事業のネタ帳 #24 B2B取引プラットフォームからSaaS & Fintechへの参入
ジェネシア・ベンチャーズのキャピタリストで継続的に発信をしている【事業のネタ帳】シリーズですが、
引き続き、個人的に考えを深め続けたいテーマとしての「Verticalの未来」に関して、「Verticalサービスの進化と深化」として僕が主戦場としている新興国スタートアップの具体的な事例を交えて紹介していきたいと思います。
皆様の事業を考える際の思考の補助線となれば嬉しいです。
目次
- 何故、新興国スタートアップを取り上げるのか?
- インドネシアのロジスティクス市場でのチャレンジ
- 物流のマッチングのみならず業務効率化の支援まで
- Verticalサービスの進化と深化への学び
- 今後の事業展開の拡張性
- おわりに
何故、新興国スタートアップを取り上げるのか?
何故、新興国スタートアップの事例か、と言うと日本では既存産業のデジタルトランスフォームが進行しているが、既存産業とのカニバリゼーションが発生してしまうこともあり、歩みが遅くなってしまっている一方で、新興国では既存産業がオペレーション含めて未成熟な分、デジタルを基盤として基幹産業がスピーディーに立ち上がっており、結果として、LeapFrogな成長が実現している為、日本のスタートアップにおいても何かしらの思考の補助線となるようなヒントが多いようにも考えているからです。
インドネシアのロジスティクス市場でのチャレンジ
インドネシアのロジスティクス市場は$200Bと大きく、その内トラック運送市場は半分の$100Bと言われています。
大半のトラック事業者は2~5台のトラックを保有する小規模事業者となっている。その為、荷主はマニュアルかつ煩雑なオペレーションで物流事業者を通じてトラックの手配をしています。
この領域に複数のスタートアップがチャレンジしていますが、荷主と物流事業者をオンライン上でマッチングするサービスを展開している2019年創業の支援先でもある「Logisly(ロジスリー)」を紹介します。
物流のマッチングのみならず業務効率化の支援まで
当社は、ユニリーバやP&Gなど日用消費財の大手ブランドから、ShopeeやJD.IDなどのEコマース事業者のみならず、工業機械と幅広いカテゴリの荷主を有して成長しています。
荷主によってトラックのメンテナンス時期、新車登録から3年以内であったりと要件が多岐に渡っています。
その為、当社は、トラック事業者から保有トラックの車検証、メンテナンス時期を証明する書面や運転手情報などを登録して貰っています。
その為、荷主は要件や価格含めた条件を入力することで登録物流事業者の中からスムーズな自動マッチングが可能となります。
また物流事業者としては登録時に多くの書面提出が求められて面倒ではあるものの、所有トラックの稼働率の最大化が可能となる為、当社のプラットフォームを利用する物流事業者数も順調に成長しています。
またトラックのマッチングだけではなく、荷主に対してはサービス開始当初から輸配送管理システム(TMS=Transport Management System)を無償でSaaS提供しており、当社がマッチングしたトラック以外の配送状況の管理も可能となります。
Verticalサービスの進化と深化への学び
以前の投稿の中では少なくとも特定産業(Verical)の課題を解決するスタートアップの未来において山の登り方として以下の2点を挙げてきました。
1.業務コストの効率化 = SaaS的なアプローチ
HorizontalからVerticalへ。そしてVerticalの未来。
2.取引コストの効率化 = EC/マーケットプレイス的なアプローチ
また以下のように考えをまとめています。
顧客セグメントや産業によって異なる中で、融合していく未来を考えた際に大事な視点の一つが
HorizontalからVerticalへ。そしてVerticalの未来。
・どのように参入することで面を広く(かつ素早く)取れるか?
であり、その上で山の登り口を検討していくのが良いと考えています
今回紹介をした「Logisly」は、初期顧客ターゲットをエンタープライズとしていました。
競合他社は、Eコマースなどのラストワンマイルを担うなど比較的、参入のしやすいSMB領域から参入していった中で、当社は、取引する物流事業者に対して細かい要件などがある、敢えて導入ハードルの高いエンタープライズから開拓をしていきました。
その為、物流事業者が誰でも登録出来るのではなく、エンタープライズ顧客が求める要件にマッチさせる為に、さまざまな情報を登録時に求めていたことが、その後もエンタープライズ顧客が継続的に利用するプラットフォームに成長することができています。
このようにそもそも取引時に都度、細かい要件すり合わせを必要としない「業務コストの効率化」を「取引コストの効率化」を併せて提供しています。
また上述の通り、荷主に対して輸配送管理システム(TMS=Transport Management System)を無償でSaaS提供することで、荷主の業務オペレーションにも入り込むこと(=業務コストの効率化)で、結果として物流事業者とのマッチング件数の増加に貢献しています。
今後の事業展開の拡張性
当社は、荷主と物流事業者とのマッチング、および輸配送管理システムを提供するのみならず、取引データを元に複数、事業の拡張に取り組んでいます。
私自身は2017年より少し前から以下のことをずっと言い続けているのですが
個人的には、広義の意味で【“あるデータ”が一定閾値を超えると、 加速度的に価値が高まる。そんなデータを収集&活用出来るプラットフォーム】をあらゆる産業分野で注目しています。
TechCrunch Japan 年始スタートアップトレンド予測企画
当社もまさに【“あるデータ”が一定閾値を超えると、 加速度的に価値が高まる。そんなデータを収集&活用出来るプラットフォーム】と感じています。
具体的には、通常、荷主から物流事業者への支払いが60-120日後とされていることが多い為、運転手への給与支払いなどの運転資金が逼迫しているケースも多い為、当社はマッチングによる稼働状況や、配送クオリティ(時間内に届く、欠損がないなど)などを元に運転資金のファイナンスを提供しています。
また今後はトラック運転手毎の評価なども蓄積していき、運転手評価に基づいて価格が変動する貨物・運送の保険の提供も計画しています。
このようにB2B物流の取引に関するマッチングからスタートし、それに留まらずFintechへ参入していき収益源の多角化を志向しています。
実は東南アジアでは当社に限らず、飲食店の受発注、薬局の薬剤調達や、日用消費財の仕入れと言ったB2B取引のプラットフォームが急成長する中で、自社プラットフォーム上の取引実績などを元に運転資金ファイナンスと言ったFintech領域への参入が相次いでいます。
日本でも先日、バクラクを提供するLayerX 福島さんによるnoteがTwitterなどで話題になっていましたがこのように従来、Fintechではない企業のFintechへの参入は世界的なトレンドにもなりつつある為、ますます目が離せない潮流となってきています。
SaaS+Fintechは第4世代のソフトウェアビジネスモデル
ただ、ジェネシア相良もTweetしているのですが、あくまでも提供者論理のコンセプトではなく、顧客価値の磨き込みに集中することが大切だと考えています。
おわりに
この記事に共感いただいたVertical領域にチャレンジされる起業家の方(起業を検討している方)、あるいは別のアプローチの方が筋として良さそうという仮説をお持ちの方(自身の仮説が正しいとか唯一解だとかいう考えは一切持っておりませんmm)、まずはぜひカジュアルに事業ディスカッションさせてください!