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総合商社とDX Part 1.0 ~総合商社の軌跡と課題~ | DX-Compass by Genesia.

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総合商社。東アジアの辺境にあるこの島国の産業の成り立ちについて考えるとき、総合商社の機能無しには語りえません。

資源の乏しい日本において、世界各地の資源・エネルギーや食料を企業や家庭に十分に行き届けるための供給網を構築し、また、日本企業の製造する自動車や建設機械、鉄鋼製品、発電設備、化学品等の工業製品はもちろん、アパレルや医薬品といった製品を世界各地に輸出展開し、時には現地での販売を行う機能を担ってきました。総合商社はあらゆる産業のサプライチェーンに介在し、高度な物流機能やトレードファイナンスを始めとした仕入先や販売先からの要求に応えていくことで、次なる事業機会を見出し、冬の時代も乗り越えながら、収益を上げ、発展してきた業態です。

国内と海外との間に情報の非対称性が多く存在し、物流オペレーションが今よりもさらにアナログだった時代において、商社は加工貿易の巨大な黒子となって日本の産業を下支えし、巨額のB to B取引を行う上で不可欠なサービス事業者として存在してきました。しかし、インターネットの登場も経て取引者間の情報の非対称性は徐々に解消され、物流オペレーションのデジタル化も急速に進んでいる中、商社が従前のように介在価値を発揮できる事業領域は、ますます減少していくことが見込まれています。

その一方、DX(デジタルトランスフォーメーション)が声高に叫ばれる時代において、デジタル技術を活用することでサプライチェーンを最適化し、業界全体に新たな付加価値を提供しようとするスタートアップが、国内外で数多く登場しています。

本稿においては、総合商社のビジネスモデルについて過去からの変遷を振り返りつつ、デジタル時代の産業を支えるサービス事業者の役割の検討を通じて、産業のDXがダイナミックに進展していく上で求められる機能や、その潜在的な担い手について考察していきます。また、昨今、総合商社のDXに関連した動きが、活発化してきていることから、その動きについても触れつつ、サプライチェーンを俯瞰する視点に基づいて、産業のDXを推進する事業機会について検討することができればと思います。

Part 1.0では、まず、総合商社のビジネスモデルについて、過去からの事業モデルの変遷(既に複数媒体で多くの記事が出ているトピックスなので手短にまとめますが)を踏まえ、その構造的な課題について検討していきます。

総合商社のこれまで(その1):トレード

商社の祖業としてのビジネスモデルは、トレードです。

以下の商流図は単純化したものになりますが、様々な業界の商材を扱うトレーディングカンパニーとして、日々の生活に直結する多様な商品のサプライチェーンに、総合商社は介在しています。

筆者の水谷も、2013年に総合商社に新卒で入社し、コーポレート部門で多くのトレーディング案件の審査に携わらせて頂きました。振り返ると、自動車や二輪車の部品向けの鉄鋼製品や鉄道会社向けの完成車両を始め、電力会社向けの電線用線材、ハウスメーカー向けの建材、石油・ガス掘削会社向けの油井管、食品メーカー向けの小麦、電力小売事業者向けのバイオマス電力等、産業インフラや日常生活に不可欠な商材を扱うダイナミックなトレード案件の申請に係る稟議書が、世界各地の拠点で引っ切りなしに上申されては、ハンコが押されていきました。

そのようなトレード案件は、現地におけるマーケティングや取引先との販売交渉、在庫管理やJIT(ジャストインタイム)納入、煩雑な貿易実務といった販売や物流に係るオペレーション事由に加え、商社を商流に挟むことによる信用補完や運転資金の手当てといったファイナンス事由により、商社のサービス事業者としての介在価値が見出されておりました。

しかしながら、そのような商社機能は他社との差別化も難しく、また、取引先企業も海外事業の経験値を蓄積していくことで、トレードマージンの確保は困難になって久しく、1990年代には「商社冬の時代」に突入していきます。

トレードのビジネスモデルとして、物量を稼ぐことに加えて、オペレーションコストを下げないと十分な収益を上げることができなくなってきていることから、本社の商権を子会社に移管したり、時には、複数商社の子会社同士が経営統合を行うケースが、約20年ほど前から断続的に起きています(勿論、そのような経営統合に関する意思決定は、取引先業界の再編や商品市況等、多くの事由が複雑に絡んでおり、個別の事例についてそこまで単純化することはできませんが)。

総合商社のこれまで(その2):事業投資

総合商社の祖業であるトレード事業に代わり、現在の総合商社の大きな収益源となっているのは事業投資です。トレードを通じて培った商材に関する知見や業界ネットワークを活用して、国内外の資源・エネルギー権益の開発事業者やメーカー、卸や小売の事業者に出資し、経営参画することで、事業収益を享受するようになりました。

例えば、総合商社が東南アジアや中東、アフリカを始めとする新興国を中心に手掛けている発電所の開発・運営事業は、元々、日系メーカーが製造する発電所設備を各国現地の電力会社に納入するトレードビジネスが起点となって開始されたものですが、現在、総合商社は発電所の開発や運営についてのノウハウを蓄積する、世界的にも競争力のある事業者になっています。

様々な業界においてトレードを通じて蓄積された知見と資本を投じて事業者として参画し、果敢に事業リスクを負うことで、総合商社は事業投資をトレードマージン以外の太い収益の柱に築いてきました。業界としては数年前に資源・エネルギー案件への投資に係る減損損失により業績を一時的に落としましたが、この20年間で収益力を大きく向上させ、海外の経済成長も取り込みながら企業価値を成長させている企業セクターになっています。

但し、このように事業が成り立ってきた経緯も踏まえ、商社のビジネスモデルの特徴としては、業界内の特定の商流に紐づく垂直統合型のビジネスモデルとなっていることであり、提供価値の差別化が困難な中で、仕販双方の取引先に対するパワーバランスは弱くなる傾向があることです(勿論、各社の血のにじむ経営努力による例外も数多く存在しています)。

垂直統合型のビジネスモデルであるために、それぞれの商流の情報はたこ壺化されて分断されており、総合商社単独では介在するサプライチェーン全体の改善余地を効率的、且つ、リアルタイムに関知し、取引先に提案するための術を持っておらず、サプライチェーンとして全体最適を図るための付加価値を提供できるケイパビリティは持ち合わせていません。ここに、テクノロジーを活用したサービス事業者にとって、次代の産業を支えるための商機があると考えています。

ということで、様々な業界や製品のサプライチェーンマネジメントを起点に現在は事業投資を収益の柱として成長してきた総合商社の業態を振り返り、その構造的な課題について触れていきました。

次編以降では、様々な業界の最適化やサプライチェーンマネジメントの効率化に貢献するスタートアップや、にわかに活発化してきた総合商社各社のDXに向けた動きと、更なる事業機会としてのDXの空白地帯について、検討していきたいと思います。

『総合商社とDX Part 2.0 ~デジタル時代の産業の担い手は~』は、こちら

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