COOの役割があるのかなって。そこを間違えないように。すごく大人でちゃんとした会社を作っても、事業って伸びないので。事業ががんがん伸びていく中で体制整えていくっていう。ここの前後やプライオリティを間違えないようにはっきりと意識した方がいいんじゃないかなと思いますね。

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